その日は、インターホンの音で目が覚めた。
握りしめたままのコントローラーから、携帯へ手を伸ばす。
「……まだ、昼……。」
完全に昼夜逆転の生活を送っている私にとって、真夜中に叩き起こされたような気分だ。
このまま二度寝もとい不貞寝を決め込もうかとも思ったが、そういえば某大手オンライン通販サイトでグッズをポチったんだった、と思い出す。
画面を開いたままの携帯を操作し、配達状況を確認する。
確かに、そろそろ着く頃だ。
しょうがない。受け取るだけ受け取って、すぐ寝てしまおう。
床に転がっている財布を無造作に拾い上げ、覚束ない足取りで玄関へと向かう。
「はいはい、ご苦労様。」
と、いつもの台詞を呟きつつドアを開けると。
「はじめましてー☆隣に引っ越してきた、諸星きらりでっす☆」
巨人が居た。
比喩なんかじゃなく。
だって顎の下見えるし。むしろ顎の下しか見えないし。
「……にょわ?」
にょわ?
何だかよく分からない単語を呟きながら、キョロキョロと辺りを見渡している。
「……お留守?」
「いや居るから!」
しまった。つい反応を。
このまま放っておけば難を逃れられたかもしれないのに。
「にょわ?」
またそれか。
私の大声に気付いた巨人が、こちらに目を向ける。
「にょわっ!?」
またそれか……少しイントネーションが違う?
「に……にょわーーーーーーっ☆☆☆☆☆☆☆」
目と目が合う瞬間、気付いた。
好きだということではなく、己に今まさに降りかかっている危機に。
危険だ。
彼女は、危険だ。
即座に踵を返し、走りだす。
しかし、ニート生活でだらけきった筋肉が、そこまで俊敏性に溢れている筈がなく。
また同時に、139cmの私が、180cmはゆうに超えているだろう巨人に勝てる筈もなく。
「にょわー☆ かわいいにぃ! かっわいいにぃ! きゅんきゅんしちゃうにぃ☆」
「ちょ、やめ、洒落になってない! そのホールド力は洒落になってないから! 潰され……!」
私は呆気無く捕まってしまった。
ちゃっかり我が家に上がり込んでいる上にご丁寧に靴まできちんと揃えて脱いでいる。
あの一瞬でどうやってやったんだこの巨人。
「ぎゅーってしちゃうにぃ☆ ぎゅーっ☆」
「えっもう十分過ぎるほどにガッチリと……まだ強くなるの!? 待て待て! ストップ! ストップだって!」
必死に解放を訴えながら、床をバンバンと叩く。
しかし、巨人はその大きな瞳に大きな星を宿らせたまま、私を離そうとしない。
「あっ、今変な音した、確実に変な音したよ!? ほらもう離して!?
ちょっと! ……お願いだからぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
これが、私の一番の親友。
諸星きらりとの出会いだった。