真剣で帝王に恋しなさい(イチゴ味)   作:yua

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05帝王入学

時は流れ天と百代は中学生へと進学していた。

義務教育より武者修行だろう、と頭悪い発言をする百代を鉄心は

 

「強さへの求道にはやる気持ちは判るが、お主の横に居る奴に勝てる様になってからじゃな」

 

百代が横を見ると瞳孔が小さくなった三白眼で、口だけ大きく開いて笑う天の顔があった。

ウザいので目潰しした百代を誰も攻められまい。

 

新しい環境では何事も新鮮な気持ちで挑めるものだ。百代も新たな気持ちで川神院を出たのだが、

 

「なあ、天」

 

「何だ百代」

 

百代は白のセーラー服に黒いスカーフを巻いたシンプルながら洗練されたデザインの制服を着ている。最近、とみに体も成長し髪も伸ばした百代は女性的な体型になってきた事もあり、美少女と言った単語そのままに当てはまる。

対して天は元々高い背に筋肉が盛り上がり、顔つきも更に線が濃くなった衿詰めの学ラン姿である。

さながら、百代はマガジンの爽やかスポーツヒロイン。天は粗いGペンで描かれた熱血ど根性バトルのボス役と言った所か。

 

「年齢詐称してないんだよな」

 

「この前、ケーキに十二本ロウソクを立てたばかりではないか」

 

「そうなんだよな……」

 

新たな学生生活に不安しか湧かない百代であった。

 

そして、中学の入学式からしてその不安は的中するのだった。

 

「フハハハハハ、我、降臨である!」

 

天ではなく、額にバッテン印の傷がある美少女が高笑いしていた。

 

「フハハ……」

 

「よし、混乱するから黙れ」

 

対抗意識全開で高笑いしようとした天を百代の正拳が襲う!

ガッシ、ボカ。

帝王は頭にたんこぶをこさえて、悔しげに歯軋りをしている。

 

「新入生諸君よ、歓迎しよう。我は九鬼(くき)揚羽(あげは)、二年生である!

本来なら生徒会長が挨拶をすべきであるが……」

 

「揚羽さんの方が皆、喜ぶでしょう?」

 

「と、推薦されてしまっては断る術も無い。わずか一年だが人生の先達として君達に忠言しよう」

 

マイクを手放し、揚羽は一際深く大きく息を吸い込み真っ直ぐと新入生達を見据える。

 

「人生とは戦場である!」

 

爆音。そんな比喩がそのまま当てはまる声の大きさ、そして

 

「勝ってこそ得るものは多く、負ければ取り分は少ない!貧すれば鈍する、富めば更に高見を目指せる!新入生諸君、勝てよ何事にも勝て!さすれば君達の学生生活は豊かに美しく華々しく、楽しいものとなるだろう!」

 

体育館全てに響き渡る演説をし、揚羽はマイクを再び取る。

 

「負けていいのは購買の限定プリンだけである。あれは値段が高いが美味である。早い者勝ちなので勝ち取るのは難しいがな」

 

精一杯のジョークであったのだろう。しかし、事前の演説が強烈過ぎて体育館の中は時間が止まった様に空気が凍っている。

その空気に壇上で赤面し、拳を握りしめて体を震わせる揚羽。

 

「小十郎!!」

 

「はい、揚羽様ぁ~!」

 

舞台袖から飛び出して来る髪が全て跳ね上がり、ウニの様になっているトゲトゲ頭の少年に

 

「滑ったぞ、馬鹿者がーー!」

 

「申し訳ありません、揚羽様ぁ!たわらばぁ!」

 

罵声と共に揚羽の拳が突き刺さり、少年は面白い様に吹き飛ぶのだった。

 

「……なかなか面白い御仁だな」

 

「フハハハハハ、良き余興である。だが、足りんまだ足りんぞ。この帝王をもっと楽しませ……」

 

「うるさい」

 

先程の少年の様に愉快な錐揉み回転で吹き飛ぶ天。

舞台と客席から吹き飛ぶ二人は空中で交差し、

 

(貴殿は……)

 

(貴様は……)

 

『何処か似ている』

 

と、妙なシンパシーを感じつつ反対側に吹っ飛んでいくのだった。

 

これが後に言う、絶対的一強だった九鬼揚羽の中学時代が後の武神・川神百代と、聖帝・南斗天の介入による三國志風三つ巴世紀末的戦国時代の幕開けであった……。

 

「嘘……だろう」

 

「フハハハハハ、まあまあだな」

 

百代と天が成績表を手に対照的な表情をしていた。

勝っていたと思っていたら実は負けていたと言う様な驚愕の表情の百代と、自信満々に成績表をかざす天。

 

「そんな馬鹿な、私並みに修行漬けのはずの天が何で……」

 

ガックリと両手を床につけて落ち込む百代。

 

「お師さんに一から教えて頂いた勉学の種を枯らすのは我の信条に反するからな。授業中に寝たりはせん。川神院では勉強はしていないがな」

 

努力家の癖に天才肌の帝王である。ちなみに250人中89位と決して高い成績ではなかったが、百代のぶっちぎり最下位よりはマシだ。

 

「大丈夫かいな百代は」

 

「武者修行に行けない鬱憤を川神院での修行で晴らしていたからネ。天は師匠が良かったヨ」

 

「ベンキョーなんか役に立たないだろうになぁ」

 

鉄心とルーは自身も教育者である為に百代の先行きを心配しているが、釈迦堂はアクビをして気楽に寝転んでいる。

 

「フハハハハハ、我、降臨!」

 

と、そこへ仁王立ちした額にバッテン印の傷をつけた少女が現れた。

 

「チッ!」

 

明らかに不機嫌になって舌打ちする天。

 

「むっ、百代は赤点か。天は可もなく不可もなく。フハハハハハ、勉強も武も我の圧勝であるな!」

 

ご機嫌に高笑いをする九鬼揚羽の横には金髪執事が然り気無く立っている。

 

「ふん赤子が低レベルな争いをして一喜一憂するとは、片腹痛い光景だな」

 

ヒューム・ヘルシング。

川神鉄心と共に世界最強を二分する無敵執事である。

 

「ほう、ヘルシング殿は我を赤子と言うか」

 

低いビートのBGMをバックに仁王立ちに入る天。

 

「噛みつくな狂犬」

 

ズドン、と脇腹に一撃を入れられて声も出さずに地に伏した。

 

「お、おう。川神百代よ、南斗天が白目剥いているが大丈夫か?」

 

人生これ豪快がウリの揚羽もドン引きの早業に百代は鬱陶しそうな顔で

 

「こいつが高笑いを始めたら私じゃ止められなくなりますけどいいですかね?」

 

「は、まあ?良いのではないか?」

 

じゃあ、と天の頭を軽く叩く百代。

 

「むう、百代よ。最近、拳に殺意が乗りすぎではないか?精神修行に座禅を組むか我と制圧前進しようか?」

 

「座禅と制圧前進がどう繋がってるのか良く判らんが、揚羽先輩からキャラ被りの許可が出たから笑っていいぞ」

 

百代がそう言った瞬間、全てのしがらみから解き放たれた様に天は無邪気に笑った。

 

「フハハハハハ、先輩の顔を立てて一人称はともかく高笑いは我慢していたが許すというなら遠慮は要らんな!」

 

壮大な聖帝のテーマと共に輝かしいばかりに充実した闘気を体中から放ち、仁王立ちになる天。

 

「さあ、揚羽先輩にヘルシング殿。我に敗北を刻んでみせよっ!」

 

「お、おう。行くぞ、南斗天よ!」

 

「何だこの茶番は……」

 

会心の悪役笑顔を浮かべ、最速の踏み込みと全てを切り裂く手刀で斬り込んでいく天。

大きな構えから人間離れした一撃を繰り出す揚羽とあらゆるモノを引き裂く足技を蹴り出す三人の闘いは数時間に及ぶのだった。

 

 

「ふふふ、南斗の道は潰えたか……」

 

数時間後、そこには力尽きた天の姿が!

 

「何で満足気なんだこやつは」

 

「間違いなくサウザーの弟子だな」

 

「師匠からしてこんなんか」

 

揚羽、ヒューム、百代の呆れた視線を受けながらやり遂げた男の顔で目をつぶる天であった。




中学時代を詳しく描写するかは思案中。
描くとしたら、大暮維人先生の天上天下みたいになるんじゃないかな(適当)

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