なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十話・語り過ぎた英雄譚

 

 

 

第十話・語り過ぎた英雄譚

 

 

 

肩の骨が外れた右腕を押さえながら跳躍するフレア。

うーん、我ながら見事な技だな。もう怪我も大体いい感じか。

 

「ほら、ここ笑うとこだぞ?『言った傍から自分がやられてんじゃん馬鹿』って。」

 

呆然としているフォワードの皆を見ながらフレアを指差す。と、再度関節から音がした。

…自力ではめたのか、そんな技も覚えたんだな。

 

「貴様の接近に気づける人間など」

「あれぇ?言い訳無用だった気がするんですけどねぇ?」

「ぐ…っ…」

 

完全気配遮断を使って接近した為当然気づける訳が無いのだが、そこは有言実行に基づいて失敗した自分が悪いという事で放置。

 

フレアの忠告も理解できないではないが、だからと言ってフォワードが全員フレアみたいのになったらきっとなのははやるせない気持ちになるだろうし、指揮するはやてに至ってはきっと胃に穴が開くだろう。

少し黙ってて貰う為に格好つかなくなるようちょっかい出した訳だが、狙い通りフレアはそれ以上何も言う事は無かった。

 

「お前がいつまでもそこで甘ったれているから話がややこしくなる。目障りだ、さっさと部屋にもどれ。」

 

と、俺とフレアをスルーしたシグナムがティアナを見下ろして一蹴する。

ここまでボロボロにされてるのにまだ追い討ちかけるかコイツ。

 

「で、『甘えてすみません。猛省してよりいっそう厳しい訓練に励みます。』って言ったらどうする気だ?」

「何…」

 

目を吊り上げるシグナム。

けどしょうがない。何が甘えなのかによっては十分にありえる発言、発想だ。

 

「不安に負けている事を甘えとしているのか、答えを貰おうとしている事を甘えとしているのか、色々視点を変えれば違ってくるが…その答えを自力で考えさせる方針を教官様が取った結果がこれなんだから、『間違えた、貴様は沈め。』は惨い気がするぞ。」

「局員でもない貴様は黙っていろ。」

 

まともな反論が思いつかなかったのか、言えば全てが終わるだろう台詞を持ち出すシグナム。

無理も無いが。昔話を気軽にする気が無ければ努力を止める理由なんて簡潔に説明するのは難しい話ではあるし、命令は絶対だの一言で話を終わらせることも出来るが、自力で何かを見出そうとする事を止めて指示に従うだけの人形にする気は隊長陣には無いだろう。

だからこんな状態になっているとも言えるが。

 

「やれやれ…じゃあ伝言。何でもシャーリーさんがこのすれ違いをどうにかする為のいいものを見せてくれるらしいよ。」

 

シグナムが一瞬何かを言いかけて、ティアナに視線を移した後諦めたのか結局何も言わなかった。

この状況で見せる物に察しがついて、止めようと思ったんだろう。

ティアナを見かねて止めないあたり、なんだかんだ言いつつ優しいんだよなシグナムも。

 

「子供の世話は管轄外だ、後は好きに」

「出動待機の関係もあってロビーでやるつもりなのに仕事サボるのか?」

 

一人ロビーへ向かおうとしたフレアの背に問いかける。

フレアは一瞬足を止めたが、黙ってそのまま歩いていった。

 

あんなんだから実力あって真面目なくせに未だになのはと同じ一等空尉なんだよな…

前に出たいだろうあいつは昇進に興味は無いんだろうけど、チーム組むの躊躇うよなあれは。

 

「よし、それじゃ景気よく…は無理だろうが、気分切り替えていこうぜ。」

「お前が仕切るな。」

 

今の際限なく沈んでいる空気をどうにかしようと明るくしていたのだが、シグナムに一蹴された。

俺は雇われのオマケで向こうは指揮を任されている副隊長なんだから当然と言えば当然なんだが…こういう重いのはどうも苦手だな。

 

 

Side~スバル=ナカジマ

 

 

 

空気を読まない速人さんの意気揚々とした先導の下、ロビーに着いたあたし達が見たものは、とても明るい気分で見ていられるものじゃなかった。

 

戦闘に何の縁もなく、専門の教育を受けた訳でも無いのに魔法戦を繰り広げる事になったなのはさん。

9歳から戦っていた話も噂じゃなく本当で、砲撃に対しての適正が高かった為、迷う事無く射砲撃魔法を極めようとした。身体への負荷の高さなんて知る術もなく。

ミッド式デバイスに対してのカートリッジシステム何て、ろくに実験も済んでない危険物も、相対する強敵に対応する為迷う事無く採用。

なのはさんの生まれ故郷である地球が、管理外世界にも関わらず魔導師に襲撃、事件を起こされ…友人をそれに巻き込んだ事もあってただでさえハードスケジュールだった訓練を更に水増し。

 

 

 

その結果は…見るに堪えないものだった。

 

 

 

魔法を使うどころか動く事すらままなら無いなのはさんの姿を見せられ、初めて全部分かった。

 

止める筈だ、あたしもティアも。

本気で怒るはずだ、なのはさんは優しいから。

 

こんな事…誰一人にだって繰り返して欲しい筈が無いから…

 

「…あれ?」

「どうしたのシャーリー?」

「いえ、ちょっと…」

 

沈黙の中、唐突にキーを勢いよく操作しだすシャーリーさん。

 

「事件と関係ないデータファイルが紛れ込んでいるようなんですけど…あれ?ムービー?」

「ちょ、シャーリー!それは気にしなくていいの!!」

 

同席していたシャマル先生が慌ててシャーリーさんを止めるが、それまで映っていたなのはさんの画像が消え…

 

 

 

 

 

『スーパーヒーロー高町速人!満を持しての登場だぁっ!!』

『は、恥ずかしいからやめてってば!!』

 

 

 

二つの剣を腰に下げ、真紅のマントに黒い服という、何処かで見た服装の少年が、速人と…あたしの聞き間違いじゃなかったら、『高町』速人と…なのはさんと同じファミリーネームを名乗っていた。

しかも、なのはさんがそんな少年に両手でしがみついて服を引っ張っている。

 

「ちょっと待てこら!何でこんなアッサリ再生できる位置に俺の情報残ってんだよ!!」

「私が知るか!大体貴様が馬鹿正直にフルネームを名乗っているからこうなるんだろう!!」

「なのはがこんな小動物みたいにしがみついてる映像じゃ関係あるのバレバレだっての!大体なんだよさっきの日常映像集!どっから持って来た!」

「なのはとテスタロッサのデバイスから収拾した物だろう!」

「盗撮容疑であの馬鹿逮捕して海鳴つれて帰る!」

「止めんか!!」

 

速人さんとシグナム副隊長が画面を指差しながらとても親しそうに言い争っている。

暫くしてそれも落ち着いた頃、速人さんがわざとらしい咳払いを一つ。

 

「あー、ばれた訳だし素直に名乗らせてもらう。本名、高町速人。あの鬼教官高町なのはの兄をやってる。悪いなティアナ、アイツ色々下手だからさ。」

 

バツが悪そうに告げる速人さん。

ついさっきまでなのはさんの過去、教導の意味について知って涙していたと言うのに、いきなりの驚愕の事実判明に全部持っていかれてしまった。

 

 

 

改めて思う。速人さん、本当に空気読まなさ過ぎると…

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

そもそも個人の過去が絡んでくる資料になる為、ホイホイ閲覧できるようになっている物でもなく、俺は別にはやてのようにレアスキル持ちとか言うわけでも無いため、仕分けして隠しておく程度で済ませていたらしい。

が、シャーリーさんが、保存使用容量がおかしいことに気づいてしまい、ウイルスでも入ったのかとちょっと確認した所、隠しておいた元のイメージが見つかり…

 

 

何で再生するかなシャーリーさん。

 

 

待機中であったが念話ではやてにだけ事情を説明、この場に居るシャーリーさんとフォワードメンバーにだけ、何故俺のことを伏せているかを説明する事となった。

 

管理局と敵対し、交渉にあたった経験がある事。

局員の追跡から逃亡し、リライヴの力を借りて救った人がいる事。

その時リライヴの逃亡を見送った事。

協力者にて保護対象でもあるが、同時に危険因子でもある事。

 

加えて、管理局員でもないのが好き勝手して誰か助けても捕まってないなんて状態が、その辺の一般人に漏れて適当な真似でもされれば余計な問題が多々発生する事や、ある種広告塔にすらなりつつある言わずと知れたエースの親類がそんなのだと漏れるとイメージ的によくないなど、大小さまざまな理由を大まかに説明した。

 

情報改竄にはなる訳で素直に受け入れられないかとも思っていたが、空港火災の時になのは達が主体で救済活動を行っていた事が伏せられている事を知っている皆は、理由がある分マシだと受け入れてくれた。

 

「でも誰かを助けられたんですよね。それで危険因子ってどうしてなんですか?」

 

扱いが不当だと思ってくれたのか、エリオがそんな問いを投げかけてくれて、キャロが小さく頷く。

 

「P・T事件の時、速人は件のプレシア=テスタロッサを救出する為に虚数空間へ飛び込んだ。」

 

シグナムが言うと、モニターに写っている映像が虚数空間で鋼線使ってぶら下がっている俺の映像になる。

魔法が使えない空間と言う事は知れていたのか、全員がありえない物を見るかのような目でその映像を見ていた。

 

「この時速人を助ける為だけにライト空尉が右手に大怪我を負った。敵で信用も出来ないリライヴの協力がなければ全員が無事助かっていたかどうかも分からん。そしてリライヴを逃がしたと言ったが、奴が今どれだけの問題になっているかはお前達もよく知っているだろう。」

「あ…」

「危険因子、と言うのはそういう事だ。悪意がなければ問題も無い等と簡単にすまないのは、努力で破滅に向かったなのはを見たお前達なら理解できるな。」

 

沈黙が降りた。

うーん、まさか俺の話で重い空気になるとはな…もっとやばい昔話は別にあるのに。

 

「はいはいそこまで。俺は扱いに不満は無いから俺の心配は不要だし、放置してる事に納得行かないのなら後ではやてとか上に掛け合って逮捕許可貰ってからかかって来い。さて…ティアナ。」

 

声をかけると、相変わらず意気消沈した覇気の無い瞳を向けるティアナ。

いいとこなしで説教ばっかだったもんなぁ…無理も無いか。

 

「少しくらい無茶したって…と言う事だったが、アレが本気の台詞ならなのは達の心配はとんだ見当違いだ。ただ同時に、お前は俺と同類って事になる。」

「っ…」

 

管理局にとっての危険因子。

執務官志望で兄の汚名を雪ぎたいティアナにとって許せる事態では無いだろう。

 

「仮に訓練に関してだけ、任務では無茶をせず強くなる為だけに命を懸けると言うのなら…それが本当に本気なら…強くなれるかもしれない訓練はある。」

 

言いつつ俺は服を脱ぎ、上半身を晒した。

 

「な、何して…えっ…」

 

驚いたシャーリーさんの声が途中で止まる。

無理も無い…何しろ全身傷だらけなのだから。

 

「何で『かもしれない』かってまぁ…見たら分かる通り失敗したら下手すると本当に死ぬんでね。」

「こ、これ訓練で出来た傷なんですか!?」

「全部とは言わないけど…実戦中にこんな傷だらけになったら治療してる余裕無いって。俺となのはの出身世界に魔法が無いのは知ってるだろ?」

 

驚いたらしいスバルの問いかけに簡単に答えると、悲しげだったなのはの話の時と異なり緊張感の入り混じった沈黙が生まれる。

いつまでも裸でいる趣味も無いので適当に着替えつつ続ける。

 

「強くなるって、『足りない能力を補おうとする力』が働く事が基本なんだ。毎回容赦なくなのはにぶちのめされてると思うが、痛いし仲間はやられるし、どうにかしたいと思うだろ?それを考えるとここはただの手取り足取りより余程いい環境だ。」

 

そこまで言って俺は人差し指を立てる。

 

「ここで問題。痛い苦しいよりも、能力が足りてないと困る事は何でしょうか?」

 

答える声はなかった。

だが、ここまで行けば答えなんて死ぬことだと判り切っているだろう。

修行と言うといろんな要素が絡んでくるためそれほど単純な話でも無いが、これも要素の一つではある。

とは言え、いくら強くなれる可能性があると言っても、教え子が死ぬかもしれない訓練などなのはにできる筈も無い。と言うか局で出来るかそんなもの。

 

「そういう訳でさティアナ、管理局員としては最高水準の環境の筈だから、無茶してもって言うのが物の弾みに出た言葉なら…もうちょっと信用してやってくれるか?アイツも…アイツが選んだお前自身も。」

「選ん…だ?」

「何で疑問系だよ、志願じゃないんだろ?」

 

呆けるように呟いたティアナに苦笑する。

 

「あの馬鹿不安を使命感で塗りつぶせるような堅物だから、自分が見込んだ子が無力に怯えてるなんて気づいても無いだろうけど…」

「ティアナは決して無力な凡人なんかじゃない。って続けるかな、私なら。」

 

俺の背後から、噂の教導官様がそんな事を言いながら現れた。

さすがに長話が過ぎたらしい、もう片付いたのか。

 

「さてと、危ない外部の人の偉そうな話は置いておいて…」

「酷いなおい!」

「ちょっと黙っててくれる?」

 

一応フォローのつもりだったので突っ込んだが、ピシャリと切り捨てられた俺は黙って頷くほかなかった。

晶師匠やレン師匠にすら説教かますなのはにそう簡単には逆らいません、はい。

 

「ティアナ…ちょっと、二人で話そう?」

「…はい。」

 

合わせる顔が無いのか、俯いたまま返事をするティアナを連れ、なのはは外に向かっていった。

少しの間を置いて席を立つ、残ったフォワードとシャーリーさん。

 

「一応忠告はしておくが、覗きは止めとけよ。」

 

少し歩みを止めた四人だったが、結局心配だったのかつけて行ってしまった。

事が済んだからかシグナムとシャマル先生とフレアもこの場を去って行き…

 

 

「速人の台詞じゃないよね?それ。」

「うぐ…」

 

なのはと一緒に来てこの場に残っていたフェイトの一言に、俺は唸るしかなかった。

 

「あー…フェイトは見に行かなくていいのか?」

「覗きはよく無いもんね。」

「そうだな、うん。で、何があって俺こんな責め苦にあってる訳?」

 

いい加減ごまかすのも無理と悟って聞いてみる。

 

「アリサが」

「着替え覗かれたって言ったんだな?それ冤罪だから!!」

 

三文字で真相が分かってしまった。

アリサの奴、詳細説明しないであった事だけ文句長で言いやがったな。

…いやまぁ、見たといえば見たけど。でもわざとじゃないんだ、決して。

 

「でも速人、前にもお風呂覗こうとしてたって…」

「いつの話だー!いや興味はあるけどさ!!」

 

多分今だと発言だけで未遂でも捕まると思う。

が、結局本心が漏れてる俺に少し呆れたように肩を落とした後、フェイトは小さく笑う。

 

俺の話がフォワードに漏れた事自体はいい事では無いだろうが、無理しなくて済む部分もあると言えばあるので少しすっきりしたのだろう。

 

間を置いて、フェイトは息を吐いた。

 

「少し…心配だけどね。」

「ん?」

「二人とも、今回は色々あったから。」

 

フェイトが心配そうに漏らす。結構思いっきりこじれてたからな。

 

「問題ないって。ティアナが俺やフレアと同種の人間ならともかく、頑張ってる魔導師だからな。危険性をちゃんと認識できた以上、無理は押し通さないだろ。」

 

安心させるつもりで言ったのだが、フェイトは不安そうな瞳のまま、俺を見つめてきた。

 

「速人は…問題あるからね。本当に心配したんだよ?吐血して重体なんて…」

「あー…」

 

その点に関しては申し訳ないとしか言いようが無い。

俺も出来る事なら怪我なく使いたいのだが…世の中そう上手くはいかないんだ。

 

「なのはも…まさか速人と同じ眼をすると思わなかったし…無理しすぎだよ。ちゃんと話をしてくれたのはよかったけど…」

「話?」

「うん。無理して我慢しないで私に位本音で話してって…あ、内容は言わないからね。陰で喋ったらなのはに怒られるかもしれないし。」

 

慌てるフェイトだったが、俺にしてみれば吉報だった。

そっか…愚痴とかでも言えるようにはなってるのか…

 

無心の裁きをやった事は、そんなものに慣れないように怒っとかないとと思ったけど、ちゃんとガス抜きできてるならいいか。

 

「フェイト。」

「何?」

「俺は管理局に四六時中いる訳じゃないからさ。お前も忙しい身でいつも一緒でも無いだろうけど、嫌じゃなければアイツが無敵のエースでなくてもいい場所になってやっててくれ。アイツ仲間は…戦友は沢山いるけど、この役を頼めるのは数人しかいないんだ。」

 

フェイトは、俺の頼みに笑みを見せて頷く。

 

「私でいいのなら、その役はずっとやって行きたい位だよ。でも…なのはと同じ事は速人にも言えるんだよ?一人で無茶し続けてるって言うのは。」

 

フェイトは勿論、誰も聞かない。倒れるような何をしたのかと。

多分、それが本来は広めるべき物じゃない技…奥義に関係するものだと知っているから。

 

「…判った、兄さんに何処まで説明してもいいか聞いてみる。さすがに借り物に近いから、俺の独断で喋るのもな。」

「それは嬉しいけど…使わない、とは言ってくれないんだね、やっぱり。」

 

何処か諦めたように告げるフェイト。と言うか実際諦められているのだろう。

10年近く前から一緒なんだから、もう判ってるか。

 

使えば救える人がいればまた躊躇いなく使う…と。

 

 

 

Side~ティアナ=ランスター

 

 

 

「…済みませんでした。」

 

人気の無いところまで来た所で、あたしはいたたまれなくなって先導するなのはさんに向かって謝った。

と、振り返ったなのはさんは、真剣な表情で私の目を見据えてくる。

眼をそらしたかったけど、今のあたしはそれすら出来なかった。

 

「何についてどうして謝ってるのか…聞かせてもらっていいかな?」

 

説教ではなく問いかけ。

思えば、フレア空尉には投げ捨てられすらしたあたしの物言いを、なのはさんはただ真っ向から聞いてくれていた。

 

「無茶してでもとか…あんな偉そうな事言っておきながら、なのはさんが倒れていたのを見て、恐くなってました。無茶する事の意味も分かってなくて、あんな可能性を受け入れるだけの覚悟もありませんでした。」

 

少しの間。

あたしの話を聞いて一切表情を変えないなのはさんが、何を考えているのか怖くなって…

 

唐突に、なのはさんは笑みを見せた。

 

「あの人の真似するのが覚悟だなんて思ってたらやだよ?忘れちゃっていいからねあんな危険な人。」

「え?あ、は、はい…」

 

仲が悪いのだろうか?

なのはさんにしてはえらく酷い言い様に戸惑いつつ、危険な事をするなと言う念押しなのだと思い頷き返す。

 

「じゃあ、射撃をおざなりにして遠近用の魔法を修得した事は?」

「……済みません。」

 

何を言えた立場でも無いので謝る。

なのはさんはそんなあたしを見ながら肩を竦めた。

 

「納得できて無いでしょ。このまま延々と同じ射撃練習だけ繰り返してても単独行動が多くなる執務官にはなれないもんね。」

 

見抜かれていたのか今見抜かれたのか、なのはさんの指摘に言葉を詰まらせる。

 

結局全て…自分の為。

戦えるとの証明も、戦力強化といって覚えた近接、砲撃魔法も、なのはさんに勝ちたかったのも全部。

 

怒られて当然だ。

 

初めからチームで動く前提で教わっているのにこんな…

 

「間違ってはいないんだよね。」

 

一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

本当に間違って無いというように、普段どおりの笑みと共になのはさんはそう告げた。

 

「クロスミラージュ、貸してくれる?」

「あ、はい。」

 

言われるがままクロスミラージュをなのはさんに渡す。と、何かを呟いた後、私に返してきた。

 

「命令してみて、モード2って。」

 

なのはさんの言葉を恐る恐る繰り返すように告げると、クロスミラージュは形態を変え…

 

 

大きく…洗練された刃を展開した。

あたしが即興で使えるようにした刃と違い、手元をカバーしたり、近接戦闘において扱うべき要素をこれでもかと言うほど完璧に揃えた刃。

 

「これ…」

「元々執務官志望って聞いてたから用意はしてたんだ…って、今言っても遅かったかもしれないけど。」

 

何処か遠くを見るように夜空を見上げるなのはさん。

 

「不安になって怒ってて、後から全部知らされたこと…私もあるんだ。気持ちは嬉しかったけど、自分が情けなくて辛くって…そんな事があったのに、同じ事繰り返しちゃった。ごめんね…」

 

なのはさんは…全部分かってた。将来の事まで含めて色々と考えてくれていた。

大体初めから言ってはいたんだ、『デバイスも一緒に強くなる』って。

何も気づかないまま暴走していただけだった。

 

なのに…謝られた。

 

もう体裁も何もなかった。

後悔や申し訳なさなんかが後から後から責め立てて来て、あたしはなのはさんに泣きついて謝り続ける事しかできなかった。

 

 

強く…ならないと。

 

 

今まで見たいな外面ばかりのいい加減な強さじゃなくて、この人の教え子だと胸を張って名乗れるように…自分自身から強くならないと。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

完全に解散して部屋へ戻ろうとした所で、待ち伏せている人影があった。

 

「速人…お兄ちゃん。何の用?」

「分かってるだろ?目を閉じて歯を食いしばれ。」

 

静かに告げられた一言で、用事が分かってしまった。

 

 

昼の模擬戦で我慢しすぎた…心を殺した事に怒ってるんだろう。

 

 

私自身、あれになってしまったのかと思うと未だに寒気がする。

大体、正しい教育プランだけ淡々と実行するだけなら全部機械任せでも構わないんだ。

あんな風になる位なら、まだヴィータちゃんみたいに怒りを…心を見せた方がきっといい。

 

…それを、先人のお兄ちゃんに怒られるのにはちょっと納得がいかなかったけど、本気で殴るつもりなら私が多少魔法を駆使した所で抵抗にならない。

 

私は覚悟して目を閉じ…

 

「えい。」

「にゃ!?」

「あ、まだ出たのなその台詞。」

 

予想外のデコピンに額を抑える。

つい出てしまった今の歳からするとありえない反応に恥ずかしくなってくる。

 

…って言うか、デコピンが異常に痛い。普通に指まで強いんだろう。

痛みを堪えつつお兄ちゃんを見ると、肩を竦めて苦笑いしていた。

 

「ちょっと放置しとけないかとも思ったんだけど、フェイトに本音で話したんだろ?だから今回はスルーしとく。あんまり溜め込みすぎるなよ?」

「分かってる。私だってあんな風になりたくないから。」

 

いつか告げた約束。

一時とは言え、破った挙句に望まない形で動いてしまった自分を戒めつつ、改めて思う。

 

今回、かなり無理して我慢した結果こんな事になったけど…

それが当たり前になってしまうくらい嫌な事を…殺しを続けてきたお兄ちゃんは、ヒーローになるって明るい目的こそあるけど、その過程で起こる苦痛がどれだけでも平然と我慢してしまうだろう。

スバルを助けて倒れたように。

 

それじゃあ…結局暗殺者に戻らなくても、我慢し続けてるのは変わらない。

 

 

お兄ちゃんだって…我慢しすぎだよ。

 

 

呟くことすらしなかった言葉は届くはずもなかった。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 


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