なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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幕間・交わらざる黒き槍

 

 

幕間・交わらざる黒き槍

 

 

 

Side~エリオ=モンディアル

 

 

 

それは…午前の訓練終わった時の事だった。

 

 

 

昼食に向かおうとした僕達四人は、唐突に襲撃を受け…地面に転がっていた。

 

「フレア空尉!何を…」

 

幸い…と言うか、加減してくれたのか、多少痛かったけど怪我らしい怪我はなかったからすぐに起き上がる。

デバイスを起動させた状態で立っていて、なのはさんの声に怒りが混じっているのがこの襲撃の犯人がフレア空尉であることを示していた。

 

「終了時そのものには危険が伴う。」

 

空尉はなのはさんと向かい合い、僕達には見向きもしない。

 

「お前が墜ちた時も任務の帰りだったな。教育中の身で私を倒せとは言わないが、反応すら出来ない程度だとお前の二の舞になりかねない。いいのかそれで?」

「っ…」

「警告はした。これ以上の横槍は入れない、後は好きにするといい。」

 

本当に、それだけだったと言わんばかりに去っていく空尉。

さすがに優しい人とは思えない。

けど僕は、何故か彼が悪い人だとは、どうしても思えなかった。

 

根拠はまだ無い。だから、少し気になった。

 

 

 

 

 

「っざけてるわね本当あいつ!頭おかしいわよ!!」

「ティ、ティアちょっとまずいって…」

 

まるでコップをお酒のように煽ってテーブルに力強く置くティアナさん。

 

「本気で人の事ゴミか何かと思ってんのよ、でなきゃあんなふざけた事できないわよ。」

 

スバルさんに宥められ、声を抑えるティアナさん。

けど、やっぱり不機嫌なのはそのままだった。

 

「でも…空尉の言う事も間違っては無いと思います。勝てないならともかく、反応すら出来なかったのは…」

「エリオ…アンタあいつの肩持つ訳?」

 

ティアナさんが珍しく本気で厳しい眼で僕の事を見ている。

 

『ティーダ=ランスターの無駄死にを誇るような勘違いをしているからそうなる。』

 

フレア空尉が言い捨てた、ティアナさんの誓いを踏みにじる一言。

…間違っていないなんて、簡単に言うのは軽率だった。

 

「…すみません。」

「…そんな顔しないで、悪いのはあいつでアンタに怒ってる訳じゃないんだから。」

 

謝ると、ティアナさんは顔を逸らした。

少しの間を置いて、両手で自分の頬を強く叩くティアナさん。

 

「あーもうやめやめ!こんな調子で訓練行ったらろくな事にならないのはつい最近知ったばっかりなんだから、あんな奴の事忘れよう!」

「フレアの事か?」

 

折角痛そうな思いをして切り替えようとしたティアナさんの後ろから、速人さんが顔を覗かせた。

 

「速人さん、折角」

「でもすぐそこにいるぞ?」

 

スバルさんの抗議を断ち切るように速人さんが指差した先、死角になって見えなかった所からフレア空尉が立ち上がった。

 

距離的に、間違いなく聞こえていた。

 

いろいろな意味で緊張が走る中、フレア空尉は僕達に視線すら向ける事無く去っていった。

し…心臓に悪い…さすがにビックリした…

 

「悪い、脅かしたみたいだな。アイツは隊長達でもあんな感じだから特別お前達が目に入ってない訳じゃない、気にすんな。」

 

速人さんはそう言って慰めてくるが、正直それもどうかと思う。

フェイトさんが眼中に無いような扱いされてたらさすがに僕も怒るかもしれない。

 

「そうだ、気分転換にいい話を。頼んでおいたいいもんが届いたからさ、午後一で見られると思うぞ。」

「いいもの…ですか?」

「ああ、特にティアナは見とく価値はあると思う。」

 

楽しそうな速人さん。それなりの自身があるものなんだろう。

 

 

 

 

中身の話は聞いても伏せられたまま午後を迎えた。

 

「先に言っておくけど、これから見せる物は速人さんの情報と同じで伏せておいてね。」

 

なのはさんからの念押しに僕達がそろって返事を返した後、その映像が映し出された。

 

金色の髪を束ねたスーツの女性が、二丁の銃を腰に立っていた。

女性の前には六つの缶が適当な高さと位置に置かれている。

 

ティアナさんにとってはひょっとすると修得できる物かもしれないから見ておく価値があると言ったんだろう、どんな凄い技術が見られるんだろうか?

 

そんな事を考えていた僕は、何でこんな物を見せられるのか分かっていなかった。

 

 

 

 

 

 

一発の銃声の後、全ての缶が吹き飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

質量兵器の資料で聞いた事のある銃声と違い、まるで『何回もの爆発が同時に』起きたような音。

 

「見事な物だな…」

 

シグナム副隊長が感嘆の声を漏らす中、僕は何が起きたのかすら理解できていなかった。

 

「単純に抜いて狙って撃つだけの、銃使いなら誰でもやる基本も基本。今のは左右の銃で三発ずつ撃って的に当てただけだ。」

「嘘…銃声一発しかしなかったのに…」

 

速人さんの解説を聞いたティアナさんが呆然と漏らす。

多分、同じ銃使いだからそれがどんな常識はずれな事か実感できるんだろう。

 

「勿論真似をしろ、何て言うつもりは無いよ。けど、強くなりたい子は皆凄い技術とか変わった技に目が行きやすいから、いい機会だし見てもらおうと思って。」

 

なのはさんにそう言われ、さっき考えた事が恥ずかしくなった。

基本の大切さを教える…その為にわざわざこんな映像資料を用意してくれたんだろう。

 

「砲撃魔導師のエースオブエースとか呼ばれちゃってる私だけど、まだ上は見えるんだ。自信はあったほうがいいし、応用技術とかも身に着けるな何て言うつもりは無いけど…極めるってそう簡単じゃないことは覚えておいてね。」

「「「「はいっ!」」」」

 

強く答える。

今ある技術をより確実な物に。そんな段階の僕達にとっては、まるで別世界の出来事。

 

「だけどいつか…」

「不可能だ。」

 

ティアナさんの呟きに、フレア空尉から静かな否定が飛んできた。

ティアナさんは不機嫌を隠しきれずに空尉を睨む。

 

「…邪魔をしたな。」

 

空尉はなのはさんにそれだけ告げて去ってしまった。

 

 

 

 

 

「フレアの性格が悪い理由?」

「そ、そこまでは言って無いですけど…」

 

夕方の練習が終わったお風呂の中で、速人さんに気になった事を聞いてみた。

 

「本人と話してみれば?言いたい事も言っていいと思うぞ。取り合うかどうかはともかく、任務中とかじゃなければ対応位するだろ。」

「そうです…よね…」

 

何となく、悪い人じゃないとは思っているんだけど…どうも取り合ってもらえそうな気がしない。

だから聞きやすい速人さんに聞いてみたんだけど…ある種当然の反応が返って来た。

 

「何を聞いたらいいかわからないって言うなら、一つだけいいものがある。」

「え?」

 

耳を近づけるよう言われて囁かれた言葉のとんでもない内容に、風呂の中だって言うのに体が寒くなってくるような気がした。

 

 

 

 

結局、一つ教えてくれただけの速人さんに聞く事も出来ず、フレア空尉を探す。

 

『言いたい事も言っていいと思うぞ。』

 

と、速人さんは言っていたが、言われるまでもなくそうするつもりだった。

折角苦心して頑張ってきたティアナさんのわだかまりもなくなって来ているのに、また全部壊されてしまうような事になったら絶対によくない。これは局員としても言わなきゃいけないと思うことだし、平時に問いかけるだけなら悪い事じゃないだろう。

 

 

森の中、デバイスを振るっている空尉の姿を見つけた。

 

 

無茶な訓練はよく無いとも言われているし、もう勤務も済んでいる時間だって言うのにこんなことしているのはよくないはず…だけど、僕は止める事ができなかった。

身震いするほどの速さと正確さで振るわれた槍は、一振り毎に宙を舞う木の葉を的確に捕らえる。

眼で見えたわけじゃない。舞っていた木の葉が途中で二つになったからわかるだけだ。

 

少しして、動きを止めたフレア空尉は…

 

「何か用か?」

 

僕のほうも見ずにそう言った後、振り返る。

 

何で…分かったんだろう?

 

「あの…聞きたい事があって…」

「なんだ?」

 

静かに喋っているだけだ、恐がるな。スバルさんだってティアナさんを見かねて立ち上がった。

僕だって、これ以上皆がぎすぎすするのを見たい訳じゃない、聞くことは聞かないと。

 

「何で…あんな挑発じみた、皆さんを傷つけるような言い方で話すんですか?」

 

あくまで質問の体を崩さないように問いかける。

言った…言ってしまった。もう後戻りは出来ない。

 

恐さを噛み潰すように堪え、空尉の答えを待つ。

 

「誤解だ。」

「は?」

「別段気遣ってもいないが、挑発や虐めに興味は無い。」

 

本当に、いつもの口調で何でも無い様にそう言った。

 

「な、なら何で不可能だとかそんな酷い事を言うんですか!やっても無いのに諦めろって言うんですか!?」

「アレは速人と同じ…命を賭け、唯一つを神経をすり減らして鍛錬した者が辿り付く場所だ。先に彼女は高町空尉と和解したばかりだろう。」

 

信じられないと憤る僕に返された言葉に、冷や水を浴びせられたような気分にされた。

何であんな事を言ったのかは分かったけど…

 

「初めからそう言ってくれれば」

「別段気遣ってもいない、それだけだ。」

 

つまり、本当にただ忠告していただけ。

 

警告こそするものの、隊長陣の皆ほど面倒見がいい訳でもなければ、結果どうなるかにはさほど興味が無いんだ。

昼前に襲われたのも、本当にそのままただの警告だったんだろう。

 

酷いと思うのがただの誤解…だとするなら。

 

「ティーダさんは『役立たず』…でしたか?」

 

速人さんから聞いてみろと言われた、この言葉にもきっと意味がある筈。

フレア空尉は軽く息を吐いた後に告げる。

 

「執務官志望のエリートで若くしてAAランクの魔導師を役立たずだと思う者などただの馬鹿だ。そんな『他の事件に当たれば今後どれだけの役に立ったかも分からない』有望戦力が、命掛けで成すべきこと一つ成せずに失われたんだ、ただでさえ人手不足の管理局でこれほどの『無駄』はあるまい。」

 

ティーダさんは結構高評価で認められているらしかった。

 

思った通り、悪い人ではなかった。だけど…何と言うかこの人『酷い』。

 

真面目で実力もあり護る事に真摯な割に扱いに困る人、と速人さんは言っていたが、まさにその通りだった。

 

「教官でもない以上波風を立てないようにはしよう。保護者も心配しているようだし早く戻って休むといい。」

「フ、フレア!言わなくても…」

 

保護者と言われて振り返ると、木の陰からフェイトさんが姿を見せた。

思わず振り返ったけど、フェイトさんを気遣うなら気づいてても言わないだろう。

 

予想通り…悪い、悪意のある人じゃなかったのだけど……

 

誤解を解くか放っておくか、僕は迷いながら自分の部屋へ戻った。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

「お…」

 

深夜、森の中で、俺の刀とフレアの槍の尖端が、共に互いの首に添えられていた。

 

「初引き分け…か、やるじゃんフレア。」

「白々しい事を言う。」

 

素直に褒めたつもりだったのだが、フレアは納得がいっていないようだ。

神速使って無いのが不満だとでも言うのかコイツは…槍のが剣より有利とは言え初なんだから喜べばいいのに。

 

「それよりエリオは貴様の差し金だろう?」

「え?あぁ、質問に行った事?」

「あまり面倒ごとを吹き込むな。」

 

どうやら俺が風呂で事前に教えた質問をしてみたらしい。そして、俺が吹き込んだと悟ったと…

 

「バーカ、問い詰めに行ったのはこれ以上仲間内の空気を悪くしたくないってエリオ自身が思ったからだよ。俺は理解不能なお前に聞くことを参考までに教えただけだ。」

「理解も何も事実を告げていたつもりなのだがな。」

「笑顔だって怒ってるやついるんだぜ?そんな仏頂面してたら誰だって誤解するっての。」

 

オマケに誤解とかその辺どうでもいいしコイツ。

初めて会った時もストーカーかと思うほどずっとついてまわられて、実は剣技について知りたかっただけなんて分かりづらい奴だ、まともに理解するのは困難だ。

 

「大体お前前線の子供組はどうでもいいんじゃないのか?」

「ああ、あの程度では別に何処で殺されてもそれほど支障は出まい。」

 

サラリと言い切った。

情も何もあったもんじゃないな。戦闘行動を行う者がどうなっても自己責任だと割り切ってるんだろう。なのはの見舞いにも来なかったくらいだし。

 

「だったらそもそも手も口も出さずにほっとけばいいのに。」

「だが、この部隊の隊長陣で誰が死んでも能力を削ぐ事無く普通に戦えるのはシグナムくらいだろう。それに、彼等が危機にでも陥れば、絶対に見捨てない馬鹿もいるしな。」

 

…驚いた。

ここの隊長陣くらいまで実力ある前提ではあるが、そんな所までコイツが気遣うとは。

 

「全ては咎人を速やかに止め、無辜の民を護り抜く為だ。止める方はともかく、護るほうはお前も本意だろう?頼らせてもらうぞ。」

「任せとけ、何と言っても俺は」

「ヒーローだからな。」

 

いつも通り、自信満々に告げようとした所で、笑みを浮かべたフレアに遮られた。

 

全く、こんなフレアを問い詰めに来たエリオと言い、変わった奴が多い所だ。

ま、楽しいからいいけど。

 

 

 

Side~八神はやて

 

 

 

「何処の世界に昼休みを宣言されて汗拭って帰っとる子等背後から叩き伏せる奴がおるんやこのアホ!!!」

「犯罪者なら攻撃行動など状況関係なくやると思われます。」

「局内で360度警戒しながらデスクワークやっとる人間が何処におる!同じような事やろ!!」

 

時間が出来た私はとんでもない事をしてくれたフレア空尉を呼び出した。

本来ならもっと色々いいたいし、対処もしたいのだが…

 

「あーこんな事なら横槍入れるなんて許可するんや無かった…」

 

後悔しても後の祭りではあるのだが、私自身が許可したせいだからこれ以上言うに言えなかった。

 

元々フレア空尉に、『前線の生存率を上げられる可能性があるのですが、一応ただの白い堕天使対策における協力者ですので訓練参加許可をいただけますか?』と聞かれ、生存率を上げると言われて飛びついた結果こんな事になってしまったわけだ。

 

「はぁ…こんなん許可してなのはちゃんも怒っとるやろうなぁ…」

「それは大丈夫でしょう、許可が出ている事は話していませんから。」

「…は?」

 

あっさり言ってのけたフレア空尉。その内容に、私は耳を疑った。

 

話して無い?

じゃあ何?他所の人がいきなり許可も何も無く襲い掛かった事になっとるんか?

 

「隊内で長に不信感を抱かせる位ならば外部で問題が片付けばこの場を去る人間のせいのほうがよいでしょう。幸い私は初めから印象が悪いので独断と判断されているかと。リライヴが片付けばそれで私の出向は終わりですし。」

 

なんやろ?怒りとか通り越したのか頭が重くなってきた。

 

悪気は全く無いんやこの人。

腹黒狸の巣窟で仕事する事もある私には何となく分かる。濁った眼も、嫌な笑みもない。

分かるんやけど…あーもー!!

 

「まだ何か?」

「いや…もうええ、頼むから大人しくしとってくれ。」

「分かりました。」

 

本当に一瞬の躊躇いも無く返答すると、敬礼一つ返して去っていった。

 

 

フレア=ライト一等空尉、最強クラスの近接戦闘能力をもつ、真面目で民間人にとても優しい…なのに局員で一番扱い辛い人物。

リンディさんとクロノ君…P・T事件の時も闇の書事件の時もこんなん任されとったんか…

 

 

頼むから制御方法教えてくれ…と、願わずにはいられなかった。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 




今はここまでです。

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