それでもいいという人はどうぞです。
恋って、罪だと私は思う。
だって恋って綺麗で鮮やかで憧れるけど、汚くて醜いものでもあるでしょ?
小鳥遊君、あなたは恋をどう思う?
*
移動中にふと、隣の教室を横目で覗く。
そこには知らない女子と仲良く話している小鳥遊君の姿があった。
「それじゃあ小鳥遊君、また明日ね!」
「あぁ。また明日」
まただ。また、こんな感情が出てくる。
小鳥遊君が他の女子と話している、ただ、それだけのことのはずなのに。
彼女を消してしまいたい、そう思っている自分がいる。
どうして? こんな感情、出たことなんて今まで1度もなかったのに。
気の迷いだ。きっと……ううん、絶対にそう。
気の迷い、それ以外にあるわけないのに……。
どうして、この感情はいつになっても消えないの?
「………あ」
「ん? あ、神崎。久しぶり…で、いいのか?」
「そう、だね……」
さっき言った通り、私が小鳥遊君と、しかも2人きりで会うのは1週間ぶりだった。
そのせいか、私達の間に不穏な空気が流れる。
それに耐えきれなくなった私は、とっさに思いついた話題を口にした。
「そっ、そういえば、小鳥遊君のファンが増えてきてるらしいね! 女子の間ではその話で持ちきり状態なんだよ、今! やっぱりモテるんだね、小鳥遊君!」
私のバカァーーーッ!! 何で墓穴を掘るような話題を出しちゃったのよぉーーーっ!!
心の中で数秒前の自分を恨みつつも、笑顔を絶やさずに聞いた。
すると小鳥遊君は何かが気にくわなかったのか、眉を若干寄せて言った。
「別に……勝手に作ってキャーキャー黄色い声を飛ばしてくる軍団に興味なんてない。つーか鬱陶しい」
「へ、へぇ……」
もしかして、かなりの墓穴を掘ったかもしれない。
小鳥遊君を不機嫌にさせてしまっただけでなく、こっそり小鳥遊君が興味のない&鬱陶しい軍団の一員になってたりする。
あれ、これ話したら幻滅される? それだけは絶対に嫌!
世界中の人に嫌われても、小鳥遊君に嫌われるのは何て言われようともお断りよ!
自分の心と格闘していると、小鳥遊君が声をあげた。その頬は少し赤く染まっている。
「その……ほら、小説とかでよくいるだろ? 逆ハーレムになってる女子。そういう感じのいい子がいるのは知ってる」
え……どう、して? 何で私じゃなくてその子の話をして頬を紅潮させるの?
もしかして、小鳥遊君……その子のことが、好きなの?
私は震える声で相槌をうち、颯爽とその場から去った。
(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!! そんなの絶対に認めない!! 小鳥遊君の彼女になるのも将来結婚して夫婦になるのも全部、私だけの特権なんだから!!)
でも、どうすればいい? どうすれば、小鳥遊君とその子を突き放すことができる?
私はしばらく考えて、1つの考えを実行することにした。
その作戦は自分の手を汚すことになる。
でも、それでも、小鳥遊君が別の人と付き合っているのを見るよりはマシだ。
「ふふっ、私にしては中々の名案ね♪」
小鳥遊君とその子を突き放す方法、それは――
――――その子を、この世から消してしまえばいい。
放課後、私はその子を呼び出した。
その子は私がこれからしようとしていることになど気づいておらず、小鳥遊君と仲良くなれたことに心を弾ませていた。
「それで実乃里ちゃん、どうしたの? 人に聞かれたくない話?」
「うん、そう。ちょっとあなたに頼みたいことがあるんだけど…」
「別にいいよ! あたしにできることなら手伝うよ♪」
「そう? それじゃあ……」
そう言いながら、私は忍ばせていたカッターナイフを見えないように取り出し、ゆっくりと近づいた。
そしてその子とぶつかるくらい近くに来たとき、囁くように小さい声で言った。
「――私のために、消えてほしいの」
そう言った瞬間、私はカッターナイフをその子の腹に深く、食い込ませるように刺した。
「ぇ……実乃里、ちゃん…?」
「その声で私を呼ばないで。聞きたくないし、胸くそ悪いから」
「そ、んな……ゲホッ…」
私がキッパリそう言うと、その子は涙を流しながら血を吐いてその場に崩れ落ちた。
カッターナイフを抜いた時に返り血が飛び、私は思いきり顔をしかめる。
ああ、やだ。こんな子の血なんて浴びたくなかったのに。本当、胸くそ悪い。
一息ついて帰ろうと身を翻すと、そこには驚愕な顔で私を見ている小鳥遊君がいた。
「神崎……お前、何やって……」
(あーあ、見られちゃったか。よりにもよって、小鳥遊君に)
なぜかわからないけど、この時私はかなり落ち着いていた。脳内では小鳥遊君に見られて、どうしようかと悩んでいるのに。
私は驚愕な出来事すぎて言葉を発することができていない小鳥遊君にむかって嘲笑した。
「何でそんなに驚いてるの? そこまで驚くことじゃないでしょ?」
「っ、何言ってんだ!? 人を殺したくせに、何で笑っていられるんだよ!!」
小鳥遊君は両親のことを思い出したのか、顔を歪ませて私に叫ぶ。
私はそんな小鳥遊君を諭すように言葉を紡ぐ。
「その気持ち、よくわかるよ。身内が死んじゃったら、すごく悲しいよね……」
「だったら、どうして! どうして、人を殺したんだよ!?」
「だって、この子は私の身内でも小鳥遊君の身内でもない、赤の他人なんだよ? 死んだって悲しむことなんてないし、私の
もちろん、小鳥遊君でも同じこと。小鳥遊君の人生にこの子は必要ないし、本当なら生きてくる必要すらなかった。脇役でも同じ人生に立てたことを素直に喜んでいればよかったのに……」
そう、この子は人生の脇役だったのに、無理矢理ヒロインになろうとした。
今回はその罰がくらってこの世から消えていった。ただ、それだけのことなんだよ?
なのにどうして小鳥遊君はそんなに顔を歪ませているの? どうしてこの子が消えたことを悲しく思っているの?
まさか本当に、小鳥遊君の心はこの子の物になってしまったの?
「嫌、よ……。そんなの絶対に認めない……認めない!」
「神崎…?」
「小鳥遊君は私の人生の相棒なの! 人生のヒロインは私なの! 絶対にこの子なんなに譲らない! ううん、誰だろうと小鳥遊君は渡さない! 小鳥遊君を奪うヤツは、人生から消してやる!」
そうだ、片っ端から消していけばいい。
そしてこの世の女子を私だけにしてしまえば、小鳥遊君のヒロインは自動的に私になる。
消えろ、消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ!!! 私以外の女子は全員消えてしまえばいい!!!
「渡サナイ……小鳥遊君ノヒロインハ私ダケダ!! ソレ以外ノ人ナンテ許サナイ、絶対ニ!!」
私はそう叫ぶと、血ができるほど強く握っていたカッターナイフを小鳥遊君の腹に刺した。さっきとは比べ物にならないくらい強く、深く。
「っ、神崎…!? ゴホッ……!」
小鳥遊君は必死に耐えていたが、最期は身を私に委ねるようにして倒れた。
そんな小鳥遊君を見て、私はハイライトのない瞳で笑いながら呟いた。
「待っててね、小鳥遊君……。私もすぐに、小鳥遊君と同じ世界に逝くからね……」
私は小鳥遊君の身体を地面に寝かせ、天高く持ち上げたカッターナイフを自分にむけて振り落とした――――。
*
恋は、罪だ。
恋が存在しているから、沢山の人が人生から消えていく。
だけどその1部の人は、安らかに消えていっているんだろう。
だって、現に私が安らかに消えていくことができた。
恋って、罪だけど赤く染まってしまえば鮮やかに咲く花なんだよ?