改訂する前の話は一万八〇〇〇文字もあったものだから、一万は切ろうとしてたんですが、書き進める内に結局筆が進んでしまって二〇〇〇文字オーバーしてましたよ。後どうも同じ言葉を短いスパンで入れてしまう癖がありましてね。自分で読んでてもなんだかなーって思う所結構あったり、禁書の登場人物を上手く動かせられなかったりで、結構な時間を費やしてしまいました。すみません。
口調、特に禁書側の登場人物の方はもうちょっとこうじゃないの?とか指摘していただければ幸いです。
夏の夜の訪れは遅いが八時を過ぎれば辺りは漆黒に染まる。
昼間は奇怪な人間遊園地と化していた砂浜も、今は月の光を浴びて見ているだけでも心が穏やかになる様な風景になっていた。
現在上条一族ご一行は夕食を頂く為に、海の家一階にある部屋のテーブルを囲っていた。
その中に俺と、意外なことに神裂も座していた。勿論、お近づきになろうと言うわけではなく、俺の監視と当麻の護衛を兼ねての同席である。
正直、見回しただけでツッコミ所は幾つもあるのだが、そこは慣れ。幾度ツッコもうとも決して修正される事のない完全無自覚ノンストップダイレクトボケの前には、いかなるツッコミも不毛である事を既に承知しているのである。
「ねぇねぇ衛宮さん。どうしてそんなカッコしてるの?」
と、俺に問いかけてきたのは海の家に帰ってきてすぐにお互いに自己紹介をした子、
と、彼女の事はさておき質問に答えなければ。
「そんなカッコって?」
「正直に言っちゃうとー、日焼けで真っ黒な上に白髪とかあんまり似合ってないよ?」
「…ッ」
ズバリ言うな、この子。いや、だがその言葉は決して間違ってはいない。寧ろ花丸をあげても良いくらいの正論だ。
続けて俺の思っていた事を代弁しているかの様に話し続ける。
「なんと言うか衛宮さんは今のままでもまあまあイケてるんだけど、身長はあんまり高くないし顔も子供っぽいからそういう悪っぽい感じはちょっと似合わないよ」
「……」
元々英霊とは全盛期の姿で現界する。俺も普段は二〇代の姿でいる。今回は何故だか童顔と低身長に悩まされ本来なら赤みがかった髪と少し焼けた肌を持っていた少年時代の姿で召喚されてしまった。しかも二〇を過ぎてから変質してしまった
そもそも日本人離れした特徴だ。それが日本人然とした少年がしているたのなら浮いてしまっても仕方ないだろう。
とはいえ、理由もなくこんな事にはならない。なんか適当に誤魔化せないだろうか。
「ほ、ほら、なんというかさ、ギャップ萌え…はなんかヤダな…、ギャップ燃えみたいな?」
「何で言い直したのかはよく分からないけど…。とにかく!奇を
「…む。別にそんなのは、」
「でもねでもね。顔は童顔気味だけど整ってるし、身体も程よくムッキムキでスラッっとしててバランス良いし、後は服とか髪によっては道行く女の子達の視線を独り占めするのも夢じゃないよ!」
今でもある意味視線を集める事は出来るが、彼女が言っているのはそういう事じゃないだろうな…。
…しかし、この後に及んでオシャレについて誰かからアドバイスを受ける日が来ようとは。
しかし、この肌の色も白い髪も元はと言えば俺の使う魔術の反動なのだから似合うか否かの問題ではない。第一、俺はそこまで容姿を磨く事に力を入れようとは今も昔も思ったことはない。
オシャレと言えば昔渡英した時、魔術の師に少しは身なりにも気を付けなさいと言われちょっと気にしたくらいだったか。
…いや、そういえば執拗にメガネを推してくる少女がいたな。中東のキャンプで子供達に色々教えていた頃だった。元来童顔である上にメガネを掛けるとより幼い印象を受けてしまいあまり好まなかったのだが、変装のつもりでかけていたのを見た彼女が熱心に迫ってきたから俺が折れてそこにいる間はずっとメガネをかけていたっけな。日本から遠く離れたこの地にもこの手のフェチズムが萌芽しているものなのかと驚嘆してた気がする。
それとあの少女、別の場所で見た事もある気が…。
…それは置いておいて。まあ必要に迫られたのなら、ある程度試行錯誤してみようというくらい気概はあるのだが、ハッキリ言って自分を飾りつける事にあまり関心がない。
「竜神さん。そういうオシャレ関連の話題にはついていけないというか、あんまり興味がないんだ」
「えっ?そうなの?」
「ああ。本当にスマン」
「じゃあなんでそんなカンジになっちゃったの?」
「む……」
まさかここで、
『いやー、俺の魔術って結構特殊でさー、なんか無理を押して使い続けてたら体質が変化しちゃってさー、黒くなるわ白くなるわでホント参ったよー、HAHAHA☆』
などと言えるわけもない。
どう答えたものかと思案していると、困っている俺を見兼ねてか、刀夜さんが助太刀してくれた。
「乙姫ちゃんそこまでにしておきなさい。衛宮君にも色々あるんだよ」
「刀夜さん、色々ってなぁに?」
「そ、それは…い、色々だよ…。ほ、ほら乙姫ちゃん。当麻が乙姫ちゃんとお話出来なくなくてつまらなさそうにしているよ」
「えっ!もぅ、おにーちゃんったらー。なんだかんだ言って私にメロメロじゃーん!このツンデレさんめっ☆」
「お、おい!怖気の走るテンションで抱きついてくるんじゃねぇ!くそ、おのれぇ腐れ親父めぇっ!答えに詰まったからと言って息子を生贄に捧げるとは見下げ果てた根性だな!」
「あらあらあら。当麻さん?自分のお父さんにそんな口利くものじゃないわよ?」
「そうだぞ当麻。今夜の父さんの枕は悲しみの涙でグチャグチャだぞぉー!?」
「ウザい!予想以上必要以上にウザッたい!!」
…中々どうして、賑やかな食卓じゃないか。肝心の食事はなく、店員最初に注文受けてからその後姿を現さない状態ではあるが。
「…あ!そういえば、コチラの方に自己紹介しておくのを忘れていたな。失敬、私は当麻の父です、初めまして。しかし、当麻の知り合いに外国人がいるとは国際化が進んでるんだなぁ」
俺から見たら日本人にしか見えない神裂に向けて刀夜がシミジミと話しかける。
神裂が外国人の神父に見えるというのは知っていたが、彼女の独り言からしてどうやら一度だけ姿を見せた長身赤髪の外国人の容姿をしているらしい。
あの体躯で神裂の服装や仕草をしているとなると…。『妙に女っぽいシナを作る巨漢の英国人』とか『日本語は上手だけどなぜか女言葉の巨漢英国人』とか、そういう意見が大半な気がする。
イメージだけでもダメージはあるが、
「そうだ、お近づきの印にエジプトのお守りをあげよう。はいスカラベ。砂漠とかでも迷わないって言ってだぞ。よし、衛宮君にも何かあげよう。せっかく仲良くなれたんだし。じゃあ…ウサギの足はどうかな?イギリスで買ってきたんだけど、幸運のお守りらしいぞ」
刀夜さんがカサカサに乾燥したスカラベと、留め金と鎖の付いたウサギの足を取り出すと当麻がギョッとして叫んだ。
「ってそれフンコロガシとモノホンの切断された動物の足じゃねーか!食卓にナニを持ち出してるんだバカ親父!!」
む。確かに当麻の言い分も正論ではあるが、刀夜さんも悪気があってソレをこの場に持ち出したわけではないだろう。
ここは一つ言っておかないと。
「いや」「いえ」
神裂と発言が被る。
「ーーー」
「……」
ほんの一瞬の沈黙の後、
「…エジプトではスカラベは
何事も無かったかの様にスカラべについて語る。
私が彼女との距離を測りかねている様に、彼女も俺にどう対応していいのか分からないのだろう。
なし崩し的に今の状況に陥ってはいるが、結局協力するのかさえ決まっていないのだから。
「…ウサギの足も生き残る力の象徴、生存の象徴だしイギリスのお土産としては最適だと思う」
…まあ、『生存の象徴』を“死んでいる”俺に与える事で皮肉っているとも場合によっては取れるが、刀夜さんはそんな事しないだろうし、そもそも気付いてはいないだろうが。
しかし、近頃の一般の土産屋に売っている様なものは大半は作り物だろうに、これは紛れも無い本物のウサギの足だ。
スカラベにしろこれにしろ、ただのお土産マニアというわけでもない気がする。家に膨大にあった品々も気軽に買えないであろう値段のものも一つ二つではなかった。話題にする様なものではないが、何が彼をそこまで掻き立てるんだろうか。
「???そ、そうだぞ当麻。父さんには詳しい事はちっともさっぱり分からんが、それでも己の先入観のみで異なる文化圏を否定する等人としてやってはいけない事だ」
「なっ俺だけ!?食卓に生物の死骸を持ち込むのダメって思ってるの俺だけなのか!?」
「いや、おにーちゃんは間違ってないよ。あんなのケータイのストラップにしてる人いたら怖いわよマナーモードでカサカサ動くのよあれ」
「まともな
「なにおう!?」
上条家の愉快な掛け合いを聞いていると今世界がありえない事態に陥ってるって事忘れそうだな…。
俺としてはさっさと問題を解消したい所だが、こんな時間も続いて欲しいと思う。
続いて…、欲しかったなあ。
「あらあら。それにしても日本語が達者なのね。おばさん感心しちゃうわ」
赤髪の巨漢外国人(に見える店主)が店の奥から最初の料理を持ってきて再び店の奥に消えた後、詩菜さんが神裂に話しかけた事が始まりだった。
「え?あ、いや、はい。お気遣いなく」
「あらあら、物腰も丁寧で。
ぴく、とその身を僅かに震わしたのを俺は見逃さなかった。
そうだ。入れ替わった人達から見れば男にしか見えないが、その心はしっかり女性なのだろう。
普段から物騒な世界に身をおいている神裂ならば、どうしても体に筋肉がついてしまう事や元より備えたその長身は女性らしくないと気にしているのかもしれない。
そこにこの悪意の欠片もない無垢なる口撃を受け続ければ、怒りを解き放つわけにもいかず、その内に蓄積させる。
その先は…、
「けど、その言葉遣いってちょっとニュアンスずれてるわよ。だってそれじゃ女言葉っぽいもの。
「こらこら、やめないか二人とも。言葉なんてのは正しくニュアンスが伝わればそれでいいんだ。おそらく彼は日本人の女性に言葉を教わったからこうなっただけだろう。
相も変わらず
…見える、見えるぞ!数多の修羅場の果てに得た俺の『
「(当麻!!)」
俺とほぼ同時に事態に気付いた当麻にアイコンタクトを送る。
「(えっ!?俺!?)」
「(スマンが、俺はまだ彼女に信頼して貰っていない。ここは俺よりも面識のあるお前が行くべきだ)」
「(え、でも俺、このオネーサンの事そんなに知ってるわけじゃ…)」
「(いいからいけ!間に合わなくなるぞ!)」
「(く、くぅー…!ええい、ままよ!)」
当麻は渾身の
「(神裂さーん!神裂さーん!違うって、周りの皆にはお前の事が『ステイル=マグヌス』に見えてるだけだから!だから決してお前の
あ、とどめ刺した。
「(ほう。なるほど、それがあなたの意見ですか。そう)」
ガシ、と当麻の襟首が掴まれた。
「(な、ちょ……どこへ!?シメられますか?あれ、そっちは風呂場なんだけど……まさかっ!米国の刑務所にはかつて冷水シャワーを延々と浴びせて体温を奪う拷問を奪う拷問があったと伝え聞くがこれいかにーっ!?助けてーエミえもーん!!)」
「(はい、触らぬ聖人に祟りなしー。これさえすれば他人の不幸に巻き込まれずに済むんだ!)」
「(ちょ、おま、ひどっ!)」
本当に済まない。だが、コレ以上嫌われるわけにもいかないのだ。
当麻は友に裏切られた様な顔をしながらさながら、ナニかが入った袋の様に引きずられて行った。
残りの上条一族は頭上に?を浮かべながら首を捻っている。
それにしても、
「(風呂場、美人、思春期の男子、か…)」
ーーーおおっと。また俺の『記録』の継承をしたおかげで生前の数倍の経験を得て更に強化された俺の『心眼』が更に新たな未来を映し出した。
「…まあ、いいか」
その事態に俺が関わらなければ、俺への不信感が今以上に募ることは無いだろう。もしその事態に居合わせでもしたら更に現状を悪化させかねない。本当ならどうにかして止めたい所ではあるが、世界が助けを待っているのだ。ここは大人しくドナドナってくれ。
それに、当麻だって得するし、神裂だって叩く殴る蹴る締める縛るくらいはするだろうけど行動不能にまではしないだろう。
第一、ソレが本当に起こるかどうかなど本当に決まっているわけではない。これは俺の『心眼』が“自身の経験”から算出した未来の一つでしかない。…そんな経験を多く体験してきた俺も正直どうかと思うが、ともかく彼と俺は違う。とっても幸が薄いオーラを放っていたが…大丈夫だろう。大丈夫だ。…大丈夫、だよな?
■
午後十時を回った頃、海の家『わだつみ』の二階のベランダにイギリス清教、
主題は『
見た目が男になってしまっている神裂がお風呂を浴びれる様に上条に見張りをしておく様に頼んでいたのだが、色々あって神裂が服を着ている時に脱衣所へ突撃をかけてしまい、神裂の刀、七天七刀による『新感覚日本刀つっこみアクション』(鞘による怒りに任せた単なる強打)で体と一緒に意識が吹っ飛んでしまったという事件があった。
土御門もその一部始終を見ていたので事情を知っている。
事情を顔を赤くしている神裂から聞かされると上条についてあまり知らない衛宮はともかくとして、普段から彼を知っている土御門からすると何が起こったのかは簡単に予測がついた。
「(また
しかし、そこで土御門は考えた。
普通の高校生では中々拝む事の出来ない、しかも神裂ほどの裸体を拝めれば
自分も義妹の着替えの現場に…ゲフンゲフン、なんて考えてしまうくらいには彼の不幸も羨ましかった。
しかし、そんな雰囲気も衛宮士郎の名前が出た辺りから会話も真剣味を帯び始める。
「彼に関して何か掴めましたか?彼と別れた後、単独で彼と話をしていたのでしょう?」
土御門は神裂の言葉の中に小さなトゲを見つける。どうやら単独で重要参考人に接触していた事を言外に咎めているらしい。やれやれ、と土御門は内心苦笑する。彼女のソレは美徳ではあるのだろうが、土御門の様に秘密裏に汚い仕事をこなすには不向きだ。が、今回は彼女とバディで良かったと思っている。
彼女の様な強者がいてくれるのであれば、すっかり頭脳派に落ち着いてしまった自分も思う存分頭だけ働かさせられるというものである。
とはいえ、彼女に頼り切るつもりも彼にはない。
彼女もリスクを負うなら、自分もそれに見合う働きをしなければならない。
「とりま、冷静に聞いてくれよ。あんま変な事はしてねぇから」
■
浴場にて、神(裂)の裁きを受けたラッキースケベリスト上条が目を覚ました後、土御門はすっかり喧騒を昼間においてきてしまった海岸沿いにいた。
聞こえるものと言えば浜辺に打ち寄せる波がたてる心地良い音、ほど近い道路を走る車の音くらい。見上げれば、瞬く星々が見渡せる。どうやら今夜は月が出ていないらしい。此処に佇み遥か遠くの水平線を眺めている分には今この世界が大変な目にあっている事など忘れてしまいそうになるほどの穏やかな夏夜の一時である。
「それで?私に何の用だ。と言っても思い当たる節など数えられる程しかないがね」
ついでにコイツもいなければ、である。
土御門もわざわざ無人の浜辺に涼みにきた訳ではない。
此処らでいいだろうと波打ち際も程近い所に立ち止まると、数歩遅れて隣に並ぶように動きを止める男が一人。
土御門に比べて一〇センチ以上身長が低く、顔も幼く。高校生である土御門と同じ、いやそれ以上に若くともおかしくない出で立ちだ。
しかし、服の上からでも分かる頑強且つしなやかな筋肉質の体、黒く焼けた肌に相まって浮いて見える色素の抜け落ちた白髪、見たものを貫く様な猛禽が如き瞳は、彼がただの少年であるという事実を否定する。
衛宮士郎。土御門と神裂が『
しかし、彼が切り出してきた言葉は『協力したい』ただそれだけだ。
こんな状況の中、猫だろうが孫だろうが
故に、見極めなければならない。彼が少なくとも現状況下において信用に足る人物か否か。
協力出来るのであれば願ったり叶ったりだが、もし、そうでなければ…。
「まあまあそう焦りなさんなよエミやん。…夜は始まったばかりだぜい?」
「はぁ…。つまりアレか?当麻の言う通りお変態バイシスコン大元帥閣下なのか?…失礼ながら閣下、不肖ワタクシその様な性癖は持ち合わせてはおりませぬ。代わりと言ってはなんですが
「待てやゴルァ!そこまで昇進した覚えはねぇし、降格した覚えもねぇよ!!てか微妙に手慣れた感じの敬語が腹立つわ!」
「これでも以前は執事をしていた身の上、その手の礼儀作法は一通り叩き込まれてるからな」
「だったら礼儀と作法をまともに使ってみろ!大体執事ってなあ…。いやそんなことはどうでもいいだよ。バイでも変態でもないけどにゃー」
「おや、こちらから親しみ易さを醸しているというのにツレないな」
「そんな親しみなんざいらねーよ」
どうにも調子が狂う。その言葉を信じる訳ではなかったが、衛宮からは一切の敵意や害意といったものは感じられない。
それなりの期間裏の世界を渡り歩いてきた土御門は嘘偽りはある程度見抜けるが、目の前の男の態度に裏がある様には思えないのだ。
相手だって戦闘だけを売りにした脳筋には見えないし、裏表を使い分けられる筈である。それが感じられないということは衛宮は素のままで此方に応対していることになる。それは信用してもらいたいという言葉通りの態度には違いない。
無論、相手の方が経験が豊富であるから誤魔化す術に長けているだけかもしれないし、相手の言葉を鵜呑みにすれば相手は死して尚この世に留まり続ける怨霊であり人の常識など通用しないのかもしれない。
とはいえ、相手が黒幕であったとしても何故態々敵対する魔術師の前に現れたのか。何故協力を持ちかけるのか。何故一般人と親しくするのか。
遊びなどと言われればそれまでだが、腑に落ちない。
「協力しようって言うんだ。素性や目的くらい明かす気はあるんだろう?流石に今の現状で信じてくれ、なんて都合が良すぎるってもんじゃねぇかい?」
「確かにな。しかしながら、明かせることはそう多くはない」
「何?」
「どうにも死の直前の記憶は鮮明なのだが、それ以前の記憶があやふやでね。どうも記憶が混乱が見られる。まあ幽霊なんぞになったんだ。肉体に色々置いてきてしまったのかもしれないな」
そう言う少し、彼は遠い目をした。その先にあるのは彼の生きてていた頃の情景か。それとも未練か。
しかし、この男の言葉を鵜呑みにするべきなのか土御門は思案する。口から出まかせである可能性もゼロではない。
そうなると記憶を引き出す事になるが、土御門は魔術師でありながら
となると神裂だが、彼女は凄まじい威力の魔術を放つ事は出来るが、
仮に成功するとしても秘密にしている事が暴かれようする時、衛宮は大人しくしているだろうか?
こうなると、歯痒いが衛宮の言葉を真実として話を進めるしかない。
「生前の話は一先ず、いい。言いたくない事もあるかもだが、魔術師なんて連中、人に言いたくねぇ事持ってねぇ奴はいないからにゃー」
「すまないな。話せる事があれば良いのだが、今話せる事など少なくとも俺は既に死んでいて幽霊であること。目覚めたのは上条家である事。そして、君達の魔力の様なモノを持っていて魔術みたいな事が出来るって事くらいなんだ」
「あんな劇薬を垂れ流しておいて、オレ達の様なもないだろうがよ。オレの魔力がただの水だったら、お前のは溶けた鉄だぜい?そもそも
「私はさながら溶鉱炉という事か。…私もこんな事になるとは思っていなかったよ。目的があるとすればそれかな。俺が持ってしまった力の正体とその理由。引いては何故俺はこの世界で蘇ってしまったのか」
「なるほどにゃー。因みに未練は?」
「なかった。少なくとも、現世に繋ぎ止められるほどのモノはな。俺はそれなりに満足して死んだんだ。最期だって、誰も恨んじゃいなかった」
「ふーん」
そう語る衛宮の横顔には確かに暗い感情は秘められていない様だった。
「けどよー。お前さんの口振りからすると目的ってのも明確に定められちゃいないみてーだけど?」
「いや何。生まれたてとはいえ赤子でもなし、言うなればセカンドライフという奴だ。打ち込む事がなければ後は老け込むだけだからな。多少の生き甲斐や目的を持ってやっていくべきだと、私は思うがね」
「定年迎えたおっさんか!」
「…まあ実際の所、目覚めてすぐ発生した『
「いきなり真剣になんなよ扱いづらいぜい」
「私としても生まれた意味を知る為に、なんぞ不毛な事はしたくはないんだがな。それが悪意であれ善意であれ作意的なものであれば、知りたくなるのも道理だろ?」
「まあな」
「そういう訳だ。俺としてはやはり上条家が怪しいと思う。どうにも君達の言う『世界の力』や『
「だからオレ達に接触してきたのか」
「ああ。いや助かったよ。都合良く現れてくれて探す手間が省けた」
「都合良く、にゃー」
今の所、衛宮の言葉の中に嘘らしい嘘は見当たらなかった。相当嘘をつき慣れていないのであれば本当の事だけを語っているのだろう。ただ、語っていない事があるだけで。
一筋縄でいく相手ではない。というのは初見から分かっていた話だが、相当食えない奴だというのが、土御門の感想であった。
そもそもそんな奴が上条当麻が入れ替わっていないのにも気付かず近づいてきたって時点で胡散臭いのだから。
もう少し見極めたい所ではあるが、いつまでも留守にしていると神裂がなんらかの行動を起こしそうで少し心配である。一度戻っておくべきだろう。
そう結論付けた土御門は、話をシメに掛かる。
「まあ、色々はぐらかされたまんまってのは気になるが…。取り敢えず敵対する気はないんだよな?」
「無論だ。と言っても信用ならないとは思うが、出来れば君達
「そいつは結構。しかし、少し見ない間に色々知識を付けたみたいだにゃーエミやん。神裂のねーちんが教えてくれたのかにゃー?」
「いやもう一人の方だ。いるだろ?当麻には青ピと呼ばれていたが、自分ではインデックスと名乗っていた少女?だよ」
「ああ禁書目録にも会ってたのか。手が早いにゃー」
「人聞きの悪い言い方はよしてくれ。魔法名という物も名乗っていたし、君達が彼女について言及はせずしかし黙認している様な感じだったのでな。てっきり彼女も君達の仲間か協力者だと思ったのだが」
「まあ
■
そこまで話したところで、突如として胸倉を捕まれ引き寄せられる。下手人は勿論神裂火織だ。
「…話したのですか?あの子の事を?」
「ま、待て待てねーちん。こっちから隠し事はよそうって言ってんのに、あんま隠し事は出来ないだろうって!」
「それは、そうですが」
「それにオレらが黙っていてもあの話好きだ、聞かれりゃ余程の事でもない限り自分で喋っちまうぜい?それよりは今の内どんな立ち位置にいるかを説明して付き合い方を示しといた方がいいだろ?そうだろ?」
「そう、ですね。貴方の言い分は分かりました」
そう言うと胸倉から手を離した。
「ふぅ。大切にするのは構わんけど、あんま過保護なのはどうかと思うぜい。子離れ出来ないカーチャンでもあるまいし」
「…どういう意味ですか?」
「待てってい!別に歳食ってるように見えるとかそんなニュアンス含んでねぇからよ!」
「別にそんな事は言っていませんが」
「もう藪はつつかねぇ。話を戻すぞ」
話を強引に戻しにかかる。どうにも神裂は沸点が下がって思えてならない。
「アイツとは協力関係になるぜい。で奴からの情報提供にあった上条家へその内向かう事にする」
「罠である可能性は?」
「勿論あるが上条当麻が中心の近くにいるっていう条件は満たしているし。衛宮士郎の話だと世界中から集められたお守りやら護符やらで溢れかえってるらしい」
「お守りと護符ですか?」
「ああ、どうも上条刀夜が世界各地から集めてきたらしいぜい。もし、そん中に特級の霊装が紛れていたとしたら…、どうだ?」
「ですが霊装の一つや二つ紛れていたとしてもこんな事態になるわけがありません」
「それも実際見てみねぇことには分からん。空振りだったにしろ、衛宮の情報くらいは手に入るんじゃね?」
「そうですか…。貴方がそう言うのであれば異存はありません。もし罠であっても策はあるのでしょう?」
「まあにゃー。とはいえ、『聖人』と『
「…やはり彼も巻き込んでしまいますか」
「近くに置いといた方が安全だと思うぜい?」
「今その彼はどこに?」
「下で衛宮士郎と二人っきりでお話中だにゃー」
目に見えて神裂がピクッと体を揺らした。そしてその目は険しい。何故そんな状況を許しているのかとその視線は語っている。
「まあまあねーちん大丈夫だってー。協力関係を結んだ直後に契約ブッチギル様な真似しねぇって」
その言葉を聞いても神裂の表情はあまり変わらない。むしろその表情には疑念の色が混じっていた。
「…ここ暫く思っていたのですが、土御門。貴方はあの男に対して妙に楽観的、いえ協力的ではありませんか?もしかして既に相手の術中に?」
「肩に手を置くのやめい。どんなに揺さぶったってオレはオレのまんまだから」
「では何故?」
「…そうだにゃー」
そこは実は土御門自身も不思議に思っていた所だ。
最初から怪しさ満点だった故に疑ってはいたものの、暫く奴の行動や言動を観察している内に自然とコイツは黒幕ではないと漠然とではなく、根拠もないのに確信していたのだ。
それが今の今まで不思議であったのだが、ここで神裂と会話をしていてふと思い当たったのだ。
「なんでかって言われると、ふわふわした解答しか出せないんだが」
「その解答とは?」
「誰かさんと同じ匂いがしたから、かもにゃー」
「匂い?」
そこで土御門は口を閉じ、目の前に広がる海に視線を移した。
神裂は続きを聞きたそうにしていたが、土御門の様子を怪訝に思いながら土御門と同じ場所を見る。
…実際の所、意味深な行動に見えて面倒事を避けたに過ぎないのだが。
神裂の前でそれを喋るとまた神裂の機嫌を損ねそうだと思った言葉はこう続く。
――――誰かさんとおんなじ、優しくて不器用な、お人好しの匂いだ。
どうもnakata(ryです。
遅れた訳は↑の通りです。すみません。
文章力もなく飛び抜けた面白さもないのに更新速度も遅いとか色々駄目な所が目立ちますね。精進します。
さて、また昨日までに前話の所まで加筆修正してきました。今回一番変わったのは魔術特性の所ですね。
知ってましたか?Fateで特性というと特性のことなんですが、魔術特性と言うと属性のことだったりすることを。まあこの作品では魔術特性は特性のことにしたままでいきますがね。後、元々の設定はともかくわかりやすくと思って個人と家系の特性を分けてたんですがやっぱ同じってことにしました。よく考えればそっちの方が分かりやすいですよね。
もう一つ、若干GOとかEX、CCCとかネタ出していきたいと思い少し入れてきました。EXは全くの別人って訳ではなく召喚元は英霊の座とほぼ同じ次元上にあるみたいなんで若干覚えがあるような?みたいな感じでいきたいです。メタは正直スベりそうで入れる勇気はないんですが、パロディーはどうなんですかね?入れれそうなのはスラングになってるものか、他の型月作品、大好物の平成ライダーくらいのものなんであんま書けそうにないんですよね。もうちょっと検討してみます。
最後にどうでもいいステータスの更新の話です。クラス欄が-だと寂しいので該当クラスってことで文字を入れました。
後、礼装に関しても今作で使うのは主人公だけなんで、一応個人の能力範囲かなと思い追加しました。多分それくらいでした。
次回は今月中、と言いたいところですが来月の半ばくらいまでに、とも言いたいところですがやっぱり後半になりそうな悪寒。
すみません。出来れば末永くお付き合いください。それではまた次回。