プロローグ~
とある施設の中、辺りは倒れ付した者の姿で覆われていた。
数はどう見ても数十人、入り口から内部まで全て数えれば100を越えるかも知れない程の人の姿があった。
血に濡れた床から察するに、倒れるものの中には死人もいる…否、死人の方が多いのだろう。
そんな中で、たった一人無傷で立つ女性の姿がある。
彼女は両の剣…小太刀を鞘に納め、意識を研ぎ澄ます。女性は、未だ動く強い殺気が感じられなかった為、軽く息を吐いた。
「これで大体片付いたな…っ!!」
報告に戻ろうとした刹那、得体の知れない感覚…殺気ですらない『何か』を感じてその場を飛びのいた。
女性の髪が数本舞い、先刻まで女性がいた場所には両手に短剣を逆手で持った少年の姿があった。
『何だ…コレは?』
それが少年を見た女性の感想だった。
どう見ても10に届かない少年は、殺気も放たず気配も微弱なまま、女性の首を正確に狙った一閃を放ったのだ。
異常なほどの殺気と共にと言うならば話はわかる。だが、殺す者が殺気も無いままに必殺の一撃を放ってきたのだ。女性にとってそれが一番の脅威であった。
氷のように冷めた視線を女性に向け、少年は短剣を持って女性と対峙する。
「君は…」
「殺す。」
少年は地を駆ける。女性はその動きに驚愕した。
ここで倒した誰より速く動き、誰より鋭い剣閃を振るう。女性が今まで出会った中で数えても、かなりの強者だろうその少年を止めるには、女性もあまり加減を考慮する事が出来なかった。
「気が引けるが…仕方ない。少し眠ってもらうよ。」
故に女性は構える。ほぼ『必殺』とも呼べる奥義の構え。
御神流・裏
奥義乃参『射抜』
女性…御神美沙斗がモノクロの世界の中で放った突きは、少年の肩を貫いてその身体を吹き飛ばした。
壁に激突して血の跡を残しながらその身体を沈めていく少年。だが、少年の瞳にはそれでも力が残っていた。
「殺さないと…殺される。」
「えっ?」
「死んだら何も出来ない…何も…」
最後まで立ち上がろうとする意思を見せたまま、少年は意識を失った。
美沙斗は少年を置いて、人の気配の感じられない最後の部屋を開く。
他と同じで殺風景な部屋だった。血の跡が残った檻のような部屋と、散乱した書類が残っている。美沙斗は書類の一枚を手にして…握り潰した。
「……下衆が。」
美沙斗が握り潰した書類には、
『被験体15は完全な気配の隠蔽を伴った暗殺術を習得、以後、被験体15を完成させる為、残りの被験体の処分も兼ねた実践訓練を行うこととする。』
と書かれていた。
コレは、日の当たる世界に戻る事を許され、救い手を目指すと決めた少年の物語。
掲載時に本文の写しを保存しておく…と言った形で進めてきたため、あとがきあらすじ等を保管し損ねました。なんという失態…っ!!