君と歩む世界   作:ゆん

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今回から実乃里sideです!



Chapter2
驚き、一歩前進


私にとって彼は、まるで太陽みたいな人だった。

 

 

1年の頃は大人しく、友達は1人くらいしかいなかった。

 

だけど2年になってからは姿や性格などが一気に豹変し、あっという間に皆の注目の的になった。

 

私も『学園のマドンナ』なんて言われているけど、それは見た目だけ。

口下手で言いたいこともはっきり言えなくて、オマケに嫉妬深いバカな女……それが本当の私。

 

だからこそ、彼に近づけなかった。彼の魅力は、私にはとても眩しすぎて。

 

 

この距離が縮まることなんてない、そう思っていた。

 

 *

 

(喉が渇いたな……)

 

皆と一緒にお昼を食べている時、ふいに喉が渇いた。

 

時間を見てみるとまだ授業が始まるまで時間があったので、自販機で飲み物を買おうと思い、席を立った。

 

 

 

「えっと、確かこっちで合ってたはず……」

 

私は小声でブツブツ言いながら、自販機を目指していた。

 

そして突き当たりを右に曲がろうとした、その時だった。

 

 ドガッ!

 

辺りに誰かが殴られた音が響いたので壁からこっそり見てみると、そこには前日に私が振った先輩が3人と、仰向けに倒れている小鳥遊透君がいた。

 

(え!? なんでこんな状況になってるの!?)

 

私はわけもわからず、息を殺してその話を聞いていた。

 

「お前がいるから彼女に振られたんだ! お前さえいなければ、俺達は彼女と付き合えて、あんなこともできて……それなのにっ!!」

 

(はあっ!!??)

 

私は先輩の言った言葉にただ驚いていた。

 

確かに私は先輩を振った時に「好きな人がいるんで」とは言った。だけどそれが小鳥遊君だとは一言も言っていない。いや、合ってはいるが。

 

(なんでそう言うことを言うのよ! もしそれで小鳥遊君に嫌われちゃったらどうしてくれるの!? これだからデリカシーのない人は嫌いなのよ! 小鳥遊君がデリカシーなかったら仕方ないで見逃すけど!)

 

私は言っていることが矛盾しているとわかりつつも、どうしても文句を言わないと気が済まなかった。

 

すると先輩はさらに小鳥遊君に殴りかかろうとしていた。

 

「ちょっ――」

 

止めなさい、と繋ごうとした言葉は、次の状況によって止まった。

 

 

―――だって、小鳥遊君が先輩の腹に蹴りを入れていたんだから。

 

 

残りの2人が呆然としている間に、小鳥遊君は走り去ってしまった。

 

私は小鳥遊君を追いかけようとしたが、途中で立ち止まって踵を返した。

だって、まだやるべきことがあるから。

 

私は、未だに呆然としている先輩達の前に腕を組んで仁王立ちをした。

 

「え、実乃里ちゃん?」

 

私の登場にさらに頭が混乱している先輩達を心の中でバカにしつつ、どんどん言葉を紡いでいった。

 

「この前、確かに私は『好きな人がいる』と言って先輩達を振りました。それは事実です。だけど私、好きな人が彼だなんて一言も言っていませんよ? どうして勝手に決めつけて暴力をするんですか? 私、そういう人嫌いですし、デリカシーがない人はもっと嫌いです。つまり、私に2度と近づかないでください」

 

私は呆然としている先輩達を放って、小鳥遊君を探しに行った。

手には小鳥遊君が買った飲み物を持って。

 

 

 

小鳥遊君を見つけようとしばらく校内をうろついていたが、どうしても見つけることができずにいた。

 

(ああもう、小鳥遊君はどこにいるのよ! 一体どこに……)

 

そこまで考えて、ふとこの前のことを思い出した。

 

頼まれた仕事をやり終えて帰ろうとした時、空き教室の扉が開いていることに気づいた。

 

音をたてずに中を覗いて見ると、そこには窓の縁に腕を乗せて風に当たっている小鳥遊君がいた。

 

その時の彼の顔はどこか寂しげで、どうしても頭から離れなくなってしまった。

 

(そうだ、たとえ偶然だとしても、もしかしたら……)

 

そう思い、前に小鳥遊君がいた空き教室の扉を開けると、そこには壁に寄りかかりながらこっちを見ている小鳥遊君がいた。

 

 

――――見つけた。

 

 

私は深呼吸をして平常心を保ちつつ、ゆっくりと小鳥遊君に近づいた。

 

「……何の用だ?」

 

あ、少し声が低い。やっぱり警戒してるのかな?

 

大丈夫、落ち着いて。飲み物を渡したら持ってきたお礼を貰うだけなんだから。

 

「これ、あなたの落とし物でしょ?」

 

「……どうも」

 

私がそう言ってさし出すと、短くお礼を言ってすぐに飲み始めた。

 

私は内心ホッとしつつ、再び深呼吸をして小鳥遊君に話しかけた。

 

「あのさ、拾ってあげたお礼、貰ってもいい?」

 

「言っておくが金欠だから何も買ってやれないぞ」

 

「大丈夫、お金に関しては問題ないから!」

 

やっぱり『女子=高価な物をねだる』って発想になるの!?

 

違うの小鳥遊君! 世界中全ての女子がそういう性格ってわけじゃないの!

少なくとも私はちが――って、心の中で言い訳してても意味無い! 早くお礼を貰わないと!

 

私は真っ赤になっているであろう顔を隠さずに小鳥遊君に近づき、目の前でしゃがんだ。

 

「それじゃあ、貰うね」

 

私はそう言って、小鳥遊君の頬にキスをした。

 

しばらくして私は小鳥遊君から離れ、急いで教室から出ていった。

 

(私、小鳥遊君の頬にキスしちゃったーーーーー!! どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう、今になって恥ずかしくなってきたよーーーーー!! これからどんな顔をすればいいのーーーーー!?)

 

私は走りながら悶え、これからどのような顔をして小鳥遊君に会えばいいか悩んでいた。

 

 

だけど今は、一歩前進したってことに喜んでても、いいよね?

 

 


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