なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十二話・動き始めた敵の影(前編)

 

 

 

第十二話・動き始めた敵の影(前編)

 

 

 

Side~ティアナ=ランスター

 

 

 

正直認めたくないんだけど、どうしてあんな奴が使われているのかよく分かった。

 

 

目の前の残骸で。

 

 

レリックに向かっているはずのフレア空尉が通ったらしい場所に、いくつものガジェットの残骸が転がっていた。

しかも殆ど全てが一撃で破壊されているようで、周囲もあまり傷ついていないとなるとさほど攻撃もさせずに片付けた事になる。

未だに背中も見えず、この惨状を作り出すだけの戦闘音すら聞く事すらなかったって…どんなデタラメよあいつ…

 

「…下手するとギンガさんと合流するまでに全部終わっちゃうかもね。皆!周辺警戒は緩めないように迅速に行くわよ!!」

「「「了解!!」」」

 

無力を嘆くのは後だ。

焦らずに今できる事を素早く片付ける。フォワードの現場リーダーとして。

 

と、先へ進もうとすると壁の一部が爆発する。

 

咄嗟に警戒態勢をとるあたし達の前に現れたのは…

 

「あら、皆速いわね。」

「ギンガさん!?」

 

現れたのはギンガさんだった。

ギンガ=ナカジマさん。歳と階級が二つ上のスバルの姉でシューティングアーツの師でもあるらしい。

 

「私のほうはいくらかガジェットが片付いていたから結構素通りできたけど、皆は大変だったんじゃ?」

「え?」

 

ギンガさんの問いかけに、あたし達のほうが首を傾げる事になる。

地下担当はあたし達とギンガさんとフレア空尉の筈。

と言う事は…あの人はレリックからそれた方向にいる事になる。

 

一体何をやってるのかあの人は!人には散々任務優先みたいな事言っておいて…

 

「…ロングアーチが把握してるはずです、あたし達はこのままレリックに向かいましょう。」

「了解。」

 

少し見直しかけてたって言うのに全く…

 

と、そこまで考えて、自分が『期待を裏切られた』と思っている事に気が付いた。

 

…馬鹿馬鹿しい、あたしは一体何の根拠があってあの無茶苦茶な人に期待していたんだ。

無かった事と忘れる事にして、改めてレリックに向かって進む事にした。

 

 

 

Side~フレア=ライト

 

 

 

ただの予感ならば、新人にレリックを任せることなどせずに直接自分で向かっていた。

だが、それが予想であるならば、少なくとも放置は出来なかった。

 

 

 

戦闘者がいる可能性。

 

 

 

無論、魔導師が闊歩するこの世界で速人のような技巧を磨いている人間など皆無に近い。

だからこそ、ただの予感であればそんなもの信じる訳がなかったのだが…

事前にシャマル医師から聞いたシュテルの倒され方がどうにも引っかかっていた。

 

視覚操作にすら気付いて反応した彼女が背後から襲われ、翳した手を『まるで人体構造でも理解しているかのように』簡単に折られていたのだ。

当のシュテルとシャマル医師によって、無闇に心配かけまいと速人には伝えられていないようだが、もし当たりならば、地に足をつけた状態で勝てる魔導師などほぼいない。

 

そう…丁度こんな上下左右に壁があるような狭い場所で遭遇すれば、ひとたまりも無いだろう。

だからこそ魔力がなければ、気付かれずに生身で攻めるならばどうするかを考えて、通り過ぎた場所…既に敵を倒してきた道から出てきたりすれば、予想外に当たるのではないだろうか?

そう判断し、レリックに直接向かわず、少し逸れた道で回りこめそうな場所を探し…

 

「っ!」

 

曲がり角から飛び出してきた影の攻撃を捌いて壁を背にする。

次の瞬間、顔面に向かって短剣が投げ放たれた。

咄嗟に防御魔法を展開して防ぐ。が、影は既に次の動作に入っていた。

 

左足の尖端、余程防御を広く展開しなければはみ出す部位。

そこに向かって正確無比な投擲が放たれた。

 

咄嗟に足を上げ、背にしている壁につけ…

 

「はっ!!」

 

壁を地面代わりに蹴り、そのままの勢いで槍を振りぬいた。

 

完全に間合いを見切ってバックステップを行う影。暗い中、ようやくゆっくりとその姿を認識する事ができた。

紫色の髪をした、神父を連想させるような服装の男だった。

 

「成程…変わった魔導師もいるんだね…」

 

先の足への投擲の際、顔面への投擲に対して防御魔法を展開する為に翳した手を使って、投擲の動作を隠すように投げてきた。

こんな事を当たり前にしてくる奴が、いくら威力と命中精度がいいからといっても重量武器を振り回すだけで高ランクに届くような管理世界の人間な訳が無い。

 

間違いなく…当たりだった。

 

恐らく今、ロングアーチは私が一般人と長話をしているように感じられているだろう。何しろ魔力もろくに無い人間と相対しているのだから。

 

「何者か…などとは問わない。貴様だけは最悪殺してでも止める。」

「へぇ…いいのかい?非殺傷で魔法を振り回す管理局の人間がそんな事を言って。」

「私の命や地位一つで貴様が止められるのなら十分だ、貴様は危険すぎる。」

 

相対して相手の実力を感じる事など戦闘者であれば当たり前に出来なければならない事で、それが出来ているからこそ分かる…分かりたくも無い事がある。

 

 

眼前の男は…最悪速人よりも強い。

 

 

私の言葉を聞いた男は、命を取ると言っているのに笑う。

嘲るでも罵るでもなく、心から楽しそうに。

 

「いいよ…やろう。まともに剣を使う相手すらいなくて困っていたんだ。」

 

瞬間、男の背に8本の剣が展開され、私目掛けて放たれた。

グレイブを旋回させる事で、向かってきた7本全てを叩き斬る。

 

「…ふぅ、だからこんな玩具のような機能はいらないと言うんだ。それにしても金属を容易く切断するのはさすが魔導師だね。」

 

男は残った一本の剣を手にしていた。

男が告げた通り、私が勝てる可能性があるとしたら、問答無用の性能差だけだ。

通常の戦技だけでは絶対に向こうが格上。だが、防御しても剣ごと切断されるとなれば有利なのは私のはずだ。

 

後は…賭けに近い。

 

「余興は終わりだ…始めよう。」

 

男は剣を私は槍を手に構え…

 

 

金属を打ち合わせる甲高い音が、地下に響き渡った。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

普通に空戦をして、少しガジェットが数を減らしてきた頃…ガジェットの数が、突然爆発的に増大した。

ロングアーチのほうも騒ぎになって、状況把握の為に全体防御のオーバルプロテクションを展開する。

 

 

 

 

 

次の瞬間、強大な魔力による砲撃が放たれた。

 

 

 

 

「状況変化に対応している間に殲滅…許可が出ないと全力も出せない馬鹿なんてこれで簡単に済む。」

 

そんな声が聞こえてきた方向には、予想した通りの人がいた。

 

「…とか言ってたけど、さすがにそこまで簡単にはいかないね。」

「分かってたなら作戦ミスだって教えてあげたらよかったんじゃない?リライヴ。」

 

魔力の残滓が晴れていく中、私とフェイトちゃんは限定解除した状態でそこにいた。

彼女は私がプロテクションに切り替えて凌いだのが当たり前であるように一つの動揺もしていなかった。

 

 

『リライヴと当たる事になったら迷わず限定解除していい。』

 

 

今回、はやてちゃんからはそう指示を受けていた。

保護しなきゃならない女の子含めて今回嫌な事態だと誰もが感じていた。

そんな中、お兄ちゃんもフレア空尉もつかない間に主力である私達が倒されたのでは最悪の展開になりかねない。

 

だからこそ、そんな指示を貰っていた訳だけど…

 

「あまり長い間私に気を逸らしていると、ガジェットが危ないよ?どうするの?」

 

限定解除した所で、一瞬だって気を逸らせる相手じゃない。かと言ってこのまま彼女と向き合っていたらガジェットを素通りさせてしまう。

 

だから…

 

「フェイトちゃん、ガジェットの相手をお願い。」

「なのは!?」

「…正気?一人で私の相手をする気?」

 

これしか手は無い。

少なくともお兄ちゃんが来るまでは私一人で凌ぎきる。

 

「大丈夫、任せて。」

「っ…分かった、無理だと思ったらすぐ来るからね!」

 

結局心配したまま、それでも信じてくれたのか離れるフェイトちゃん。

 

「相変わらず…馬鹿だね。」

 

呟くリライヴに対して、私はレイジングハートを向ける。

 

「アクセルシューター…シュート!!」

 

最大数の32個を以って、全方位から覆うようにシューターを放つ。

リライヴは躊躇う事もなく、直進しながら旋回運動と共に振るった魔力刃で自身に当たる軌道のシューターだけを切り払う。

 

あっという間に距離を詰められた私はレイジングハートを翳しプロテクションを展開する。

 

「無駄だよ!!」

 

リライヴの言葉通り、私を覆うように展開されていたプロテクションは彼女の集束刃にあっけなく切り裂かれ、そのまま私の身体に向かって…

 

 

 

 

「な…」

 

 

 

刃が触れるか否かの寸前で、私の左手が彼女の剣を掴んでいた。

魔力刃だけの部分ではなく、根元の短剣部分を掴んでいる為、仮に展開中の刃を消しても逃げられない。

 

簡単な話、リライヴの剣が高密度の魔力刃なら、私も小さく強い障壁を張れば防げる。

 

昔ヴィータちゃんの一撃を似たやり方で防いだ事もあったし、相変わらず運動は苦手だけれど、それでもシューターを狙った物に当てられるように、物の軌道に手を挟む位の事は出来るようになったんだ。だからこそティアナの刃も掴めた。

高密度のプロテクションを展開する為に魔力を集中させすぎている左手の指先から血が噴出す。

 

痛みはあった、けど無視した。

私の身内は誰も彼もそういう物を平気で使っているんだから!!

 

「いつまでも管理局を…『高町』なのはを舐めるなっ!!!」

 

レイジングハートを手放した右手を向ける。その手には十分すぎるほど溜められた砲撃魔法。

 

「ディバインバスター・インパルス!!!」

 

リライヴの胸元に翳した掌から放たれた近接砲撃によって起きた爆発が、私と彼女を纏めて包み込んだ。

 

 

 

Side~八神はやて

 

 

 

二人まとめて爆発に飲まれた光景を眺めつつ思う。

 

 

さすがなのはちゃん、えげつないなぁ…と。

 

 

さすがの使い方を間違えとる気もするが、あのリライヴ相手に一矢報いたんはさすがといって問題ないやろ。

フェイトちゃんの限定解除でガジェットの相手が足りている上、なのはちゃんが近場でリライヴと交戦中である以上、私が限定解除して広域殲滅…という真似は出来ない。

 

「ヴィータはヘリの護衛、リインはフォワード陣と合流してケースの確保を。」

「「了解!」」

 

後は…さすがにあれだけでは終わらんやろうリライヴ相手に、なのはちゃんが一人で速人君の到着まで持ち堪えられるかやな…

 

 

にしても…高町を舐めるな…か。

 

 

二刀を手に、魔導師や異界兵器相手ですら遅れを取らず全てを守り抜いて見せた、あの速人君が先人と讃える三人の剣士。

 

獲物こそ魔法になっとるなのはちゃんやけど…魂はしっかり継がれとるんやなぁ…

 

そんな事を考えながら、姿を現した幼馴染の強い意志が込められた瞳に、これ以上ない程の頼もしさを感じていた。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

身体を捻って直撃を回避したのか、リライヴのバリアジャケットは右胸の前が大きく破けていた。

 

オマケに着弾前に左手を蹴り上げられたせいで手を離してしまった。と言うか、鈍痛が引かない。…骨が少しいかれたのかも。

自立飛行で近くに浮いていたレイジングハートを右手で掴み、左手が動く事を確かめてから両手で握って構える。

 

と、リライヴは左手で開いた胸元を隠しながら私を睨んでいた。

 

「…いくら戦闘中だからってさ、局員がセクハラはまずいんじゃない?」

「嫌なら投降して。」

「それ脅迫だよ。」

 

苦笑しながらデバイスを翳すリライヴ。

無色の魔力光は相変わらず見辛いけど…無数の魔力弾が生成されている。

 

「シューティングスター!!」

「くっ…」

 

いきなり放たれる魔力弾の雨を、プロテクションで防ぐ。

魔力消費も大きい筈なのに一体何を…

 

考えている私の前で、彼女はバリアジャケットを再構成していた。

まさか…再構成の時間を稼ぐ為だけに?

 

少し信じられなかった。

恥ずかしいのは分かるけど、戦闘に油断なく、魔力に頼るだけでなく科学武装や体術まで使ってきた彼女が、そんな事だけの為に魔法の無駄撃ちをするなんて…

 

「…何で驚いてるの?私、猥褻罪だけは殺されてもごめんなんだけど。まさか『犯罪者を捕まえられるなら脱いでもいい』とか言わないよね?」

「言わないよ!!」

 

けど、そんな風に聞き返されれば納得する他無かった。

確かに私だって、それで犯罪者が捕らえられそうだとしても嫌だ。

 

「ならいいや。長話しても速人が来るまでの時間稼ぎにしかならないから続き…行こうか。」

 

告げた次の瞬間、再びリライヴが接近してきた。

 

放出にかけてはレイジングハートも私もそれなりに自信を持っているし、高出力にも耐えられるとは思う。

だけど、彼女やフレア空尉がやっているような、一定量の魔力を密度を上げることで超高性能をたたき出すやり方は、大分無理があるみたいだ。

 

現に一回使っただけで血を流している私の左手は、何回も繰り返せば使い物にならなくなりそうだった。

 

けど…まだ他にも手はある。

 

「そうそう何度も防げると!な…」

 

カムフラージュバインド。

プロテクションに『擬態した』四つのチェーンバインド用魔法陣に、直接攻撃を加えるほどに接近させて絡め捕る。

 

「こんな物…っ!」

「一瞬で十分だよ!」

 

一瞬動けなくなったリライヴに向けて、迷いなくショートバスターを放つ。

仕留める、なんて贅沢な事は考えて無い。

けど、お兄ちゃんが来るまでに使える手全部使って削り倒す。

 

つもりで放ったんだけど…

 

「何…」

 

向かっていった砲撃は、リライヴを避けるように『縦に裂けた』。

魔力光が無色の彼女が障壁を展開しても見づらくて形状が分からないのはいいんだけど、フィールド、バリア、プロテクションのどれにも該当しない特異な形状に少し驚く。

 

「砲撃魔法を屋根状の防御幕で流す防御壁。なのはの砲撃はいちいち受けてたらきりが無いからね。」

 

リライヴは告げながらシューターを放つ。

相変わらず一個の高性能シューターに、同種のシューターを放って相殺した。

 

 

ここまでは互角…に見えるかもしれない。

けど実際、追い込まれているのは私のほうだ。

 

 

彼女は特別新しい事はしていない。

防御は確かにもの珍しいものの、あれは単に効率よくダメージを受けずに消費魔力を抑える為に作っただけのもので、戦い方に変化がある訳じゃない。

 

そんな彼女相手に初見になる行動を連続して行っているのに、未だに互角のような戦いをしているんだ、いつまでも時間が稼げるはずが…

 

思考する間もあまり無いまま、また急接近してくるリライヴ。後何回対処でき

 

「慣れすぎたみたいだね。」

 

 

背後から聞こえて来た声に、背筋が凍った。

 

 

彼女は高速移動魔法の扱いだってフェイトちゃんと同等なんだ!!

 

今更思い出した所で遅かった。

魔力ダメージによる激痛と共に間違いなくここでダウンする事になる。

筈だったのに、一向に痛みが襲ってこなかった。

 

 

「…ワンパターンな登場はよくないんじゃない?ヒーローさん。」

「便利なんだよ。」

 

慣れ親しんだ声に目を向けると、丁度刀を納めているお兄ちゃんの姿があった。

 

 

…待たせすぎだよ馬鹿。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 


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