「小鳥遊君……」
「透様……」
あの後ずっと小鳥遊君のことを呼んでいたが、目を開ける気配が全くなかった。
なので小鳥遊君を保健室に運び、私と宮野さんと小暮さんの3人で様子を見ながら小鳥遊君のお父さんのことについて話すことになった。
沈んでいる私達を見て話しずらそうにしながら、小暮さんが咳払いをした。
「あー……とりあえず、話を進めるぞ」
「あ、はい。よろしくお願いします」
私が慌ててそう言うと、宮野さんが一呼吸してから話し始めた。
「これはお母様から聞いた話なのですが……透様のお父様は、とても素晴らしい人だったそうです。明るい上に優しくて、どんなことも簡単にこなして……」
「だが、逆にそれが一部の人に疑問を持たせたんだ。『欠点がないというのが怪しすぎる』と」
そこまで言われて、私はなるほどと思った。
確かになんでもできるなんて凄いこと。だけど、人間には必ず欠点と呼べることはあるはずだ。
でも、小鳥遊君のお父さんにはそれがなかった。怪しむ人は怪しむだろう。
私がコクリと頷くと、それに応えるようにして小暮さんも頷いた。
「それで『怪しくないと必ず証明して見せる』と言った人が現れたんだ」
「それが、私のお父様とお母様だったのです。お父様とお母様は夜、透様のお父様のことをつけたのです。そしたら……」
私は宮野さんが言葉を区切ったことに疑問を持って首を傾げた。
そんな宮野さんの言葉を続けるようにして、小暮さんが口を開いた。
「――――小さい子供を誘拐をしていたそうだ。そして子供を引き換えに、大量の札束を受け取っていたらしい」
「………え……ゆう、かい?」
私はそれっきり、口が塞がらなくなってしまった。
だって、信じたくなかった。大好きな小鳥遊君のお父さんが、そんなことをしていたなんて。
そんな私の様子に気づいたのか、小暮さんが顔を歪ませながらも言葉を紡いだ。
「2人は止めるように言ったんだ。でも小鳥遊透の父親は止めないと言った」
「そしてその場にたまたま居合わせた彼のお父様がその話を聞き、止めるかわりに資金を払うと約束したのです」
「そして小鳥遊家はその資金を使って、翌日に遊園地へと行った。そこであの事件が起きたんだ」
「観覧車、墜落事件……」
今度こそ、私は言葉を失った。
私は小鳥遊君が目を覚ました時、いつも通りに接することができるのだろうか。
もしかしたら、小鳥遊君を傷つけてしまうのではないか――。
するとその瞬間、小鳥遊君が呻き声をあげた。
それを聞いて私達は一斉に小鳥遊君の方を向く。
だけどそこにいた小鳥遊君は、目を何度も瞬きさせながら私達を見ていた。その瞳を見て、私は嫌な予感しかしなかった。
あぁ、どうして神様はこんなにも私達に悪戯を仕掛けるのだろう。
どうして小鳥遊君が、こんな目にあわなくてはいけないの?
無意識に、私の目から涙が溢れ落ちた。
「えっと……ごめんね。君達は、一体誰なのかな?」