真剣で帝王に恋しなさい(イチゴ味)   作:yua

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ちょっとシリアス含みます。


06帝王不覚

波乱含みで始まった中学生活。

大方の予想を覆して、帝王こと南斗 天は恙無(つつがな)く学生生活を満喫していた。

 

「フゥーハハハハハ!アンパンは我が全て頂いた!甘味は正義、いい時代になったものよ!!」

 

両手を翼の様に広げ滑空しながらパン食い競争で吊るされたアンパンを全てかっさらったり。

 

「ククク、さあ聖帝軍の偉容を見せつけるのだ!全体前へ進め!」

 

無駄に高い統率力で棒倒しの棒の上に派手な椅子を乗せて腰掛けたり。

 

「フレッ、フレッ、赤組!頑張れ、頑張れ、赤組!!」

 

応援合戦をするチアコスの女子生徒をチラ見したり、と青春を謳歌していた。

 

「今日は運動会なんだよ」

 

「小雪よ、誰に言っているのだ?」

 

「神の視点的な読者にだよー」

 

応援に来た小雪を含めて昼食タイムなのである。

 

「天は凄い活躍してたね、格好よかったよ!」

 

「フハハハハ、まあ我に任せておけば全て良し!帝王に敗北は無いのだ!」

 

和気藹々(わきあいあい)と小雪も手伝って作った弁当をつつきながら談笑する天と対照的に、百代の周りに集まった風間ファミリーは気落ちした空間が漂っていた。

 

「ね、姉さんも食べなよ。岳人のかーちゃんが作った弁当めちゃ美味いぜ!」

 

「マジか、マジだ!めちゃ美味ぇ!」

 

「キ、キャップまずは姉さんに食べて貰いなよ。ああ、半分も食べちゃってもう!」

 

どよーん、とした空気を醸(かも)し出す川神百代を元気付けようとする直江大和と師岡だが、風間翔一が微妙に空気を読めていなかった。

 

「くそっ、運動会なら天下一武道会で充分じゃないか」

 

ギリィ、と歯噛みする百代。

 

午前中の競技は玉転がしや棒倒しなど駆け引きや技術が必要な種目が主流で、短距離走や綱引きなどの身体能力がモノを言う競技はほとんどなかった。

去年まで小学生だったとは言え、生まれ持った桁違いの気や身体能力を誇り川神院で修行を積んだ百代はそれこそ世界記録を量産する剛腕、健脚の持ち主だが、手加減とかがすこぶる苦手であった。

大玉転がしは最初の一押しに気合いを入れすぎて大玉が破裂。スタート開始同時に失格。

障害物競争は勢い余って障害物を蹴散らし、失格。

パン食い競争は天翔十字凰を繰り出した天に全てかっさらわれて、リタイア。

結果、全くといっていいほどに活躍出来なかったのである。成長期に伴い身体と気が爆発的に伸びている百代は、はっきり言って自分の能力を持て余していた。

特に実力的に近しい天が同じ成長期にも関わらず、自分の体を見事に乗りこなしているのを見せつけられると焦りも感じる。まだ見ぬ強敵を求めて武者修行を夢見る百代としては、鉄心が天と自分を見比べて百代の未熟さに首を横に振っていると強く感じているだけに焦りもひとしおであった。

 

 

イライラも極限に達しつつある百代の元へ、更なる追撃の刺客が舞い降りる。

 

チャッ、チャッ、チャラララー♪

 

軽快なラップサウンドをBGMに背中を伸ばして斜め45度にかしがせ、左腕を腰に巻き付け、腰元に親指を立てたいわゆるサムズアップの右手を添えた許されざる角度と言われる伝説の煽りポーズを小刻みに左右に振りながら、口だけ大きく開き、目は三白眼の全く笑ってないいつもの笑顔で近づいて来る天。横に真似をしている小雪も伴っている。その有り様はひたすらにウザいと断言出来ただろう。特に感情が鬱屈してイライラしている人が見れば

 

「何やら……」

 

「……ぶっ殺す!!」

 

何か言おうとした天に言われなき暴力が襲う位には

 

You win Momoyo!

 

何故か天を倒すと出るテロップを背景に、体操服の上に羽織ったジャージの裾を風になびかせる百代。

 

「私は、私より強い奴に会いに行きたい……」

 

(姉さん、天にいつもワンパンで勝ってる様に見えるんだけど……武者修行に行く許可を貰えるじゃないかな)

 

(多分、ギャグ補正じゃないかな。ほら、天さんって真剣勝負だと攻撃を避けるのに特化してるらしいし。当たると沈むタイプなんだよ、きっと)

 

大和が疑問をかもし、モロがゲームと漫画を混ぜ混んだ二次元脳的な超理論を展開する。

概ね、合っている所がトンデモ野郎の天に相応しいが。

 

「くっ、話を聞こうとしたら殴られたぞ。訴訟も辞さぬ」

 

「いや、あれは誰でも手が出るだろ」

 

ブレインマッスルの岳人にすら呆れられる有り様。こんな帝王に誰がした。

 

 

「まあよい、百代よ。少し付き合えい」

 

「あー、何だよ……?」

 

そのまま連れ立って校舎裏に消えていく天と百代を風間ファミリーWith小雪は当然の様に尾行していく。

 

人目のつかない校舎裏にて

 

「フハハハハ、この拳が避けれるかなっ?」

 

「くそ、ヒラヒラと避けやがって!」

 

二人だけの天下一武道会が開かれていた。

 

「あ、あわわ。止めなきゃお爺様に怒られちゃうわ」

 

ガクガク、と体を震わせて顔を青ざめさせる川神一子に落ち着かせる為に京は頭を撫でながら

 

「大丈夫、私でも見える位に手加減してるから本気じゃないよ」

 

「えっ、何か分身してるみたいに速いんだけど」

 

「目で追うのがやっとだぜ」

 

一般人の大和には手加減って何だろなというレベルである。翔一は常人離れした動体視力を無駄に発揮してたりする。

 

百代が苛立ち紛れに放った正拳は風を切り、空気を捻り、大気を唸らせる。だが、それを天は正面から片手で止めた。

 

「フン、『気』が入っていないぞ百代よ。やはり、川神院は制圧前進を修行に取り入れるべきだな」

 

放り捨てる様に百代の腕を投げる天。百代は体が流されるのを防ぐ為に足に力を溜める。結果、体勢を整える前に天に懐に入られ、首元と心臓の右下に当たる脇腹に天の手刀を当てられ硬直した。

瞬間回復という異能を持つ百代と言えど、その技を生み出す『気』の循環に多大な役割を持つ血液の重要器官に致命傷を受ければ無事ではいられない。

 

「……くそっ!」

 

顔を歪め、天に背中を向ける百代。

 

「……何を焦っている」

 

天は珍しく茶化す事もなく真面目な顔で百代を見つめる。

百代は両手に力を込め、拳を作る。

 

「私はただ強い奴と戦いたいだけなのに……何故、ジジィは私を川神院に押し込めるんだ!」

 

ギロリ、とその黒い瞳に炎を宿らせ百代は天を睨み付ける。

 

「判らない、判らない、判らないんだ。武道家は戦う為に強くなるんだ。毎日、毎日役に立つか判らない様な技を磨き、気を練って、型を体に馴染ませる」

 

辛い、辛い苦行である。技とはある限定的な一瞬の攻防の為に想定される技術。それを僅かでも早く、羽毛の一撫でに等しい威力でも高める為に身を削り、魂を磨り減らすまで研鑽しても一生涯使わない可能性すらある。

気を練るのも同様にただ気を高めるだけではない。川神院には炎の様に燃え上がらせ、氷の様に凍結させる特殊な練り方すらある。それすらも必要が無ければ一生涯使わない可能性がある。

型とは人間本来ならば不可能な身体の操作を体に刻み付ける苦行だ。関節は熱を持ち、骨は軋み、筋肉は断裂して激痛を走らせる。百代とて痛みと熱に眠れぬ夜を越えて来た。

それら全てをあるいは持ち腐れさせる鉄心の百代に対する厳しい私闘の禁止。

それは百代の感情を鬱屈させ、精神に陰を落とすには充分であった。

更には彼女の前には常に天が居た。

九鬼揚羽やヒューム・ヘルシングと堂々と渡り合い、南斗最強を謳う男は闘いに明け暮れているのだ。

そして、間違いなく百代の何歩も先を行く強さを持つ男は自信満々に居丈高に、しかし百代が羨ましくなる位に誇り高く気高く信念を突き通しているのだ。

羨ましい、妬ましい、そんな感情が百代の脣をわななかせ、目に涙を浮かばせる。

 

「百代よ、何か勘違いしているようだから言っておいてやる」

 

コホン、と天は一息つき

 

「我は現状に置いて貴様に勝っているとは思ってはいない。まあ、単純に我が貴様より速く動けて手刀の切れ味が圧倒的に、有り得ないほど圧倒的に上なのは確かだが」

 

百代が拳を振り上げ、大和達が止め切れずに天が頭にタンコブを作って涙目になったのは割愛する。

 

「南斗鳳凰拳は帝王の技。その教えを受ける者はこの世に唯一人の暗殺拳。故に敗北はすなわち南斗鳳凰拳がこの世から失われる事を意味する」

 

敗北は死。

その非情な世界に置いての最強の名は、武の総本山である川神院ですら想像出来ない過酷さがある。

修行中の身とは言え、負けられぬ環境にある為に本来なら基礎を固めた後に伝授する秘技すら未熟な内に己のものとせねばならない。それは、精神的に未熟な者や才能足りぬ者には歩めぬ修羅の道。

その道を退かず、媚びず、省みず、宿敵である北斗とすら戦後の日本を守る為に手を組み、力を合わせて世界に日本の武を知らしめたサウザーの生きざまは正に天が目指すべき道。

だからこそ、天は退かぬ、媚びぬ、省みぬ。

しかし、

 

「だが、今は平和の世よ。敗北は死ではなく、次の戦いへの糧である。川神院の教えは良くそれを組み込んでいる」

 

鉄心も百代が憎い訳ではない。ただ、真剣勝負とは常に自ら命の危険と、負かした相手からの負の感情。あるいは怨恨によって命を狙われる危険性を伴って一生まとわりついてくる。

唯一の血の繋がった肉親である孫娘が、その意味を知り覚悟を持ってくれる時期まで手元に置いて見守りたい。そんな、いじましい親心を天は誰よりも愛深き師より受けた教えにより知っていた。

だからこそ、鉄心は百代の横に天を置いたのだろう。幼くして帝王の道を歩む事を決意した男の姿を百代に見て貰いたいが故に。

百代の拳に天は自分の拳を重ねる。

 

「我は切り裂く拳を極める。時代錯誤と言われようと傲慢と揶揄されようと我が歩く道は既に我が魂が定めた道(ゆめ)よ。百代よ、貴様の拳は我と競って歩む修羅の道(ゆめ)か?」

 

ギュッ、と百代は重ねられた拳を強く握る。

記憶すら定まらぬ幼き頃に夢見た祖父の拳。

それは、真っ直ぐに、この世全てのものに真っ直ぐに差し伸べられた意思を貫く、大きく美しく真っ直ぐな拳、正拳であった。

自らの中だけにあるその偶像を大切に胸にしまいこみ、百代は天に

 

「ああ、そうだな。私はまだお前に私の道(ゆめ)を見せていないんだからな」 

 

恥ずかし気にはにかみながら、花が咲くように朗らかに微笑むのだった。

それは、とても美しく可憐な笑みだった。

 

「う、うむ。何だ、我も揚羽先輩を初め勝てぬ相手も多い。貴様も我に続いて精進するがよい、フハハハハ!」

 

「ハッハ、そうだな。お前相手なら手加減も必要ないからな。すぐにお前より強くなってジジィに武者修行を認めさせてやるさ!」

 

豪快に笑いあう二人だが、普段にはない照れがある雰囲気に小雪が頬を膨らませて目を細くして睨みつける。

 

「ふーん、ふーん。百ちゃんも敵だね、あれは敵だね。いいもん、ボクだって強くなってやるんだからっ!」

 

剣呑な空気をかもし出しながは、シュッ、シュッと空気を切り裂く素振りをする小雪に京が同属的なシンパシーを感じたとか何とか。

 

そして、昼食タイムが終わり午後の競技が始まったそこには

 

「ハッハッハ、どけどけー!私に足を止めさせるなよー!!」

 

元気に他の競技者を吹き飛ばす百代の姿が!

 

「お、お姉様が壊れた……」

 

「何てこった、何処ぞの帝王みたいになってやがる……」

 

風見ファミリーがじっ、と視線を送る先には額に一筋の汗をかく帝王の姿が!

 

「……あれが奴の本性(しゅら)か。ふふふ、見事な制圧前進よ。我は恐るべき敵を目覚めさせてしまったのかも知れぬな」

 

「天がやっちまった自覚があるんで、姉さんを止めるのは天の役割に決定しよう。賛成の人は手を挙げてー」

 

「はーい(風間ファミリー+小雪)」

 

「待てい!多数決はイジメの元になりますよ(根拠はない)。というか、小雪よ。貴様も我を裏切るか!」

 

「知らないもーん。天の味方になった覚えはないもーん」

 

 

「おのれ、我の右腕と頼んでいた者に反逆されるとは……帝王不覚!」

 

ガクリ、と大地に膝をつき歯軋りをする天の背景では全てを薙ぎ倒し、ゴールテープを切る百代の姿があるのだった。

 

「ワハハハ、私の道を阻むものは無い!」

 

その日、赤組は百代の暴走行為によりマイナス一万点を賜(たまわ)り、二百一点対マイナス九千六百点という歴史的大差によって敗北した。

ちなみに天も赤組で、閉会式終了後に砂地のグラウンドにて百代と共に正座させられていた。

 

「なあ、天。私達は何処で間違ったんだろうな」

 

「それは我にも計れぬ天の意志よ」

 

「そっか……足痛いな」

 

「うむ、気を使うと反省にならぬからな」

 

夕暮れにグラウンドで並んで正座する二人の後ろ姿は、秋の終わりを感じさせる侘しさであった。

 

 

 

「師匠、私に南斗の真髄を教えて下さい!」

 

「おお、あの天真爛漫、傍若無人、制圧前進の小雪が綺麗な土下座までして……」

 

「恋敵(ライバル)を蹴り飛ばせる位に、ボク強くなりたいんだ!」

 

その日、ネット掲示板にて『弟子が南斗の奥義を恋愛の武器にしか見ていない』というスレが立ったとか何とか……南斗の星は涙に濡れる瞳の様に夜空で明るく瞬(またた)いていた。




川神百代の暴走が解禁されました。
川神院全体のストレスが天元突破しそうです。
登場人物紹介とか需要あるのかなぁ。
お気に入りが50前後から一気に300越えてびっくらこきました。
アニメ効果って凄いなぁ。

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