あの日から3日後の金曜日の放課後、俺は昇降口で靴に履き替えていた。
皆が帰った後に1人で帰る、それがいつもの日常で、今日もその通りになるはずだった。
――――校門を見るまでは。
校門のところにはあの日以来、全く話をしていない神崎実乃里がいた。
彼女はまるで誰かを待っているかのようにソワソワしていて、暇をもてあそんでいた。
(俺を待ってるんじゃないだろうな…?)
1つは帰るため、もう1つは確認をするために、校門の前を通った。
自分を待っていたわけではない、そう思って安堵した瞬間、
「おっと、足が滑っちゃった」
わざとらしいセリフと声と共に、目の前に彼女が現れた。
「……何か用か?」
「あら、せっかく人が遅くまで待っててあげたのに、その言い方はないんじゃない?」
俺は待っててくれなんて一言も頼んでない、そう言おうとした時、彼女が目の前に何かを差し出した。
よく見ると、それは駅前にあるケーキ屋の無料チケットだった。
「それがどうした」
「明日の土曜日、一緒に行きましょ。あ、言っておくけど、『他の人を誘え』っていうのは受け付けないから」
……やはりばれていたか。
だがまぁ無料ならいいかと思い、誘いを承諾し、細かいことを決めて家に帰った。
翌日、俺は決められた時間の5分前に着くようにして、家を出た。
そして約束の時間に着いたのは考えていた時間、つまりちょうど5分前だった。
辺りを見渡してみるが、彼女らしき人物はいなく、仕方ないと思って待っている間音楽を聞こうと思った時に、急に目の前が暗くなった。
疑問に思って顔を上げると、ギャル系の格好をしている女性が3人いた。
「……なんでしょうか?」
「やだぁ~~~っ、ホントにかっこい~~~♡」
「ねぇ君、今から一緒に遊び行かない?」
またか、めんどくさいな……。いつも通り適当に追っ払うか。
そして追っ払うためにお決まりの言葉を口にしようとした、その時だった。
「ちょっと! 彼から、透から離れてくださいっっ!!」
その声を聞いた時、俺は反射的にその方向を振り向いていた。
焦りと怒りが混ざっているが、どこかで聞いたことがある声。
見た目はすらりとした足、大きくて穢れを知らない瞳、ウェーブのかかった桃色の髪で、さっきの声を出したとは思えないほどの綺麗な人。
俺の通っている学校のマドンナ、神崎実乃里がそこにいた。
「神崎、お前……」
俺はぼそりと呟いた。しかし怒っていて聞こえなかったのか、ずんずんと間に割って入る。
「なぁに? アンタ」
「この人は私の彼氏です! 確かにカッコイイけどナンパしないでください!」
そう言うと俺の手を掴んでその場から離れる。
いきなりのことに思考が停止していたが、あわてて手を振り払った。
そして顔を上げた瞬間、彼女はいきなりとんでもないないことをしてきた。
――――いきなり頬にキスをしてきたのだ。
「……は、早くいこっ!」
そして再び颯爽とこの場から消え去った。
(いやだから、照れるなら人前でこんなことやるなって)
俺はばれないようにこっそりため息をついて、彼女の後を追った。
それと同時に、俺と彼女のデートが始まったのだった。