遊戯王GX 凡骨のデュエルアカデミア   作:凡骨の意地

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ちょっとアニメと結末が違います。



十六話:決闘王の強さ

***

 

 

「神楽坂の奴、ここまであのデュエルキングのデッキを使いこなすなんて……!」

 

 十代がぎりっと歯を鳴らしながらフィールドを睨む。今、城之内先生と相対する神楽坂は、《ブラック・マジシャン》、《超魔導戦士ーブラック・パラディン》、貫通効果を持つ《螺旋槍殺》を装備した《疾風の暗黒騎士ガイア》、そして驚異の二回攻撃能力を持つ《カオス・ソルジャー 開闢の使者》をフィールドに召喚している。十代が戦ったときだってこんなに展開はされていなかった。そしてさっきのターンに猛攻撃を受け、どうにか凌いだものの、城之内先生の残りライフは800、羊トークンが僅か二体とかなり厳しい状況になっている。このままなにもしなければダイレクトアタックを喰らって終わりだ。

 

「このままじゃ不味いんだな……何とかマジックアーム・シールドで防いだけど、このまま攻撃されたら終わりなんだな」

 

「しかもカオス・ソルジャーには二回攻撃の効果もあるから、セットしても無駄ッスよ……」

 

 やはり城之内先生に勝機はない。十代と翔と隼人は神楽坂の勝利に揺るぎはないと感じた。

 だが、城之内は諦める様子はない。闘志をギラギラと燃やしながら、カードに手をかけた。

 

 

 

***

 

 

 

 

「俺のターン……ドロー!」

 

 想いを込めたドローに、カードは応えてくれたのか。この場にいる全ての人間が城之内に答えを求めた。

 城之内はちらりとカードに視線を向ける。悪くないカードだ。状況を覆せるチャンスを生み出せる可能性がある。城之内はそのカードを躊躇なくデュエルディスクに置いた。

 

「俺は魔法カード《紅玉の宝札》を発動! 手札のレベル7のレッドアイズモンスターを一枚捨て、二枚のカードをドローする! 俺は《真紅眼の黒竜》を手札から捨てるぜ」

 

「だがこの瞬間、超魔導剣士ーブラック・パラディンの効果で攻撃力を500ポイントアップする!」

 

超魔導剣士ーブラック・パラディン ATK2900→3400

 

 レッドアイズ専用サポートカードを使って新たに二枚ドローする。神楽坂のフィールドには、あらゆる魔法を無効にするブラック・パラディンがいるが、神楽坂の手札が0枚なので発動できない。それが救いだった。最も、墓地にドラゴン族を捨ててしまったことで、攻撃力が上がってしまったが。

 切り札のレッドアイズを捨てるのは惜しいけれど、生け贄不可のトークン二体が並ぶこの盤面では全く役には立たない。

 再びドローした城之内はカードを確認する。新たに引いたカードはーーー。

 

「俺は《ランドスターの剣士》を守備表示で召喚し、さらにカードを二枚伏せてターンエンド」

 

ランドスターの剣士 星3 DEF1200 戦士族 光属性

 

 か弱い剣士を召喚し、守りの態勢に入った。だが、それは守りにもなっていない。何故なら貫通効果持ちの暗黒騎士ガイアがいるからだ。あれで羊トークンを攻撃されれば為す術もなく敗北へと陥る。

 だが、城之内だけは見えていた。たったひとつだけの、勝ち筋が。

 

「ふふ、もう諦めたんですか? じゃあ俺のターン、ドロー!」

 

 すっかり余裕の神楽坂はドローを終えたあと、すぐにバトルフェイズに入った。

 

「これで終わりだ城之内先生!! 疾風の暗黒騎士ガイアで羊トークンを攻撃だ! スパイラルシェイバー!!」

 

 暗黒騎士ガイアは真っ直ぐ馬を駆り出し、槍を羊に向けた。命を貫く槍が、すぐそばに迫ってきた。

 だが、城之内はまだ諦めていなかった。いや、むしろここからが、大逆転の始まりだった。

 

「この瞬間、リバースカードオープン! 罠カード《モンスターBOX》発動! さらにそいつにチェーンして罠カード《シフトチェンジ》! シフトチェンジの効果により、暗黒騎士ガイアの攻撃対象を羊トークンからランドスターの剣士に切り替えるぜ!」

 

 羊トークンに突っ込む暗黒騎士ガイアだったが、突如目の前に現れた悪魔がランドスターの剣士を指差した。律儀にもガイアはそれに従い、再び鋭利な槍をランドスターの剣士に突き出した。

 このまま貫かれたら負けてしまうほどに頼りない守備力だが、城之内はこのモンスターに全てを賭けていた。小さな剣士だが、その力は決して小さくないのだ。

 

「そしてモンスターBOXの効果を発動! 表か裏かを決めて、そのあとコイントスをする。同じ面なら相手モンスターの攻撃力を0にして、違う面ならそのまま攻撃される」

 

 暗黒騎士ガイアの攻撃力を0にすることができれば、ランドスターの剣士の守備力分のダメージを与えることができる。だが、これはギャンブルに成功したときのみ。つまり、城之内は運で勝敗を決めようというのだ。

 

「くっ、くくくく……はははは!! まさかギャンブルで決着をつけようってことか!?」

 

 神楽坂は城之内の戦術を察し、高笑いをあげた。他の生徒たちも疑念の色を示している。それは当然だ。ギャンブルというものは、いや、運というものはデュエルモンスターズに於いては戦略に組み込めるほどのものではない。せいぜいドローカードを左右する程度でしかない。

 だが、城之内に至っては例外だった。運というものを信じている。運も、戦略と同等に考えている。だから、この方法にするのを躊躇わなかった。

 

「ああそうだよ。俺は、コインに運命を託すぜ。表を、選ぶ」

 

 城之内は不適に笑いながら親指にブルーアイズの描かれたコインを載せた。神楽坂はそれに対し、嘲笑を浴びせた。

 

「じゃあまず、一回目だ」

 

 まず一回目。

 もしかしたらこれで終わりかもしれないこの状況で、あたかもまだ続くかのような言葉を発する。城之内には自信があった。このコイントスは、成功すると。何故だかは、分からない。強いていうなら長年のギャンブルデュエルで培った勘があるから、だろう。

 城之内は勢いよく親指でコインを弾く。心地良い音と共にくるくると回っていく。やがてコインは地面に吸い寄せられるように落ちていき、チャリンという軽い音が小さく鳴り響いた。デュエルディスクがすかさずコインの表裏を確かめる(このコインはデュエルディスクにあるものである)。結果はーーー。

 

「ーーー表だ」

 

 ニヤリと、城之内は結果を宣告した。コインは、表になった。

 

「ば、バカな!? 命中するだと!?」

 

「この瞬間効果発動! 疾風の暗黒騎士ガイアの攻撃力を0にし、そのまま戦闘する!」

 

疾風の暗黒騎士ガイア ATK2300→0

 

 モンスターBOXの効果で弱体化されたガイアはか弱い剣士すら貫けず、そのまま撤退した。

 

神楽坂LP:2700→1500

 

「くっ……だがこれはまぐれだ!! 俺には後4回も攻撃が残っているんだ!!」

 

「まぐれではあるな。イカサマはしてないし。けど、次も当たると思うぜ。ほら、攻撃してこいよ」

 

「舐めるな!! ブラック・パラディンでランドスターの剣士を攻撃だ!」

 

「じゃあ俺も発動するぜ。コインは、裏だ」

 

 強力な魔術師が呪文を放った。が、城之内は構わずコインを弾く。夜の空で暗い視界に覆われているなか、コインだけが輝いている。

 やがて輝きを失い、再び地面に落ちたコインは……裏だった。

 

「な、ななななにっ!? あ、あり得ない……!!」

 

「裏になったことで、ブラック・パラディンの攻撃力は0になるぜ。俺のコイントスはすげぇだろ? さあどうする? もうやめた方がいいんじゃねえか?」

 

超魔導剣士ーブラック・パラディン ATK3400→0

 

神楽坂:LP1500→300

 

 

***

 

 

 

「ば、バカな……俺が、逆転された……!?」

 

 城之内よりもライフが少なくなった神楽坂は全身を震わせていた。圧倒的に有利だったはずなのに、たった一枚のカードで覆されてしまった。それもーーーギャンブルカードで、だ。

 神楽坂は思い出す。城之内先生のデュエルを。彼のデュエルは、武藤遊戯や海馬瀬人のように戦略的ではなかった。半分以上は運頼みだった。神楽坂は参考にならないといって、勉強すらしなかった。

 だが、今切り捨てた戦術によって逆転されてしまっている。次にまたコイントスが成功してしまえば、反射ダメージを受けて敗けが決定する。

 神楽坂に残された選択肢は二つしかない。一つは、バトルフェイズを終えて、次のターンで巻き返す。モンスターBOXは確か500ポイントのコストが求められるはずだ。だからバトルフェイズを行わずにあと二ターン耐えれば勝ちが確定する。

 だがーーーもしこれで逆転されたら? 少なくとも相手には一ターンの猶予を与えてしまうことになる。それで残りのライフを削られてしまう可能性がないとは言えないのだ。

 なら、今戦うしかない。

 それに今の自分は最強のデッキを使っているんだ。勝てないわけが、ないんだ!!

 神楽坂はすがるように考え、戦慄く唇から、宣言した。

 

「俺は、やるんだ……俺は最強の決闘者なんだ!! これくらい、越えてやるんだ!! バトルだ、ブラック・マジシャンで……ランドスターの剣士に攻撃だ!!」

 

 神楽坂が大声で命令する。漆黒の魔術師は、ちらっと神楽坂を見つめた。その目は、どこか哀しげだった。まるで、結果の全てを悟ってしまったかのように、神楽坂を見続けていた。

 しかし、ブラック・マジシャンはすぐに飛び立った。そして杖から渾身の魔法攻撃を叩き込む。

 

「黒・魔・導!!」

 

 黒いエネルギーの塊が、小さな剣士に向かっていく。城之内先生はなにも言わず、ただコインの表裏だけを示す。面は、表だった。

 城之内はピンと軽く弾く。城之内の顔は、確信に満ちていた。それはさっきのブラック・マジシャンのそれにそっくりだった。何もかも、分かっている。このコイントスの結果すらも、分かっている。そんなように、見えた。

 

 

***

 

 

 

 ああ、分かっているさ。

 このコイントスは成功するんだ。俺の運がすごいからじゃない。ギャンブル慣れしているからじゃない。ブラック・マジシャンの目が、哀しそうだからだ。

 あの棲んだ目を見てみろよ、神楽坂。アイツは遊戯以外に心を開いてないんだよ。戦おうって気が、ないんだよ。

 ブラック・マジシャンの魔法攻撃が今にも迫り来る。コインは、落下を始めている。

 城之内は信じている。自分のモンスターたちが、勝ちへと導いてくれることを。モンスターと想いを通じ合えることが出来れば、その力は果てしないものとなる。その事は、長年のデュエル経験が物語っている。

 城之内は目を閉じた。待っているのは、コインの落下音のみ。

 

――キン。

 

 音が小さく鳴り響く。城之内は目を開けて、結果を確認した。そして静かに、宣告する。

 

「―――表だ。よって、ブラック・マジシャンの攻撃力は0となり、反射ダメージを受けてもらう」

 

ブラック・マジシャン ATK2500→0

 

 ブラック・マジシャンの魔法攻撃は打ち消され、小さな剣士の斬撃を浴びせられる。力を失った魔術師にはそれを防御するすべもなく、ダメージを受けてしまった。

 ブラック・マジシャンは退いた後、神楽坂を見た。もはや分かっていた。こうなることが、分かっていたんだ。そう、いっているようだった。

 

神楽坂:LP300→0

 

 

 

***

 

 

 

「さて、デッキを返してもらおうか」

 

 城之内は項垂れて膝まづく神楽坂に歩みより、デッキを返すよう要求する。神楽坂は顔をあげ、城之内を見る。そして何も言わず、遊戯のデッキを取り出して返した。

 

「……何でこんなことしたんだ」

 

 城之内は遊戯のデッキをポケットに入れて、神楽坂に問う。遊戯のデッキを盗むということは、何かコンプレックスがあったのだろう。

 神楽坂は悔しそうに目をつぶり、ぼそぼそと答えた。

 

「俺はバカにされてきたんだ。レッドにも負けて、イエロー寮も危ないって言われてきたんだ……。俺は、いろんなデュエリストのデッキを研究しているのに、人一倍勉強しているのに……!」

 

 それで遊戯のデッキを盗んで、見返してやろうってことか。よほど追い詰められていたんだな。

 でも、デュエルしていて、あいつは遊戯のデッキを使いこなせていた。かなり重いし、扱いが難しい遊戯のデッキを使うというのは、相当難しいことなのだ。つまり、実力はあるのだ。きちんと遊戯のデッキを研究しているのだ。

 

「お前は遊戯のデッキを十分に使いこなせていたよ。普通なら、あんなにはうまくはいかないもんさ。だからお前は、実力がないわけじゃないんだ。でも、お前にはたった一つ足りないことがある」

 

 城之内は、デュエル中のブラック・マジシャンの瞳を思い出しながら一言告げた。

 

「自分のデッキ、自分の信じるもの、だ」

 

 自分の信じるもの。

 神楽坂は瞳孔を開いて、言葉を受け止める。しかし、戸惑いが隠せない。

 

「お前は、他人の力をまねて戦ってきた。でも、それじゃ勝てなかったんだろう? 最強のデュエリストのデッキを使っても、ダメだったんだ。だったらもう答えは一つなんだ。他人の力だけじゃ、勝てないんだよ」

 

「…………」

 

 神楽坂は俯くと、腰のあたりに触れてみた。そこには、四角いふくらみがあった。神楽坂はそれをそっと取り出す。

 

「ああ、これは俺が初めて組んだデッキだ……何時からだろうな、俺がこいつを使わなくなったのは……」

 

「また、そいつを使ってみろよ」

 

 城之内は、肩をポンと叩く。神楽坂はデッキを尚も見つめ続け、ため息をついた。城之内は踵を返し、デュエルを観戦していた生徒に向かって叫んだ。

 

「お前らーもう遅いから寮に戻れ! 明日も授業あるからはえーぞ!!」

 

 生徒たちは大人しく従い、寮の方向へと戻っていった。その表情は笑っていた。デュエルを称賛するものが浮かぶ、嬉しそうな顔だった。

 城之内はフッと笑うと、自分の部屋へと戻るべく消え去ることにした。

 

「今夜は楽しかったぜ。でも、もう二度と悪いことはすんなよ。また、デュエルしようぜ」

 

 それだけ言い残し、足を動かした。神楽坂は、後ろ姿をただただ見送るだけだった。

 やがて誰もいなくなり、神楽坂は一人こう呟いた。

 

「もう一度、これを使ってみるか……こいつでいつか、城之内先生を倒して見せるぜ!」

 

 爽やかな笑顔を浮かべながら立ち上がり、夜中の荒波を眺めながら、決意を表したのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 

 夜が明けた。

 デュエルアカデミアは、朝から賑わっていた。言うまでもない、武藤遊戯のデッキ展示ブースが原因だ。朝から人が混んでおり、行列が出来ている。しかし整理券を持っているものは優先的に入れるようだ。

 

「いやー、昨日はどうなるのかと思ったノーネ……ワタシの教師人生は終わりかと思ったノーネ……」

 

「昨日は大変だったっすね、なんとか海馬の野郎に知られずに済んだのが良かったです」

 

「ホントナノーネ。オーナーに知られたら、返ってきたとはいえただじゃすまないノーネ……」

 

 城之内とクロノス先生も、遊戯のデッキ展覧会場にて遊戯のデッキを見ながら談笑している。教師は整理券なしでも入ることができる特権があるため、並ばなくてもすむのはでかい。

 あの後、神楽坂がクロノス先生に自首をしてデッキは無事にこっちに返ってきた。神楽坂が全力で謝り、誠意を見せたお陰で処罰は無しとなった。クロノス先生は胸を撫で下ろし、安心したようにベッドに入り込み、すぐに寝たという。

 

「でも、そういや何で海馬は遊戯のデッキを公開したんすかね?」

 

 城之内は、この企画が始まって以来気になっていた疑問をクロノス先生にぶつける。クロノス先生は当たり前のことを答えるように質問に応じた。

 

「それは最強のデュエリストのものだからナノーネ! 皆がそれを参考にすれば実力は上がるものナノーネ」

 

「それはわかるんだけど……なーんか引っ掛かるんですよね。海馬は何か別の目的があるんじゃないかって」

 

「知りたいか、海馬様のご意図を」

 

「う、うわっ!?」

 

 いきなり声をかけられて、城之内は飛び上がった。するといつのまにか黒服のサングラスをかけた男が側に立っていた。

 

「び、びっくりした……あんたは?」

 

「海馬コーポレーションの河豚田というものだ。武藤遊戯のデッキ展覧会の警備に来たのだ」

 

「なるほどな……それで、理由は知ってるのか?」

 

「海馬様から聞かされたのだが、聴くか?」

 

「ああ」

 

 河豚田は城之内の首肯を確かめると、口を開いた。

 

「海馬様はーーー」

 

 

 

 

『あの、差し支えなければ教えていただきませんか? どうして武藤遊戯のデッキをデュエルアカデミアに展示なさるのでしょうか? 武藤遊戯を倒すのは海馬様ただ一人のはず、ですが、彼のデッキを公開することはすなわち武藤遊戯に対抗できるデュエリストを育成することになるのでは……?』

 

『つまり、この俺以外に遊戯を倒すものが現れるかもしれない、ということか?』

 

『は、はい……恐れながら』

 

『ふぅん、それはあり得ないな』

 

『え?』

 

『何故なら、遊戯のデッキは弱いからだ』

 

『は……?』

 

『何だ、意外か? 貴様もバトルシティで遊戯のモンスターを見ているはずだぞ。奴のデッキは、そこまで強くないのだ。最強のデッキなどと持て囃されているが、凡骨のデッキといい勝負だろう』

 

『では……』

 

『奴が最強であるのはデッキの力ではない。奴の実力と、運、そして《優しさ》なのだ。ゲームの王であった奴ですら、持っていなかった力だ』

 

『……』

 

『俺がデッキを展示するのはな、一体どれだけ遊戯の強さに気づけるかを知りたかったのだ。それはすなわち、デュエリストの強さに繋がるのだ。それに気づけないようでは……まだまだ甘いということになる。これに気づけたものは、恐らく一人もいないだろうがな』

 

 

 

 

 

 

「ーーーというわけだ」

 

「「…………」」

 

 城之内とクロノスは目を見開いた。まさかそんな意図があったとは……。はっきりいって、城之内ですら気づかなかったことだ。

 遊戯のデッキは弱い。なら遊戯の強さってなんなのだろう。それは……違うところにある。それに気づかせるのが本当の目的だったとは―――

 

「いや、あともうひとつあると思うぜ」

 

 城之内は、ふっと笑った。海馬は慈善的な人間じゃない。むしろ自分に忠実だ。だから、これだけが理由じゃない。それは、ただ一つだ。

 

「ナンデスーノ?」

 

「遊戯のライバルは海馬一人だ、って言いたいのさ。遊戯の強さを分かるのは俺一人、だから俺以外に遊戯と対等に渡り合えるものは存在しないっていうこと。まあもっとも、それが伝わるとはとても思えないけど」

 

 城之内の指摘に対し、河豚田は黙っていた。だが、微かに頬を緩めた。海馬の部下は厳格なイメージがあるため、びっくりしてしまった。

 

「あんたが笑うなんてな。そんな風には見えないけど」

 

「私だって人間だ、笑ったりはする。海馬様がこれをお聞きになった時、どんな反応をされるか気になるところだ」

 

 河豚田は僅かにトーンをあげて答えた。案外人間味があって面白いやつだ。城之内はそう思った。

 

「かもな。あいつはきっと大笑いするだろうぜ」

 

 城之内は海馬の高笑いを想像し、半ば呆れたように笑う。河豚田も同じように笑みを見せるが、すぐに仕事用の厳しい表情になり、声のトーンも怜悧なものに戻った。

 

「では、私は任務があるのでこれで」

 

「おう。じゃあ俺たちは引き続き遊戯のデッキを見ることにするぜ」

 

 それだけ言って、河豚田は歩み去った。城之内とクロノス先生もその場を去り、遊戯のデッキが飾られているガラスケースを見る。

 

「これがシニョール遊戯のデスカ……でもこれが弱いデッキって言われても、納得できないノーネ」

 

「そうですね……俺は遊戯のデュエルを目の前で見てたけど、あいつの戦い方から弱さってのが感じられないです。だからデッキも強く思えたんです」

 

「まだまだ分からないこと、いっぱいあるノーネ」

 

「そうっすね」

 

 城之内は遊戯がプリントされているポスターを眺めた。あいつは今、アメリカでデュエルをしているはずだ。うまくいっているだろうか。そして、舞はどうしているだろうか……。

 城之内は遊戯のデッキの近くに置かれている、《ブラック・マジシャン》のカードを見る。イラストのブラック・マジシャンが、輝きを取り戻したように見えた。遊戯の召喚する、強くてたくましい魔術師に戻った気がする。

 遊戯にメールでも送ってみるか。遊戯と気軽に話がしたくなった。

 

「さて、そろそろ行きましょうクロノスさん」

 

 城之内はクロノス先生を促し、展覧会場を後にしたのだった。

 

 




河豚田ってバトルシティ編に出ていた海馬の部下です。磯野を出してもいいですがつまらないので出してみました。
次は三幻魔……にしようかとおもっていますが、それまでに間が空いているのでサブストーリーを入れようと思います。学園対抗デュエルとかはぶっちゃけ城之内関係ないしw

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