遊戯王GX 凡骨のデュエルアカデミア 作:凡骨の意地
間違いばかりおかしてしまい、申し訳ありません。未熟ですがよろしくお願いします。
新入生、遊城十代は、とてつもなくワクワクしていた。友達の丸藤翔から聴いたのだが、何でも今日新任の先生が来るらしいのだ。どんな人かはまだわかってないらしいけど。
あと一分で授業が始まる。十代は、隣に座る翔に話しかけた。
「なあ、どんな人が来るんだろうな? 楽しみだぜ!!」
眼鏡をかけたおとなしそうな少年、翔は困り顔で答えた。
「アニキ、さっきも答えたじゃないですか……。分からないけど、噂じゃあプロデュエリストらしいですよ」
「プロデュエリストか……くぅ~早くデュエルしたいぜ!!」
「ムチャだよアニキ……入学試験でクロノス教諭に勝ったとはいっても、相手はプロかもしれないんだよ?」
「かもな。でも、やってみたいんだ」
そう、クロノスに勝った十代は楽しそうに笑った。
その時ちょうどチャイムが鳴り響き、全員が静かになる。少しすると、ガラッとドアが開いた。
ドアから現れたのは、大きな男だった。鶏冠のように、前髪が尖っているのが特徴だ。端正な顔立ちをしていて、背の高いこの男を知らぬものはいなかった。
「う、うそだろアニキ……」
「どうしたんだよ翔?」
翔が立ち上がり、震えた声でドアの方を見る。それにつられて十代も立つ。その瞬間、彼の背中に戦慄が走った。
他の生徒たちも同様だった。何故、ここにいるんだろう。そんな疑問が、新たにこの教室に入ってきた講師に向けられる。
講師はそんな視線に動じずに教壇に立つ。そして、笑顔で一言自己紹介をした。
「はじめまして、今日よりデュエルの実技を担当する、城之内克也です。どうぞ、よろしく」
城之内克也は、デュエルモンスターズをやっているものなら誰でも知っている名前だ。デュエルキングと肩を並べるほどのデュエリストとして、名を馳せている。現在はプロではないけれど、尊敬を受け続けている。
十代も一度見たことがある。彼の魅力的なデュエルを。デュエルキングとの試合だったが、普通デュエルキングと相対するデュエリストは震え上がってあっという間にやられてしまう試合ばかりを見せていた。けれど二人のデュエルは全く違った。お互い笑顔を浮かべて、ギリギリの試合を繰り広げていた。互いに親友同士だというのもあるのだろうけれど、それ以上に、デュエルを楽しんでいるからだと思う。そんなデュエリストが、このデュエルアカデミアにいるとなれば……興奮しないわけがない。
「マジなのかよ翔……俺すっげえ幸せだ!!」
「僕今まで生きていて良かったよアニキ!!」
二人の生徒が手を繋いで喜ぶ。無論それは当然、十代たちだけではなかった。
「城之内さんだ!!」
「すげぇ、本物だよ!!」
「俺デュエルアカデミア受かってよかったぁ!!」
次々に歓喜の声があがる。目の前に立つ城之内先生は、にっこり笑って応じた。やがて手をあげて静かにさせると、とたんに静かになった。すでにもう、心をつかんだということだ。
「改めて、城之内克也です。君たちや他の生徒など、すべての生徒を対象にして授業をします。俺がやるのは実技方面です。だけどまだ俺はお前たちの実力を知らない」
実力を知らないという発言に複数の人間が顔をしかめる。それは無理もない。このデュエルアカデミアでは、実力によって住む寮が分けられていて、制服もそれぞれ違うからだ。3つのランクに別れていて、高い順にそれぞれ青のオベリスクブルー、黄色のラーイエロー、赤のオシリスレッドとなっている。実力が高いのは青ということになっているので知らないというのはおかしいのだが。
「そこでだ、最初の授業では俺とデュエルをすることにする。俺に勝てれば点数をあげよう。誰でもいいぜ。もし、デュエルしなかったら、今日はこのまま講義に入るけどな」
城之内先生はその事情を知っているのか知らないのか分からないがそのまま続ける。
しかしデュエルだと? プロデュエリストと、デュエルだと? 確かにまたとないチャンスだが、今の自分達では勝てるわけがない。だから誰も受ける人はいないだろう。そう、この場にいる人間は思っていた。
―――ただ一人を除いて。
「待ってくれ先生、俺やります!」
「えっ、アニキ!?」
クラスの中でどよめきが起こった。クラスの中で誰も手をあげないなか、一人の生徒が名乗り出たのだ。しかも彼はオシリスレッド、実力は低いはずだ。
「おいおいレッドかよ……大丈夫か?」
「ドロップアウトが、プロに勝てるわけねえだろ」
「やめろ、まじやめろ」
ブルーの生徒の嘲笑が聞こえたが、実際彼の親友の翔は無謀だと思っていた。確かに学園の中で実力を持つクロノス教諭を倒した。だが、それがプロの城之内に通用するとは思っていない。城之内先生は、受けるのだろうか。このデュエルを。
城之内先生は手をあげて制する。そして、十代を見て、こういった。
「俺とデュエルするのか?」
「ああ」
「よしわかった! デュエルスタジアムに来い。そこでやろう」
城之内先生はそれだけ言い残して、ドアの外へと出た。十代もそのあとに続く。
「ど、どうしよう~……いくらアニキでも、無茶すぎるよ……」
翔は頭を抱えて喚き始める。自分の敬愛するアニキ分が、そのさらに上をいく人物にデュエルを申し込んだのだ。
「たしかにそうだな」
ふと、隣にいた男子生徒が答える。ラーイエローの、三沢大地だった。彼はかなり優秀で、トップクラスの成績を納めている。
「三沢くん……」
「十代は確かにクロノス教諭を破った。だが、城之内先生は格が違う存在だ。あいつがやろうとしていることは、人間が恐竜に喧嘩を売ろうとしていることと同義なんだよ」
「アニキ絶対負けちゃうよ……」
自分のアニキが負け恥をさらすのは見たくなかったけど、避けられないものとなってしまった。それを嘆く声が、教室中に響き渡った。
***
「先生、準備できてるぜ」
「よし、じゃあ始めようぜ」
デュエルフィールドについた二人と、他の生徒はそれぞれの位置につく。だが、この勝負の結果は見えているも同然だった。プロとアマが戦ったらプロが勝つに決まっている。当たり前のことだ。
だがーーー。
「プロと戦うなんてワクワクするな! 楽しいデュエルにしようぜ」
本人はこんなことをいっている。周囲からはバカの極みだと思われるであろう発言だ。楽しむどころか、弄ばれてしまうのが落ちだ。
「ああ、楽しいデュエルにしようぜ。さあ、カードを引け」
「おう!」
礼儀なのか、城之内先生も同じように返す。
城之内と十代はカードを5枚引く。成り行きで実現してしまったどうしようもないデュエルに、ブルーの生徒たちは嘲笑を繰り返すばかりだった。その中の一人、万丈目準もそうだった。
「ふん、クロノスを破ったからといって調子に乗っていると後悔するぞ……ドロップアウトが」
多くの人間が十代を嘲笑うように見つめるなか……デュエルの火蓋は落とされた。
「デュエル!!」
デュエルディスクが展開され、デッキを読み込んでいく。互いの血が沸騰し、意識が鋭くなっていくのを感じる。
(俺に勝負を挑んできた少年、遊城十代か。クロノスが相当恨んでいたけれど、その実力はどうなんだろうか。ちょうどいい機会だ、全力で戦ってやる)
城之内はフッと笑いながら十代に伝えた。
「先行はお前だぜ、十代」
「おっ、マジか。じゃあいくぜ先生。俺のターン、ドロー!」
お互いに手札を確認して、十代はドローをする。ドローの仕方に力が込められているのを感じた。
―――こいつ、できるな……。
直感的にそう感じた城之内は、いっそう目を鋭くする。
警戒されていることを知らない十代は、早速モンスターを召喚した。
「俺は《E・HERO クレイマン》を守備表示で召喚!」
E・HERO クレイマン 星4 DEF2000 戦士族 地属性
十代が出したモンスター、クレイマンは名前の通り土のモンスターだ。巨体を丸めながら、守備に徹している。しかしその値は2000となかなか高い。
しかし、ここでは終わらなかった。
「さらに俺は《融合》を発動、クレイマンと、手札の《E・HERO バブルマン》を素材にして、俺は《E・HERO マッドボールマン》を守備表示で融合召喚!!」
突如、融合のカードから渦が現れ、クレイマンと手札のバブルマンというモンスターがぐるぐると混ざり合う。その渦から新たに現れたのは、クレイマンの巨体にバブルマンの顔が嵌まった、新たな戦士だった。
E・HERO マッドボールマン 星6 DEF3000 戦士族 地属性
「スゴいよアニキ! いきなり守備力3000のモンスターだ!」
「これならば、上級モンスターの攻撃も防ぐことができる。考えたな十代」
観客席にて、翔と三沢が十代の行動を誉める。確かに守備力3000は、あの海馬瀬人のブルーアイズの攻撃力と同等の数値。それをたったワンターンで召喚してくるとはなかなかだ。
「さらにカードを一枚伏せて、ターンエンドだ」
十代は得意気な顔で、ターンエンドの宣言をした。
次は、城之内のターンだ。
「俺のターン、ドロー!」
プロデュエリストのターンは、どんな感じなのか。全員の視線が集まる。しかしそんな視線は、城之内には気にならない。彼の目線は……マッドボールマンと遊戯十代に向けられていた。
手札に、守備力3000を越えられるモンスターは存在しない。だが、壁モンスターを張るということはこちらの攻撃を警戒してのことだ。だけれども、その壁には抜け道がある。
「お前は守備力3000という高いステータスを越えることはないと思っているだろうが、そういうわけにはならないんだぜ」
「なにっ!?」
確かに高いステータスだとは思う。だが。そんなステータスにも弱点がある。
「俺は手札から、魔法カード"右手に盾を左手に剣を"を発動! 効果により、場にいるすべてのモンスターの攻撃力と守備力を入れ替えるぜ! マッドボールマンの攻撃力は1900、したがって、守備力が入れ替わって、1900となる!」
E・HERO マッドボールマン ATK1900→3000 DEF3000→1900
そのカードの発動に、場にいる生徒がどよめく。3000という高い守備力がたった一枚のカードで崩されたからだ。攻撃力こそはブルーアイズと同等の数値だが、守備表示である今、何の役にも立たない。
「さらに俺は《ロケット戦士》を攻撃表示で召喚!」
ロケット戦士 星4 ATK1500 戦士族 光属性
城之内のフィールドに、細長い剣を持つ、ロケット戦士が現れる。だが、攻撃力が足りない。
「でも先生。攻撃力1500じゃあ、守備表示のマッドボールマンは倒せないぜ」
「焦るな十代。俺はさらに、装備魔法《稲妻の剣》を発動! 戦士族に装備できるカードで、装備モンスターの攻撃力は800ポイントアップするぜ」
「なっ、それじゃあロケット戦士の攻撃力は……2300だと!?」
「そういうことだ」
ロケット戦士 ATK1500→2300
ロケット戦士が持っていた剣が捨てられ、電気をまとった剣が握られる。
「バトルだ! ロケット戦士でマッドボールマンを攻撃!」
稲妻の剣を持ったロケット戦士はマッドボールマンを切り裂き、破壊される。高守備力モンスターも、こうして突破されてしまうだなんて、予想もしていなかったであろう。だが、それは間違いだった。
「ぐっ、マッドボールマンが! だけどこの瞬間、罠カード発動! 《ヒーロー・シグナル》。戦闘によってヒーローが破壊された時、手札、またはデッキからヒーローを特殊召喚するぜ! 二体目のバブルマンを、デッキから守備表示で特殊召喚する!!」
E-HERO バブルマン 星4 DEF1200 戦士族 水属性
後ろにタンクのようなものを担ぐヒーローが現れた。守備、攻撃共に低いが、こいつに何か特殊能力があるのだろうか。
「バブルマンの特殊効果発動! 自分のフィールドにカードが存在しない場合、デッキから二枚のカードをドローできる!」
「まじかよ……強欲な壺じゃねえかそれ」
自分のフィールドががら空きなら、二枚ドローできるなんてものすごい強いカードだ。ノーリスクで二枚ドローできる魔法カード《強欲な壺》よりかは劣るが、たいして変わらない。
「俺はそのままターンエンドだ」
「城之内先生、考えているな」
「え?」
三沢大地が隣の丸藤翔に唐突に呟いた。
「十代のモンスターを破るのに、3枚の手札を使っている。けれど、それ以上の結果を、先生は残しているんだ」
「ロケット戦士を召喚しているっていうこと?」
「それだけじゃない。ロケット戦士に装備魔法をつけることによって2300という高い攻撃力を持つモンスターを場に維持できている。デュエルキングの武藤遊戯のエースモンスター、ブラック・マジシャンと余り変わらない攻撃力のモンスターを相手に見せつけているんだよ」
「でもアニキはバブルマンを守備表示にしている。融合でどうにかしてくれるはずだよ」
「そうだな。十代にもまだ、希望はある。相手ターンに二枚のカードをドローしたのは上手いと思う。だがそれは城之内先生も同じだ。手札は十代のほうがわずかに多いが、それでも相手はプロだ。どうなるか、わからない。十代が最初にバブルマンで二枚ドローしていたら結果は違ったかもしれないが」
「俺のターン、ドロー!」
十代は驚いていた。自分が3枚のカードを使って召喚したマッドボールマンを、相手も同じく3枚の手札で倒したことを。しかも場には、デュエルキングが信頼するモンスター、ブラック・マジシャンと同じ攻撃力を持つ通常モンスターがいる。自分の手札は5枚。じっと自分の手札を見つめる。
2300の攻撃力を超えることは可能だと、脳が叫んだ。
「―――よし、行くぜ! まず俺は、手札から《強欲な壺》を発動する。デッキから二枚ドロー出来るぜ。さらに俺は《E・HERO プリズマー》を攻撃表示で召喚!」
E・HERO プリズマー 星4 ATK1700 戦士族 光属性
光を反射する、透明な固体を主体としたモンスターが現れる。これでどうやって立ち向かおうというのか、城之内は微かにワクワクしていた。
(ヒーローカテゴリはとっても面白い。無限の可能性がそこには秘められている。窮地に陥っても、勝利への可能性を握りしめたまま戦う、まさにヒーローにふさわしいカードたちだ。さあ、次はどう見せてくれる?)
「プリズマーの特殊効果発動! 俺は融合デッキから融合モンスターを相手に見せて、その素材モンスターをデッキから墓地に落とす。さらにそのモンスターと同名モンスターとして扱うことができる! 俺はデッキから《E・HERO フェザーマン》を墓地に落とす!」
一瞬、その固体―――プリズムに羽の生えた屈強な戦士、フェザーマンが映し出されると、たちまち姿が変わり、そいつに変化した。
E・HERO プリズマー→E・HERO フェザーマン
「さらに俺は手札から《融合回収》を発動! このカードは、融合と、融合召喚に使った素材モンスターを手札に加える。俺は融合と、バブルマンを手札に加えるぜ」
一気に二枚のカードを手札に加えた十代は、ニヤッと笑い、叫ぶ。
「そして、《融合》を発動! フィールドのバブルマン、フェザーマン、そして手札の《E・HERO スパークマン》を素材にして―――現れろ、《E・HERO テンペスター》!!」
再び現れた融合の渦が、三体のモンスターを吸い込んでいく。そしてその渦から躍り出た戦士は、新たな力を得て誕生した。
E・HERO テンペスター 星8 ATK2800 戦士族 風属性
背についている、大きな羽から風が巻き起こり、城之内は思わず腕を庇う。しかし、ここまで十代の手札はほとんど減っていない。見事な戦術だ。しかも、ドローソースであるバブルマンを手札に加えるとは、考えている。
「すげぇなお前。ほとんど手札を消費しないで、ここまで強力なモンスターを出せるとはな……」
「へへっ……サンキュー先生。だけどまだまだだぜ! 俺は手札から、《おろかな埋葬》を発動! 効果により、《E・HERO バースト・レディ》をデッキから墓地に落とす。さらに《ミラクル・フュージョン》を発動! このカードは、フィールド・墓地のモンスターを除外して、融合召喚としてそのモンスターを召喚できる! 俺が除外するのはバーストレディと、クレイマンだ! そして現れろ、《E・HERO ランパートガンナー》を守備表示で融合召喚!!」
墓地に眠るヒーローたちは、再び融合をする。デュエルディスクに現れた異次元への穴に吸い込まれる二体のヒーローを犠牲にして、新たなヒーローが、フィールドに誕生した。
E・HERO ランパートガンナー 星6 DEF2500 戦士族 地属性
「おいおいまじかよ……たった手札一枚で、融合モンスターを召喚かよ……」
「そうさ、ヒーローは無限なんだぜ先生! じゃあ、バトルだ! テンペスターでロケット戦士に攻撃! カオス・テンペスト!!」
翼をはばたかせながら灼熱の炎と激流の水を合わせたパンチが、ロケット戦士の胴体を貫き、破散する。
「ぐっ……!」
城之内:LP4000→3700
「ああっ、アニキが城之内先生にダメージを与えた!!」
「しかもダメージを与えたのは十代が初めてだ……なんて奴なんだ」
翔と三沢は身を乗り出してその光景を見る。プロのデュエリスト相手にわずかながらダメージを与えるとは、かなりすごいことだ。
「効いたなぁ……これで終わりだろ?」
「いや、まだだぜ先生。ランパートガンナーの特殊効果発動! このカードは守備表示のまま直接攻撃できる! その場合、攻撃力は、ランパートガンナーの攻撃力の半分となる。よって1000ダメージだ!」
「そういう効果か……! やるなっ!」
ランパートガンナーは、右手にある兵器からミサイルを発射して、城之内に炸裂させる。すさまじい衝撃だったが、城之内は倒れもせず、きっと睨み続けている。
城之内:LP3700→2700
「俺はカードを一枚伏せてターンエンド」
城之内は、震え上がるほどに興奮していた。生徒だと思って手を抜こうかなどと考えもしたが、それは大きな間違いだった。十代は、本気で城之内を倒しに来ている。ならばそれに応えなくては、デュエリストとして、大人として、教師としての誇りが廃る。
現在十代のフィールドには、攻撃力2800のモンスター、そして守備力2500のモンスターが二体ならんでいる。どちらもとっても強力なモンスターだ。これらを倒さなければ、次のターンで敗北してしまう。手札3枚だけで、どうやって倒せばいいんだ……?
いや、きっと何か方法があるはずだ。ドローしたカードで、決めるしかない。
「俺のターン、ドロー!」
城之内は引いたカードをちらりと見る。握られていたカードは―――。
(果たして、うまくいくかな)
これには、運が試される。それも、十代の運も関係してくる。そして十代の知識などもだ。それらすべてが試されるこのカードを、発動した。かつてはギャンブラーデッカーと呼ばれていた城之内克也の本領が、発揮される時だ。
「俺は手札から、魔法カード《クイズ》を発動! 相手プレイヤーは、俺の墓地の一番下に落ちているモンスターを当てる。外れたら除外、当てたらそいつを特殊召喚だ。なお、今は墓地確認できないぜ」
フィールドに突如?マークを上にのせたピエロが現れる。モンスター当てクイズに答えてくださいとピエロがしゃべる。
「へぇ……面白いカードをつかうんだな。よし、俺はロケット戦士にするぜ!!」
たしかにロケット戦士だ。だが―――素直に頷くほど城之内は甘くない。いたずらな笑みを浮かべて彼に確認する。
「本当にそうかな? もしかして、ロケットの戦士かもしれないぜ?」
もちろんそんなモンスターは存在しない。だが―――十代は惑わされた。
「あれ、名前間違えているかも……じゃあ俺は、ロケットの戦士にするぜ!」
「―――はずれだ」
「え?」
ピエロが、バツマークを表示すると、パンと手をたたいて、たちまちワイバーンの戦士が現れた。
「残念、ロケット戦士だ!」
「き、きたねえぞ! 当たっているのになんでだよ!!」
「俺は聞いただけだからな。何も受付終了したとは言ってないぜ。素直にその通りだとでもいっておけばよかったのに」
これこそが、城之内の編み出したゆさぶりテクニックだ。クイズは一見相手に依存されるカードだと思われがちだが、たとえばあまり使われていないモンスターにこのカードを発動すると、カード名が分からなくなったりする。そこで間違ったカード名で揺さぶりをかけて失敗させて、特殊召喚するのだ。
「すごいテクニックね」
一方観客席では、一人の女子が、翔と三沢に話しかけてきたのが見えた。彼女はオベリスクブルーの天上院明日香、成績優秀者だ。
「城之内先生、十代に揺さぶりをかけたのよ」
「そうだな……ロケット戦士は普段見ないモンスター。だから初めて名前を聞くものも多いし、城之内先生の有名なモンスターといえばレッドアイズやサイコ・ショッカーだ。だから、十代も自信を無くして失敗してしまったんだろう」
「アニキもすごいけど……やっぱり先生もすごい」
「そうね。十代は少し違うと思っていたけれど……やはり先生はその先を行っているわ」
明日香は激しいデュエルが行われている戦場へと目を向けた。
「ところで天上院さんはなんで僕たちのところに来たんすか?」
「悪いかしら?」
「……いえ、別に」
ロケット戦士は特殊召喚されてしまったけれど、十代にとっては焦ることはなかった。ランパートガンナーと、テンペスターを突破できる攻撃力はないからだ。だが一方で相手はプロデュエリスト、どんな手を使ってくるか予想もできない。
―――果たして、城之内には秘策があった。
「ロケット戦士が特殊召喚された瞬間、俺は速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動! 効果により、俺は手札、デッキ、墓地からフィールド上の特殊召喚された同名モンスターを可能な限り特殊召喚する! お前にも適用されるが、ヒーロー融合モンスターは、融合召喚以外では特殊召喚できないようだな。つまりお前のモンスターは増えることはない」
地獄の暴走召喚は、攻撃力1500以下のモンスターを可能な限り特殊召喚できる、かなり強いカードだ。最大3体まで特殊召喚できるということは、上級モンスターを召喚もできることも指していた。
(一応デッキ調整しておいてよかったぜ……このカードがあれば、あいつだって出せる。3体のモンスターを要求する、俺のもう一つのエースが!!)
「さて、すべてが整ったぜ! 俺は、三体のロケット戦士を生贄にして―――」
「さ、三体だと!?」
十代は、三体を生贄にするモンスターを知っていた。オシリス、オベリスク、そしてラーだ。いずれもデュエルキング武藤遊戯が使用したということは聞いたことがあるが、まさか城之内先生もそれらを、あるいはそれに匹敵するほどの強さを持つモンスターを所持しているのか。
戦慄とともに、迎えられたそのモンスターの名前は―――。
「俺のもう一つのエースだ、現れろ! 《ギルフォード・ザ・ライトニング》!!」
雷光と共にさっそうと登場したのは、たくましい肉体に、大きな剣を持つ戦士だ。だが、威圧感のある相貌は、すべてを消し去る決意を込めている。
ギルフォード・ザ・ライトニング 星8 ATK2800 戦士族 光属性
「3体のモンスターを生贄にして……八つ星モンスターだと?」
城之内が召喚したのはレベル8のモンスター。本来ならば二体で済むものをわざわざ3体を生贄にして召喚したのだ。まさかこのモンスターに何か特殊能力があるというのか?
「ああそうさ。だけどな、こいつには秘められた力があるのさ。3体を生贄にして召喚した時、相手フィールド上のすべてのモンスターを破壊する!!」
「何!?」
「喰らえっ、ライトニング・サンダー!!」
城之内が叫ぶと、ギルフォードは剣を天にかざしてそのまま振りかぶる。すると、剣に雷が宿り、バチバチとうなる。そのまま振り下ろされた太刀からは、すさまじい雷撃が二体のモンスターに襲い掛かった。
神に等しい力を手に入れた一人の戦士に太刀打ちできるはずもなく、二体の融合ヒーローはむなしく散っていった。
「くそっ……」
これでフィールドはがら空きだ。あとはこのまま攻撃をたたき込むだけだ。
「バトルだ! ギルフォード・ザ・ライトニングでダイレクトアタック!! ライトニング・クラッシュ・ソード!!」
雷のエネルギーをため込んだギルフォードはまっすぐ十代のもとへと飛び掛かり、大きな太刀で切り裂こうとする。しかし―――。
「この瞬間、リバースカードオープン!! 《クリボーを呼ぶ笛》発動!! 効果により、クリボー、もしくはハネクリボーをデッキから手札に加えるか特殊召喚することができる。俺は、デッキから《ハネクリボー》を守備表示で特殊召喚!!」
十代は、リバースカードをオープンする。効果によって、デッキから羽の生えたクリボー、ハネクリボーが、守備表示で特殊召喚された。
ハネクリボー 星1 DEF200 天使族 光属性
妥当な手段だと思う。2800のダメージを喰らうと何かと都合が悪い。だが―――城之内の頭の中に、一つの疑問がぐるぐるとまわっていた。
―――なんで、お前がそれを持っているんだ?
クリボーといえば、遊戯のデッキに入っている、大切なカードだ。クリボーの派生カード、ハネクリボーもその一つで、遊戯が大切にしていたカードでもある。だが、そのカードは今十代にわたっている。
「どういうことなんだ……? どうしてお前が、そのカードを持っているんだ?」
城之内はハネクリボーを指さしながら、尋ねる。十代はへっ? と間抜けな面を見せながら答えた。
「これっすか? これは、デュエルキング、武藤遊戯からもらったんだ。こいつが君の所に行きたがっている、って言われて、貰ったんだ」
遊戯がハネクリボーをあげただと? 遊戯はめったにカードをあげない人間だ。ケチとかそういう問題じゃなく、すべてのカードがレアカードだと考えているから、あげようとはしない。そんな遊戯があげたということは―――まさか、この遊城十代という少年には、遊戯を認めさせるほどの力があるとでもいうのか?
……合点がいった。
遊城十代は、明らかに他の生徒とは違う何かを持っている。全てのカードを信頼し、的確な戦術でヒーローを繰り出している。彼は優秀なデュエリストになれる。それも、遊戯に匹敵するほどの、立派なデュエリストに。
でも、それだけじゃだめだ。デュエリストという肩書よりも、もっと大事なものも掴ませなくてはならない。でも、ありえないくらいに純粋なこの少年にとってはきっと楽なことに違いないだろう。遊戯はそこまで感づいて、あのカードを渡したんだろう。いや、正確には遊戯の心を知るハネクリボーが、遊戯に近い、十代のもとへと、飛び込んだのだろう。
尚更楽しくなってきたな……遊戯のモンスターが認めたデュエリストとならば―――本気でやらない理由は一切ない。全力で相手になってやる。一人のデュエリストとして、俺はおまえを倒す!!
その決意を胸に込めて、城之内は叫んだ。
「ならハネクリボーに攻撃だ! ライトニング・クラッシュ・ソード!!」
雷を込めた一撃が、ハネクリボーに振り下ろされる。小さな悲鳴と共に散ったハネクリボーだが、主人を守ることには成功した。
「ありがとなハネクリボー。お前の想い、無駄にはしないぜ!!」
十代は墓地に眠ったハネクリボーに一言告げると、きっと城之内を見据えた。
「俺は一枚伏せてターンエンドだ。さあ、かかって来い、遊城十代!!」
「ああ、行くぜ先生!! 俺のターン、ドロー!!」
本気でぶつかり合う二人のデュエリスト。勝敗は、カードのみが知るのであった。
おろまいは十代は使っていませんが、ご了承ください。