とある世界の無限剣製《ブレイドワークス》   作:中田魔窟

10 / 14
 なんだか纏まらない。書きたい事を書いているはずなのに納得がいかないというのも不思議なもんです。
 構成としては旧⑨と旧⑩を合わせて、大幅な変更を加えました。具体的にはVS神裂を最小限にしました。戦闘描写は章の最後で出し切りたいと思います。




 …突然の俺死んでます宣言をくらった三人は驚愕、というより呆然といった表情する他になかった。

 

「ゆ、幽霊?はははっ、ご冗談を!最近妙な奴が周りに増えてきた上条さんでもそれは信じられません事よ?」

 

 初対面から生きていると認識出来る程見た目から雰囲気まで生きているのが明らかな男が死んでいるとは魔術は存在するんだとか、天使が天国から降りてきたんだとか言われた今でさえおいそれと信じることは出来ない。信憑性に欠ける、というのが衛宮を除くここにいる三人の意見であろう。 

 

「真実は真実だ。取り繕う所など一つもないが」

 

 しかし、衛宮は至って真面目である。

 再三の質問に対しただの冗談を返したというのならある意味で大物だ。しかしながらそれにもリスクは付き纏う。他人に知られると都合が悪くどうしても自分の正体を隠さねばならないとしても、土御門や神裂は『御使堕し(エンゼルフォール)』を収束させんが為に遥々イギリスから日本というより上条当麻の所へ飛んできたのだ。天使が地上に降りてきただけでも異常事態であるのにそれが作為的な事態であり犯人の正体も目的も不明なのである。そこに『御使堕し(エンゼルフォール)』の影響を一切受けていない明らかに怪しい奴がいて、あまつさえ正体を誤魔化し続けているのなら、疑わしきは罰せよではないが早々に実力行使に出てもおかしくはない。

 なんせ天使なんて良く分からないトンデモないものが脅威を振るおうというのだ。いかなる手段を以ってしても止めなければならない。

 だが、そこでこいつは口にしたのだ。

 

『俺はね、幽霊なんだ』、と。

 

 何を馬鹿な、と疑惑の視線を向けるがその顔からは嘘を言っているとは思えない。

 嘘をつき慣れているだけかもしれないが、あまりにも泰然としたその態度は真実を語っているようにしか思えなくて、しかし、荒唐無稽な言葉はあまりにも信じるに値しない。

 結果、誰もが困惑するしかないという今の状況が形作られている。

 

「おいおい、エミやん。ここまできてそれはないんじゃないかにゃー?言い訳にしては苦し紛れにすぎるぜよ」

「言い訳なものか。私はただ君の何者だという問いに簡潔に答えただけだが」

 

 どうもぼろを出しそうにない。

 仕事(ビジネス)モードを維持していた土御門も、すっかり幽霊発言に毒気を抜かれてしまったのか、普段のにゃーにゃー言うだけの土御門さんに戻ってしまっている。

 

「それに、別に死霊亡霊とて珍しいものではあるまい。どこの国であれ人が死後姿形を伴って現れるなんて事例は山ほどある。そう言えば、十字教ではかつて天より追放された堕天使や悪魔が主への信仰を妨げんが為に故人に扮し現れるとも言われているな。そういう意味では天使にこの地上にいられるのは俺にとっては非常に都合が悪いわけだが」

 

 余裕な態度で幽霊を語り始めやがった衛宮は、どう見ても幽霊には思えない。

 様々な現象が科学によって証明され、超能力が人工的に得られるこんな時代である。

 幽霊だってプラズマやら集団心理やらで納得出来る説明は幾つも上がっている。そんな中で目の前にとても死んでいるとは思えない奴が幽霊等とほざいていらっしゃがる。

 とてもじゃないが現代の常識の中で育ってきたちょーとばかし非現実(オカルト)に触れただけの一般人たる当麻の脳では考えても答えが出る訳がない。

 …というわけで幽霊(オカルト)に詳しそうな土御門さん(魔術師)に頼るとしよう。

 普段散々厄介事を運んでくるのだ。こんな時くらい存分に役に立って貰おうじゃないか、と問題を丸々放り投げるつもりで土御門へ向き直る。

 

「…魔術師の間じゃ死んだ人がホイホイと生き返え(レイズ)っちまうのが普通なのか土御門?」

 

 改めて土御門の方を見るとそんなわけないぜよ、と首を小さく横に振る。非常識を知る奴にとっても非常識(よそうがい)、専門家も初めての事例らしい。まあ、そのサングラスの奥に見え隠れするのは新しい対象に対する興味ではなく、容疑者に向ける疑心だろうが。

 

「はあ…。じゃあお前が言ってた昨日己を自覚したとか言ってたのは?」

「俺は俺が死んだ時の記憶を明確に覚えている。無論、その後ことは覚えていないとはいえ、目覚めた所が場所も時代も異なる場所にいたとすれば、それはもう一度死んで蘇ったとしか思えんだろう?」

「…確かににゃー。だが、仮死状態されていて適当に放り出されたかもしれんだろ?」

「肉体を失った上に上条家の一室を半壊させるほどの爆弾と一緒に放り出すとは思えないが」

「おいちょっと待て。お前人の実家に何してくれてんの?」

「それに関しては本当にすまない。が、少し弁明させてくれ。まずそこに呼び出されたのは俺の意思じゃない。それとその部屋はほぼ完璧に修繕したからそれでチャラにしてくれないか?」

「ま、まあそれなら…」

「ちょい待ち。カミやん黙れ。肉体を失ったてのは?」

「あのー…土御門さん?さっきからワタクシの扱い雑じゃね?」

「黙れ」

 

 名前すら無くなったんですが、それは…、とまた続けようとも思ったが、開きかけた口を閉じる。

 実家が半壊したという事実の方についつい意識を向けてしまったがよく考えれば、『肉体を失った』という発言の方が今この場では関心を向けるべきものだろう。

 何せ、相手は幽霊を自称する男だ。そして、当麻にしろ土御門にしろ神裂にしろ幽霊という言葉を信じきれないのは目の前の相手が幽霊を自称しておきながら目の前にこうして実体を持って生きている人間として存在しているからだろう。

 幽霊って言うのは、一般に半透明で足がなく夕方とか夜とかにいつの間にか後ろとか前とか横とかにいるもんだ、というのは当麻の偏見かもしれないが大きくずれている訳でもないだろう。

 でも目の前のこいつは明らかに触ったら普通の人間と変わらなさそうである。というかさっき握手してその手に生きている人間の温もりを感じた。それにちろっ視線を下ろせば、四人の足がしっかりと地面を踏みしめていて、真上の太陽に照らされ生まれた人影が四つ地面に張り付いている光景がある。どう考えても普通の人である。

 

(…一体どこが肉体を失った野郎なんだよ。まあ、在り来たりな怪談では肩や腕を捕まれて気づいた時には、そこには手形の痣が…、なんてのもあるから一概にも物体がないとは言えないのかもしれないけど。ああいうのは心霊現象とかポルターガイストとか言うのか。いやポルターガイストってのは自然発生の超能力者の無意識の能力発現が原因だったんだっけ?)

 

 当麻が腕を組み本格的に別の所に思考を割き始めても、特にこういう場面では考えるまでもなく戦力外でしかないのは暗黙の了解として話は普通に進んでいく。

 

「肉体を持たないという割には、どう考えても生きた肉体を持っているようですが?よもや誰か見知らぬ人に憑依している、なんて言うつもりですか?」

「それでは少なくとも入れ替わっている様に見えなくてはおかしいだろう?」

「では人を殺した上でその肉体を…」

「はぁ…。君はどれだけ私を悪者にしたいんだ。自前で霊体に沿った肉体を作ったに決まっているだろう?」

「決まっていません。いくら何でも無理が過ぎるでしょう?」

「だから私も困っているのだ。本来ならただの幽霊がそんなことが出来る筈がない」

「どういうことだにゃー?」

「要するに、私はただの幽霊ではない、という事だ。死んだ時までは人間だったのに目覚めたら何故か自分で肉体を生み出せるモノになっていたんだ。ある意味『エンゼルフォール』が発生したと気付いた時より驚いているぞ、俺は」

「んー?でもそうは見えないけどにゃー」

「土御門。あまり不用意に近づくのは危険です」

「…………ん?」

 

 ふと、土御門の方に視線を向けた当麻の目に飛び込んできたのは、衛宮の体をぺたぺたすりすりと触り続ける一人の金髪男がいた。

 

「土御門…お前」

「どうしたカミやん?脳足りんなお頭でなんか答えは出たかにゃー?」

「うっせ。学校の成績なんて俺と大差ないだろ。この変態ホモ野郎が!」

「はああああぁぁっ!?何言ってんだカミやん!?」

「シスコン軍曹であるだけでも免職処分なのに、その上ホモとかもうその場で銃殺もんだぞ!?」

「貴様、このオレをその名で呼んだなっ!?」

「いやいや、ホモォな土御門さんには、銃殺(意味深)の方が良かったですかな?」

「上等だゴラァ!貴様にはこのオレの拳でそのウニ叩き割ってくれるわ!!」

「ウニだとぉ?この雑誌にモッテモテ間違いなし、これで寮の管理人さん系お姉さんゲット間違いなしと紹介されていたこの由緒正しきこの髪をあの海産物と一緒だと!?」

「どう考えてもカミやんの欲望が先行しすぎて元のキャッチコピーすら予測出来ねえよ!やーいやーい寿司ネタランキング6位くら~い!」

「馬鹿にされてるのか良く分からない所がすげぇむかつくゼ!こりゃあ一発殴らんば気がすまねぇでい!」

「…オレを挟んでそんな会話しないでくれないか?っていうか何言ってるかよく分からないんだが…」

「衛宮には悪いが、もはや引くことなど出来ぬ!先手、必勝!」

 

 衛宮の横に立ち勇んでいる土御門へ向け右手で手刀を振り下ろす。

 

「甘いぜカミやん!実戦経験はオレの方が断然上だぜい!」

 

 と土御門が横に立つ衛宮の腕を掴み、手刀の軌道へ誘導する。

 そしてそのまま、衛宮の額へチョップが直撃する。

 

「あっ衛宮すま、」

 

 当麻が謝ろうと、土御門へと向けていた視線を衛宮へちゃん向けた瞬間。

 

 

 衛宮の姿がパキッという音と共に、―――掻き消えた。

 

 

「なっ!?」「っ!?」

「…え?」

 

 それはあまりにも唐突だった。

 当麻がしたことと言えば、右手で衛宮の額に手刀をくれてやった、ただそれだけである。

 その結果がこれだ。衛宮はその姿を鈍色の粒子に変え空中へと四散した。その場に残っているものと言えば、彼の身につけていた衣服とリュック、そして赤いマフラーだけ。

 当麻は、この目の前で起こった想像を絶した光景を見て絶句していたが、頭では理解した。この現象は記憶を失った上条ですら何度も体験した光景だったからだ。

 時には炎を、時には想像より生み出された数々の凶器を、時には雷を。当麻はその手で打ち消してきた。―――そう、その右手に宿る『幻想殺し(イマジンブレイカー)』によって。

 

「は?ゑ?何が起こりありけりや?」

「頭の悪い似非古文どうも。だが、あっさり判明したな。あいつの言葉が真実だってな」

「体を自分で作った、という事ですか。しかし、そんなあっさりあれ程の擬似人体を生み出す事が、」

「―――やれやれ、その右手やはり尋常なものではないな。まさか、体を作っていた魔力(モノ)を全て消し飛ばされるとは思わなかったぞ」

 

 三人がハッとして振り返る。その声はたった今目の前で当麻の『幻想殺し(右手)』によって消された男の声だった。

 

「え、衛宮?いつの間にそこに?」

「たった今だ。また消されては敵わないからな。少し距離を置かせてもらった」

 

 当麻達三人の目の前にいる男は間違いなく、衛宮士郎その人に違いなかったが、その見た目は大きく変わっていた。

 先程までは肌や髪はともかく服装は一般的なものだった。

 しかし今は赤い外套に鉄製の鎧とベルトの多いズボン。掻き上げられた前髪のおかげでより鋭さを増した猛禽の双眼が露わとなっている。

 

「だが、これで信じてもらえたかな?私が亡霊だと」

「い、いやでも目の前に出てきたわけじゃないし…」

「では、」

 

 今度は衛宮が空中に溶ける様に、ゆっくりとその姿を解体()した。

 

「また!?」

「これでどうかな?」

「って、うおぉ!?」

 

 姿を消した衛宮が今度は当麻の数歩先に粒子が収束し半透明から完全な衛宮士郎の姿が現れる。

 今度こそその光景は鮮烈に当麻の目に焼き付けられた。

 

「なんなんだよ!なんなんですか!?いきなり出たり消えたりしやがって!幽霊なのかよ」

「先程からそう言っているだろう」

「…マ、マジなの?」

「先程君の右手(ちから)で破壊されたにも関わらずこうして存在しているのだし、霊体からの実体化は君達の見た通りだ。空間転移や魔術生物の類ではない、という事は信じてくれないか?」

「そういう事らしいけど…?」

 

 実際に目の前で正真正銘のひゅ〜どろどろを見せられた当麻は半ば彼が幽霊であると信じかけている。しかしながら、やはり幽霊などというものは錯覚であり気のせいであるという思いも完全に消えた訳ではない。だが、ここには魔術(オカルト)のプロが二人もいる。さっき起こった出来事は彼らも間違い無く目撃している筈だ。

 彼らの言葉が最後の一押しとなれば、衛宮を幽霊と認められる。そう考え、当麻は振り返ったのだが、

 

「くっ!」「、っ!」

 

 ゴン、と鈍器がぶつかり合う鈍い音に反射的に前へ向き直る。

 そこには、右手を持ち上げた状態の衛宮と、鞘に収まった刀をその右手に叩きつけた状態で停止している神裂の姿であった。

 

「やれやれ。気が早いな。いくら霊とてこうして物質化している内は痛覚も残っているのだが」

「一体何者なのですか貴方は!貴方から感じる力はたかが人間霊が扱える類の物ではありません!どちらかと言えばそれは天使の、」

「俺の知った事か。俺だってこの力がどういったものかも分からないんだ」

「なんでもかんでも知らぬ存ぜぬで押し通せるとお思いですか!」

「君はなぜそこまで結論を急ぐ!たわけ!」

 

 衛宮は上げていた右手で素早く鞘を掴むとそのまま腕を振り下ろす。言葉にすればただそれだけの事であったが、その始まりから終わりまでが余りにも早過ぎた。

 当麻が何故一連を動きを理解出来たのかと言えば気づけば目の前にそんな光景が生まれていたからに過ぎない。

 

「ツ!」

「フッ!」

 

 神裂の体勢を崩した後、間髪入れず衛宮は鞘を拘束する手とは逆の左手の掌を前方へ晒しつつ突き出し左半身ごと神裂へと突っ込ませる。

 衛宮の掌底が神裂へと迫る。しかし、神裂もやられっぱなしではない。鞘を掴まれつつも強引に柄に近い部分を衛宮と自身との間に割り込ませ直撃を防ぐ。

 それでも、その威力を殺し切るには足りず衛宮が鞘から手を離した事もあり神裂の体は数メートル後方へと弾き飛ばされる。追撃を仕掛けるなら今だろうが衛宮はその気がないのか再び体勢を元に戻すと腕を組みつつ、素早く立ち上がった神裂を見やる。

 

「少しは頭が冷えたかな、お嬢さん」

「…まだです」

 

 神裂はその手に携えた刀を腰の位置で構え、腰を落とし右手で刀の柄を掴む。

 その構えは武術とか武道とかは生まれてこの方関わったことが無く、少しだけ喧嘩慣れをしただけのど素人の当麻でも思い当たる。

 

「居合抜き?」

「おいおいねーちん!こんなとこで武器振り回すなよ。相手は協力したいって言ってんだからここは穏便にだにゃー、」

「大丈夫です土御門。ヒトガタとの戦いは幾度と無くこなしてきました。どこをどのように攻めれば口だけを聞ける状態で戦闘不能に出来るかは心得ています」

「うん、分かった。分かってないのがよーく分かった」

 

 土御門も恐怖を聞く程の鬼気迫る表情で口だけを利ける状態で、などと宣うおねーさんに対して当麻も大分引いていたのだが、その激情を向けられている当人は物怖じした素振りは見せない。

 

「…はぁ。戦いは出来得る限り避けるのが主義なんだが…。仕方あるまい。身に降りかかる火の粉は払わねばな。些細な火傷が後の憂いになっては堪らない」

 

 そう言うと衛宮は、組んでいた腕を解くと両腕を体側の自然な位置へ戻す。神裂の敵意を受けるばかりだった衛宮から初めて敵意が発された。

 正に一触即発。どちらからか動けば間違いなく戦闘が勃発する。その最中、当麻が何を考えていたのかと言えば…、

 

(どうしてこうなったのでせうか?)

 

 であった。

 確かに衛宮が『幻想殺し』で消えたり、違う姿で再び現れたりしたことは驚くべきことであったのは間違いないのだが、それに対して神裂がとった行動は、先手必勝一撃必殺。あまりにも直情的過ぎる。今まで出会った魔術師は基本もっと冷静に事に当たっていた様に思う。

 ちょっと前に衛宮が十字教とやらの幽霊の取り扱いに関して話していたが、アレだろうか?

 しかし、それにしては隣にいるもう一人の魔術師である所の土御門元春は余りにも落ち着いた態度でいるのはどういうことだ?その疑問を当麻は疑問を投げる。

 

「なあ、土御門。あのお姉さんなんでいきなり衛宮を斬る(Kill)しようとしてんだ?それにいきなり人ぶん殴るとか教育が足りていないのではなくって?ってか止めないの?」

「ああ、カミやんはそっからなのか。この砂浜で衛宮(アイツ)の異変に気付いてないのはオマエだけだと思うぜい?」

「そ、そうなの?」

「そそ、お前だけオンリーワンだにゃー。おかげで、心配せずともオレらが動かなくても良いみたいだぜい?」

「はい?」

 

 それってどういう意味だ?そう問い掛けようとしたその時、衛宮の時と同じ様に、突然後ろから、

 

「す、凄い迫力だね。離れててもビリッとくるこの緊張感。今までどんな映画とかドラマでも味わった事がないのに…。もしかして士郎君って俳優の卵とか?」

 

 しかし、それは既に聞いた事のある声で、

 

「あらあら、きっと違うわよ刀夜さん?士郎君はとある事件に巻き込まれてしまってそれを解決する為に此処まで来たのに、先に動いていた組織の人間から逆に犯人ではないのかと有らぬ疑いをかけられてしまっているのではないかしらー?」

 

 戦闘が始まるぞという緊張感を台無しにする非日常のかけらもない、

 

「そんなわけないよー詩菜さーん。そんなことよりこの子掘り起こすの手伝ってよお兄ちゃん!っていうかいつの間にこんな人一人埋められる穴掘ったの?穴掘りの名人さんなの?いつか私の心の壁掘り抜いて心を盗んでいっちゃう大泥棒さんなの!?」

 

 当麻がこのひと時だけ忘れていた悪夢が此処に顕現する。

 

「な、なんなの?今の『天使の力(テレズマ)』?いや『世界の力』?それとも『界力(レイ)』?違う、違う、違う。こんなの知らない。あり得ないよ…」

「な、なんかこの子変なうわ言入ってるよー!?夏の砂浜に頭だけ出して埋められて日射病とかになってるかもー!!」

「なんだってそれは本当かい?急いで出してあげないと!当麻も手伝いなさい!」

「い、いや待って!今それどころじゃないと言うか…」

「あらあらあらあら?自分で埋めておいて、気分が悪くなってるかもしれないのに、それどころじゃない?私は当麻さんをそんな子に育てた覚えはないのだけどー?」

「怖い怖いホワイ!?なして笑顔でそんな怖くなれるのマミー!?くそ、此処は戦略的救出劇!!今行くぞ青ピー!!」

「…あっ、とうま!!さっきよく分からない凄い魔力を感じたよ!近くに魔術師がいるかも!当麻は逃げて!…えっと、その前に掘り起こしてくれると助かるかも!」

「魔力?魔術師?はは、なんだこの子も俳優の卵なのかい?当麻も言ってくれれば良いのに」

「ちげえよ!魔力も魔術師も俳優もあっち!」

「んー?あっちにはなんか女っぽい背高のっぽの外国人さんと色黒赤マントさんしかいないよ?」

「いや、確か一一一が…、っていねぇ!逃げやがったなこんの忙しい時に!!あの変態バイシスコン大元帥が…!!」

「いいからとうまー!早くー!後、青ピって誰!?」

「ああああああ!!もうイヤ!!」

「当麻?どうしたいきなり海に走り出して…」

「あらあら。そんなに海が楽しみだったのかしらー?でも、またこの子を放ったらかしにして…。少しお仕置きしておいた方がいいのかしらー?」

「か、母さん?ビーチチェアを持ち上げてどうしたんだい?当麻は病み上がりだし、あんまり無茶は…」

「えい♪」

「とうま!?」

「お兄ちゃんが音もなく、沈んだ…」

 

 日常の象徴たる人々の活躍により、一触即発の雰囲気は瓦解した。一度触れれば破裂しそうな風船とて結び目を解けば空気が抜けるだけである。そうそうやれる事ではないが、やってしまう人もいるということか。

 こうなってしまえば居た堪れないのは真剣に向き合っていた二人だ。

 近くには一般人がいるし、協力者は四散したし、何よりそんな雰囲気ではなくなった。

 

「…とりあえず、その赤い布を拾ってくれないか?それさえあれば魔力が外に漏れ出す事はない」

「…どうぞ」

「ああ、ありがとう。とりあえず彼らの所へ行くか。一人意識不明者も出てしまっているしな」

「…お一人でどうぞ。顔の合わせにくい子もいるので。ですが監視はさせて頂きます。妙な真似をすれば…分かっていますね」

「精々期待に応えるとしよう。話また後ほど。元春にも伝えておいてくれ」

「…ええ」

 

 ーーこの世界における赤き英霊の初戦闘?は、こんな締まらない感じで幕を閉じた。

 




 どうもnakataMk-Ⅱです。
 久し振りに投稿して細々とやっていこうと思って更新したのですが、思っていた以上の反響があり、とても驚きました。ありがとうございました。
 ここからは、普通の雑記になります。唐突ですがギャグとかコメディといったものは個人的最難関だと思ふ。かっこいい(と思う)描写とか、考えてた設定を披露する文章はどう言われたって構わねえよ!って感じで書けるんですけど。相手を笑わせるようと考えてみたものは現実にそんな技量が皆無だからか、全く自信が持てない。ギャグやコメディ部分は練習がてらおまけやたまにやってみるくらいになると思います。いつか笑わせようって部分もウケようがスベろうが『ついて来れるか?』って回りを引かせるくらい自信満々に書ける時が来るんですかね。
 次回はいつになりますかね。しばらくはこちらの誤字脱字違和感矛盾なんかの修正をメインにして、次回にはぼちぼち手をつけていきます。どうかご容赦を。
 後最新話更新に際して、作品全体の誤字脱字を修正しました。後、0:の④、⑤にちょっとだけ文章を加えました。短いものですしストーリー上別に見る必要はありません。次回か次々回辺りに出てくる内容をちょっと齧った程度のものです。
 それではまた。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。