第十四話・誓い故に示された危機
Side~キャロ=ル=ルシエ
驚異的な…普段見ているフェイトさんよりもはるかに速い速度で、彼女は私達の前に現れた。
白い堕天使、リライヴ。
私達が初出撃の時、魔法一つ使わせる事ができずに敗北した最強の魔導師。
「はっ!!」
彼女が動く前にフレア空尉が飛び出した。
一閃。大怪我を負っているとはいえ、そんな状態でも私達が苦戦していたガリューの爪さえ一撃で切り裂いたそれと、彼女の剣が打ち合わされ…
空尉の槍が切断された。
「そんな体で…」
剣を振るった勢いもそのままに空尉に近づいた彼女がその手を振るうと、軽い音がした後フレア空尉が意識を失った。
墜ちていく空尉に浮遊の魔法をかけてゆっくりと地面に降ろすリライヴ。
私達は、そんな彼女相手に身構えた。
勝てないまでも、時間位は稼がないと。
「…ごめん。」
「え?」
小さく、謝る声がした気がした。
どういうことか確認する間もなく彼女が腕を振るうと、私達が立っていた場所…道路そのものが切断される。
崩れ落ちる足場に対応している間に、拘束していた女の子とアギトを奪われた。
「させません!フリジット」
構えるリイン曹長。けど、唐突に見えない何かに弾き飛ばされた。
たったそれだけで、リイン曹長は意識を絶たれて墜ちていく。
慌ててスバルさんが受け止めに入る中、向かって来る速人さんのほうを見た彼女は、二人を連れて別方向へ飛び去った。
傍まで来た速人さんはそのまま地面に降りて、デバイスを手に飛び去るリライヴを眺める。
「あれはさすがに追えないな…ま、とりあえず保護、回収対象は全部護りきれた訳だしいい…かな?」
言いつつ、速人さんはいきなりデバイスを投げる。
投げられたデバイスはエリオ君が立っている傍の崩れた床に突き刺さった。
速人さんは、驚いて離れるエリオ君を見て笑いながらデバイスに向かって歩いていく。
「お、脅かさないでください!」
「いや悪い悪い、そんなに驚くとは。」
軽い調子で言った速人さんは、刺さっていたデバイスを納めると倒れているフレア空尉に視線を移す。
「大体片付いたし、早いとこシャマル先生に診せてやらないとな。」
「そうですね…私が運びます。スバル、貴女はリイン曹長を。」
「わかった。」
スバルさんとギンガさんが意識を失った二人を抱え、エリオ君がレリックを持ってティアナさんがエリオ君についてこの場を離れる。
そんな光景を見ながら、私は少し止まっていた。
「どうした?」
変に思ったのか声をかけてくれる速人さん。
気にかけてくれた事、それ自体は嬉しかったんだけど…
「あ…すみません、何でもありません。」
今はノンビリ話している場合じゃないと思いなおす。単なる気がかりなら尚更だ。
そう思って話を終わらせ…
『仕事中に喋ってたら何処かの空尉に怒られるもんな。後にしようか。』
そんな私に、念話と共にウインクをしてみせる速人さん。
気になった事がばれてしまっている事が少し恥ずかしかったけど、気にかけてくれている事は嬉しかった。
Side~トーレ
ドクターの言う当たりと予想される少女を奪還する事ができなかったのは、中を気遣って全力を出さなかったとは言え、イナーメスカノンの一撃を凌ぎきった騎士を評価する他無いと言えよう。
相手の全力…切り札程度は隠しているかもしれんが、実力の一端を引き出す事はできた。
後はもう一つ…新人集団が確保しているレリックを回収できれば言う事はなかったのだが…
「どう言う事だ!」
レリックを…必要があればお嬢様の救助も任としていたセインが手ぶらで帰って来たのだ。
怒声をあげた私に対して、セインは静かに左手を差し出す。
差し出された腕は、軽く切れて出血していた。
この程度の怪我で引いたと言うのか…
私が怒鳴る前に、ディエチがセインの傷を眺めながら問いかける。
「どうしたのその怪我?」
「ディープダイバーの真っ最中につけられたんだよ。」
「何?」
さすがに驚かざるを得なかった。
グリフでも大体は把握できているようだが、完全に見えない位置となると攻撃を命中させるのは容易い事ではない。
ましてディープダイバーは無機物に潜る能力。風や匂いに違和感を感じる訳もないと言うのに…
だがそうなると、セインが引いたのも仕方ない事となる。
直接戦闘を行うタイプの能力ではないのだ、敵に気付かれていて呑気に付近をうろついている訳にも行かない。
「さすがに肝が冷えたって言うか…もう人間じゃないよアレ。」
「速人は特別だ。」
合流待ちだったグリフが、呆れたように呟くセインに続くように呟いた。
滅多な事でダメージを負う事の無い彼が、左腕から血を流していた。
「お嬢、治療を」
「転送が先でいい、見つかると面倒だろう。」
傷をまるで気にする事無く転送を促すグリフ。
お嬢はそれに頷き、転送魔法を使う。
アジトまで戻った所で、グリフに話を聞く事にした。
「特別とは、どういう事ですか?」
「僕が全力で殺し合いに挑んだ中で最後に負けた相手なのさ。」
驚いた。
傷を負う所か、彼が負けた事がある相手とは。
しかし、思えば刑務所にいたと言う事は捕縛されたと言う事。武装もなく刑務所を脱走できる彼が捕まっているなら、倒した人間がいないと説明がつかない。
「その中でも特に気配に特化している。戦闘中に僕から背後を取れるくらいにね…」
「貴方から背後を…」
私がISを使ってようやくできる芸当だ。それも取った所で背後にいる事に気付かれていては何の意味も無い。
「対策に思い悩む必要は無い。」
思案している事に気付いたのか、彼はそう声をかけてきた。
治った腕を動かした後、お嬢の頭を柔らかく撫でる彼を問いただすつもりで見据える。
「どういう事ですか?」
「彼は僕の獲物だ、誰に譲るつもりも無い。」
そう言った彼の顔は、今までに見た事の無いものだった。
まるで、研究中のドクターのような…しかしそれだけでなく、私ですら寒気を感じるような狂気を孕んだ声。
今まで彼が何を目的に強くなり、戦っているのか理解できなかったが…
戦う為に強くなり、生きているのだと今更ながらに悟った。
…まるで戦闘機人だな、戦う為に必要な物以外が何も無い。
だが、それならば尚更私が師事するに値する。
戦う為に作られた者として、いつか彼を越えてみせよう。
SIDE OUT
大怪我を負って尚傷口を凍結させてまで戦闘続行したフレアのダメージは、結構深刻な物だった。
とはいえ、内臓までは切断されていなかったのが幸いしたのか、広くぱっくりと斬られていたものの命に別状はなかったようだ。
酷い怪我で戦った為失血死寸前だったらしいが、それはあの馬鹿の自業自得だ。
なのはとフェイトが追った砲撃犯は、唐突に姿を消し逃走したらしい。
ガジェットの機影を作り出した幻術使いが傍についていたらしく、追跡の真っ最中に姿を消されてそのまま見失ったと言う事だった。
はやてのような広域魔法使いがいれば周囲を食いつぶす事で消えていようがいまいが捕らえる事が出来たんだろうが、はやては二回しか限定解除が出来ないそうで、そんなものはさすがに簡単には使えないだろう。
結果だけを見れば、あの娘もレリックも回収できたことだし、悪いというほど悪い結果でもなかったはずなのだが…
「何で俺こんな所に呼び出し喰らってる訳?」
何故か俺は、部隊長+分隊長のお二方に収集をかけられていた。
他に話が漏れないよう徹底した一室にて、はやてが重い口を開く。
「決まっとるやろ。局の勤務中に知り得た情報を外部の人間に漏らして巻き込んだんや。大事にしたら六課自体を巻き込みかねんとは言え、放置しとけるほど軽くもない。先に弁明位あれば聞いとこう思ってな。」
どうやら、兄さんから『レリックを見つけた』と連絡が来た事についての話のようだ。
はやての視線は鋭い。
部隊長だもんな、問題が起これば本気にならざるを得ないか。
とは言え…問題が起こればなので今本気なのは検討違いもいい所なのだが。
「放置も何もなぁ…別に勤務中に知った情報を漏らしても無いし、外部の人間巻き込んでも無いんだけど。」
「どういう事や?」
嘘を言ってない事は感じてくれたのか、素直に聞き返してくるはやて。
「俺が何でここに来てるか知ってるだろ?フリーの雇われ魔導師だ。当然情報収集には気を配るし、仲間同士では契約でも無い限りは情報共有する。当の昔に家族全員レリックについては知ってたぞ。」
呆然とする一同。
いやそんな驚かれても…情報収集って基本中の基本じゃないか?
「と言うか、兄さんがレリックの事知らなかったら、『鎖につながれてるなんて可哀想だ』って箱放置してあの娘だけ地上の一般局員に保護してもらう、なんて展開すらありえたんだぞ?巻き込んだと言うかむしろ安全に済んだ位なんだが…」
誰一人としてぐうの音も出ない。
兄さんの方も何かを引き摺るような音がした…なんてあいまいな状態で通報なんて出来ないだろうし、妥当な結果だろう。
「邪魔はしていないつもりだ。」
「恭也お兄ちゃん。」
部屋に入ってきた兄さんに複雑な表情をするなのは。
事情聴取で呼び出されたらしい。
「いくら一般人でも正当防衛や人助け位は許されるだろう?」
「ええ、それはまぁ…」
だが、そんな兄さんに問いかけられたはやてのほうが口を噤む事になった。
まさか武装許可が無いから殴られても抵抗するなとか、ボロボロで歩いてる子供を見なかったフリして通り過ぎろとは言えないだろう。
「話は分かりました、後は速人君に聞く事にします。わざわざ呼びたててすみません。」
「気にしないでくれ、お陰で堂々となのはの顔を見に来れた訳だしな。」
「お兄ちゃん…」
相変わらず女殺しな笑みをなのはに向ける兄さん。
おいおい…娘に加えて妹まで落とす気か?これだから天然朴念仁は…
「何だ?」
「いや、なんでもない。」
軽く呆れているのすら感づかれたらしい。こんなとこで勘よくてもしょうがないだろうに。
「あ、兄さん待った。」
用は済んだとばかりに帰ろうとする兄さんを呼び止める。
「実は…切り札使っちゃってさ。ぶっ倒れたから説明が欲しいって事になったんだけど…」
「本当にあれを実戦で使ったのか?…つくづく馬鹿な奴だな。」
兄さんは僅かに眼を伏せ首を振る。
スバルを助け、倒れる事になった切り札。その原理を説明する必要があると言う事は、まだ使うかもしれないと言う事に他ならない。
その辺も悟った上で呆れているんだろう。
対して機を見て話すとは言ってあった三人は、真面目な表情に戻る。
「フェイト、君の背後を取った時の事を覚えているか?」
「あ…はい。まさかブリッツアクションを使った直後に背後を取られるなんて思ってもいませんでしたから。」
「うえ!?そんなんリライヴでも無理やない?」
驚きと共に思い出したのだろう情景をそのまま語るフェイト。
なのはの最終試験をかねた修行についてこなかったはやては知らなかったため、驚愕を隠せなかったようだ。
「あれは端的に言うと使用者の能力を引き上げる物なのだが、速人の言う切り札とはそれを更に強化したものなんだ。」
「魔力で身体能力引き上げられるだろ?それを併用して上限を無理矢理上げた物なんだ。ちなみに、俺は『歩法・神風』って呼んでる。」
「縁起でもないし冗談になって無いよ、それ。」
全ては語っていない兄さんの説明に付け加える形で告げた名前に、なのはが怒りを伴った視線を向けてくる。
極端に歴史の成績が良いわけじゃないだろうが、戦争中に飛行機で突撃した部隊を神風と呼んでいた事位は知っていたらしい。
俺はこれしかないって思ってつけた名前なんだが…
本当は、神速中の自分まで含めてスローになるあのモノクロの世界で通常通りの動きが出来るくらいまで魔力で身体能力を強化する技なのだ。
まさに神の風と呼ぶにはふさわしいと思ったし、使って体ボロボロになってああ二重の意味でピッタリだとも思ったんだが…ってまぁ、なのはからすればそもそもそんな技使う前提にするなと言いたいんだろうな。
「兄さんから元の奥義を教わった当初は空中歩行魔法陣すら併用できなかったんだ、色々他に思考を裂いてできるものじゃないからな。とは言え空中戦もあるのにそれだとまずいって事で、ほぼナギハ任せの空中歩行と強く意識しなくても出来る強化だけはどうにか併用できるようにしたんだよ。」
「神風はその副産物…って訳やね。」
はやての繋ぎに頷く事で答える。
二段掛けは未だに出来ないが、魔法と併用する関係もあって神速に慣れないと行けなかった俺は、今では一番長く多く普通の神速を使えると思う。
それでも一日分単位行けばやりすぎな位なんだがな。ったくとんでもない奥義だ。
「ってアレ?スバル助けた時に使ったのって風翔斬だよね?」
「ああ。移動は神風でやって、射程距離まで行った所で切って使ったんだよ。」
「そっか。」
簡単に言ってやると皆素直に納得して…くれない人が一人いた。
「速人…それって高速移動の停止制御無いまま攻撃行動に移ったのと同じだよね?」
速さに慣れてるフェイトからの静かな指摘。
それがどういう事かようやく認識したなのはとはやては改めて厳しい視線を向けてくる。
高速移動から反動吸収する事もなく急停止すれば、中身がどうなるか等説明するまでも無い。
あー…こんな状態で皆を安心させるには…
「そ、そこまで無茶やっても死なないんだから実戦でもちゃんと使っていけるな。」
「「「使用禁止!!!」」」
和ませようと明るく言ってみたつもりだったが、隊長陣満場一致で使用禁止と相成った。
知った事かと使えば命令違反扱いで少なくとも報酬は出ないだろう。
修得苦労したんだけどなぁ…酷いな皆して。
兄さんを帰した後、色々厄介な話で多数の報告書を書かなければならない局員の皆は即座に仕事に戻り、基本ただの戦力として雇われてる他所者の俺はそんなに書くものも無いため、重傷を負ったフレアの様子を見に行く事にした。
それに、リライヴ以外があいつに重傷を負わせたと言うのはどうにも気になる。
「ぐ…」
「動かないでください!紙一重で内臓こそ避けているものの本当に深手なんですよ!?」
と、医務室からシャマル先生の怒声が聞こえて来た。
あーあ、きっとあの馬鹿また無茶してやがるな。
「失礼します。」
「あ、速人さん!」
医務室に入った俺を見るなり、シャマル先生はまるで救いの手でも見たかのように安堵の声を上げた。
「フレア空尉が貴方に話があるって聞かないんです、休まないと危ないのに…」
「速…人…」
無理して身体を起こそうとするフレアに溜息を漏らす。
『念話でいいだろ、頭大丈夫か?』
『お前に…伝えなければならない事がある…』
割と余裕が無いだろう今のフレアにこれ以上無茶はさせられない。しかも割と重要な用件のようだし、ここは静かに聞いて
『敵に…地球の戦闘者がいる。』
思考に割って入るように届いたフレアからの念話は、到底静かに聞いていられるような内容じゃなかった。
呆けている間にもフレアからの説明は続く。
『剣を扱う、神父のような服装の紫色の髪の男だ。』
そんな奴一人しかいない。まして今のフレアを倒す程となると尚更。
『それと…そいつから伝言がある。』
『何て?』
『待っている…だそうだ。』
俺は知らず拳を握っていた。
落ち着く為に深く息を吐く。
『分かった、ゆっくり休んでくれ。』
『早めに回復する…すまないがそれまで頼む…』
そこまで言って倒れたフレアは、目を閉じて静かに寝息を立て始めた。
「あの…どうかしたんですか?」
「え?」
「珍しく張り詰めているようですから…」
不安げなシャマル先生にそう問いかけられた。
確かに、普段無い位にはマジになってたかもしれない。
地下とは言え、今のフレアがここまでやられて捕獲も出来ず、昔相対した時点で兄さんと互角じゃないかとすら感じられたあのグリフが来ているとすれば、並大抵の事じゃ勝てないだろう。
広域殲滅でも出来ればいいが、今回のように町の下から来られればそんな事出来るはずも無いし、その上リライヴまで敵にいるとなると呑気にはしていられない。
「珍しくってまた酷いな。それじゃ普段ふざけてるみたいじゃないか。」
が、悟られて緊張感が伝染するのもあれなので、苦笑しつつすっとぼけて医務室を出た。
…待っている…か。
上等だよ。俺だってあれから何もしてこなかった訳じゃない、約束破って脱獄何てしでかしたお前相手に御神の奥義披露するのも尺だが、俺以外相手に出来ないだろうし…
責任持って叩き潰してやる。
誓いつつ待機状態のナギハを撫でた俺は、取り合えずこの話をせざるを得ないはやての下に向かう事にした。
グリフの話を伝えると、はやては眉をひそめた。
「そんなやばい奴なんか?」
「冷静に戦力分析するなら業版リライヴって所だ、兄さんなら技量ではまず負けないと思うが、フレアがアッサリやられたとなると俺でもどうなるかは分からない。」
肩をすくめて答えてやると、はやては両の手を組んで俯いて額を乗せた。
そりゃ頭も痛くなるわな。
リライヴ一人ですら歴代魔導師最強とか言われてんのに、その対策に呼ばれた俺が得意距離で斬りあってどうなるか分からない奴がまだいるんだから。
「…任せてええか?」
「勿論。ただリライヴと同時に来たらフレアがリライヴの相手して無いとなのはでもそこまで持たないだろ?」
「わかっとる、対応策は考える必要あるな。報告ありがとな。後はこっちでやっとくから修行なり身体を休めるなりしといてな。」
そう言って深く息をつくはやて。
現状戦力でリライヴとグリフ含めた広域次元犯罪者の一団を止めなければいけない。
管理局の規定をはるかに上回る戦力を保有して尚、シャレにならない難度の任務を扱わなきゃならないはやてとしては、味方の風当たりも含めて頭の痛い内容しかない筈。
「ナギハ。」
『セットアップ。』
俺は待機状態のナギハを展開して、二刀を抜く。
屋内で、しかも部隊長の前でデバイスを起動させるなんてその辺の人に見つかったら大目玉じゃすまないだろう行為にはやてが眼を見開く。
俺はそんなはやての目の前で、二刀で十字を作る。
「機動六課にはこの二刀が…決して砕けぬ護り神がついてる。状況的に頭痛いだろうが、不安は捨ててかかるくらいで構わない。自由に進んでくれ、そんな皆を必ず護る。」
この誓いを、ナギハを手にしないまま口だけでしても意味が無い。
俺の本気を表すそれを見たはやては…
「必ず言うには不安やけどな。恭也さんには未だに勝てんのやろ?」
「うぐっ…」
軽い笑みと共にこの上ないほどに面目を潰してくれた。
「こ、これでも結構真面目にやったつもりなんだぜ?出鼻挫いてくれるなよ。」
「真面目に、部隊長を前に、訓練でも何でも無いのにデバイス抜いた訳か。」
笑みを浮かべながら告げるはやてに返す言葉もなくうな垂れる。
怒られている訳ではなくからかわれているのはわかっているのだが、反論の余地が無いので正直辛い。
「大体速人君が真面目なんてそれこそ異常事態やろ。どうせやったらいつもみたいに気楽に言ってくれればええのに。」
「あー、はいはい!何だよ皆して!俺がマジだとそんなに変かちくしょう!!」
色々と台無しになったので俺はさっさとナギハを待機状態に戻し、はやてに背を向ける。
「ま、でも…ありがとな。心配してくれて。」
背中越しに告げられた礼に、俺は片手を上げて返す。
いつもみたいに…か。
あのグリフを相手に余裕なんてある筈も無いが、やってみせるしかない。
ヒーローなら、この程度の苦難たちどころに切り抜けて見せるだろうから。
Side~八神はやて
速人君が去った部屋の中で、私はついさっき聞いた台詞を思い出す。
「不安は捨ててかかるくらいで構わない…か。」
口にして、逆に体が重くなるような気がした。
どんな状況でも笑って任せろと言うあの速人君が、あれほど真剣に誓いなんて立てる。
それが逆に、あの速人君がそこまでしなければならない相手という不安を作り出した。
言われるまでもなく、フレア空尉と切り結んで勝利するなんて真似を平然とやってのけた相手がどれだけの実力者なのか等、分かりきっていた。
広域殲滅が躊躇いなく使えるような場所に出てきてくれればそれに越した事は無いが、相手だってそんな不用意な真似はしないだろう。
「ったく…本当ヒーロー失格やな、人の不安わざわざ煽るか普通?」
悪態を吐いては見るが、それが場違いな事であるのも同時に理解していた。
二刀を以っての護る誓い。
あの誓いは、速人君にとって何より神聖な物。
そんなものまで持ち出されて、文句など言える訳も無い。
あの誓いに応えんとな…
いくら速人君と言っても、件のグリフとリライヴを同時に相手取る事などできない。
しかも、上手く接触せんと速人君が出会う前に他のメンバーが全滅する可能性もある。
そして、采配に気を配るのは私の仕事だ。
必ず応えないといけない、機動六課の部隊長として。友人として。
何より、同じ総てを護りたい者として…
知らず握り締めていた手が、やけに熱く感じた。
SIDE OUT
今はここまでです。