遊戯王GX 凡骨のデュエルアカデミア   作:凡骨の意地

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前の話を再投稿しましたので、もう一度ご覧いただければと思います。


第四話:ギリギリの戦い

「全く恐ろしい奴だ……遊城十代という男は。先生相手に引けを取らないどころか、状況が有利だ。ダメージも全く受けていない……」

 

 観客席に座るラーイエローの生徒、三沢大地は身震いしそうになっている。プロ相手に互角以上の戦いを繰り広げている。まるでプロリーグの試合を見ているようだ。

 

「アニキってもしかしたら……ものすごく強いんじゃあ……」

 

 丸藤翔なんかは、もはや腰を抜かしている。城之内には大ダメージを与え続けているが、十代は一切ダメージを受けていない。これは……どっちが勝つか分からない。そんな試合になってきた……!

 

「城之内先生のフィールドにはギルフォードと一枚の伏せカードのみ。さあここでどう動くのか……」

 

 明日香が息を呑んで十代を見る。手札の数も十代の方が多い。これはもしかしたら……勝つことも夢じゃない。

 

(見せてもらうわよ……十代!)

 

 

 

「俺のターン、ドロー! ―――よし、俺は、バブルマンを守備表示で召喚! バブルマンの特殊効果発動! 自分フィールドにカードが存在しない場合、二枚カードをドローできる」

 

 さらに手札がふやされる。攻めの手を緩める気はないということか。城之内は警戒の視線を止めない。

 

「よし、いいカードを引いたぜ。まず俺は、手札から速攻魔法《異次元からの埋葬》を発動するぜ! 自分および相手の除外されているモンスターを三体まで選んで墓地に戻す! 俺が選ぶのは、バースト・レディと、クレイマンだ!」

 

 突如フィールドに現れた棺に、除外されていた二人の戦士が入る。そしてそれはそのまま墓地へと入り、埋葬された。

 

「さあ、これですべてが整ったぜ! 俺はまず手札から二枚目の《ミラクル・フュージョン》を発動! 俺は墓地のバースト・レディとフェザーマンを除外して、《E・HERO フレイム・ウィングマン》を融合召喚!!」

 

 再び現れた異次元の渦。それらに二人の戦士が吸い込まれて―――風と炎が合わさる、新たな戦士が誕生した。

 

E-HERO フレイム・ウィングマン 星6 ATK2100 戦士族 風属性

 

「だがそんな攻撃力じゃあ、ギルフォード・ザ・ライトニングは倒せないぜ?」

 

 城之内は不敵に笑う。確かにギルフォード・ザ・ライトニングの攻撃力は2800と、今一つ届いていない。だが―――。

 

「先生、まだこいつは仮の姿さ。見せてやるよ、その先を!! 俺はさらに手札から三枚目のミラクル・フュージョンを発動! 俺はフィールドのフレイム・ウィングマンと、墓地のスパークマンを融合!! 現れろ、《E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン》!!」

 

 先ほども現れた異次元への渦に、一人の融合戦士と、一人の狩りの戦士が入り込む。そして現れたのは―――白き翼を生やした、炎と風と光の、ヒーローだった。強大なパワーを持ち、墓地に眠るヒーローたちの力を借りて、今ここに目覚める。そういわんばかりの威圧感がする。

 

E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン 星8 ATK2500 戦士族 光属性

 

 

「こいつが……完全体なのか?」

 

「ああ。こいつは墓地のヒーローの数だけ強くなれる! 墓地のヒーローの数の分だけ、攻撃力を300アップさせられるのさ! 墓地にヒーローは6体いる。よって攻撃力の合計は―――4300だ!! さらに、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを、受けてもらうぜ!」

 

E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン ATK2500→4300

 

 あの青眼の究極竜とほぼ同等の攻撃力を持つヒーローに城之内は戦慄する。仲間の屍の力を得た戦士は、こうも強くなれるのか。

 

「なっ……それじゃあ、この攻撃を受けたら、負ける……!?」

 

 そうだ。このまま攻撃を受けたら、合計ダメージは4000を遥かに越えてしまい、確実にライフは0になる。その事実に、この場の全員が戦慄した。

 

「よしっ、バトルだ! シャイニング・フレア・ウィングマンでギルフォード・ザ・ライトニングを攻撃!! シャイニング・シュート!!」

 

 戦士の光り輝く翼が燃え上がり、疾風のごとく迫る。この一撃は、相対する決闘者を砕くものとなる―――。

 

 

「これが決まれば―――十代の勝ちだ!」

 

「アニキが、プロに勝てるなんて……」

 

「十代……」

 

 観客席の人間も、その一撃を見守る。プロを倒すことになるのかどうかを。

 オシリスレッドがもし、プロを倒せば、イエローやブルーはおろか、その辺の教師だって倒すことができる。遊城十代には、そんな可能性が秘められているということだ。

 戦士の一撃が、光の騎士を貫かんと突き出される―――。

 

 

「罠カード発動、《マジックアーム・シールド》!!」

 

 

 

 リバースカードがオープンされる。するとそこからへんてこな機械の手が伸びてきて―――十代のバブルマンを捕まえた。そして、シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃の盾にしたのだった!

 

「バブルマンが!!」

 

 バブルマンは悲鳴を上げて破壊され、城之内先生のギルフォードは無傷となった。

 

「マジックアーム・シールドは、自分のフィールドにモンスターが存在し、相手フィールド上に二体以上のモンスターがいる場合に効果を発動できる。攻撃対象を、相手モンスターへと移し替え、そのモンスター同士で戦闘を行わせるのさ。ダメージ計算は行われ、それを受けるのは俺だが守備表示だから関係ない」

 

「そういうことか……だが先生。シャイニング・フレア・ウィングマンの特殊効果は発動する。戦闘で破壊した攻撃力分のダメージを与えるぜ」

 

「それがあったか。まあいいか」

 

城之内:LP2700→1900

 

「さらに、バブルマンが墓地に行ったことによって、シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は300ポイントアップする」

 

E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン ATK4300→4600

 

「よ、4600だと……?」

 

「俺はこれでターン終了だ」

 

 

 

「何とか先生は攻撃をしのいだが、フィールドには攻撃力4600のモンスターがいる。4600といったら、青眼の究極竜の攻撃力すらも上回る数値だ。城之内先生にこの攻撃力を超えることはできるのか?」

 

「しかも守備表示にしても、効果で破壊されたモンスターのダメージを受けなくてはならない。ギルフォード・ザ・ライトニングの攻撃力は2800……ライフは0になってしまうわ」

 

「これはアニキの勝ち確定っすか……?」

 

「確定とは言わないが、十代の方が圧倒的に有利だよ」

 

 城之内先生がもし負けたら、面目丸つぶれだ。自分たちの仲間の十代が負けるのも嫌だが、先生が負けるのも嫌だ。どっちを応援したらいいかわからない状況になっていった。

 

 

 

 

 強い。遊城十代はとても強い。

 いろいろ妨害されながらも、ついには攻撃力4600のモンスターを召喚している。このまま攻撃されたら、確実に負けてしまう。次のドローにすべてが、かかっている。

 最初はただの実力を測るための試験的なデュエルに過ぎなかったのに、いつの間にか真剣勝負になっている。それほどの実力を持つ決闘者が、なぜオシリスレッドにいるのか、城之内には疑問であった。仮にも元プロの城之内と渡り合えるほどの強さ、さすがとしか言いようがない。

 だが、男城之内もここで負けられるわけがない。ここで引かなければ―――いつ引くんだ!!

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 カードに全身全霊を込めてドローをする。見えたカードは……《伝説のフィッシャーマン》。

 

(これは……梶木がくれた、魂のカード! 梶木が、助けに来てくれたってことか……。ならばその魂、使わせてもらうぜ!!)

 

 バトルシティの時、城之内と梶木は熱い血統を繰り広げ、アンティルールによって梶木の親父の形見のこのカードを俺は譲り受けた。それが窮地となった今ここに来た。無駄にしては、ならない。

 

「俺は、ギルフォード・ザ・ライトニングを生贄にして―――」

 

「ギルフォード・ザ・ライトニングを生贄だと!?」

 

「―――《伝説のフィッシャーマン》を守備表示で召喚!!」

 

伝説のフィッシャーマン 星5 DEF1600 戦士族 水属性

 

 なんと城之内先生は、攻撃力の高いギルフォード・ザ・ライトニングを生贄にして、それよりも弱いモンスターを召喚したのだ。しかも攻撃力は1850と、レベル5モンスターとしてはあまりにも低すぎる。この期に及んでなぜその手をと思ったのか、場の人間が怪訝そうな顔をする。

 

「レッドに追い詰められてトチ狂ったのか……?」

 

「プロも大したことないんだな、そんな雑魚モンスターを出して」

 

 ブルーたちは陰口をたたく。だが、意外とそれは大声で―――城之内には聞こえていた。

 

「俺のことをバカにするのはいいが、俺の友達の魂のカードをバカにするんじゃねえ!!!! こいつは……友達の親父の大切な形見なんだぞ!!」

 

 城之内の馬鹿でかい怒鳴り声が響き、ブルーたちは肩を狭めるが、城之内のプレイングの意味を、理解していなかった。

 

 

「ねえ三沢君。どうして、先生はわざわざ攻撃力の低いモンスターを出したの?」

 

「簡単さ。シャイニング・フレア・ウィングマンは破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える効果がある。このままで行けばライフは0になる。しかし、伝説のフィッシャーマンの攻撃力は1850だ。つまり、仮に破壊されてもギリギリライフは残るというわけだ」

 

「ああ、そういうことか!!」

 

「そうだ、ちょっと考えれば当たり前のことだ」

 

 ラーイエローの三沢の当たり前という言葉が、先ほど城之内を誹謗中傷した生徒に突き刺さった。

 

 

 

「俺はこれで、ターン終了だ」

 

「よし、俺のターンドロー! バトルだ、シャイニング・フレア・ウィングマンで攻撃だ! シャイニング・シュート!!」

 

 炎と光と風が混ざり合う強烈な一撃が、海の人間に突き刺さる。

 

「くっ、フィッシャーマンが……」

 

「さらに攻撃力分のダメージを受けてもらうぜ!」

 

「がっ……くそっ」

 

城之内:LP1900→50

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 かなり短いターンだったが、与えた意味は大きかった。城之内のライフはたった50。守備表示にしても、負けは確定してしまうほどに微々たるもの。今度は、先ほどのような戦術は通用しないことを、城之内は痛感した。

 

「俺のターン……」

 

 次のドローで、すべてが決まる。今度こそ、背水の陣だ。だが残りライフがある限り、戦い続けるのがデュエリスト。俺は最後まで自分のデッキを信じる。命を張って守ってくれた、梶木の魂のカードのためにも、引いてみせる!!

 

「―――ドロー!!」

 

 

 城之内は、すべてをかけるつもりで、ドローをした。この絶望を、切り開くカギとなるカードか、はたまた、絶望へと落ちていくカードか。

 城之内が引いたのは、そのどちらでもなかった。希望を食いつなぐカードだった。

 

「俺は手札から、《強欲な壺》を発動!! デッキから二枚のカードをドローする!!」

 

 ここで、城之内は強力なドローカードを引き当てた。制限カードゆえに一枚しかないという制約があるが、この窮地で見事引き当てるとは流石である。周囲から歓声が巻き上がり、城之内は勢いよく二枚を引く。逆転の女神は微笑むのか……それとも見捨てるのか。

 

「―――!! 俺は、二枚のカードを伏せて……ターンエンド」

 

 だが、彼が行った行動は二枚のカードを伏せただけだ。あのリバースカードに逆転の可能性が秘められているとすれば、どうやって戦うというのだろうか。

 城之内は賭けた。この伏せカードにすべてを……賭けた。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 一方遊城十代は、城之内の仕掛けたカードがなにか図りかねていた。聖なるバリアミラーフォースかもしれないし、魔法の筒かもしれない。だが、現状として魔法罠を破壊できるカードは手札にはない。やるべきことはただひとつ。攻撃だ。

 

「いけ、シャイニング・シュート!!」

 

 三度目の、強力な一撃が、城之内に迫る。だが、またしても―――カードに阻まれた。

 

「攻撃宣言時に罠カード《リビングデッドの呼び声》を発動! このカードは自分の墓地のモンスターを、攻撃表示で蘇生させる!! 俺が蘇生させるのは、もちろんギルフォード・ザ・ライトニングだ!!」

 

「え!?」

 

 城之内は、突如ギルフォードを特殊召喚した。ただでさえ攻撃されたら、効果ダメージでライフポイントは0になるのに、攻撃表示で蘇生させた。意味のない行動に、場の人間は首をかしげる。

 だが―――これは、意味のある行動だった。デュエルモンスターズの極意のひとつとして、こんなものがある。

『ひとつのカードだけでは微々たるものでも、もうひとつのカードとコンボを組めば、計り知れない力を発揮する』

 それを体現したデュエリストの代表として、武藤遊戯が存在する。彼のカードの一枚一枚は確かにそこまで強い訳じゃない。何故なら彼のエースモンスター、《ブラック・マジシャン》は、同じ攻撃力を持つ《デーモンの召喚》よりも召喚しにくく、単体では扱いづらいモンスターだ。

 ―――しかし、ブラック・マジシャンの強みは、他のカードのコンビネーションにこそ存在する。千本ナイフでモンスターを破壊できたり、魔法使い族のサポートカードで弟子のブラック・マジシャン・ガールを呼んだり等、強力な戦法が実現できるのだ。

 同じように、リビングデッドの呼び声は、この状況では全く意味のないカードだ。けれどーーー他のカードとのコンビネーションをすれば……絶大な威力を発揮する。

 この場にいる、数人のデュエリストは、一見無意味なリビングデッドの呼び声を使用した意図を薄々理解していた。

 

 リビングデッドの呼び声で呼び出されたギルフォードが現れたことにより、シャイニング・フレア・ウィングマンは踏みとどまる。バトルフェイズ中にモンスターの数が変わると、攻撃が中断されるのだ。しかし、新たな標的を見定めた瞬間、再び飛びかかることができる。

 

「バトル再開だ! ギルフォードに攻撃だ!! 破壊しろ!!」

 

 ギルフォードは剣を構えて迎撃体制をとる。しかし力の差は歴然、あっという間に飲み込まれてしまいそうだ。

 だが―――ここからが、コンボの真髄だった。

 

「そうはいかねえなっ!! ダメージステップに、俺は速攻魔法《禁じられた聖典》を発動!! 効果により、このターンだけ禁じられた聖典以外のカードの効果を無効にして、お前のシャイニング・フレア・ウィングマンの元々の攻撃力にして戦闘する!!」

 

 そのカードが発動された瞬間、全員がはっと息を飲んだ。このコンボが意味するものを、察したからだ。

 戦士に聖典が掲げられ、その力で、仲間の屍の力は失われる。

 

E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン ATK4600→2500

 

 

「ああっ、シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力が2500に……!!」

 

「元々の攻撃力に戻るからか!! そしてギルフォードは2800……先生はこれを狙って、リビングデッドの呼び声を発動したのか!?」

 

 周囲のどよめきが大きくなる。ダメージステップに魔法や罠が発動されると、もう攻撃を中断できない。発動タイミングは完璧だ。

 果たして―――戦士の拳は、剣士の大剣に阻まれた。剣士は渾身の力を振るって戦士を突き飛ばし、空いた間を利用して一閃した。真っ二つに切り裂かれた戦士は、断末魔をあげて消滅した。屍となった戦士の魂を引き継いだヒーローは、ついに散ったのである。

 

十代:LP4000→3700

 

「よし、シャイニング・フレア・ウィングマン撃破!!」

 

 場に居座り続け、城之内を苦しめたモンスターを撃破したことに、観客席の生徒は震撼した。命を繋ぎに繋げ、ついに葬ったのだ。これで十代のフィールドはがら空き、反撃のチャンスが到来した。

 

「シャイニング・フレア・ウィングマンが倒されちまったか……やっぱりすげえや、プロのデュエリストは!!」

 

 自分のモンスターが破壊されたというのに随分と嬉しそうだ。本気でデュエルを楽しんでいるのだろうか。だとしたらそれは嬉しい限りだ。

 

「いや、十代。お前は俺の思った以上のデュエリストだ。さすが遊戯からハネクリボーをもらった人間だ。だけど、ここからが正念場だ!!」

 

 城之内の手札は0だ。でも、反撃は十分にできる。諦めない限り、勝機は必ず来る。それを大切な友人に教わったから、戦い続ける。それだけだ。

 

「俺は、二体目のスパークマンを守備表示で召喚して、ターンエンドだ」

 

E・HERO スパークマン 星4 DEF1400 戦士族 光属性

 

 そういえば十代はまだ召喚をしていない。やはり一筋縄ではいきそうにない。

 でも、相手は壁モンスター一体だけ。引いたカードはモンスターだ。

 

「俺のターン、ドロー! 俺は、《アックス・レイダー》を召喚!」

 

アックス・レイダー 星4 ATK1700 戦士族 地属性

 

 斧を持つ、屈強な戦士が光の戦士を見下ろす。スパークマンの守備力ではとても守りきれない。

 

「バトルだ、アックス・レイダーでスパークマンを攻撃! 疾風斬り!!」

 

 アックス・レイダーは地を思いきり蹴り、スパークマンを大きく切り裂いた。

 

「ぐっ……スパークマン!!」

 

「そしてギルフォードでダイレクトアタック!! ライトニング・クラッシュ・ソード!!」

 

 先程はハネクリボーによって阻まれてしまったこの一撃は、再び十代をとらえて、光のごとく一閃した。

 

「ぐわあああああああッッ!!」

 

十代:LP3700→900

 

 スパークマンが破壊され、がら空きになるが、ライフ的にはまだ十代の方が上だ。けれど、どちらもあと一撃を受けたら敗けが確定するほどのわずかなライフだ。

 

「俺はそのままターンエンドだ」

 

 城之内はとりあえず山は越えたと安心する。だが、十代の引きが強いのは事実だ。思わぬ一手を打ってくるかもしれない。

 果たしてーーー十代のドローは流石としか言いようがなかった。

 

「俺のターン、ドロー! 俺はまず、《戦士の生還》を発動する。墓地の戦士族モンスターを手札に加えることができる。俺はスパークマンを手札に加えるぜ」

 

 先ほど破壊されたモンスターをもう一度手札に戻している。一体何を企んでいるんだ? まさかセットし直すなどということはしないだろう。

 

「さらに俺はスパークマンを攻撃表示で召喚!」

 

E・HERO スパークマン ATK1600

 

 十代はスパークマンを攻撃表示で召喚した。だが、ギルフォードはおろか、アックス・レイダーにすら攻撃力が届かない。これで一体どうしようというのか? 

 

「おい、そんなんじゃ俺のモンスターは破れないぜ?」

 

「分かってるさ。でも、先生は最初に教えてくれた。高いステータスを、越える方法をな!!」

 

「なっ……ま、まさか……」

 

「手法はちょっと違うが、行くぜ! 俺は装備魔法《スパークガン》をスパークマンに装備する。こいつは、3回までモンスターの表示形式を変更することができる! 対象はもちろんギルフォードだ!」

 

 やられた。城之内は舌打ちをした。

 確かに城之内は、3000という高い守備力を持つマッドボールマンを相手に、守備力と攻撃力を入れ換える《右手に盾を左手に剣を》を利用して倒した。十代のとった戦法は、ギルフォードの低い守備力を利用したものだったが、高火力モンスターを倒すには十分なものだ。

 スパークマンが握りしめたスパークガンから弾丸が放たれる。ギルフォードに突如電気ショックが襲いかかり、無理矢理守りの構えを取らされた。しかし、ギルフォードはただ断つために生まれた剣士、防御などほとんど知らない。

 

ギルフォード・ザ・ライトニング DEF1400

 

「バトルだ、スパークマンでギルフォードに攻撃! スパークショット!!」

 

 頭上にバチバチと電気が弾けるエネルギー弾を受けたギルフォードは、悲鳴をあげて再び墓地へと消えていった。フィールドにあった、リビングデッドの呼び声も消えてしまった。

 

「くそ……ギルフォードが……!」

 

「そして俺は、スパークガンでスパークマンの表示形式を守備に変更してターン終了だ」

 

 なるほど、自分のモンスターに撃つことで、攻撃したあとの防御もこなせる。かなり便利なカードだと思う。しかも残り一回を残しているので、倒さなければ厄介だ。

 ……何を固く考えている? 攻撃力が900以上のモンスターを召喚すれば勝ちだ。カードに手をかけ、己が望むカードをドローするーーー。

 

「俺のターン、ドロー!! ーーー……」

 

 城之内が引いたのは、モンスターではなかった。しかし、希望を繋ぐ光には、代わりはない。いや、もしかしたら勝利への扉を開く、決定的な鍵かもしれない。その鍵は、相手を屈服させるには十分すぎるものだ。だが、この決闘は本気でやると誓った。だから、容赦はしない。

 

「バトルだ! アックス・レイダーで、スパークマンに攻撃! 疾風斬り!!」

 

 斧を構えた戦士がスパークマンに飛びかかり、斬りつけた。

 

「ぐっ……!」

 

「俺は、一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 ようやくここまで削れた。どちらかが一撃を加えるだけで勝利が決定するこの状況。誰しもが震えても仕方のないこの緊張。ワクワクどころか、ビクビク震えることしか、並大抵の人間にはできない。

 だがーーー十代は違った。この期に及んで、まだ笑顔を保っていられる。ムカつくぐらいにデュエルバカだ。能天気なのか……それとも、希望を持ち続けているのか。

 もし後者だとしたら、どんなドローを見せてくれるのか。今まで素晴らしいドローを見せてくれた。その力には、デュエルをバカみたいに楽しむ心が関係しているのだとしたらーーーこの土壇場で、強いカードを、戦況をガラッと変えるようなカードを引くはずだ。

 城之内はリバースカードをちらっと見る。恐らく、十代はこれで止めを刺されるだろう。でも、その前に見たい。十代がどんなドローをするのかを、見ることだけはさせてほしい。

 

(さあ、見せてみろ十代……最後のドローを)

 

 城之内には、これが最後のドローだということを分かっていた。。その理由もやはり、カードが説明すべきであろう。

 

「俺のターン……ドローッッ!!!!」

 

 覇気を込めた一挙一動からなる、ドローに城之内は思わず身をかばう。紙の形に変えた剣は、一体どんなものか。どれを手にして、相手に立ち向かうのか。

 十代は笑った。自らの握った剣の強さを確信した。勝利への光が見える。

 

「来たぜ、俺の勝利へのキーカードが!! 俺は手札から《死者蘇生》を発動!! 俺は、バブルマンを特殊召喚!!」

 

 光輝くカードから、現れたのは……全てを洗い流し、新たな可能性を指し示す戦士だった。それは、十代の勝利への希望そのものだった。

 

「―――流石だ、良くこんなドローが出来る。よりによって死者蘇生を引くとは……遊戯が、ハネクリボーが認めるのも納得がいく……! だけど俺は決めた。全力で戦うと。だから―――ここで終わらせてやる」

 

 城之内は笑う。決意を込めた眼差しを教え子に向けて。周囲の生徒が固唾を飲んで見守るなか……一枚のリバースカードが、開かれた。

 

 

 

「カウンター罠《神の宣告》を発動。ライフを半分払うことで、お前の死者蘇生での特殊召喚を―――無効にして破壊する」

 

 

 

 

 罠カードから、突如神父が現れて、バブルマンに手をかざす。すると手から光が放たれ、スパークマンは消滅していった。神の力を得た神父の、宣告通りに。

 

城之内:LP50→25

 

 

 

 これで、全てを失った。手札も、フィールドも、カードがひとつもない。すなわちそれは敗けを差し示す。

 だが―――十代は笑っていた。それも、心底嬉しそうに。もう十分楽しんだと豪快に笑い飛ばすように、静かに微笑む。

 

「楽しかったぜ……十代」

 

「ああ、俺もだ。これでターンエンドだよ」

 

 ターンエンド宣言、それはもはやサレンダーと同じ。十代にはもう為すすべはない。でも……いいデュエルには、そんなことはどうでもいい。死力を尽くして戦ったという証拠なのだから、胸を張るべきだ。

 

「よし、俺のターン、ドロー。……もう、いいよな。―――バトルだ!! アックス・レイダーでダイレクトアタックだ!!」

 

 アックス・レイダーは十代に飛びかかる。十代は避けることも防ぐこともせず、その一太刀を受け止めた。

 

「ぐっ……」

 

十代:LP900→0

 

 

 ライフが0になり、ゲームは終了した。

 

 城之内は、後にこのデュエルをこう語ったという。

 

『最初でクレイマンではなく、バブルマンを召喚されていたら、負けていた』

 

***

 

 

 城之内は、自室で手紙を書いていた。城之内の暮らす一室は、クロノス曰く最高級らしいが実際その通りだと思った。ベッドもとってもふかふかで広く、机も大きい。パソコンもあって近くにある露天風呂も最高だ。別に部屋なんて何でもよかったが、プロのデュエリストに悪い待遇なんてできないと言われたのでこの部屋で過ごさせてもらっている。

 さっきまで少し寝ていたからちょっと眠い。けれど、手紙を書くことは全くの苦ではない。むしろ、楽しみのひとつだった。

 

『静香へ 元気にしているか?

 

 俺が家を出てから、まだそんなにはたってないとは思うけど、もう慣れたか? まあ、静香は一人で家事洗濯が出来るような女の子だから大丈夫だとは思うけど、何かあったら遠慮なく言ってくれ。すぐにこの島を出て駆けつけるからな。

 近況報告です。

 今日は、すごい新入生とデュエルをしたんだ。遊城十代って言うやつ。ギリギリの戦いで、なにか間違えれば負けそうな、そんなデュエルだったよ。遊戯や海馬と戦ってもいい試合になったんじゃないかなって思うぜ全く。最初の方でさ、二枚もドローができるモンスターを出されてたら負けてたかもしれないな。まあ、プレイングミスさえしなければ、十代は勝ってたよ多分。お陰で疲れたよ……挙げ句の果てには、他の生徒も俺とデュエルしたいデュエルしたいって言っててさ……今日一日中生徒とデュエルしてたよ。もちろん全部勝ったけどさ、いつ抜かれるか心配になってきたよ。

 本田とのツーリング、また行くって本田から聞いたぞ。静香の次の男は、本田かも知れねえな(笑)。まあ、楽しんでこいよ。

 今日はもう眠いのでここまでにします。じゃあ、元気でな静香。

 

 克也より。

 

 

P.S 僅かだけど、化粧品や服の足しにしてくれ。こっちじゃ余り使わねえからよ』

 

 

 城之内は、便箋と、給料の半分を封筒の中に入れて、デュエルアカデミアの外の、郵便ポストに入れた。もっとも船で輸送されるのだが、ここに入れておけば問題はないとクロノスがいっていた。

 

「今日は疲れたなぁ……。でもあんまり眠れないし、散策でもするか」

 

 伸びをしながら海を見続ける。向こう側には、俺の大切な妹がいる。元気にやっているだろうか、不安になる。自分よりもしっかりとしているやつなのに。

 とりあえず外を出歩いてみようか。ここには城之内の知らない場所がたくさんある。

 だが、ふと城之内は気になった。一瞬光が見えたのだ。はっと振り向くと、デュエルアカデミアの入り口の方だった。泥棒か? だとしたら取っ捕まえなきゃならない。

 忍び足で入り口に入り、光を追っていく。光は淡く点滅したり、時には音が聞こえたりもする。何をやっているんだ、こんな夜中に。

 歩いていくと、そこは城之内が昼間使ったデュエルフィールドの近くだった。まさかここで誰かがデュエルしているのか。泥棒じゃないと分かりほっと胸を撫で下ろすが、確かこれは立派な規則違反だ。誰がやっているんだろうか。

 城之内はデュエルフィールドに足を踏み込んだ。だが―――そこには誰もいなかった。でも、デュエルをした痕跡は見られる。中央のモニターにライフ表示が残っているからだ。誰かが夜遅くにここでデュエルをしていたのだろうか。

 

「まあ、いいか」 

 

 犯人捜しをしようと思ったけど、止めることにした。そんなことに精を出すなら、明日の授業の内容を考えた方がいい。どうせ眠れないなら、そうしてしまおうか。

 城之内はデュエルフィールドを引き返し、自分の部屋に戻った。

 

「遊城十代か……まったく、すげえデュエリストがいるもんだぜ」

 

 ポツリ、今日戦った、茶髪の少年の事を思い浮かべながら。

 

 

 

 

 




次はもう少し教師らしい話を賭ければと思います。
最期のデュエル場のシーンは、万丈目と十代の最初のデュエルが行われていたのです。

追記
なんかおかしなことになっていましたので、修正しました。

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