遊戯王GX 凡骨のデュエルアカデミア   作:凡骨の意地

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今回から数話は原作における、十代と翔のタッグデュエルの場面です。まあ大幅に変更されますがね。


第九話:新たな試練

 幽霊寮に入った翌日、城之内はクロノスに叱られた。幽霊寮へ入るのは立派な校則違反、怒られるのは仕方の無いことだった。中でも首謀者の遊戯十代とその弟分、丸藤翔は何かしらの処分を受けると聞いた。

 そして城之内はというと……。

 

「貴様は、社会人としての常識を守れぬようだな。さすがは凡骨、いや、馬の骨だな」

 

「……うるせぇな」

 

「貴様! 瀬人様に向かってその口は何だ!?」

 

「よせ礒野。そいつは藻屑だ、何をいっても無駄なことよ」

 

 城之内は、童実野町にある海馬コーポレーション本社の社長室に呼び出されていた。校則違反だからといってそこまでするかと言いたかったが、オーナーである海馬直々の呼び出しとあればいかないわけにはいかない。しかし、一番大嫌いな海馬に会わされるほど辛いものはなかった。

 海馬は社長室の椅子に座りながら、城之内に挑戦的な視線を投げ掛ける。それを見ただけでぶん殴りたくなるが、自重する。代わりに、嫌みたっぷりな口調で話しかけた。

 

「んで、何で俺を呼び出したんだ?」

 

「おい貴様……!」

 

 海馬の忠実な部下、磯野が城之内の肩を掴むが、海馬が手で制す。するとすすっとすぐに引き下がった。

 

「よせと言うのがわからんか礒野。この馬の骨には敬語が使えるほどの脳がない上に、使われても却って吐き気がするだけだ。ーーー貴様を呼び出したのは他でもない、此度の校則違反についてだ。幽霊寮への侵入は、教師であっても許される行為ではない。そこでだ、貴様を解雇する」

 

「か、解雇だと!?」

 

 確かに違反はした。しかし、解雇は辛い。再び職無しのニートになるのはごめんだ。静香を折角幸せにしてやれると思ったのに……。

 目の前が真っ暗になる。教師人生も、短かったな。

 と、思ったのだが。

 海馬がにやっと笑いながら続ける。

 

「だが、それでは面白くない上に、突然プロのデュエリストを解雇したとなればわが社の評判も悪くなる。そこでだ、貴様にチャンスを与えよう」

 

「ちゃ、チャンスだと? 何をすればいいんだ?」

 

 ほんのわずかに開いた希望の光に食いつくように聞いた。

 

「簡単だ。貴様にはタッグデュエルを行ってもらう。同じく幽霊寮に入ったオシリスレッドの生徒二人とデュエルを行い、見事なデュエルを見せたら放免してやる」

 

「何だ、それだけか」

 

 成る程、タッグデュエルを行って、全力でやれば放免か。相手は適当に決めればすむ話だ。そう思っていたが……海馬が次に話す言葉は城之内を困惑させた。

 

「その生徒たちは勝たねば退学になってしまうがな」

 

「えっ!? 因みに誰なんだ、その生徒たちは……」

 

 城之内が尋ねると海馬はくるっと背を向けて答えた。

 

「遊戯十代と丸藤翔の二人だ。この二人が主犯だと判断されたのでな」

 

「なっ……ちょっと待てよ! 遊戯十代はともかくとして丸藤翔は実力が低い!! 俺と他のやつと組んだとしても負けちまうだろ!?」

 

 遊戯十代単独ならば、そこらのプロに引けを取らない実力を発揮してくれるだろう。だが、その弟分はそこまで実力が高い訳じゃない。城之内と授業でデュエルしたが、特別強いわけではなかった。遊戯十代のパートナーとしては、不適切だ。

 

「せめて、天上院明日香とかの方がいいんじゃねえのか……?」

 

「知らん、そんなことは俺の管轄外だ。そもそも査問委員会で決まったことだ、この俺も覆す気にはなれん」

 

「査問委員会……? 何だそりゃ?」

 

「学校内でなにかトラブルが起こった際、それを解決する組織のことだ。今回の件も査問委員会が手を回してこのデュエルを行うことにした」

 

 成る程な。つまり、どうでもいいのと組んで全力でやって負ければちゃんちゃんと言うわけだ。とりあえず余計なことを言われる前に、帰ってしまおうと、踵を返す。

 

「成る程な。ーーーだったら話を呑むぜ。じゃあな海馬」

 

 城之内はさっさとその要求を飲んで去った。取り合えず本田辺りと組めば、彼らが負けることはないし、城之内もきっと放免だ。ここで面倒な条件でもつけられたら最悪だ、さっさと帰って本田に伝えようかと思ったが。

 

「待て凡骨。最後にひとつ言い忘れたことがある」

 

「何だよ」

 

「貴様のパートナーのことだが、俺が認めるものでなければ許さん。どうせ貴様はデュエリストではないもの、もしくは貴様以下の素人とでも組もうとしているのだろうが、そんなことはお見通しだ。最低でも、プロデュエリストだ。貴様は一週間の謹慎と言う形で、タッグを組む期間を与えてやる。もし組めなければ貴様は解雇だ、いいな?」

 

「なっ、そんなのふざけてるだろ!!」

 

 まあ読まれてるよなとも思いつつ大声で叫ぶ。だが、そんなもの海馬に通用するはずもなく、平坦に返されてしまった。

 

「貴様は今この俺に試されているのだ。パートナーくらい無事に探せ。貴様がパートナーを決めたその瞬間にデュエルアカデミアに報告し、タッグデュエルを開催する。分かったらさっさとここを出ていけ、雑魚を愛する地に落ちた凡骨」

 

 

 

「くっそ……海馬のやつ、ふざけやがって……あいつらを止めさせたいのか……」

 

 海馬コーポレーションを出たあと、壁を蹴って鬱憤を晴らす。けれど全て晴れたわけではなく、イライラは一層募る。海馬がオーナーとなるのはやはり辛い。海馬のいうことをへーこら聞かなくてはならないからだ。しかもあそこまで自分勝手なやつだ、正直参ってしまう。

 さっきの話を要約すると、つまり十代と翔がタッグを組んで城之内とパートナーに挑んでくるのだが、パートナーは最低でもプロデュエリスト、しかも海馬の認めた奴でなければならない。見つけられなければ城之内は解雇、十代たちに勝ってしまったら彼らは退学してしまう。つまり最善の道としては、一週間以内にプロだけど弱い人間を見つけてどうにか勝たせればいいのだ。

 あとは遊戯十代のプレイングを邪魔しないことだ。あいつは相当強い。だから、彼の手を邪魔せずに戦っていけばきっと負けることができる。それは戦っている最中に配慮すればいいことだ。

 

「さぁて……問題は誰をパートナーするかだな」

 

 城之内は知り合いの名前を順番に思い出していく。そこからデュエリストというふるいをかけてみる。

 

(まず、遊戯はダメだ。あいつと組めば間違いなく勝ってしまう。海馬は死んでも手を借りる気はない。羽蛾の野郎は弱いからいいけど、戦績も悪いから海馬から認めてくれるはずもない。それに個人的に嫌だ。ダイナソー竜崎も同じだろうな……。キースももうダメだし……となれば誰が……)

 

 城之内のデュエル友人はとことん切り捨てられいく。ちょうどいい人材がいないのは、城之内のポリシーのせいかもしれない。自分よりも上の実力を持っている人間としか戦わないという、見上げた精神のせいだろう。そのせいで、自分が越してしまった男や、未だに高みに存在する奴しか存在しないのだ。

 もう少し考えてみる。他にも友達はいるはずだ。ええと……ええっと……!!

 

「あ、そうだ!! 獏良だ!! あいつならバトルシティにも出ていたし、海馬も認めてくれるはずだ!! 電話番号は残っているかな……っとあったあった。早速かけてみるか」

 

 ポケットから携帯を取り出して、電話を掛ける。するとすぐに繋がった。

 

「はいもしもし、獏良です」

 

「おっ、獏良か。城之内だけど」

 

「えっ、城之内くん!? はは、スッゴい久しぶりだね……」

 

「まあな、最後にあったのは……卒業式だったな」

 

「違うよ、遊戯くんのデュエルの全国大会の決勝だよ」

 

「そうだったっけ? まあなんにせよ、久しぶりだな」

 

 獏良了。俺の大切な親友の一人だ。かつて千年アイテムの一つ、千年リングに宿る闇の人格に囚われて苦労した人間だが、今は普通の優しい男性として生活をしているようだ。獏良の声も、かつてよりも落ち着いた声になっていて、いい男になったなと感じさせる。デュエルの腕もなかなかで、プロには入っていないとはいえ、バトルシティにも出場していたから海馬も認めないはずがない。

 

「で、何の様なの城之内くん?」

 

「ああ、いや実はさ、頼みがあんだけどよ」

 

「頼みかい?」

 

「うん、実はさ……」

 

 城之内は事情を全て獏良に話した。あいつは真剣に聞いてくれた。時々質問を挟んだりしながらも、全てのことを理解してくれた。

 

「成る程ね……そういうことなのか」

 

「ああ、遊戯とかでもいいんだけどよ、あいつと組んだらそれこそ生徒が退学になっちまう。でもお前なら、変な言い方だけど、俺と同じくらいだから少し手加減してやればきっと勝たせることができると思ったんだ。それで、やってくれるか?」

 

 城之内は返事を待つ。だが、獏良は申し訳なさそうに声をあげた。

 

「うーん……力になってあげたいんだけど、ごめん。無理なんだ」

 

「そりゃどうして?」

 

 理由を聞くと、声のトーンを暗くさせて答えた。まるで城之内に、謝罪するかのように。

 

「僕、デュエルモンスターズ辞めたんだよ」

 

「えっ!? どうしてだよ!?」

 

「確かに楽しいよ。遊戯くんや城之内くんとデュエルするのはとっても楽しかった。でも……社会に出てそれが必要になるとは、思えなかった。城之内くんや遊戯くんなら、社会でもデュエルが通用する職業につけたと思うし、城之内くんは立派に先生をしている。でも僕は違う。僕は、あの闇の人格でデュエルをしていたから、実際に僕は強くない。それに、プロで生き残れるとは思えなかった。だから僕は、必死に勉強して政界に入ったんだ」

 

「えっ、お前今何しているんだ……?」

 

「国会議員だよ。毎日が大変さ」

 

 国会議員、か。いつの間に大きくなりやがって。デュエルモンスターズという呪縛を解いて大きな存在になった。そういえば、獏良は高校三年の時、遊戯たちと遊ぶことなくずっと勉強していた。そして有名な大学に入って、城之内の知らない道へと旅立っていったのだ。デュエルモンスターズで腐っていった、自分とは違う。最もそれに今は救われているという状況なのだが。

 

「……だから、城之内くんには悪いと思っている。デッキももう全部売り捌いちゃったし」

 

「そっか……まあそうだよな。いつまでも、カードやってても駄目だよな。お前は正しいことしてるよ。心から、そう思う」

 

 以前なら、卑屈になって獏良の栄光なる地位を否定していたのだろうけど、今は素直に喜べる。余裕ができたのか、それとも……物事が良く、見えるようになっていったからか。

 

「城之内くんらしくないね。てっきり怒るのかと思っていたんだけど」

 

「誰が怒るかよ。立派な職に就けたんだ、カードゲームなんかよりそっちの方が立派だぜ」

 

「まあ、今ではカードゲームだけでも食べていける時代だけどね」

 

「まあな。でも、俺はわかったんだよ。カードゲームは、そこまで楽なものじゃない」

 

「……どういうこと?」

 

 場合によっては、全てのデュエリストを否定する言葉なんだが、そのまま続ける。

 

「カードゲームで飯を食っていけるって今いったけど、それにはプロにならなきゃいけない。でも、それになれるのはほんの一握りだ。しかもそれを目指す奴等は他の何かを持っていない。そんな奴等が待つ未来はなんだと思うか? 破滅さ。そんな世界に、盲目的に没頭なんかしても意味なんかないのさ。だから、獏良は成功してーーー俺は失敗した。結局こうしてどうにか首の皮を繋いでいる状況だ。今だって、解雇されそうになっている」

 

「…………」

 

「俺は、これからの奴等にそうなって欲しくないんだ。だから俺は、デュエルアカデミアに残って、人生のどん底に堕ちた人間の経験として、伝えていきたいんだ。カードゲーム以外に大事なものをさ。例えば、俺とお前の間にある、見えないけど見えるもの、とかよ」

 

「……うん、そうだね。城之内くんも、立派だよ」

 

「ありがとよ。っと悪いな、忙しいってのに長話させちまって」

 

「ううん、別にいいよ。久しぶりに楽しい話ができて嬉しかったよ。じゃあ、またね」

 

「おう、またな」

 

 獏良の方から電話が切れ、ポケットにしまう。あいつも忙しいんだなと、しみじみと感じた。

 獏良は立派に生きている。デュエルから離れても、立派に生きている。あいつはカードの本質をきちんと理解していたからこそ、同等と光輝く道へと進めたんだ。

 城之内は、全く分かっていなかった。遊戯や海馬を見て、デュエルで生きていくことを決めてしまったのが最後だった。気づいたときには、デュエルの道を外されて、何も道がなくなって、ずっとそこに立ち止まったままで……結局光が指してきた方向も、デュエル関係からだった。結局城之内はデュエル以外に見出だせる道なんて存在していないんだ。

 ならば、これからの人間に同じ思いはさせられない。デュエルアカデミアに通う生徒たちに、気づいてほしい。カード以外に見出だせる、可能性の存在を。若さゆえに見えてくるはずの道を、消してほしくない。

 だからこそ、ここで消えるわけにはいかない。何としてでも、パートナーを探して見せる……!

 決意を固めた城之内は、一先ず考えるために、久々の我が家へと足を向けたのだった。

 

 

 

 家に帰ると、静香が暖かく出迎えてくれた。すごく元気そうな表情で、城之内を風呂に入れてくれて、久々の我が家の風呂でゆっくりと浸かった。静香は新たに彼氏を作り、家に呼んでいたらしいので凄く申し訳ない気持ちになったが、彼氏の方は凄く優しい奴で、城之内がいても全く気に病むことはなさそうにしていた。ただやはり申し訳ないので、今日は遊戯の家にでも泊まろうと考えていた。勿論、俺がそいつを本当に認めた場合だけだが。

 風呂から上がると、久しぶりに静香の手料理を戴いた。静香の手料理はデュエルアカデミアで食べる豪勢な食事に比べたら質素だったが、味は絶対にこっちの方がうまかった。コロッケも、カレーも、全部心がこもっていてあっという間に平らげてしまった。彼氏の方も凄く早く平らげていて、心から上手そうにしていた。不味いといったらぶっ飛ばす気でいたが、杞憂に終わったようだ。

 飯を食べ終わると、彼氏からデュエルを仕掛けられた。何でも、妹さんを勝ったらくださいという話だったらしいので、城之内は受けることにした。静香は必死に彼氏を止めていたけれど。

 無論結果は城之内の勝ちだったがなかなか一生懸命で、評価できる点は多かった。そしてこういってやった。静香と結婚していいと。あの落ち込んだ表情から、パッと輝くまでの劇的な変化を見せてやりたい。

 結婚が認められた男女がすることはただ一つ、そう感じた城之内は遊戯の家に電話して泊めてくれと言ったが駄目と断られてしまった。そろそろ日本を立つくせに新商品の入荷で忙しいらしい。仕方がないので本田に泊めてもらうことにした。

 しかしそれは間違いだった。静香に振られた本田のやけ酒に付き合わされ、寝ることができなかった。せっかくこの街に久しぶりに帰ってきたのに、休めやしなかった。その途中からかつて玉砕した御伽も乱入して、ある意味最高な夜を明かした。静香と彼氏が共に夜を明かしたことを告げなかったのは賢明だと思う。

 

 次の朝、城之内は早く起きた。一時中断していたパートナー探しをするためだ。携帯電話を取り出して、電話帳を開く。きっとここに、番号を交換したデュエリストがいるはずだ。

 しかし探してもほとんどいない。番号を交換するようなデュエリストは、ほとんどいない。携帯電話の番号を交換しているのは付き合いの長い奴だけ、遊戯や本田、杏子くらいだろうか。あとは海馬も付き合いが長いが、番号なんて絶対に知りたくないし、第一海馬コーポレーションに電話すればすむ話だ。

 となれば電話帳は無理だ。どうすればいいだろうか……。

 

「相談してみるか……遊戯に」

 

 困ったときこそ、友達だ。そんな文句を聞いたことがある。遊戯ならば、なにかアドバイスをくれるはずだ。古くからの親友ならば、なおさらだ。番号を入力し、電話をならす。

 何度かの発信音のあと、電話が繋がった。

 

「はい、武藤です」

 

 穏やかな声で電話に応答したのは、紛れもなく遊戯だった。その懐かしい声に、城之内は心から安心を覚える。

 

「おう遊戯、城之内だ」

 

「城之内くん? 久しぶりだね!!」

 

 遊戯は元気そうに声をかける。でもその声はどこか大人びていた。まるで、かつて遊戯の中に潜んでいた闇の人格、アテムを思い出すようなそんな声だ。アテムは結構な自信家で、強気だったけれど。きっと、無意識にあいつを目標にしているんだろう。

 

「そうだな遊戯。昨日は悪かったな、夜遅くに電話しちまって」

 

「いや、僕の方こそごめんね……昨日、杏子が家に来ていたから……」

 

「あれ、お前昨日店の仕入れで忙しいって……」

 

「あっ、しまった……!」

 

 今の会話で全てを察した。遊戯のやろう、杏子を呼んで二人であんなことやこんなことをしたんだな……。そのために城之内を追い返したとなれば……許すまじ。

 

「遊戯……お前、大人の階段を一人で上りやがって!! 何でよりによってお前だけなんだよ!! 俺も連れていってくれよぉちくしょう……!」

 

「お、大人の階段って……た、確かに昨日は疲れたけど……」

 

「あぁ!? 世間一般の童貞に謝れよこのヒトデ頭が!!」

 

「ヒトデじゃないよ!! 城之内くんだって、彼女の一人や二人いるんじゃないの?」

 

「くぅ~~勝者の余裕ってヤツかよちくしょー!! 誰かいい女を紹介しろ!!」

 

 床に膝まつき、涙を流す。因みに城之内と同じように童貞ロードを突っ走っている本田と御伽はぐっすりと寝ている。当分起きることはないだろう。

 

「いい女って言われても、僕はあまり女性とは知り合わないよ……強いて言うなら、前に舞さんにあったよ。舞さんなんかいいんじゃないかな、城之内くんのこと、気になっているはずだよ」

 

「ああ……舞か。そういや久しく会ってねぇな。でもあいつ、俺のことただのかわいい坊やだと思ってるだけじゃねえの?」

 

「そんなことはないと思うよ。たまには会いたいって言ってたし」

 

 舞、本名は孔雀舞は女性デュエリストだ。城之内や遊戯より年上の綺麗な女だが、デュエルの腕は凄く、ハーピィたちを華麗に操るプロのデュエリストとして知られている。何だかんだで城之内たちと行動していて、仲間の一人だーーー。

 

「……デュエリスト?」

 

「どうしたの、城之内くん……?」

 

 遊戯が心配そうに声をかける。だが、そんなことも気にも止めずに思考を続ける。

 舞はプロのデュエリストだったはずだ。しかも実力も城之内と同等以上、海馬も認めるほどの腕をもつ。そして何より、最近遊戯と交流がある。つまりーーータッグを組めるかもしれない!!

 一人で計算を導きだし、にやっとわらう。上手くいけば、最高の結末を迎えられそうだ。

 

「ねえ、どうしたのさ城之内くん。急に黙っちゃってーーー」

 

「なあ遊戯、舞は今でもデュエリストか?」

 

「えっ、いきなりどうしたの……?」

 

 遊戯は困惑したが、構わず叫ぶ。

 

「教えてくれ、大事なことなんだ!!」

 

 だが、少しばかりボリュームが大きかったようで遊戯は驚いてしまった。短くすまんと謝り、遊戯に答えを求める。

 

「舞さんは今でもデュエリストだよ。僕と一緒にアメリカの大会に出場するって聞いたから」

 

「それで、今日本にいるのか?」

 

「日本にはきっといると思うよ。僕と電話したとき、来週日本を経つとか言ってたかな」

 

「よし、都合がいいぜ!!」

 

 思わずガッツポーズをする。これは都合がいい。早速舞に交渉して、タッグを組んでもらえば解決だ。問題は舞がアメリカに旅立ってしまうことだが、それまでにタッグデュエルするように交渉すればどうにかなるはずだ。

 

「ねえ、城之内くん。どういうことなの? 何が起こっているの?」

 

「ああ、それはだな……」

 

 そういえば遊戯にはなんにも言わなかったな。というか他人にこの事を説明したのは獏良だけだ。城之内は、遊戯に教師になったことを含めてすべての事情を簡潔に説明した。

 

「なるほどね……城之内くんが教師だというのは杏子から聞いていたけど、大変なことになったね。僕なら喜んでタッグを組んであげるのに」

 

「俺も遊戯と組みたいさ。だけど、お前と組んだらどんなに手を抜いても負けるし、手を抜いたらそもそも俺が解雇だ。だけど舞なら、多分いい勝負ができそうだからよ。何せ、俺と同じくらいだもんな」

 

「それほどまでに強いの、その生徒?」

 

 遊戯が興味ありげに尋ねる。強い奴と戦うことに、探究心を持ち続けているのだろう。今はまだお前より下だがなと思いつつ、ああと肯定した。

 

「俺も、あと少しで負けそうになった。だから……そいつさえ本気でやれれば、きっと俺たちのタッグに勝てるさ」

 

「なるほどね……」

 

 遊戯はうんうんと頷くように心地よい相づちを打つ。そして遊戯は穏やかな声で突然言う。

 

「教師らしいね、城之内くん」

 

「え? そうかな……」

 

「うん、ここまで真剣に、生徒のことを考えているなんて、すごいよ」

 

「へへっ、そう思ってくれるなら嬉しいぜ。ま、城之内様だったら何でもできるがな」

 

「ははは……でも、城之内くんの一生懸命なところ、僕は好きだよ」

 

「好きって……照れちまうだろうがっ」

 

 しばらく二人で笑い合う。互いのことをよくわかっているから、遠慮なく誉められる。互いを認め合える。城之内は、それがとても嬉しい。

 城之内にとって、友達と呼べる存在はいなかった。いてもせいぜい喧嘩を吹っ掛ける仲間くらいで、周りの人間を傷つけていた。遊戯だっていじめていたし、他の奴等にも歯向かっていった。自らの心の寂しさを塗りつぶすように、拳を振るってきた。それが楽しくて仕方がないと思い込むようにただただ荒れていった。

 でも、遊戯があの悪徳風紀委員から庇ってくれた日から、すべてが変わった。見えないけれど見えるものの存在を知り、それを大切にした結果……見えないものも見えるようになった。拳を振るわず、言葉で人と向き合うようになった。場合によってはカードで闘い、心を交わしあった。

 友情は何よりの宝物だ。カードはそのきっかけにすぎない。カードによって道が狭められようと、こうしてどうにか生きていけるのは、残された友情があったからだ。だからその友情に感謝するよう、育むよう、これからの奴等に伝えたい。この思いが変わることは、ないだろう。

 

「とりあえず、舞の電話番号を教えてくれ」

 

「うん、いいよ。…………」

 

 遊戯が電話番号を告げると城之内は早速メモった。字は汚いがどうにか読めそうだ。

 

「サンキューな、遊戯」

 

「ううん、こちらこそ電話できてたのしかったよ」

 

「俺もだぜ。遊戯、出発って、いつだったけ?」

 

「出発は来週末だよ。だから、その前日にみんなで遊ぼうね」

 

「へっ、やっぱ覚えてたか。楽しみにしてるぜ。じゃあな、遊戯!」

 

「うん、またね!」

 

 遊戯がそういうと、電話をギリギリまで待って切った。そろそろ遊戯の家のカードショップがオープンする頃だ、きっと遊戯も品出しで忙しいのだろう。さすがに朝から杏子とおっ始めることはしないだろうから本当に頑張っているのだろうな。

 遊戯も、獏良も、その他みんなも、それぞれ己の道を突き進んでいる。城之内も、いつまでもそこに立ち止まることは許されない。己の生きる道を見つけたのならば、全力で進まなくてはならない。

 城之内は、自分が書いた殴り書きのメモを見る。自分の道から外れないための第一歩を踏むことはできた。城之内がやるべきことは、カードゲームに夢中になっている学生に対し、もっと大切ななにかを見つけるのを手伝うこと。それを成し遂げるには、それができる立場に残り続けなければならない。海馬が与えた試練も全てクリアしなくてはならない。

 ならばそれをこなすだけだ。海馬のためじゃない、城之内のためでもない。これからを生きる若者のために、静香のためにだ。

 手に握られた携帯に番号を入力して、発信する。何度かの発信音と共に緊張が膨らんでいく。間違い電話だったらどうしようと言う思いもそうだが、久しぶりに話すのだ、胸がドキドキしないわけがない。

 

「あっ、もしもし……城之内だけどさ」

 

 案の定彼女の声だった。その声は、全く変わっていなかった。ライバルであり、仲間でもある、大事な奴の声だった。

 

 

 

 




舞さんが、次登場します。この作品ではDMメンバーもまあまあ登場します。

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