なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十話・甘いからって弱いとは限らない

 

 

第十話・甘いからって弱いとは限らない

 

 

 

なのはと修行をしながら数日がたった。

 

一応程度には身に着けてみたけど、どうにも心もとない対空攻撃手段。

普通に魔導師がでてきたとなるとちょっと俺も地上限定戦力やってる訳にもいかない。

となると、空を飛べるようにならなきゃ…

 

 

と、そこまで考えて、自分の考えが間違っていた事に気が付いた。

 

 

『ユーノ、お前攻撃以外ならいろいろできるんだよな?』

『え?ま、まぁ情報の検索とか、防御・補助とかが得意かな。』

『よし、ちょっと頼みがある。』

 

 

俺が計画を伝えると、ユーノからは呆れたような驚いたような反応が返ってきた。

 

 

 

で、街中で大きな魔力の反応があって現場に向かう。

ユーノが手早く結界を展開してくれたお陰で騒ぎにはならなかったようだ。ありがたい友だ。

 

「フェイト、とりあえず封印でいいな?」

 

現地にいたフェイトに向かって声をかける。と、人型のアルフに睨まれた。

いいじゃん別に…どうせ封印までは勝負もなにも無いんだし。

 

「あ、はい。」

「フェイトぉ!?」

 

と、同意だったらしく返事を返してくれたフェイト。ちょっと悲しそうなアルフが哀れだった。

 

「んじゃなのは、きっちり合わせろよ。」

「お兄ちゃんは封印には関わらないんだからそれはどうかと思うの。」

 

せっかく先導したと言うのに、なのはからキツイ一言を返される。

ひっでぇ…お兄様は傷つきましたよー…

 

封印魔法の打ち合いが終了して、ジュエルシードが残される。

 

「さてと…ユーノ、頼むぜ!」

「判った、任せるよ速人。」

 

ユーノが俺の肩に来る。俺はユーノをつまみあげ…胸ポケットにしまった。

 

 

 

 

 

「俺様新形態!フェレットデバイス装備モード!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

空気が凍った。

 

なんだいなんだい!コレでも知恵を振り絞って考えた戦闘形態なんだぞ!!

 

 

「アンタさぁ、馬鹿にしてんのかい?」

 

アルフから呆れたような声が返ってくる。フェイトとなのははなんか困ったような人を見る顔をしてた。

く、くそー…この状態の俺の実力を見てから後悔しても遅いんだからな!!

 

「へっ…そんな事言ってられるのも今のうちだぜ!!ユーノ、バトルフィールド展開!!」

「了解。行くよ!!」

 

俺のポケットに納まったユーノが魔法を発動させる。

 

瞬間、アルフを囲うようにいくつもの魔法陣が展開された。

 

「…なんだいこりゃ?防御魔法でもないし、攻撃の気配もない。いったいコレが何だって言うのさ。」

「コレは…足場?っアルフ!!」

 

フェイトは気づいたらしいが遅い。俺は魔法陣に向かって飛び込んで…

 

 

 

アルフの上を取った。

 

 

「なっ…」

「そりゃ!」

 

上空からの打ち下ろし。アルフは回避するが、俺は地面に落ちる事無く魔法陣に着地。そこから更にアルフに飛び掛った。

 

スクライア一族がやってたのが遺跡発掘だって聞いて、更にユーノが補助のスペシャリストだって言う事から導いた結論。

 

 

 

足場形成の魔法陣を空中に多数展開してもらっての空中格闘戦。

 

 

 

飛行する必要など無い、俺の本領は…地を駆けて敵を斬り裂くこと!!斬らないけど。

 

 

「くっ…けど垂直のコレは」

「あ、壁走りくらいなら出来るんだぜ?」

 

と、俺はほぼ横向きの状態で駆ける。

アルフは引きつった顔で俺の走っている魔法陣をぶっ叩く。防御でもなんでもない魔法陣は簡単に砕けるが…

 

そんな事は予測済み!

 

「余計な事してるとアッサリ落とすぜ!!」

「っく!」

 

『徹』の一撃を肩口に叩き込んで地面に向かってふっとばす。

俺はなのはとフェイトに少しだけ視線を移して、アルフを引き離す事に専念した。

 

「アンタねぇ!一体何なのさ!敵かと思えばアタシ達を逃がしてみたり、遊んでんのかい!?」

 

俺がふざけている様に見えるのか、怒りを隠さないアルフ。って言うか、単にフェイトの邪魔をする奴が全員気に入らないだけか。

 

「まぁ俺としてはアンタが大人しくしててくれるんだったら何もしなくてもいいんだけどな。けど、ご主人様ってんじゃ放置も出来ないだろ?」

「当たり前だ!よくわかってんじゃないのさ!!」

 

空中に逃げられないと判断したアルフは、俺に向かって突進を図る。振りぬかれた拳を片手で逸らし…

 

「寸掌。」

 

カウンターで、踏み込みからの掌打を叩き込む。鳩尾にもろに入ったアルフはそのまますっ飛んでいって地面を転がった。

 

「ユーノ、大丈夫か?」

「う、うん。攻撃したり防いだりって訳じゃないからそこまで極端には魔力を消費しないから。」

 

そうは言うが、数も多いし疲れない事は無いだろう。行動不能まで持ち込みたいが、そこまでするのは二人に悪いしな。

 

と、起き上がったアルフが若干苦しそうに鳩尾を押さえたまま俺を睨む。

 

「くっ…何だって素手であんな威力が出るんだい?」

「アンタが強かったんじゃないのか?」

 

素直に返したが、なぜか不思議がられた。

どうやら、カウンターって現象さえ知らなかったらしい。狙って出来ないにしてもそりゃ無いだろ…

 

「俺はアンタを止めておくことが目的だし、こうしてのんびりしていてもいいんだけど、どうする?」

「当然…こんな程度で止まってらんないね!!」

 

犬型に変身するアルフ。

なるほど、さっきまでの対人格闘は使えないか。

 

 

「だけどなにもわからないままぶつかり合うのは……私、嫌だっ!!!」

 

少し離れた場所からなのはの声が届く。…ちゃんと話せてるみたいだな、なら邪魔させるわけには行かない!

 

「投弾丸『スローバレット』!!」

「ちっ…んのっ!」

 

俺が放った投擲物を回避したアルフはそのまま突撃してくる。

 

『防御はいらない、任せろ!!』

 

ダッシュで接近して、スライディング。通りざまに尻尾を掴む。

 

「何すんだい!」

「対戦相手のやる事に文句を言うなんて…二流のやる事だぜ!!」

 

後ろ足の脛にあたる部分に峰打ち。痛みを堪えて離れるアルフ。あんまり距離を放すとなのはの方にいかれるからな、距離をつめないと…

 

「…これが…私の理由!!」

 

と、なのはの叫びが届く。少し二人の方に視線を移せば、フェイトは躊躇いを見せていた。自分が犯罪を犯していることも、俺達がいる世界で暴れていることも理解してるだろうし、フェイトを責める気も無いなのはの魂の叫びは効くだろう。

 

「っ…わたしは…」

 

どうやら話してくれそうだ。無駄にならなくて何より…

 

「フェイト!!言わなくていい!!」

 

 

アルフが、言いかけたフェイトを止めた。

それだけなら…俺もまだ大人しくしてられたんだ。

 

 

「優しくしてくれる人たちに甘えてぬくぬくと暮らしているがきんちょになんて何も教えなくていい!!!」

 

 

 

 

 

こんな…ふざけた事言わなければ。

 

 

 

 

「が…い、糸?」

 

俺は、左手の鋼線をアルフの首に巻きつけた。

 

 

…甘くて何が悪い。

 

 

何の意味もない現実とやらの中で諦めと妥協で死体を積み重ねた日々。

 

それを終わらせてくれたのは、敵だった俺を殺さずに済ませてくれた戦士としては甘いとしか言いようの無い選択だった。

現実に対処するための厳しさは、数ある問題を根こそぎ『処理』する力にはなるだろう。

 

でも…幸せを作り出す力にはならない。

 

 

血に塗れた俺に幸せや優しさの意味を教えてくれた人達…

なのはだって紛れも無く、その中の一人なんだ。

 

 

それを…よりによって主人が犯罪者になろうとしてるのを手伝ってるような馬鹿に侮辱されて大人しくしてられるか!

 

 

「こんの馬鹿ヤロー…お前主様の忠実な僕なんじゃないのか?話そうとしたのを何でお前が止めてんだよ。」

「私は…フェイトの僕さ!だからその目的をなすために余計な事を止めたまで…」

 

引きちぎろうとするアルフ。だが、元々かなりの強度があるこれは、切断でもしなければ切れる物じゃない。

 

「フェイトの為に意に沿わないことが出来るなら…そもそも犯罪者になる前に止めやがれ!!このくそったれが!!!」

 

 

俺は鋼線を引き寄せながら跳躍してアルフの首に『徹』の峰打ちを叩き込む。

 

 

グラリとアルフの体が傾いた。

 

 

巻き付いた鋼線を切り離し、前足の脛を左右の刀で…斬り付ける。

かなりの強度がある筈だが、さすがに刃を直接受ければ怪我をするらしく、血を流して前のめりに崩れ落ちる。

 

 

「あ、アルフ!!」

「ぐっ…まだまだ…」

 

フェイトがアルフを心配して、アルフがありったけ憎悪を込めて俺を睨んでくるのはいいんだが…

 

 

「お、お兄ちゃん!!ワザと怪我させるのは駄目だよ!!」

「そ、そうだよ速人!捕らえただけで充分だったじゃないか!!」

 

我が妹と装備中のフェレット様からまでお説教と相成りました。

 

「あ、あれ?俺味方なし?」

 

さすがにちょっと泣きたかった。って言うかなのは!今ボロクソ言われてたのお前じゃん!!何それ酷い!!

 

「ち…っ!!」

 

と、アルフが魔力弾を、俺の前の地面に着弾させる。

砂埃が舞い上がり視界が奪われる。

 

「今だフェイト!!」

 

…いやアルフさん?俺はジュエルシードに手を出す気はないんっすけど?

 

物凄く切羽詰ったアルフの声に反応したフェイトが、ジュエルシードに向かう。なのはも負けずに飛び出して…

 

 

 

 

ジュエルシードに二人のデバイスが接触して、あたりを光が包み込んだ。

 

 

 

 

辺りの光が収まったとき、光り輝く…明らかにやばい状態のジュエルシードがあった。

 

 

「っち、魔力で押さえ込めばいいんだったな!!」

 

俺は全力で発動中のジュエルシードに近づき、ジュエルシードを握りこんだ。

 

「な…アイツなんて無茶を…」

「くそっ…ユーノ、手伝ってくれ!俺の魔力がどれ位か知らんがなのは以下だろ!?一人はちょっとキツイ!」

「わ、判った!!」

 

ユーノが魔力を上乗せしてくれる。が…一向に光が収まらない。

 

 

何か意識までやばくなってきた。こりゃまずい…か?

 

 

と、俺の手の上に何かが重ねられる。暖かいそれから送られてくる魔力が、ジュエルシードを抑え込んだ。

 

 

 

「な、何とかなった…大丈夫ですか?」

 

 

光が収まって余裕が出来た俺は、自分の手を包み込んでいる人が、フェイトだったことに気が付いた。

 

 

「あ…フェイトか…サンキュー。」

 

 

 

握り込んだ手が上手く離れてくれない。よく見れば、何と言うかズタズタに手が裂けていた。

 

神経やってたら、握るだけの刀はともかく、指鋼線は操れなくなるかも…

 

俺はそっと手を離して、ジュエルシードを乗せた手をフェイトに差し出した。

 

「いいよなユーノ、今回俺らだけじゃ死んでたし。」

「…矜持…でしょ。」

 

それだけ言って黙るユーノ。嬉しさ半分申し訳なさ半分感じる。

 

「あ、あの…」

「フェイト、貰えるってんならさっさと貰ってこうよ!」

 

俺の手を見て躊躇うフェイトを急かすアルフ。

フェイトは俺の手から恐る恐るジュエルシードを取る。

 

「…貴方の…名前は?」

「あ、そういや名乗ってなかったか。俺は高町速人、なのはの一個上の天才お兄様だ。」

 

笑顔で名乗る。

フェイトは俯いて去ろうとする。

 

「フェイトちゃん!!」

 

そんなフェイトを呼び止めるなのは。フェイトは首だけ返して、なのはを見る。

 

なのはは振り返ったフェイトに向かってお辞儀する。

 

「お兄ちゃんを助けてくれてありがとう。」

 

フェイトは何も答えず、そのまま去っていった。

 

ったく、照れるぞ妹よ。

 

「速人、あんまり無茶しないでくれよ。ジュエルシードのせいで速人に何かあったら僕トラウマになっちゃうよ。」

 

大丈夫大丈夫。兄さんとの訓練よりきつい事なんかそうそう無いんだから。

 

と、そこまで行って俺は自分の声が聞こえてきてない事に気が付いた。

 

「お、お兄ちゃん?」

「あ…わり、ちょっと無理みたい…」

 

俺は意識が遠のいていくのを感じながら…

 

 

「お兄ちゃん!!」

 

 

なのはの声を最後に意識を手放した。

 


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