遊戯王GX 凡骨のデュエルアカデミア 作:凡骨の意地
新規カードめっちゃ入ってきてますのでキャラクターカードのエクシーズシンクロ使いたいですね。《青き眼の乙女》とか《幻想の黒魔術師》とか。
もしかしたらタグをはずすかもしれませんが、極力シンクロやエクシーズは使わないようにします。(使うとしても説明はいれる)
遊戯のデッキ盗難事件が解決してから一ヶ月ほどたった。その間にデュエルアカデミアの姉妹校との対抗デュエルが行われて、非常に盛り上がった。中でも姉妹校代表として出た万丈目準の成長は眼を見張るものがあった。彼は最近成績を落とし、デュエルアカデミアを出ていったが、たどり着いた先がその姉妹校であり、そこで腕を磨いてきて人間的にも実力的にも一回り大きくなって帰ってきたのだ。対抗戦で本校代表の遊城十代には負けてしまったものの、以前の彼が抱いていた、レアカードこそ至高という考えはもうなくなっていた。
そしてそれから数日たったあと、新たな事件が、起ころうとしているのである……。
城之内は鮫島校長に呼び出されていた。何の用かと思い、緊張しながら校長室のドアを叩いた。
「失礼します」
平静を装いながらドアを開ける。ドアの向こうのデスクに、鮫島校長が座っていた。彼の表情は割りと穏やかで少し安心した。城之内は歩みより、頭を下げる。
「急に呼び出して悪いね。実は君に知らせがあるんだ」
「知らせ、ですか?」
「うむ。これを読んでくれ」
鮫島校長は城之内にプリントを手渡した。海馬コーポレーションのロゴがついていることから、きっと海馬辺りが送ってきたものなんだろう。それだけで読む気を無くすのだが、仕方がないので目には通す。
だが、よく見ると送り主は海馬ではなかった。
「From海馬モクバ……? モクバか!!」
海馬の弟の名前がそこにあったとたん、城之内の表情は緩む。モクバは大の兄思いであるが割りと常識的なところがあり、海馬よりかはまともであるので付き合いやすい相手ではある。無論最初は恐ろしいほど残忍であったが、海馬の心が砕かれてからはモクバも変わっていった。
「海馬モクバ殿は海馬コーポレーションの次期社長になられる予定らしいよ」
「へぇ……あいつがですか……まあ海馬の弟ですもんね。んで、どれどれ……」
城之内は手紙の内容を読んでいく。
『To城之内克也
From 海馬モクバ
城之内に新たな仕事を与えると兄様が言っていた。これからアメリカで行われるアメリカのデュエル大会の観戦をし、更なる教育の発展を見せてほしい、だそうだ。というわけでこれからアメリカへ飛んでいってくれ。経費はすべてこちらで落とす』
「こういうのは海馬に似てるよなあ……」
まあさすがに海馬の弟だけあって、威張りきっている文体であった。でもこれで次期社長はさすがに不味いのでは無いのだろうか……。いや、海馬の野郎はもっとひどいか。
「ともかく、君は海外に行ってそのデュエルを見てくるのだ。まあ君はプロデュエリスト故に見に行く必要があるのかどうかは正直疑問だが、まあ講義内容も充実することだろう。そういうことだから行ってくれたまえ」
「はぁ……まあでも俺も生でアイツらの、遊戯たちのデュエルを見たいんで嬉しいです! 期間はどれくらいですか?」
「とりあえず二週間程度だそうだ。三日後にデュエルの大会が始まるから明日にいけば問題ないだろう」
「そうですね。そうと決まれば支度してきます!」
城之内は笑顔で部屋を出て自室へと戻った。
まさか自分がアメリカに行けるとは思わなかった。急すぎる出張だが、城之内は別に苦にも思っていない。何故なら、親友に会えるから。恋人に、舞に会えるから……。
詰まるところ城之内は舞に会いたいがために仕事を受けたといってもいい。舞は遊戯と共にアメリカへ飛んでいき、大会でデュエルをすることになっている。舞とは文通はしていて、一回戦の相手がなんと遊戯だそうだ。テレビで絶対応援すると書いたが、城之内が現地で試合を見ることが出来るのは、幸運である。
「さーて、用意をしていきますか」
城之内は自室のドアを開けると早速荷物をまとめ始めた。
その翌日。
城之内は飛行機でロサンゼルスへと向かい、そこらのビジネスホテルにカタコトの英語でチェックインして宿泊した。そして翌日、ホテルからタクシーで数十分いったところに今回の大会のスタジアムがあるのでそこに向かった。名前は《海馬ドームUSA》だそうだ。
またしてもカタコトの英語で緊張しながらもどうにか現地につくことが出来た。海馬ドームUSAの近くの広場では既にチケットでの長蛇の列が出来ており、すぐに売り切れてしまった。城之内はモクバが送ってきてくれたチケットで見ることが出来るので心配することはない。
城之内は入り口でチケットを見せ、通過しようとしたが。
「Excuse me. Could you show me inside your bag?」
「え?」
会場に入ろうとしたが、突然係員に止められた。だが、何で止められたか分からない。英語を話したみたいだけど、何て言っているのか分からない。
「Ah,,,Do you understand what I said?」
「の、ノー!!」
マジで分からない。というか何といっているか分からないけどノーと言ってしまった。
「PLEASE SHOW ME BAG!!」
「ひっ!?」
係員がキレながら城之内に迫る。城之内がいつまでも理解しないからだろう。だけど出来ないものは出来ないわけだしどうすれば……。
「Sorry.He is Japanese,so he can't speak English.What did you say to him?」
突如後ろから流暢な英語が聞こえた。城之内は驚いて振り向くと、そこには紺色の深めの帽子をかぶった女性がいた。
「For our safety,I ordered him to show me his bag.」
「Okay.バッグの中身を見せろっていってるわ」
「そ、そうですか……」
城之内はバッグのジッパーを引っ張り中身を見せる。呼び止めた男はじっと見つめ、確認を終えると笑顔で中に入るようにジェスチャーした。さっきまでの怒りの表情が嘘みたいだ。
しばらく歩いて城之内は振り返る。先程助けてくれた女性にお礼を言うためだ。
「あ、あのさっきはありがとうございました!」
「いいってことよ。これくらい大したことじゃないわ。向こうにいれば自然と覚えるものよ」
「でもそれでも英語しゃべれるのはすごいことです。俺学がないもんですから……。とにかく、ありがとうございました」
「良いわよ別に。それより試合、そろそろじゃない?」
「ああ、そうっすね……そろそろ第一試合が始まるんですよね。じゃあ俺いきますんで失礼します!」
「ええ、じゃあね」
女性はそういって別の方向へと向かっていった。あの女性がいなかったら城之内はあそこで立ち往生していたかもしれないと思うと、感謝の思いで一杯になる。
ただ、いつまでもそんな気分には浸れない。そろそろ試合が始まってしまうからだ。
「さて、そろそろいかねえとな」
城之内はチケットに記されている場所へと足を向けた。あと五分で始まってしまうため、あんまり猶予はない。
観客席へとつくとそこには大勢の人間が既に席に座っていた。興奮の声が飛び交い、今か今かと試合が始まるのを待っている。城之内も席に座り、フィールドを眺めた。
ーーー俺もかつてはこの場所にいたんだ。
城之内もこういうスタジアムで強敵たちとデュエルをしていたことを思い出す。どちらが勝ってもおかしくない勝負を幾度も繰り広げ、観客たちを、自分達を沸かせた。あの頃は、楽しかった。
選択肢がない訳じゃない。もう一度ここに立てないことはない。何故なら城之内と同じようにプロリーグを辞めさせられた遊戯がこうして舞台に立つことが決まっているからだ。プロリーグの出場はできないけれど、ギャラは少ないがこうした別の大きな大会には出場できるのだ。
でも今は、もうここに立つことはない。城之内は、この舞台から身を退いたのだから。プロの道は捨てたんだ。
『皆さんお待たせしました!! 第一試合が始まります!! 最初の対戦相手は、インセクター羽蛾VSエミーです!! どうぞッッ!!!!』
「は、羽蛾だと!?」
まさか一回戦の第一試合にインセクター羽蛾が現れるとは……。アイツ戦績がそんな対して良くないくせに良く出られたな。
インセクター羽蛾については言うまでもない卑劣漢だ。卑怯な手をあれこれ構じて何としてでも勝とうとする嫌な奴だが、最近はどんどん下火になってきていて、デュエル界からも姿を消したと思ったのだが。
『インセクター羽蛾選手は元全日本チャンピオンで、実力は相当のものと言えるでしょう! 今回のデュエルでどう見せてくれるのか楽しみです!!』
元全日本か。もう十年以上も前だぞ……。
『対するエミー選手は、実績はないながらも的確なデュエルタクティクスで戦い抜く強者です!! プロ相手にどんな戦いを見せてくれるのでしょうか!? さあ、両選手フィールドにどうぞ!!!!』
羽蛾の相手が新人か。羽蛾も腕は落ちていっているとはいえ素人では絶対に勝てない。新人で果たしてどこまで通じるだろうか。
二人の選手が同時にフィールドに現れ、スタジアムは歓声に包まれる。特に羽蛾は知名度は高いので盛り上がりはそれなりにある。
城之内はエミーという新人を見る。遠くて見辛いが、紫の帽子を被っている。
「ん?」
紫の帽子を被った女性に見覚えがあった。そういえば、さっき城之内が困っていたときに助けてくれた女性にそっくりだ。あのときは顔も見えなかったが紫の帽子で分かった。遠い席の人でも分かるようにスクリーンが設置されているがそのスクリーンでは彼女の顔がアップされている。
日本語は流暢で髪は金髪、目は蒼いので外国人のハーフだと思う。しかも舞よりも若く見え、なかなか可愛い。
「お、俺には舞がいるんだ」
もし舞の前で鼻の下でも伸ばしていたら、殺される。背筋が寒くなるのを感じて城之内はじっとフィールドを見つめた。スクリーンを見なくてもフィールドは分かるし、フィールドの方が臨場感はずっとすごい。
『では、デュエルを始めます!! 先行はインセクター羽蛾からとします! では、デュエル開始!!!!』
デュエル開始の合図が響き、観客は拳を突き出す。二人は互いにデュエルディスクを構えて、同時に叫んだ。
「デュエル!!」
「先行はボクだ、ドロー!」
羽蛾の先行でデュエルが始まった。一体どんな風に攻めてくるのだろうか。羽蛾のことだからうざったいモンスターでじわじわと追い詰めていくのだろう。
だが、今回の羽蛾は意外にも大胆だった。
「早速行くぜ!! ボクは、魔法カード《青天の霹靂》を発動!! こいつは手札のレベル10以下の通常召喚できないモンスター一体を召喚条件を無視して特殊召喚できるカード!! ボクが召喚するのは当然、《究極完全体・グレート・モス》だ!!!!」
究極完全体・グレート・モス 星10 ATK3500 昆虫族 闇属性
「ぐ、グレート・モス!? いきなりかよ!?」
究極完全体グレート・モス。
それはブルーアイズすら越える究極の虫であるが、《プチモス》というモンスターに《進化の繭》を6ターン装備しないと召喚できないという過酷な召喚条件を持つ。しかしそんなモンスターを僅か1ターンで召喚してしまうとは……!
「ヒッヒッヒ……さらにボクはさらに、モンスターをセットして、ターンエンドさ」
だが、《青天の霹靂》にはデメリットがある。発動したターンには、攻撃も、あらゆる召喚、特殊召喚も許されておらず、更に相手のエンドフェイズにそのモンスターはデッキへと戻っていってしまう。ということは伏せたモンスターに秘策があるのだろう。
さあ、この大型モンスターに対して、どう戦うんだ?
「私のターン、ドロー! 私は《鉄の騎士 ギア・フリード》を召喚!」
鉄の騎士 ギア・フリード 星4 ATK1800 戦士族 地属性
「ギア・フリード……!」
城之内はエミーを見る。このモンスターは城之内も使用したことがある。装備した装備魔法を破壊する効果があり、ステータスもなかなか高い。だがそれでもグレート・モスには及ばない。となればセットモンスターを攻撃するのだろうか。
「バトルフェイズに入るわ! ギア・フリードでセットモンスターを攻撃!! 鋼鉄の手刀!!」
ギア・フリードはセットモンスターへと飛びかかり、手刀を浴びせる。
「ヒョヒョヒョ、甘いな! 僕のセットモンスターは《G・B・ハンター》! 守備力は2000だから破壊はされない!!」
G・B・ハンター 星4 DEF2000 戦士族 地属性
「くっ……」
エミー:LP4000→3800
羽蛾のセットモンスターの方がステータスが高かった。よってエミーのライフが削られる。
しかし何故羽蛾は戦士族を使っているのだろうか。あいつのデッキのコンセプトからして違うのに。
「私はカードを一枚伏せてターンエンド。あなたのグレート・モスはこれで消滅するわね」
エミーのターンエンド宣言の時に、《青天の霹靂》の効果が発動するはずだ。これでグレート・モスが消滅したら多少は有利になるはず……。
「いや、そいつは発動しないぜ」
「何ですって?」
「《G・B・ハンター》が表側表示になっているとき、フィールドのモンスターはデッキには行かないのさ。つまり、青天の霹靂の効果は無効となる!!」
なるほど。羽蛾の行動の意味が分かった。1ターンしかいられないにもかかわらず、グレート・モスを召還するなんて馬鹿だなと思っていたが、こういう手を打っていたとは。羽蛾がわざわざ戦士族モンスターを採用したのにもこれが理由ってわけだ。
ともかく攻撃力3500のモンスターがフィールドに残ってしまった。その事実は相手にとってとても不利である。
「ヒャヒャヒャ、ボクのターン、ドロー! そのままバトルだ、グレート・モスでギア・フリードを攻撃だ!!」
グレート・モスが巨体をギアフリードに近づけて、口から気持ち悪い液体を吐き出す。攻撃力の差は明らかで、どう考えてもギアフリードが不利であった。
だがーー。
「リバースカードオープン! 罠カード《鎖付き爆弾》発動!! ギア・フリードに装備するわ!! ギア・フリードの効果で鎖付き爆弾が破壊されるけど、その時に特殊効果発動!! このカードが破壊され墓地に送られたとき、相手のカードを一枚破壊する!! 私が破壊するのは、当然グレート・モスよ!!」
「何だと!?」
鎖付き爆弾がギア・フリードの体から外れると、その瞬間に爆発し、グレート・モスを巻き込んだ。何一つ耐性を持たないグレート・モスに防ぐ術があるはずもなくフィールドで塵と化してしまった。羽蛾は悔しそうな表情を浮かべる。
「くっ……僕はこれでターンエンドだ!」
「私のターン、ドロー!! 私は魔法カード《拘束解除》を発動!! 《鉄の騎士 ギア・フリード》を生け贄に捧げて、デッキから《剣聖ーネイキッド・ギア・フリード》を特殊召喚する!!」
剣聖ーネイキッド・ギア・フリード 星7 ATK2600 戦士族 光属性
ギア・フリードの鉄壁の鎧が外されていき、逞しい肉体を見せつける。というより、あの鎧はギア・フリードの強大な力を押さえ込むためのものであり、その拘束を解いたこのモンスターの力は壮大なものだろう。
「更にネイキッド・ギア・フリードに装備魔法《閃光の双剣ートライス》を
発動!! このカードは装備モンスターの攻撃力を500下げる代わりに二回攻撃を可能にする効果があるわ!!」
剣聖ーネイキッド・ギア・フリード ATK2600→2100
「二回攻撃か……だが、そんな程度じゃボクは倒せないぞ!! 僕にはまだ壁モンスターがいるんだからな」
「いや、これで終わりよ。ネイキッド・ギア・フリードが装備魔法を装備したときに効果発動、相手モンスターを一枚破壊する!! 破壊するのは当然、《G・B・ハンター》!!」
「なっ、何!?」
ネイキッド・ギア・フリードの一撃により、羽蛾の壁はあっけなく散った。これで羽蛾のフィールドはがら空き、勝負はあった。
だが、彼女はバトルフェイズにはすぐに入らなかった。
「私は更に《死者蘇生》を発動、《鉄の騎士ーギア・フリード》を墓地から特殊召喚する!」
鉄の騎士ーギア・フリード ATK1800
「そして私は装備魔法《盗人の煙玉》を発動、ギア・フリードに装備する。そしてギア・フリードの効果で破壊され、効果発動! このカードが破壊されたとき、相手の手札を見て一枚墓地に捨てる!!」
「ひっ……!?」
まさかオーバーキルしようというのか。閃光の双剣で2100の二回攻撃をすればそれで羽蛾の敗けだというのに、墓地に眠るギア・フリードを復活させ、そして手札まで奪い去る。可愛い見た目によらずかなりえげつない。
「……なるほど、手札誘発系のカードはまだあまりないのね。なら、《死者蘇生》を捨てるわ!!」
「お、オーバーキルなんてマナー違反だぞ!?」
「オーバーキルかもしれないけど、もしあなたが《かかし》なんて持ってたらたまったものじゃないわ」
かかし……? どういう意味だ?
対戦相手の羽蛾も顔をしかめている。
それでもひとつ間違いないのは、彼女の勝利が決定的になったことだ。
「バトルよ、全員でダイレクトアタック!!!!」
「ぐわああっっーー!!!!」
羽蛾:LP4000→1900→100→0
ギア・フリード達の総攻撃を食らった羽蛾の断末魔が響き渡り、デュエルは終了した。
***
城之内は先程の試合を思い返しながら廊下を歩いていた。エミーの使っていたデッキは、《ギア・フリード》だと思う。ギア・フリードの破壊効果を利用して相手の手札を奪ったり破壊したりするトリッキーなものだ。
でも、まだ余力を隠している気がする。見せているカードも5枚程度でしかなく、奥の手のようなものは分からない。
それに引っ掛かるのは、《かかし》という言葉だ。エミーは羽蛾の手札に《かかし》がああったんじゃないかと疑っていた。でもそんなカードは、存在しないはずだ……。
「ま、いいか。取り合えず舞の試合がいつか観に行かなくちゃな」
難しいことは後に回すのが、城之内のやり方だ。考えても無意味だし、聞き間違いだってある。城之内はきっぱり忘れることにした。
***
海馬ドームUSAの社長室にて、海馬瀬人が一人座っていた。デッキの調整をするためだ。
だが、携帯電話が鳴り響いたため中断する。
「何だ?」
「海馬様。お客様が来ております」
「客だと? 通せ」
「はっ」
携帯電話が切られると、社長室のドアが開く。このドアはオートロック式になっており、海馬がオンにすれば開く仕組みになっている。
海馬はドアの方をみる。そこには紫の帽子をかぶった、金髪の女がいた。
「ん、貴様は出場選手のエミーだな?」
「ええ、海馬さん。あなたに少しお話があってきました」
「言っておくが、この俺のデッキの情報を探ろうとしても無駄だぞ?」
「貴方のデッキの情報を頂くために来たのではありません。貴方の、未来についてお話ししに来たのです」
「未来……だと?」
海馬は顔をしかめた。未来の話だと?
「ふっ……下らん。未来のロードはこの俺が作るのだ、貴様に語られるまでもない」
「なら、こう言っておきます。貴方の未来のロードは、もうじき消えてなくなるのです。3枚の、神のカードによって」
「……何?」
海馬はエミーを睨み付ける。神のカードによってすべてが終わるだと?
……馬鹿馬鹿しい。
「オベリスク、オシリス、ラーがこの世界を破壊するとでもいうのか? 確かにその力はあろうが、その所持者は遊戯だ。奴が世界を破壊するとは思えん。それに奴が世界を破壊するとなったらこの俺が完膚なきまでに叩きのめすまでだ」
「いえ、その三枚ではありません。私のいう3枚のカードは……三幻魔のことです」
「…………何だと!?」
三幻魔という名前を聞いて海馬は初めて大声をあげた。
この神達の名前は知っている。デュエルアカデミアの地下の《七精門》と呼ばれるところに封印されている神のことで、その神が復活すれば、全ての精霊達の力は消えてしまい、世界が崩壊するという。あの封印を解くものなどいないと思っていたのだが。
「貴方なら、そのモンスター達の恐ろしさが分かるはず。あのモンスターたちが封印を解いて復活すれば、未来は崩壊する……」
「……ということは、貴様の時代では三幻魔が復活してしまったということか」
「そう……デュエルアカデミアの地下での封印が解かれてしまい、世界は崩壊寸前よ」
「……なるほどな。要するに貴様は未来を変えるべくこの俺に接触し、三幻魔の封印を阻止しろということか」
「そういうこと。私はそのために未来から来たの。わずかに残されている、デュエルモンスターズの精霊の力でね」
「精霊の力か……正直戸惑うところはあるが目を瞑ろう。で、三幻魔を食い止めるにはどうすればいいのだ」
「封印を解く鍵を守ればいい。その鍵はデュエルアカデミアにあるのだけれどそれを狙う7人の刺客がいるのよ」
「要はそれを倒せばいいわけだな」
「そう。でもただ倒すだけじゃダメなの」
「なに?」
海馬はぴくっと眉を動かす。
「三幻魔の封印を解くもうひとつの鍵は、《闘志》なの。お互いにデュエルをするときに生まれる気合いみたいなものね。それが三幻魔を復活させてしまうのよ。いくら鍵を死守してもそれが足りていれば鍵が開かれてしまうの」
「つまり……相手を完膚なきまでに叩き潰して戦意を失わせればいいわけだな?」
「その通りよ。でもそれはデュエルアカデミアの生徒ではできない。だから貴方に頼んだのよ」
「まさにこの俺が適任ということだな」
「他にもいろんなデュエリストに声をかけるつもりだけど、どうする?」
エミーの言葉に対し、海馬はふんと鼻で笑う。
「その程度俺一人で十分よ。わざわざ他の弱小デュエリストの手を借りるまでもない」
「それなら話は早いわ。じゃあ私はこれで」
エミーは背を向けて社長室を去る。だが。
「待て、最後に一つ聞きたいことがある」
「何かしら?」
「貴様がこの大会に出場したのは、本当にこの俺に接触するためか?」
「そうよ。私は未来を変えるために来たの。目的はそれだけだわ」
「そうか……余計なことを聞いてすまなかった」
海馬はそれだけいい、目を閉じた。聞こえたのは静かな足音とドアが閉じる音だけだった。
「三幻魔の復活を防ぐにはデュエルアカデミアに向かうべきだな」
海馬は手元にあるスケジュール張を眺める。予定はかなりびっしりだが、この大会の管理を別の人間に任せればまあまあ空くだろう。
海馬は携帯を取り出し、磯野を呼び出した。
「磯野、俺だ。今回のデュエル大会の運営を貴様に託す。俺はこれからデュエルアカデミアに行かねばならなくなったからな」
「えっ、何故ですか?」
「デュエルアカデミアに眠る三幻魔のカードのことでだ」
「なるほど……では至急アメリカへと参ります」
「俺が留守の間頼んだぞ、磯野」
海馬は通話を切り、デスクをたつ。かけてある、ブルーアイズをイメージしたコートを羽織って部屋を出る。
海馬がたどり着いたのは自家用ジェットが格納されている場所だ。こちらもデザインはブルーアイズをイメージしたものとなっている。海馬はそれに乗り込み、エンジンをいれる。
「俺のロードは誰にも邪魔させんぞ……」
海馬はエンジンの出力を上げ、格納庫から一気に空へと飛び出した。空はもう暗く、静かな夜だがこんな目立つ飛行機が飛ぶと下界は騒がしくなる。でも海馬にはどうでもいいことだった。これからのロードに関わる、大事なフライトなのだから。
エミーというキャラはオリジナルです。割りとオリジナル要素を付け足しているのですが、ご容赦ください。十代君のワンマンプレイではなくなっているので。