なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十三話・動き始めた敵の影(後編)

 

 

第十三話・動き始めた敵の影(後編)

 

 

 

Side~エリオ=モンディアル

 

 

 

途中いくらか出てきたガジェットは問題なく片付けられた。

レリックを見つけてキャロが駆け出し…

 

 

音が聞こえた。

 

 

断続的に何かを蹴るような音が迫ってくる。

 

「ストラーダ!!」

 

迫る音とキャロの間に割り込み一閃を振るう。

 

手ごたえはあった…けど…

 

「っ…」

「エリオ君!?」

 

僕のほうも何かに斬られていた。

奇襲に反応できてもこれじゃ未熟としか言えないな。

 

けどこれでいい、僕は一人じゃないんだから。

 

「はああぁぁっ!!」

 

迷彩が解けた全身が黒い甲冑のような襲撃者相手に、ギンガさんが拳を振るう。

彼の爪とギンガさんの拳は、互角だった。

競り合い、二人がはじかれたところで、僕とキャロに向かってダガーが飛来する。

 

「ちっ!!」

 

ティアナさんの射撃が向かって来る複数のダガーとぶつかり…爆発した。

 

「炸裂タイプ!?まず…視界が…」

「危ないっ!!」

 

僕を押しのけて前に出たキャロは、プロテクションを展開する。

視界を覆われた中、魔力波が迫ってきた。

結構高い強度を持つはずのキャロのプロテクションが簡単にひび割れ、僕とキャロはまとめて吹き飛ばされた。

 

「ぐ!っ…」

 

背中から壁に叩きつけられたけど、キャロを抱えるのだけは間に合った。

少し安心して様子を見てみると、キャロは気を失っていた。

 

僕自身スピードタイプで防御力が高い訳でも無いし、咄嗟に庇ってくれなかったらまとめて倒されていたかもしれない。

キャロの優しさをありがたく思いながら、ようやく事態に気付いた。

 

キャロが持っていたレリックのケースが無い。

 

晴れた視界の先に、紫色の長い髪をした女の子がケースを抱えていた。

あの娘が…さっきの魔力波を撃ったとすると、単純放出だけであれだけの威力を叩き出すんじゃ格差がありすぎる。

 

『時間を稼ぐわよ。連絡つかない馬鹿空尉はともかく、リイン曹長と合流すれば単純に戦力が増えるし、見つかってる訳じゃないから奇襲もかけられる筈。』

『任せるです!!』

 

ティアナさんからの指令に続いて届いた念話は、当のリイン曹長からのものだった。

 

サイズを利用してきたのか通風孔から現れたリイン曹長が、その手を女の子に向け…

 

「させるかよぉっ!」

「な、新手!?」

 

魔法発動前に飛来した火炎弾を防いで距離を取るリイン曹長。

奇襲のつもりで飛び出て逆に奇襲を受けた筈なのに凌ぐなんて…やっぱり凄いなリイン曹長も。

 

「アギト。」

「おう!念のため様子伺っといて正解だったな。さあ、このあたし…烈火の剣精、アギト様が相手になってやるぜ!お前等纏めて…かかって来やがれ!!」

 

ただでさえあの娘一人でかなりの強さなのに、新たに現れた彼女もかなり強いようだった。

 

『フレア空尉とは連絡がつかないですし…ああもうあの人はこんな時に何やってるですか!』

 

同感だったけど、嘆いてばかりもいられない。

僕を庇って倒れたキャロの代わり…と言う訳じゃないけど、動ける僕達でこの状況を打開しなきゃいけないんだ。

 

 

 

Side~フレア=ライト

 

 

 

「ぐ…っ!」

 

私は振り下ろされた剣を受けて、防御姿勢のまま壁に叩きつけられた。

 

Cがせいぜいの魔力量、しかも強化を使っているのかも分からない。

そんな程度だと言うのに、振るわれた一撃をその場で受けきる事ができなかった。

 

しかも、受けたデバイスに罅が入っている。

 

瞬時に修復した私の目の前に、既に攻撃態勢に入っている男がいて…

 

「はぁっ!」

 

即座に振るった槍をくぐるように避けた男は、足を斬りにかかる。

跳躍しつつ横に回避したが、また壁に詰まった。

 

「…これで終わりか?」

 

…到底技量では勝ち目は無い。

何しろ、私の槍の尖端が触れればたとえ剣本体であっても破壊する事が可能だと言うのに、攻防を繰り返す中そんな事すら出来ていないのだ。

多用こそするもののフェイトよりは慣れていない高速移動で背後を取った所で、停止制御の一瞬で斬り殺されるだろう。打つ手はもう…

 

 

私は両腕を下げ、男と正対した。

 

「それじゃあ…遠慮なく。」

 

向かって来る死の一閃。アレを受ければ間違いなく死ぬだろう。

だが…構わない。

 

 

 

元々、命と引き換えでも構わない相手だと悟っていたのだから。

だからこそ打つ手はもう『一つしか』ない。

 

剣を振るう段階に入った所で、デバイスを握る手に力を込める。

避けることは既に不可能だが…奴もまた、ここから攻撃を変える事は出来ない。

フィールド防御を全開に、ただ即死だけはしないよう願う。

剣が体を通った所で、私は突きに入った。

剣を振るったが為に開いている心の臓、狙いはただそれだけ。

私は即死でなければ構わない、代わりになんとしてもコイツだけはここで!!!

 

 

 

 

 

鮮血が舞う中、私は膝を折った。

 

「…まさか、こんな真似をするとはね。ふふふ…楽しいじゃないか。」

「く…っ…」

 

私の一閃は、男の左腕に突き刺さっていた。

 

攻撃直後にも拘らず体を逸らして直撃を回避するなど…出鱈目にも程がある。

私では、相打ちすら望めないと言うのか…

 

「このまま終わらせるには惜しいな…」

「まだだ…」

 

深手ではある。だが、さすがに魔法もなしに振るった剣でフィールド防御越しだったからかまだ動ける。

 

「これ以上…速人だけに任せる訳には行かない…なんとしてでも貴様だけはここで…」

 

私は立ち上がって構えた。

 

 

 

「速人…だって?」

 

 

 

が、当の男は構えもせずその名を噛み締めるように呟いた。

まさか…知り合いだとでも言うのか?

 

暫く動かなかった男だったが、唐突に笑い出す。

 

まるで、無垢な子供のような、本当に楽しそうな笑い声だった。

だからこそ異質だった。戦闘中に血塗られた剣を手に、心底楽しそうに笑うなど…

 

「速人に伝えておいてくれ、『待っている』…とね。」

「ま、待て…ぐ…っ!!」

 

去っていく男を追おうとしたが、傷の痛みに足を止める。

 

どの道…このまま奴とは戦えんか…

 

戦闘に邪魔になりそうな機能の一切を封鎖しておいたグレイブを通常通りに機能させ、簡易回復魔法を適当にかける。

専門ではないが必修で扱える基礎程度であれば扱える、気休めには…

 

『救援要請が入っています。』

 

どうやら呑気に傷を治している暇も無いようだった。

まあいい、どうせ私の力量ではこの傷は治せない、出血を抑えるくらいの事は出来た以上長居は無用だ。

 

慣れない治療の手を止め、すぐさま移動を開始した。

このままレリックまで奪われる訳には行かない、急がねば。

 

 

 

Side~エリオ=モンディアル

 

 

 

「お、おいルールー!それ本気で撃つのかよ!」

「死なない。多分…」

 

黒い襲撃者…ガリューとアギトの二人を前衛に、女の子はいつの間にか無数の魔力弾が浮かべていた。

数十ではすまないその異常な数の魔力弾を前に、スバルさんとギンガさんが前に出る。

 

「スバル!障壁全力展開!」

「うん!!」

 

発動は避けられない。

強固な障壁を展開可能な前衛である二人が凌いでくれるつもりなのだろう。

 

「シューティングスター。」

 

宣言と同時に、紫色の魔力弾が視界を埋め尽くすように向かってきた。

 

「ちょ…ちょっとこの数…」

「嘘でしょ…っ!!」

 

本当に、数十じゃすまなかった。

 

見える光弾分の数じゃなく、もっと…展開している光弾から連続で撃っているのか、新たに作っては撃ちを繰り返しているのかはわからないけど、まるで光の壁のように魔力弾が放たれている。

二人の障壁がひび割れて行き…

 

どうにか砕ける前に魔力弾の雨が収まった。

 

どれほど防御に力を尽くしたのか、二人とも荒い息を吐いて膝を折る。

 

「これ以上撃たせ」

「ティアナさん!!」

「え、あああぁぁっ!!!」

 

いつの間にか迷彩を再展開していたガリューの接近に気付いた僕が動くより先に、ティアナさんが吹き飛ばされて壁にたたきつけられた。

 

「くっ…でやああぁぁっ!!」

 

ストラーダを振り上げ接近。

ガリューの爪と数度切り結んだ所で、お腹を蹴り上げられた。

 

「ぐ…っ…」

 

体が持ち上がった後、膝をつく。

くそ…止めて置くことも満足にできないのか!?

 

闘士はあっても、息が詰まって動けない。

そんな僕の前で彼の爪が振り上げられ…

 

 

 

 

『よく保たせた。』

 

 

 

 

心待ちにしていた声が、念話で届いた。

 

 

飛来した黒い影が振るった一閃がガリューの爪と交差し、その爪を『切断』する。

そのままガリューの右肩を突きで貫いて、引き抜きながら蹴り飛ばした。

吹き飛んだガリューは柱にぶつかり、崩れ落ちた柱に飲まれる。

 

一切の容赦が無い。

僕達との戦いの間殆ど表情を変えなかった女の子が、眼に見えて怯えていた。

 

「ガ、ガリュー…戻って。」

「逃がさん。」

「スターレンゲホイル!!!」

 

一瞬の間も無く追撃に出ようとしたフレア空尉の前に、光弾が叩きつけられる。

 

 

轟音と閃光が、あたりを包み込んだ。

 

 

光が収まった後には、彼女達は姿を消していた。

 

「そう遠くへは行っていない筈だ、すぐに…」

 

言いつつ、唐突に体を揺らした空尉が槍を地面に突き立てる。

その足元に…血がポタポタと垂れていた。

背を見せている空尉。だけど、それでもただ事じゃないのは分かる。

 

「フ、フレア空尉、振り返ってください。」

「気にするな、かすり傷」

「空尉!!」

 

リイン曹長の悲痛な声に、ゆっくりと振り返るフレア空尉。

 

 

左肩から右脇腹に向かって眼に見える斬撃の傷跡が刻まれていた。

何で動けてるのかも分からないくらいバリアジャケットが血に染まっている。

 

「な、何戦ってるですか!早くもど」

「6対3でレリックを持ち出されるメンバーだけに任せてなどおけない。」

「っ…」

 

槍を杖代わりに立っていた空尉は、突き立てた槍を引き抜いて無理矢理自分の足で立つ。

 

僕達とは、覚悟も実力も違う。それは分かったけど…

 

「アレが敵の手に渡る事は」

「空尉!!!」

 

僕は、力の限り叫んでいた。

 

「レリック一つより貴方が倒れる事の方が被害が大きいです!!ティーダさんを讃え無駄死にとまで言った貴方がこれ以上の無理をしないで下さい!!!」

 

空尉の力は道中に倒されていたガジェットを見て十分に分かっている。

そんな彼を、今すぐ民間人に被害が及ぼうとしている訳でも無いのに、これ以上無理に戦わせて死なせる訳には行かない。

 

空尉は少しの間を置いて告げる。

 

「どの道シャマル医師の安全が確保され、彼女の元まで行かねば治療できん。」

「だからってその傷で」

「分かっている。」

 

言い切る前に僕を制した空尉は、その場に座り込んで、バリアジャケットを大きく開く。

深く痛々しい傷がよりはっきりと見えるようになったにも拘らず、相変わらずの口調のままでリイン曹長に声をかけた。

 

「リイン曹長、傷口の凍結を頼みたい。」

「そ、そんなの応急処置にも」

「止血になればいい。」

 

リイン曹長は、一瞬躊躇うも結局放置も出来ないと傷口に向かって氷結魔法をかけ始める。

 

『エリオ、さっきの兄さんを讃えてってどういう事か、後できっちり聞かせてもらうからね。』

『あ、は、はい…』

 

ティアナさんからの念話に、思わず口走ってしまった事を思い出す。

真意を聞いたとは言え、フレア空尉の話をしても空気が悪くなると思って黙っていたけど、結局話す事になってしまうようだ。

 

少し失敗したかな…と考えていると、突然周囲が震えだした。

 

「大型召喚の気配があります。多分それが原因で…」

「キャロ。」

 

眼を覚ましたキャロがゆっくりと起き上がる。

喜びたかったけど、告げられた内容はとても喜んではいられないものだった。

 

「脱出する、道は作るからお前達は続け。」

 

立ち上がったフレア空尉は、足元に魔法陣を展開する。

天井を見上げた空尉は突きの構えを取り…

 

「ブレイク…ブースト!!!」

 

天井に向かって飛翔しつつ、突きを放つ。

その全身が、展開した魔法陣から放たれた砲撃に飲み込まれた。

自分ごと砲撃魔法と化したフレア空尉は、上層の障害物を名前の通りに破壊しながら突き進んでいく。

 

「応急処置にもなって無いのになんて無茶するですか!ああもう!!」

 

放置できなかったのか、リイン曹長も続くように飛んでいく。

僕達はスバルさんとギンガさんの展開したウイングロードを駆けて脱出を図る。

 

『キャロ、大型の召喚虫がいるですが、任せて大丈夫ですか?』

『はい、任せてください。』

 

この揺れの原因となると長い間放置しておく訳にも行かない。

僕はキャロを抱え、ストラーダを構える。

 

「エ、エリオ君?」

「スピードだけがとりえだから。急がないとまずいし、すぐに外まで連れて行く!ストラーダ!!」

 

宣言と共に、ブースターを使って急加速する僕とキャロ。

外まで来た所で、安全そうなビルにキャロを降ろす。

 

「錬鉄召喚!アルケミックチェーン!!」

 

地面から幾本もの鎖が延びて、巨大な召喚虫を拘束する。

危険がなさそうだと確認した所で、先に出た空尉達の姿を探す。

 

リイン曹長の方はアギトを捕らえていて、フレア空尉は女の子を地面に組み伏せていた。

 

とりあえずこれでこっちは一段落着いたみたいだ。

空尉から受けたような奇襲が無いとも限らないしまだ警戒はしておくべきだけど、とりあえずすぐに対応しなきゃならない物が片付いた事には安心する。

 

「放して…」

「断る。」

『…見てるだけだとどっちが悪いか分かったもんじゃないわね。』

 

コンクリートに顔をつけられた状態で動けなくされている女の子の上にいるフレア空尉。

空尉の事だから甘いの一言で終わらされそうな気がするけど、ティアナさんからの念話には同感だった。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

「…ワンパターンな登場はよくないんじゃない?ヒーローさん。」

「便利なんだよ。」

 

風翔斬でリライヴの斬撃を逸らした俺は、辛口のコメントに苦笑しつつナギハを納める。

 

「それにしても悪かったな、嫌だったろ?」

 

なのはに脱がされて、と直接は言わずに謝る。

経歴を考えれば局員生中継で肌を晒すなんて真似、リライヴにとっては怒りを煽る所じゃすまないだろう。

事実、俺が何の事を言っているのか悟っただけでなく、一瞬でその表情を曇らせるリライヴ。

 

「…君が気にする事じゃないよ。」

「そっか。」

 

だが、敵対中である上戦闘中の事故だ。リライヴが言ってるように俺が気にするほうがおかしいんだろうな。

敵対する者として、現状に対処する為なのはに視線を向ける。

 

「さてと…なのは、いけるか?」

「牽制位は簡単に。」

「十分だ。」

 

構える俺達を見ながら、リライヴが小さく笑みを見せた。

 

「何だよ?」

「仲いいって言うのもそうだけど…やっぱり似合ってるって思ってね。」

 

少しだけ、寂しそうに呟くリライヴ。

闇の書の中で見た、笑顔で俺を起こしてくれたリライヴの母親の幻。

あれが深層心理から来ていた願いならあいつが本当に望んでいるのはこんな戦いじゃなくて…

 

 

止めだ、今はまだ早い。

 

 

少なくとも、今は止めないといけない。

振り切って攻めに出ようとして…

 

「…もし望むのなら、投降して。」

 

局員であるはずのなのはのほうが言葉を選択したため、留まった。

 

フェイトの時もそうだったけど、なのはは寂しさに気付きやすい。

リライヴの場合笑顔で悪人扱いすればいいとか言い切るような奴だったから気付いてなかったのかもしれないが、今はっきりと引っかかる物を感じたんだろう。

 

「人助けもしている事は局も知っているし、リライヴちゃんの力を局員として振るってくれるならどれだけ」

「それは無理だよ。」

 

昔通りの呼び方。

 

立場度外視で語りかけていた時には、リライヴもそう呼んでいた。

恐らくこの一度だけ、会話にしたくなったんだろう。

 

 

だが…告げられた内容があまりによくなかった。

 

 

リライヴは首を横に振ってなのはの提案を拒絶する。

そんな事が出来るなら当の昔にやっている。むしろその辺にいるだろう逆恨みで敵対しているような連中と違い、必要がなければ手を出さないようにしているだけ良識があるくらいなんだ。

未だに傷が癒えていない事は、イメージから構成されたであろうバリアジャケットに桜色の首輪が残っている事が示している。そんなリライヴが、自身を見捨てた局員の協力者になるなどある筈が無い。

 

「やっぱり…止めるしかないんだね。」

「出来るのなら…ね。」

 

デバイスを構えるなのはとリライヴ。

俺も切り込む為に抜刀の体勢をとり…

 

 

 

唐突に、強大なエネルギーを感知する。

 

 

「これは…」

「どうし…っ!」

 

エネルギー反応に気付いた俺に続くようになのはもその表情を歪める。

距離は遠いが、大分大きな反応だった。

 

「まさか…あの馬鹿…っ!!」

 

リライヴが慌てたように呟いた直後、砲撃の轟音が鳴り響いた。

 

『…ガジェットも大体片付いたし、私はこの砲撃の実行犯を捕らえる。』

 

フェイトから何かを堪えるような念話が届く中、砲撃の閃光が一直線にヘリに向かい…

 

 

 

 

ヘリが爆発に呑まれた。

 

 

 

オーバーSの物理破壊砲撃…ヘリ所か要塞に篭ってたところで安易に安心できない。

あんな物直撃してたら…

 

さすがに肝を冷やしていたのだが、続いて聞こえて来た声が不安を断ち切った。

 

『……さ…せる訳ねーだろちきしょうが!!』

「ヴィータちゃん!!」

 

小さな体を大の字にして浮かぶヴィータ。その後ろに、ヘリは無事飛んでいた。

ヴィータのほうも、致命傷といった感じではない。

 

 

サンキュー、ヴィータ。

 

 

きっと、あの日以来失いたくないと強く思っていたのだろうヴィータに内心で礼を告げ、今相対しているリライヴを見据える。

 

「お前の事だ、何かあるのは想像つくんだけどさ…本気でこんなやり方する所で満足なのか?」

「っ…」

 

答えず、ただ硬くデバイスを握り締めるリライヴ。

犯罪者扱いは変わらないのに三対一でも非殺傷で戦うような馬鹿が、こんな事する連中と組んで満足できているわけが無い。

だからと言ってリライヴが、抱えている『何か』をすぐに捨てられる訳も無い。

 

反論できないが、反省もする訳にはいかない…か。

 

『…今日はもう攻めない、仲間だけ助けて引く事にする。』

 

リライヴからそんな念話が届いた直後…

 

「シューティングスター!!」

 

無数の魔力弾が、俺となのはを纏めて飲み込むように放たれた。

迫る魔力弾の雨を、俺は切り払い、なのははプロテクションで凌ぐ。

そんな事をしている間に、リライヴは高速移動魔法で俺達から離れていった。

 

『なのは、俺は一応リライヴを追う。お前はフェイトの援護を。』

『一応って…本当甘いよお兄ちゃん。』

 

周りに漏れないようになのはにだけ念話で告げる。

大してなのはは、大方予想していたのか諦めたように念話で返し、フェイトの援護に向かった。

 

 

甘い…よなぁ、止めないとまずいのに。

でもあいつなりの譲歩だし、何よりあいつが甘くないのなら当にヘリが墜ちていておかしくない。

優しい犯罪者を非情に捕らえる…と言うのは、局員ならまだしも俺はやるつもりはなかった。どっちが悪いか分かったもんじゃないし。

 

 

 


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