私こと神崎実乃里は、今ものすごく苛ついています。
なぜって? それは――
「透様ー♪」
「ちょっ、おい、止めろって! 今すぐ離せ!」
「照れないでくださいな♪」
――それは、こんな光景を目の当たりにしているからだ。
*
どうしてこんなことになったのか、それは放課後のことだった。
いつも通り6人で帰るために校門へ向かっていた。
しかし校門まであと500メートルくらいの所に来ると、いきなり小鳥遊君が足を止めた。
そして足を止めたと思ったら、なぜか学校内へとUターンしようとしていた。
私達はそれを呆然と見ていたが、最初に我に戻った霧谷君が慌てて小鳥遊君の肩を掴んだ。
「おい透!? どうしたんだよ!?」
「っ、バカ! 何で名前を叫ぶんだよ!」
「は? 何でt「どいてください!」ぐはっ!!」
あ、と私達が呟くも既に遅し。
校門の所から2人に向かって突進してきた女の子が、霧谷君を弾き飛ばした。
その女の子は霧谷君を心配することも謝罪することもせず、ただ小鳥遊君を見ていた。
小鳥遊君はその女の子から逃げようと腕を引っ張っているがびくともせず、諦めたのか必死に目を逸らしていた。
そんな小鳥遊君の顔を無理矢理自分の方へ向かせ、そのまま顔を近づけ――
――――そのまま、頬にキスをした。
「………はぁっ!!??」
「っ!!」
私は驚いて叫び、小鳥遊君は顔を赤らめてバッと離れた。
そんな小鳥遊君の反応を楽しむかのように、その女の子はニコッと笑う。
「お久しぶりです、透様♪」
言いながらお辞儀をすると、再び小鳥遊君に抱きついた。
それを見た私は自分でもわかるくらい怒っており、その女の子を睨みつけながら叫んだ。
「いい加減にしなさーーーーーいっ!!」
いろんな人の視線を感じたけど、そんなの気にしてられるかぁああああっっ!!
*
「………で、いつまでいるの? そして名前は何て言うの?」
私は不機嫌さを隠さずに、女の子を睨みつけながら言った。
だけどその子はそんな私の反応すら楽しむように微笑みながら見て、さっきのようにお辞儀をして言った。
「私は
………………………はい?
『婚約者ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!???』
この言葉に、その場にいた誰もが絶叫した。
てか、え!? 婚約者!? 小鳥遊君の!?
どういう事!? Please pardon me!!
そんな私達すら眼中に入っていないのか、宮野さんは再び小鳥遊君にベタベタし始めた。
それを頑張って引き離そうと必死に抵抗している小鳥遊君。
うん、状況はもっと詳しく説明してくれないとわからない。
でも、だけど……とりあえず小鳥遊君から離れてくれないかな!? 今すぐに!!
思わず舌打ちしてしまったが、どうやら誰も気づいていなかったようだ。
――――1人を除いて、だけど。
「………今の、何ですか? 感じ悪いですわね」
しかもその1人というのがまさかの宮野さん。うん、非常にやばい状況だね。
そんな私の心情に当然気づくはずもなく。宮野さんはズカズカと私に近づいてきた。
私は宮野さんを睨むことも驚くことも怯むことも逃げることもせず、宮野さんが近づいてくるのをただ見ていた。
宮野さんがこっちを睨みながら立ち止まり、私達は互いの意志をもって対峙する。
「さっきから気になっていたんですけど……あなたは透様の何ですか? 友達? 恋人? 何にしろ、恋人ではなくて友達だと言うのなら、そうやすやすと透様に近づかないでいただけませんか?」
「そう言うあなただって同じでしょ? 同じ学校に通ってるわけでもないのに『婚約者』という立場を利用して小鳥遊君にベタベタと……。小鳥遊君が迷惑なのにすら気づいていないバカな婚約者に言われたくないわよ」
「な……っ! あなただってそうでしょう!? 私達は親公認の仲ですのよ!? いちいち私達の関係に口を挟まないでくださいっ!!」
「私だってそんなこと言われる筋合いないわよ!! あなたが小鳥遊君にベタベタするのが勝手なら、私が口を挟むのも勝手でしょ!?」
お互いに息を整えながら相手をジッと睨みつける。
だけど私は小鳥遊君を譲る気もないし、『婚約者』ということに浮かれて小鳥遊君を我が物にしようとしている宮野さんに負けるなんてもっての他だ。
その考えはどうやら宮野さんに伝わったようで、私をさらに睨みつけてきた。
「……………一応、俺も関係してると思うんだが……」
小鳥遊君が正論を言っていたが、悪いけど無視をしよう。
絶対に、小鳥遊君は渡さない!!
こうして、私と宮野さんの熱い戦いが始まったのでした。