きらりが居ない日、私は考え事をするようになった。
コントローラーには、あまり手が伸びなくなったから。
今までは、単純にやってて楽しいのと、何より褒めてもらえたから。
だから、やっていたのだけれど。
最近は、褒められても、あまり嬉しくなくなってしまった。
ただ、やってて楽しいことに変わりはないので、それでもたまにボタンを押している。
考え事といっても、その実、ただのくだらない堂々巡りだ。
私は、頑張ることをやめた。
頑張っても、報われなかったからだ。
だから、頑張る理由が無いし、理由がないから、頑張らない。
頑張らないから、何もしない。
それでいい。
そう思う度に、きらりの感触を思い出す。
「それでも、頑張ったよ」。
きらりは確かにそう言った。
嬉しかった。
やっと報われたような気がした。
でも。
ならなんで、あの時に報われなかったんだろう。
なんで、あの時に褒められなかったんだろう。
私が本当に褒めて欲しかったのは、あの時だったのに。
報われなかったから頑張るのをやめたのに、きらりはそれを報わせた。
ダメだったから頑張るのをやめたのに、きらりはそれをダメじゃないと言った。
でも。
それで私がまた頑張ったら。
きらりはお母さんと同じようになってしまうかもしれない。
頑張りの矛先が自分ではないから、きらりは認めてくれただけで。
きらりのために頑張ったら、きらりは私を傷つけるかもしれない。
でも。
私は知ってしまった。
人に頭を撫でられる心地よさを。
人に包まれて眠る安心感を。
人に自分の頑張りを認めてもらえる、嬉しさを。
また、褒めて欲しい。
また、撫でて欲しい。
また、包んで欲しい。
でも。
そのためには、頑張らないといけない。
きらりのために、頑張らないといけない。
でも。
でも。
でも。
そうやって、結局わけが分からなくなって。
今日も、鳴らないインターホンに耳を澄ます。
「……あれ」
ふと、綺麗に整頓されたテーブルの上を見る。
そこには、フリルのあしらわれた可愛らしいバッグが置かれていた。
「忘れ物、かな。」
呟きながら、なんとなく触ってみようとして。
しかし、うまく掴めず、横に倒してしまった。
その拍子に、バッグから何かが飛び出す。
手に取って見てみると、それは一枚の、無地のDVDだった。
ケースには日付と共に、「オーディション・振り付け」と書かれていた。
オーディション。
振り付け。
それはどちらも、あるものを連想させる。
アイドル。
テレビの中やステージの上で、歌って踊る人気者。
それは、アイドル戦国時代と呼ばれる現在において、そう珍しいものではない。
少し賑やかな街を歩いているだけで、簡単にその目で見ることが出来る。
そんなアイドルの卵であるアイドル候補生は、最早言うまでもないだろう。
「きらりがアイドル、かぁ……。」
確かにきらりには、アイドルはぴったりだと思う。
優しいし、可愛いし、フリフリな服だって似合いそうだ。……というか、私服がフリフリだ。
「……がんばれ、きらり。」
アイドルとして売れるようになれば、きっと今のように身の回りの世話をしてくれることも少なくなる。
でも、せめてもの恩返しとして。私はきらりを応援することにした。