遊戯王GX 凡骨のデュエルアカデミア 作:凡骨の意地
「ん……ここはどこだ……?」
目が覚めると、そこは全く見たことの無い場所だった。ゆらゆらと揺れ動く闇が漂い、地面が見えない。しかしきちんと落ちずに姿勢を保っている。まさか死んだのではないのか? とりあえず立ち上がる。しかし、なにも見えない。闇の中にいるから、見えるものが見えない。
どうすればもとの世界に戻れるのだろうか。頭を掻きながら考える。しかし、なにも浮かばない。
グルルル……。
「ーーー何だ?」
何かの呻き声が響く。そちらを振り向いてみるけれど、闇ゆえに何も見えない。
「…………?」
気のせいか、そう思って座り込もうとした。
グルゥウウウァァアアア……!
「なんなんだ……!?」
直感で、声の聞こえた方に走ってみる。何かが俺を呼んでいるように思える。だから走ったまでだ。とにかく闇雲に走って走って走ると、ドンとなにかにぶつかった。
「って……なんだなんだ……?」
今確かに何かにぶつかった。しかも、かなり固いものに。試しに手を伸ばしてみると、そこには確かに存在していた。しかも、ざらざらとした手触りだ。もしかしてこれは何かの生き物か。
そう感じ取った瞬間……光が現れた。
「っ……」
思わず腕で庇う。目が慣れてゆき、凝らしてみると……それは炎だった。全てを焦がすほどの熱そうな炎。それが上へと放たれてゆき、世界を照らす。照らされて、見えたものには……タイタンがいた。
「あいつ……」
ここは、闇に隔離された世界ということか。ならばここから這い出なくてはならない。
「なあ、どうしたらここから出られるんだ?」
何やっているんだ、俺。人間かどうかもわからないような何かに、聞いてどうするんだ。頭を押さえて、炎を見続ける。すると……そこに新たな景色が映った。
「あれは……俺の手札だ」
俺が握りしめている手札には《レッドアイズ》、《心変わり》が見える。こんなカードで、どうしようというんだ……。
ーーー待てよ……レッドアイズがいるだろ……。
俺は、闇の中にいる謎の何かを見つめる。ある憶測を胸の中に秘めて、俺は呟く。
「なあ、確か誰かがいってたよな……。青き龍は勝利をもたらす。しかし赤き龍は勝利にあらず、その可能性なり。戦う勇気があるものだけに」
グルル……。
頷いたように、何かは唸る。
「お前は、知っているのか? 可能性があることを、俺の竜に秘められた可能性を……」
グルゥ……!!
「そっか……分かった。お前が信じるなら……俺もお前を信じる。戦うよ、俺は」
俺は上を見上げた。照らす炎はもう消えてしまったけれどーーーいずれ灯る。
グルウウウウウウウウウウァァァアアアアアアアアアアッッッーーー!!!!
激しい咆哮と共に何かは飛び上がる。体は赤く燃え始め、闇を焦がす。すると、何も見えない世界が赤い光と熱に包まれ、俺を上に運んでくれる。それはまるで突き上げるマグマのようで、どんな深い闇すらも振り払えるほどの光でーーー
紅き目をした黒き竜は、天高く飛翔しーーー世界を炎に染めた。
目が覚めると、城之内は地べたに這いつくばっていた。先程まで体を支配していた倦怠感や拘束感はきれいさっぱり消えていた。あれはなんだ、夢だったのか。俺を蘇らせてくれた、黒き竜は、偽物だったのか。
いや、そんなのはどうでもいい。黒き竜は俺を信じてくれたのだ……ならばそれに答えなくては。
「ほう……まだ立ち上がれるか……だが、貴様の命も風前の灯だ」
「先生! もう無理しないでくれ!!」
生徒たちの叫びと、タイタンの憎たらしい笑みが城之内へと届く。だが、城之内はあえてそれには応えず、石を拾い上げた。
「……?」
意味のわからない行動に全員が訝しげに城之内を見る。城之内はポンポンと石を弄びながら、口を開いた。
「なあ闇のデュエリストさんよ。あんたは、その千年パズル、何処で手に入れたっけか?」
「つまらん質問だ。エジプトだといっているだろうが」
タイタンは不機嫌そうに答える。確かに正しい。なら、この質問には答えられるか。
「なら、どうやって手に入れた? エジプトの遺跡の中に飾られていたのか?」
「何故そんなことを聞く……?」
タイタンが怒りの色を込めた声音で城之内に言う。だが、城之内は悪びれもないように手を広げて返す。
「いや、俺はどうやって手に入れたか知りたいだけさ。あんたが闇のデュエリストだったら、簡単に答えられるだろう?」
「っ……ならば教えてやる。エジプトのとある遺跡の中央に飾られていて、そこから持ってきたのだ!!」
なるほど、全てが分かった。そう、この闇のゲームの全てが……。
それに気づいた瞬間、石を投げた。千年パズルに。千年パズルの目は砕け、光を発せなくなった。
「なっ……貴様!! これがどういうものかわかっているのか!!」
「ああ分かっているさ。千年パズルに似た、ただの紛い物だってことをな」
「何ぃ……!?」
「えっ……!?」
生徒とタイタンが驚愕の声をあげる。城之内は解説してやるつもりで得意気に笑いながら語る。
「タイタン、あんたは間違いを犯している。千年パズルは遺跡の中央なんかにはない。もうすでに、埋もれちまったんだよ……戦いの儀でな」
「なっ……戦いの儀だと……!?」
それも初耳だったか。やはりこいつは闇のデュエリストなんかじゃなかった。今まで考えて損していた。
「そうさ、戦いの儀の後に、千年パズルは遺跡に封印された。もう崩れちまっていて今は誰も近づけない。戦いの儀というのはな、デュエルキング武藤遊戯と、もう一人の人格のアテムが必死のデュエルを繰り広げた戦いのことだ。そんなんも知らないでよく千年パズルの所有者だと言えたな」
「くっ……くそ!!」
タイタンはぎりっと歯軋りをすると、千年パズルを落とし、城之内をにらむ。
「さっきまでの体が消える現象だって、息苦しい霧だって、全て偽物だ。きっと体が動けなかったのも、催眠術とかそういう類いのものだったんだろうぜ。認めろ、この偽物が!!」
「己ぇ……!!」
体をわなわなと震わせて、悔しそうに唸る。そんな紛い物に振り回されたこちらも辛いのだが。
「闇のゲームは解けたな……」
「そうなんだな、でも……デュエルの状況は不利なんだな」
隼人は厳しい表情で場を見る。城之内のフィールドにはなにもない。しかし、タイタンには二体のモンスターが並んでいる。このままダイレクトアタックを喰らえば、敗けは確定する。
「そうだ……小僧の言う通り、デュエルで貴様は負けそうになっているではないか。何ならもうデュエルする意味はない。どうする、やめるか?」
普通に考えたら止めるべきだろう。闇のデュエルではないとはいえ、負けてしまうのは不味い。だが……城之内にはサレンダーという行為をもっとも好まないデュエリストであった。
「冗談じゃねえよ。せっかく勝てるチャンスだってのに手放すバカがいるかよ」
「勝てる……だとぉ? 何をバカなことを言っているんだ……?」
「勝てるさ……俺にあのカードがくれば、な」
勝てると豪語した城之内に、生徒たちは動向を見守るしか術がなかった。城之内は、カードに手をかける。
(このドローで……全てをかける。頼む相棒……俺に力を貸してくれ。紅き竜に勝利を掴ませてくれ……俺のターンーーー)
「ドローッッ!!!!」
カードが勢いよく引かれる。その軌道に沿って炎が舞い上がるかのように、熱く激しい挙動は、タイタンを始め全ての決闘者の目を惹いた。灼熱に焦がれたカードが徐々に姿を表す。そのカードは、勝利の炎を巻き起こすものか、はたまた絶望の闇へと突き落とすものか。
果たしてそれは…前者だった。城之内が求む、ただひとつのカードだった。
「さあて、ここからが本領発揮だ。といっても、たった3枚のカードで決着がついちゃうんだけどな」
「はったりをかますとはな……呆れたものだ」
「はったりなんかじゃないことを見せてやるよ! 俺は手札から魔法カード《心変わり》を発動! 相手モンスター一体のコントロールを奪うことができる!! 俺が奪うのは、デーモンの召喚だ」
デーモンの召喚の中に心が映し出され、光と闇が拮抗しあったが、闇に支配されて城之内のフィールドにふらふらと行ってしまった。
「コントロールを得て、どうするというのだ?」
「まあ慌てるなよ。これからすげぇところ見せてやるからさ」
城之内は不敵に笑うと、手札からあるカードを見せた。それは、デュエリストならば誰でも知っているカードだった。
「そ、それは……融合だと!?」
「そうだ。お前にいいことを教えてやる。青き龍は勝利をもたらす。しかし、紅き竜はそれに非ずーーーその可能性なり」
城之内は、手札の融合でデーモンの召喚を巻き込む。デーモンの召喚が血肉と化し、新たな魔物を創造する。そのパートナーとなるのは当然、紅き竜。城之内の生涯の相棒の1人が今、手札から可能性の具現へと吸い込まれていくーーー。
「現れろ、《悪魔竜ーブラック・デーモンズ・ドラゴン》!!」
渦から這い出てきたのは、巨大な黒竜だった。強靭な手足、邪悪に染まった瞳、触れたら傷を負うこと必至の黒き翼、そして……万物もを喰らい尽くすほどの大きくて頑丈な口から噴き出す、怒りの感情に染まった灼熱のどす黒い焔。
「これが、レッドアイズの進化系……」
「俺とのデュエルでは見せることはなかったモンスターだ……」
「すごく……かっこいいんだな……」
誰にも見せたことの無い、究極の竜の姿にタイタンや十代たちはもちろん、召喚した俺ですら震えていた。融合デッキについ最近入れたものだが、デッキに《デーモンの召喚》を入れたことがないため、使う機会はないと思っていたのだが……ここで始めてお披露目になった。
悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン 星9 ATK3200 ドラゴン族 闇属性
「私の……デーモンの召喚が……」
タイタンは後ずさりする。灼熱の焔が今にも奴を焦がしそうだ。後はもう、ここで終わらせよう。
「バトルだ、悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴンで、ジェノサイドキングデーモンを攻撃だ!! 黒炎悪魔弾!!」
攻撃の命令が出たならば、後は焼き尽くすだけだ。ブラック・デーモンズ・ドラゴンの強靭な顎が開かれ、そこから闇と焔が混ざりあった球体が、勢いよく発射された。王のデーモンも、太刀打ちできるはずもなく大爆発を受け、熱によって焦がされてしまった。
タイタン:LP3500→2300
「ぬぅぅぅぅ……!!」
タイタンはぎろっとブラック・デーモンズ・ドラゴンを睨む。攻撃はここで終了し、次はタイタンのターンだ。3200という攻撃力さえ、何とかすればこちらの勝ちーーー。
「何余計なこと考えてんだよ。俺のバトルフェイズは、終わっちゃいないぜ。ブラック・デーモンズ・ドラゴンが戦闘を終えた瞬間に効果を発動するぜ!! 俺は、墓地にあるレッドアイズと名のつくカードをデッキに戻し、その攻撃力分のダメージをお前に与える。俺が戻すのは、真紅眼の黒竜。すなわち……お前には2400のダメージを受けてもらう!!」
「な、何ぃ!?」
「喰らえっ、黒炎弾ーーー!!」
再び追加の炎の弾が口から放たれ、タイタンへと直撃した。すさまじい爆発と共に、フィールドが熱に覆われてゆき、その中でタイタンは炎に閉じ込められていた。
「ぐああああああっっ!!!!」
タイタン:LP2300→0
タイタンは膝をつき、万魔殿も消滅して、デュエルは終結した。
***
「約束通り、明日香を離してもらうぜ」
「……いいだろう。そこの棺を開けておいた。では失礼する」
「もうレアカードとか取ろうとするなよ」
「きちんと返しておくさ」
タイタンは去ろうとくるっと踵を返す。これで万事解決だ。後は、生徒をつれて帰るだけだ。
生徒に向き直り、さあ帰ろうと告げようとした……その時だった。
「…………!!」
突然壁が光り始めた。やがてそれはドミノのように連続して光始めーーー光が中央に集まった。そして奇妙な眼(名前はウジャト眼)が地面に映し出された。その後ーーー黒いエネルギーが空間を穿つように現れていきーーー。
「っ……不味い、逃げろ!!」
城之内は生徒たちのもとへかけより、エネルギー源から離れる。あれは、自分の夢の中で出てきた闇の空間にそっくりだ。なんにも見えやしない、絶望の闇に。あれに飲まれたら最後だ。
「お前も逃げろ、タイタン!!」
タイタンも慌てて逃げようとするが、間抜けにもこけてしまった。それでもどうにか逃げようと試みるが、エネルギーの膨れ上がる速度はとても速く、飲まれてしまった。
「ぐわあああああああああああああああっっっーーーー!!!!」
断末魔をあげて闇に吸われていく、自称闇のデュエリストは城之内へと手を伸ばすも、届くことはなく、違う世界へと消えていってしまった。
ばちばちと電気が飛び交い、消える際に衝撃波が襲いかかってきた。ドンという爆音が轟き、地面を揺らす。空間を穿った闇は消え去ったが……1人の人間が犠牲になってしまった。
「一体……あれはなんだったんだ……」
十代がポツリと呟く。他の二人もポカンとしている。
あれはきっと、罰ゲームだ。千年パズルが偽物でも、ウジャト眼が判断したのだろう。罰ゲームを下すべきものだと判断したのだろう。
だとすれば、これは闇のゲームだ。闇のゲームは、千年パズルが消滅した今でも、存在しているのだ。
結局、明日香の兄を探すのは時間がないので諦めることにし、明日香を起こしてそれぞれの寮へと皆帰っていった。城之内は、今日あったことを忘れようと、ベッドにさっさと潜った。
悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴンは原作はおろかアニメですら登場してませんが、登場させてみました。レッドアイズだからいいよね?