「見つけたぞ、宮野真帆!」
「っ、この声は…!」
私達が対峙して睨みあっていた時、不意に彼女を呼ぶ声が聞こえてきた。
それに気づいた宮野さんは逃げようとするが、その前に誰かが宮野さんに抱きついた。
「ひゃああああああああっ!! やめてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「ぐふぉっ!?」
宮野さんは突然抱きつかれたことに驚いたからなのか、抱きつかれるのが嫌だったからなのかは定かではないが、抱きついた人物に平手打ちをした。
平手打ちをされた人は、ベチャッという音をたてて地面に倒れた。
しかしその人は平手打ちを愛の鞭だと思っているのか、どや顔をしながら立ち上がった。
そして、とんでもない言葉をぶちかました。
「ふっ、さすがは俺の婚約者だ。なかなかの平手打ちだな!」
………………………………はい?
『婚約者ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??』
えっ、えっ!? どういうことなの!?
だって、宮野さんは(自称だけど)小鳥遊君の婚約者で、それでこの人は(自称らしいけど)宮野さんの婚約者で……あああ、意味わかんない!
そんな私達をよそに、2人の会話はどんどんヒートアップしていく。
「言ったでしょう!? 私は透様以外と婚約する気はないと!」
「だとしても親が決めたことだ。それは無理だろう!」
「私は、透様とも婚約を結んでいます! それこそ親が決めたことです!」
「いや、俺は別に婚約する気ないんだが……」
「透様、照れなくてもいいのですよ! でも、それはそれで素敵ですわ♪」
「だったら俺も素敵だろう!」
「あなたは黙っててください! そしてそのまま帰ってください!」
………なにこのカオス。
というか小鳥遊君が困ってるよ。今すぐやめてあげて。そして私達に説明して。
そんな私の気持ちが伝わったのか、小鳥遊君が来て説明してくれた。
「俺もよくわからないんだが、俺と宮野の母親同士が婚約の約束を、宮野とあいつ…
「なるほど…。つまり、宮野の両親がそれぞれ違う人と婚約の約束をしちまった、ってことか」
え? 話を聞く限り、それって要するに宮野さん争奪戦だよね? しかも、小鳥遊君と小暮さんの。
あっ、だけど小鳥遊君は婚約する気ないって言ってたし、あの2人の一方通行ってこと?
そう考えていると、痺れを切らしたのか小暮さんが叫んだ。
「何でなんだ宮野真帆! あいつは、小鳥遊透は――ムグッ!?」
「ちょっとこっちに来てくださいな! 透様、すみませんが、明日お会いしましょう!」
「え、あ、ああ……」
宮野さんが小鳥遊君に微笑みながらそう言いながら小暮さんを引きずって校舎に入り、小鳥遊君は突然のことできちんと反応できていなかった。
だけどそんなことよりも、私は宮野さんの真剣な表情が気になって……。
「ごめん、先に帰ってて!」
「へ? ちょっ、実乃里!?」
私は逢歌にそう言って、2人の後を追いかけた。
まさか、あんな事実を知ることになるなんてしらずに――――。
*
私が2人を追いかけていると、今は何も使っていない空き教室へと入っていった。
私は扉に耳を当てて、2人の会話を盗み聞きした。
あれ、なんか犯罪者やってるみたい。絶賛盗聴中?
そんな私の考えをよそに、宮野さんが口を開いた。
『……あなた、何を考えていますの?』
だけどその声はさっきの声よりも低くて……一瞬宮野さんなのかと疑うほどだった。
『うおっ、怖いなぁ、我が婚約者は。もしかして、知らないのか?』
そんな宮野さんとは裏腹に、小暮さんはさっきと変わらず明るい声色だった。
でもそんな小暮さんの声も、どこか冷酷さもあるような気がした。
そんな私の心情に気づかない2人は、どんどん話を進める。
『言ったでしょう!? 透様には他言無用だと! 忘れましたの!?』
『いやぁ、さすがに知ってるかなと思ったんだよ。だってもう高2じゃん?』
『ふざけないでください! この件は、うっかりで済まされないのですよ!?』
『っ、ふざけんなっ!!』
『きゃっ!?』
宮野さんがそう言うと、小暮さんの舌打ちと共にドンという音が響いた。
そして空き教室に、宮野さんの小さい悲鳴と小暮さんの苛ついた声が浸透した。
『何であいつばっかり…! 俺は本当に、お前が好きなのに…!』
『でもっ、私は……ふむっ!?』
小暮さんの
それと同時に、小暮さんが宮野さんに無理矢理キスしたのだと理解した。
私は止めようと思ったが、その後の言葉によってその思考は消えてしまった。
小鳥遊君にとってとても残酷で、信じられない言葉を。
『あいつの、小鳥遊透の父親は、犯罪者なんだぞ!?』
犯罪者
その言葉は、私にとって驚愕の言葉でも、
いきなり誰かが倒れた音が聞こえたと思ったら、その場に小鳥遊君が顔を青くして倒れていた。
「小鳥遊君っ!!」
「…っ、透様!?」
私は慌てて小鳥遊君に駆け寄り、それに気づいた宮野さんも小鳥遊君に駆け寄った。
そしてうるさいと思われるくらい、何度も何度も小鳥遊君の名前を呼んだ。
だけど私と宮野さんがどんなに名前を呼んでも、小鳥遊君が目を覚ますことはなかった――――。