説明を始めてから数十分後、ようやくこの場にいた全員が納得してくれた。
「ったく、なんで俺が誤解を解かなくちゃいけねーんだよ……」
「た、小鳥遊君、本当にごめんね」
俺がブツブツ言っていると神崎が近づいて来て、頭を下げて謝ってきた。
「いーよ、別に。もう済んだことなんだし」
「で、でも……」
「それ以上言ったら怒るぞ?」
少し睨み付けて言うと、サッと顔を青くし、ものすごい勢いで首を縦に振った。
そんなふうに雑談をしていると、神崎の後ろに1人の女子がいた。
彼女はニッと笑うと、神崎の腰に手を当てて、そのままくすぐった。
「え、ちょっ!? 逢歌やめっ、あははははっ!」
「さっきの礼や! ありがたく受け取りぃ!」
「こ、こんなお礼いらないからっ! 根にもってるなら謝るからっ! やめてぇぇぇぇっ!」
「えーっと……」
自分はこの場から去ってもいいんだろうか。
そんなことを思っていると、礼(?)をし終わったのか、さっきの女子がこっちに来た。
「自己紹介が遅れたなぁ。ウチは
「あ、ああ、よろしく……」
「それにしても……」
彼女、清海は挨拶が終わると、俺の顔を凝視してきた。
なんだと思いながらも視線をたどってみると顔だけでなく、全身をまじまじと見ていた。
それに合わせて体を見てみるが、おかしなところなど1つもない。
どこかおかしいか、そう言おうとした時、いきなり清海に抱きつかれた。
「な!?」
『いやああああああああっ!!』
「ちょっと逢歌!? 何してるのよ!」
皆が一斉に騒ぎ出し、1人は清海に向かって離れるように叫んだり、またある1人は両手を床について落ち込んでいたり、またある1人はダバダバと鼻血を出していたりしていた。
………つーか鼻血出している人、お前は変態か。
離れようと試みてみるがかなり強く抱きついているのかびくともせず、なす術がなかった。
「ちょっと逢歌! いい加減にしなさーーーーーいっ!!」
そんな時、神崎が無理やり俺達を離し、肩で息をしながらも再び清海が俺に抱きついてこないよう、きっちりとガードをしていた。
「何や実乃里、邪魔せぇへんでくれる?」
「普通は邪魔するわよ! 逢歌、小鳥遊君に何抱きついてるのよ!」
「抱きつきたかった、それだけや」
「アンタねぇ……」
神崎は拳を振るわせながらも、殴らないように意識を保ちながら、清海の方をしっかり見ていた。
清海はそんな神崎を見ても余裕の笑顔のままで、今にも挑発しそうな顔をしていた。
この場にいる全員が見守る中、信じられない人物が現れた。
その人物は面白いことが大好きで、さっきもニヤニヤしながら俺を助けようともしなかった。
「はいはい、喧嘩はやめようね。2人共、かわいい顔が台無しだよ?」
それは、俺の親友の霧谷煉馬だった。
「あなた、小鳥遊君の友達の……」
「確か霧谷煉馬、やったな。なんか用か?」
「何だってもちろん、2人を止めに来たんだよ。俺の親友が困ってるし」
煉馬がそう言うと、2人は今気づいたかのようにはっとして俺の方を見た。
そして俺の顔を見た瞬間、2人は同時に謝った。
「小鳥遊君、ごめんなさい……」
「悪かったな。困らせる気はなかったんやけど」
「あ、いや、気にするな」
俺がそう言うと2人はもう1度謝り、そのままどこかに行ってしまった。
そんな行動を疑問に思いながらも、煉馬にお礼をしようとした。
「煉馬、ありが……あれ?」
しかしすでに煉馬の姿はなく、いるのはさっきのやり取りを見ていた野次馬だけだった。
☆
「……やっと見つけたで」
「あれ、もしかして俺のことを探してたの? 告白しにでも来た?」
「悪いけど、こっちは真剣やねん」
ここは屋上、風が吹いて少し肌寒い場所に、霧谷煉馬と清海逢歌はいた。
実乃里と逢歌は教室から去った後、授業前にそれぞれやることがあるからと言って別行動をしていた。
その時逢歌は煉馬に聞きたいことがあり、ここまで追ってきたのだ。
「それで、話って?」
「まどろっこしいのは嫌いやからな、単刀直入に言わせてもらうで」
逢歌はそう言うと、1度深呼吸をして煉馬に聞いた。
「あんた、実乃里のことが好きなんか?」
煉馬はその質問を予想していたのか、驚いたりすることはなかった。
しかしそれは、煉馬の持っている感情とは違っていた。
煉馬は本当のことを言いたくなくて誤魔化そうとしたが、逢歌の瞳を見て無理だと悟った。
だから煉馬は腹をくくって逢歌に本当のことを言った。
「俺が好きなのは……」
この話をしている時、、2人は真剣だった。だからこの時、気づけなかったのだ。
2人以外にもう1人、人物がいたことを。
この話が、その人物に伝わってしまう危険性があったことを。
だけどそれに気づくはずもなく、煉馬は言った、言ってしまった。
「――――俺が好きなのは、透だよ」
☆
誰もいなくなった屋上でただ1人、2人に気づかれずにこっそりいた人物は、ブルブルと震えていた。
「やっぱり、そう、だったんだ……」
その人物は具合が悪くなったと言って保健室で休み、さっきの出来事を整理しようと思い、ゆっくりと立ち上がった。
風で舞っている、ウェーブのかかった桃色の髪をおさえながら。