遊戯王GX 凡骨のデュエルアカデミア   作:凡骨の意地

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更新大変遅くなりました、申し訳ありませんm(_ _)mm(_ _)m
リアルでちょっと色々忙しくて……。
本当にすみませんでした。


第十五話:遊戯のデッキ

 遊戯と別れ、本職に復帰した城之内は、相変わらず授業をしていた。デッキ構築とそれに対抗する戦略などを教えていて、その中でデュエルの素質の鱗片を見せ始めている生徒もいた。

 そんな中ーーーとある一大イベントの知らせが、デュエルアカデミアに届いた。

 

「シニョール克也!スバラシイ知らせが届いたノーネ!!」

 

 休み時寒中、ちょうど来た業務用のメールのチェックをしようとした城之内にクロノスの甲高い声が飛び込んでくる。呆れつつも城之内は作業を中断し、振り向いた。

 

「何ですかクロノスさん?」

 

「先程オーナーの海馬コーポレーションからメールが届いたノーネ。見てみるノーネ」

 

 クロノスは懐に入っていた手紙を取りだし、城之内に差し出す。城之内は、海馬からじゃないかと顔をしかめながら封を開く。しかし差出人は、違う人物だった。

 

「デュエルアカデミア様へ

 

 この度は、新たな企画の案を示すために一筆送らせていただきました。

 わが社の社長、海馬瀬人様は、今回新たな企画を打ち出しました。それは武藤遊戯のデッキのレプリカをデュエルアカデミアに展示するという企画です。

 最強クラスのデュエリスト、武藤遊戯のデッキを展示することにより、デュエルアカデミアの生徒の向上心の上昇を図っています。

 何卒承諾していただきますようお願いします。

 

磯野より」

 

 

「磯野か……これまた普通の奴だな」

 

「デュエルキングのデッキが展示されるノーネ! ワタシも楽しみで仕方ないノーネ!!」

 

 そう、この手紙によれば近くにでも、遊戯のデッキが(本人はアメリカへと飛び立ってしまっているため、レプリカになるが)ここで展示されることになる。最強のデュエリストのデッキが展示されるとなれば、生徒たちは躍起になるだろう。しかも、ブラック・マジシャンやブラック・マジシャン・ガールなどのレアカードもお目にかかれるとなれば、注目しないはずがない。クロノスなどは歓喜の声を挙げ続けている。まあ城之内は高校の時に腐るほどブラック・マジシャンを見てきたから新鮮味はないが。……だからこそブラック・マジシャンと遊戯の絆の凄まじさを嫌でも思い知っているのだが。

 今回のデッキの展示会の意図は生徒の向上心の扇動と手紙にはあるが、城之内には別の意図がある気がした。ここのオーナーは海馬であり、そのライバルが遊戯。ということは、遊戯のデッキを見せて遊戯に対抗できるデュエリストを養成するというのが真の目的ではないのか。

ーーーいや。

 城之内は自分の憶測に首を振る。海馬はプライドの塊だ。自分以外の男に遊戯を破らせはしない。遊戯のライバルはただ一人と豪語しているあの海馬が、生徒たちにやらせようとはしないだろう。じゃあ、本当に向上心のためであろうか……?

 

 一人で悶々と考えていると、チャイムが鳴り響いた。クロノスも奇声に近い叫びを止めて、教員室を飛び出していった。城之内は苦笑しながらも後に続く。

 

 

***

 

 

 

 夜になり、ラーイエローの宿舎にて、一人の生徒、神楽坂は考え続けていた。

 今日の昼、武藤遊戯のデッキの観覧会の整理券をゲットすべく食堂にて最後の一枚を賭けたデュエルを行った。使用したのはクロノスの古代の機械デッキ。だが、オシリスレッドの生徒に敗北してしまい、武藤遊戯のデッキを拝めなくなってしまった。

 どうすれば勝てるんだ? 人のデッキを使えば、人の戦い方を研究し尽くしている自分なら勝てないわけはないはずだ。でも……何故だ!?

 何時間も考え続けた結果、彼はある一つの結論を導いた。

 最強のデュエリスト、武藤遊戯のデッキを使えばいい。無敗のデッキを使えば、誰にだって、それこそ城之内克也や……さらには武藤遊戯にだって勝てる。

 そうと決まればやることはひとつ。そのデッキを手に入れるのだ。

 

 

***

 

 

 

「おいおい……何だよこれ!」

 

 城之内は愕然としていた。横には、膝まつきがくがく震えるクロノスが、前には……粉々になって割られているガラスケースがあった。その中には、本来あるはずの遊戯のデッキがなかった。

 

 この事を知ったのはついさっきのことだった。自室で眠ろうとしたところにクロノスから電話があり、駆けつけてみるとデュエルアカデミアからデッキが消えていたのだ。ガラスが強く割られているのできっと盗むつもりだったのだろう。だが一体誰が……?

 クロノスがしくしく泣いている間に、城之内は考えた。遊戯のデッキを公開するという知らせは恐らく外部には伝わっていない。もし伝わっていたとしたら全てのデュエリストがここに来るだろう。となれば内部のもの……すなわち生徒か教員だ。

 

「エライことになったノーネ……もし犯人が見つからなかったら、首ナノーネ……」

 

 この遊戯のデッキの警備はクロノスが担当していた。となれば責任を取らされるのは間違いなくクロノスだ。遊戯のデッキが盗まれたとなれば、ただじゃすまないだろう。城之内はクロノスの肩に手を置いて、声をかけた。

 

「クロノスさんしっかりしてください。俺がなんとか捕まえます。恐らく犯人は島のどこかに居ますよ」

 

 クロノスはこちらを振り向き、鼻水を垂らしながら俺に抱きつく。思わず身を引きながらもクロノスの叫びを聞いた。

 

「頼みマスーノシニョール克也!! ワタシを助けてクダサーイ!!」

 

 なおも涙と鼻水を垂らすクロノスを無理矢理引き剥がし、城之内は外に出た。困ったことになったなと頭を抱えながら、外を出回ってみる。

 さて、どうするべきだろうか。犯人の手がかりも内部の人間ということしか分からないし、範囲を絞れそうにない。この時間に起きている生徒もたかが知れているからすでに探しに行っている生徒が見つける可能性は低い。

 今日中に見つからなければ海馬に知らせるしかないだろう。遊戯のデッキが盗まれたとなればあいつが全力で解決に持ち込むだろう。責任をとらされるクロノスさんには気の毒だが。

 いや、それは無理だ。アメリカで遊戯たちは大会に出ているということは、海馬だってきっとアメリカに行っているはずだ。あいつは遊戯を倒すことに対し、異常な執着心を持っているからだ。

 つまるところ、自分達で解決しなくてはいけない。まあ自分達で起こした問題なのだから仕方ないのだが。

 溜め息を付いて走り出そうとしたそのときだった。

 

「アニキィーーーー!!」

 

 夜の静寂な空気を裂くような絶叫が響き渡った。あれはたぶん、オシリスレッドの丸藤翔の声だ。そいつがアニキと呼び慕う奴は……遊城十代だ。

 城之内は声のした方に走っていく。眠気をかなぐり捨てるように全力で足を動かすと、そこは崖だった。崖下を見下ろすと、そこには二人の人間がデュエルディスクを構えて対峙していた。だが、城之内がたどり着いたときには既に一人の人間が膝をついていた。茶髪にオシリスレッドの生徒が地面に膝まずき、波が激しく唸る海面を背後にするラーイエローの生徒が高笑いを浮かべている。ラーイエローの生徒の前には、漆黒の魔術師、ブラック・マジシャンが慄然とオシリスレッドの生徒を見下ろしていた。

 間違いない、犯人はあのラーイエローの生徒だ。城之内は崖を降りていき、現場へと走った。

 ラーイエローの生徒はなおも高笑いを続けて、オシリスレッドの生徒を煽る。城之内は影に隠れながら、うざったい言葉を聞いていた。

 

「ち、ちくしょう……!」

 

「ハハハハハッ!! 流石はキングオブデュエリストのデッキだ、相手にもならなかったな遊城十代!! やはりこのデッキの前には、誰にも勝てないんだ!! クロノスだって、城之内克也だって、もう遠い壁なんかじゃない!!」

 

 我慢の限界だった。拳で殴りたいくらいに、怒りの感情が支配する。城之内は、静かに歩み寄った。

 それに気づいたオシリスレッドの生徒は俺の名前を呼ぶ。

 

「じょ、城之内先生……」

 

 俺はその生徒の顔を見る。遊城十代だった。かなりの実力をもつ十代が、負けたということか。俺はまっすぐと、ラーイエローの生徒を見つめる。

 それに気づいたラーイエローの生徒は振り向き、ニヤリと笑った。

 

「おやおや、城之内先生。こんな真夜中にどうしたんですか? まあ、今俺は最高の気分ですからね……! もしかして、俺のデッキを見に来たんですか?」

 

 ニタニタと笑いながら宣う姿は城之内の頭を沸騰させていく。久しぶりだ、ここまでキレかけているのは。人のデッキを、それも遊戯のデッキを盗んだ奴が最強気取りとは……。

 

「まあな。お前なんだな、遊戯のデッキを盗んだのは? 名前は?」

「そうですよ。俺の名前は神楽坂……今日から最強のデュエリストになった男だ!!」

「ふざけんな! 人のデッキを盗んでいいってもんじゃねえだろ!! そんなの、デュエリストなんかじゃねえ!!」

 

 城之内は怒りを込めて叫んだ。しかし相手は随分調子に乗っているようでへらへら笑うだけだった。

 

「ふふ、でもこれが俺の力なことに変わりはないですよ。俺はたった今、最強の力を手にしたんだ!!」

 

 こいつ、力に酔っていやがる。

 城之内はぶん殴りたい気分になり、拳を握りしめた。けれど――殴ればすべて解決する時代は終わった。それを親友が教えてくれた。もし遊戯が、デッキを盗まれたことを知ったらどんな顔をするだろうか。怒り狂うか、泣き叫ぶか。

 違う。あいつは、盗んだ奴と向き合う。優しく話して解決する。そんな奴なんだ。

 俺は怒りを深呼吸で抑える。そしてまっすぐ見つめ、口を開く。

 

「そうか……ならその力を見せて見ろよ。やれるもんなら、な」

 

 城之内は言い終えるとデュエルディスクを構える。神楽坂もそれに応えるように準備し、にやりと笑う。

 そして――両者は一斉に叫んだ。

 

「デュエル!!!!」

 

 決闘が開始されると互いに5枚のカードをドローする。ちらっと城之内が手札を確認すると、神楽坂に決定権を与えるように手を差し出した。

 

「先攻は俺がもらいますよ、ドロー!」

 

 デュエルモンスターズにおいて、先攻は基本的に有利とされている。何故なら妨害されずにいくらでも自分のペースを作り出せるからだ。強力なモンスターを敷くのもよし、次のターンの準備をするのもよし、魔法や罠を伏せて耐えるのもよしだ。

 さて、奴はどう出るか、だ。

 

「まず俺は、《魔導戦士ブレイカー》を召喚!! 召喚成功時に効果発動、魔力カウンターを一個のせ、攻撃力を300アップする!!」

 

魔導戦士ブレイカー 星4 ATK1600→1900 魔法使い族 闇属性

 

 魔力を備えた剣士がフィールドに登場すると、周囲の生徒たちは驚きの声をあげた。遊戯の使う強力なモンスターのひとつだからだ。召喚成功時に魔力カウンターを一個のせて攻撃力を高める効果も強力だが、さらに強力なのは、それをひとつ取り除いて魔法や罠を破壊できる効果を持っていることだ。これにより、迂闊にカードを伏せることが出来なくなる。遊戯のデッキの使い方を、一応は知っているようである。

 

「さらに俺はカードを二枚伏せて、ターンエンド!」

 

 神楽坂はカードを二枚伏せてターンエンド宣言をした。遊戯のデッキには強力な罠がたくさん入っている。それに注意しなければならない。城之内は息を吸うと、デッキに手をかけた。

 

「じゃあ行くぜ! 俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードを確認すると、城之内は眼を見開いた。しかしすぐに神楽坂に視線を戻し、挑発するように笑った。

 

「お前の初手はなかなかだ。ブレイカーは攻撃力高いし、魔法・罠の破壊効果も怖い。でも、こいつなら問題ないぜ!! 《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》を召喚!!」

 

漆黒の豹戦士パンサーウォリアー 星4 ATK2000 獣戦士族 地属性

 

 肉厚の刃を持つ剣を手にした豹戦士が現れると、生徒は再び驚きの声をあげた。城之内を代表するモンスターの一つであり、数々の決闘で大活躍していることを知っているからだ。無論城之内も、このモンスターを信頼している。

 

「パンサーウォリアー……なるほど、直接倒そうっていうんですか……。でも、パンサーウォリアーには攻撃するとき、生贄が必要でしたよね?」

「まあ慌てんなよ。生贄はちゃんと用意しているさ。いや――」

 

 城之内は神楽坂の挑発を、華麗に受け流した。そしてシニカルな笑みとともに、一枚のカードを神楽坂に見せつけた。

 

「すでに用意されているっていう方が正しいな。魔法カード発動! 《洗脳―ブレイン・コントロール》!! 800ライフポイントを払って、相手のモンスター一体のコントロールをエンドフェイズまで得る!! もちろん、お前のブレイカーだ!!」

 

城之内:LP4000→3200

 

 カードから伸びてきた手が、神楽坂のブレイカーをとらえ、城之内のフィールドに引きずり込み、コントロールを奪った。神楽坂は驚きに満ちた顔を見せ、舌打ちを派手にならした。

 

 

「なるほど、コントロール奪取か……確かにこれならパンサーウォリアーの生贄も作れる」

 

 先ほど神楽坂と戦った十代が城之内の戦術について、近くにいる仲間の翔と隼人に向かって呟く。翔と隼人はうなずき、言葉を返した。

 

「それだけじゃないっすよアニキ。ブレイカーの破壊効果も城之内先生が使えるから、神楽坂の魔法・罠を破壊できるっス」

 

「さらにパンサーウォリアーの効果でブレイカーを生贄にするから、ブレイカーを除去することもできるんだな」

 

「コントロール奪うってスゲエんだな……」

 

 十代は感嘆の声をあげて、城之内たちに視線を戻した。

 

 

「じゃあ早速お前のブレイカーの効果を発動させてもらうぜ。魔力カウンターを一つ取り除いて、お前の魔法・罠を一枚破壊する!! 俺から見て右のカードを破壊だ!!」

 

魔道戦士ブレイカー ATK1900→1600

 

 城之内はさっそくブレイカーの破壊効果を発動し、神楽坂の魔法・罠を一枚破壊する。ブレイカーは魔力を込めて、カッター状のエネルギーの塊を飛ばし、直撃した。

 

「くっ……」

 

「《魔法の筒》かよ、あっぶねえっ!!」

 

 城之内は破壊したカードを見て冷汗をかく。魔法の筒は、攻撃を無効にしてそのモンスターの攻撃力分をそのまま相手にダメージとして返してくる強力な罠カード。もしパンサーウォリアーで攻撃していたら、2000という笑えないダメージがダイレクトに襲い掛かってくることになっていた。ブレイカーで破壊しておいて、正解だった。

 一応神楽坂の伏せは一枚残っているが、賭けに出るしかない。厄介な罠が出ないことを祈りつつ、城之内はバトルフェイズ宣言を下した。

 

「バトルだ! 魔道戦士ブレイカーで、神楽坂にダイレクトアタックだ!!」

 

 がら空きになったフィールドに、ブレイカーは斬りかかる。攻撃力が300落ちたとはいえ、1600もののダメージが一度に襲い掛かるのは脅威である。これが決まれば、デュエルは有利に働く。そう城之内は確信した。

 だが、デュエルというものはそう簡単にはいかない。

 

「――その瞬間、俺は罠カード《聖なるバリア―ミラーフォース》を発動する!! 相手の攻撃宣言時、相手の攻撃表示モンスターすべてを破壊する!!」

 

「み、ミラーフォースだと!? マジかよ!?」

 

 突如、神楽坂の前方にオーロラ色の膜が出現した。ブレイカーはそれを裂こうとし、剣をブンと振るってバリアに叩き付ける。しかし、バリアは一瞬発光して、ブレイカーを光の中へと吸い込んでいった。同様にパンサーウォリアーも巻き込まれ、悲鳴を上げて爆散していった。

 これでお互い、フィールドはがら空きになった。

 

「……何とか逃れたな……」

 

「やるなぁ……ミラーフォースは警戒はしてたけど、マジで伏せていたとはな」

 

 城之内は相手のプレイングを褒めつつ、次の戦略を練る。取りあえず、カードを伏せて攻撃をしのぐしかないだろう。

 

「俺は、二枚のカードを伏せてターンエンドだ」

 

「よし、俺のターンだ! ドロー!!」

 

 神楽坂はカードをドローし、ちらっとカードを見るとすぐに城之内に見せた。

 

「俺は魔法カード《天使の施し》を発動! デッキから3枚ドローし、さらに2枚のカードを墓地に捨てる。俺は《ホーリー・エルフ》と《幻獣王ガゼル》を墓地に捨てる! さらに、俺はドローした《ワタポン》の効果を発動! 《ワタポン》を守備表示で特殊召喚する!!」

 

ワタポン 星1 DEF300 天使族 光属性

 

「さらに、《ワタポン》を生贄にして、《ブラック・マジシャン・ガール》を召喚!!」

 

「ブラック・マジシャン・ガールだと!?」

 

ブラック・マジシャン・ガール 星5 ATK2000 魔法使い族 闇属性 

 

 流れるようなコンボを決めて、神楽坂はブラック・マジシャン・ガールを召喚した。ブラック・マジシャン・ガールは言うまでもなく遊戯の信頼するモンスターの一つだ。露出の多い服装、可愛い顔、そしてカードの持つ強さは、数々の決闘者を魅了した。城之内もひそかに彼女のグッズを集めていたりもしたものだ。

 

「まだまだ続ける!! さらに俺は魔法カード《賢者の宝石》を発動! フィールドに《ブラック・マジシャン・ガール》が存在する場合、手札、デッキから《ブラック・マジシャン》を特殊召喚する!!」

 

ブラック・マジシャン 星7 ATK2500 魔法使い族 闇属性

 

 カードの中に眠る宝石は、突如光り始め、上空に光が集中する。そこから、一人の黒き魔術師が映し出され、ゆっくりと地上に降り立った。光が解かれると、魔術師は鋭い相貌を陽のうちに向け、杖を構えた。あれこそ、遊戯の最高のパートナー、《ブラック・マジシャン》だ。このモンスターを見るたび、ほとんどの決闘者はおびえ、敗北する。唯一余裕で対峙できるのは海馬と俺、バクラやマリクなどの実力ある決闘者だけだ。

 

「ふふふ……このデッキには神のモンスターはいないが、それを補えるほどの力はある!! いくぞ、ブラック・マジシャン、ブラック・マジシャン・ガール! 城之内先生にダイレクトアタックだ!! これで、終わりだぜ!!」

 

 師弟関係にある魔法使い二人が一斉に飛び掛かる。それぞれの杖に魔力を集中させ、城之内に放つ。二人の攻撃をすべて喰らったら、ダメージの合計は4500、ライフポイントはあっという間に0になってしまう。どうにかして、防がないといけない。だから城之内は一枚のリバースカードをオープンした。

 

「リバースカードオープン! 罠カード《ピンポイント・ガード》を発動!! 墓地からレベル4以下モンスターを守備表示で特殊召喚する!! この効果で特殊召喚したモンスターは、このターン戦闘、効果では破壊されない!! 頼むぜ、パンサーウォリアー!!」

 

漆黒の豹戦士パンサーウォリアー 星4 DEF1600 獣戦士族 地属性

 

 パンサーウォリアーが墓地から舞い戻り、黒い手が守るように前に出ている。これで、ダイレクトアタックは未然に防いだ。

 

「ピンポイント・ガード……なかなか強力なカードだ。バトルフェイズを終了し、俺は一枚のカードを伏せてターンエンド!」

 

「俺のターンドロー!」

 

 神楽坂は不満そうにターンエンドを宣言すると、城之内は勢いよくカードを引いた。引いたカードは《強欲な壺》だった。これを使わない手は、ない。

 

「まず俺は《強欲な壺》を発動、デッキからカードを二枚ドローする!」

 

 新たに二枚のカードを引き込み、確認する。現在相手のフィールドには、ブラック・マジシャン師弟がいる。それに加えて二枚のリバースカード。引いたカードは《稲妻の剣》と《スケープ・ゴート》。この二枚があれば、敵を倒すことができる。城之内はパンサーウォリアーを見つめながらカードを決闘盤に叩き付ける。

 

「パンサーウォリアーを攻撃表示に変更し、装備魔法《稲妻の剣》を発動! パンサーウォリアーの攻撃力を800上げる!」

 

漆黒の豹戦士パンサーウォリアー ATK2000→2800

 

「さらに、速攻魔法《スケープ・ゴート》を発動! 4体の羊トークンを自分フィールド上に特殊召喚する!」

 

羊トークン×4 星1 DEF0

 これで攻撃力はブラック・マジシャンを上回り、攻撃のための生け贄も揃った。あとは攻撃すればいい。

 

「バトルだ、羊トークンを生け贄にしてパンサーウォリアーでブラック・マジシャンを攻撃だ!! 黒・豹・疾・風・斬!!」

 

 黒い豹は地を蹴って大剣を黒衣の魔術師に振りかざす。魔術師は杖で応じるも、強力な力には勝てず、攻撃を受けて散った。

 

神楽坂LP:4000→3700

 

「ぐっ……、だがこの瞬間、ブラック・マジシャン・ガールの効果で攻撃力を300アップさせる!」

 

ブラック・マジシャン・ガール ATK2000→2300

 

 ブラック・マジシャン・ガールは、墓地にいるブラック・マジシャンの数×300ポイント攻撃力が上昇する。つまり、今ブラック・マジシャンは戦闘破壊されたのでブラック・マジシャン・ガールの攻撃力も同時に上がったというわけだ。

 だがこれくらいなら問題はない。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 お互いの手札次第だが、このまま確実に攻めていければ勝てる。さて、神楽坂はどのように出るのか……。

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 神楽坂は若干焦りの表情を浮かべつつ、カードを引いた。

 だが、その表情はすぐに喜びに満ちたものに変わった。

 

「……ふふふ、なかなかいいカードだ! これなら、絶対勝てる!!」

 

 神楽坂は新たなドローカードを眺めながらにやりと笑って見せた。恐らく、強力なカードを引いたのだろう。神楽坂は自信満々にデスクにカードを叩き付けてカードを発動した。

 

「まず俺は魔法カード《天よりの宝札》を発動する!! 手札が六枚になるようにカードをドローする!! さらに手札から《強欲な壺》を発動、さらに二枚のカードをドローする!!」

 

 天よりの宝札は、最大六枚ほどのカードを一度に引き込める超強力なカードだ。手札が少なければ少ないほど絶大な効果を発揮するので、逆転を呼び起こせる。それに加えて強欲な壺を発動しているので神楽坂は実に八枚ほどのカードをドローしていることになる。城之内も五枚のカードをドローしているが三枚ものの差がつけられているのはでかい。

 

「まずはこいつだ!! 魔法カード《死者転生》発動! 手札を一枚捨て、墓地のモンスターカードを手札に加える。俺は《磁石の戦士α》を捨て、《ブラック・マジシャン》を加える!!」

「……!!」

 

 神楽坂がサーチしたのは、遊戯が最も信頼するモンスター、ブラック・マジシャン。当然ブラック・マジシャンを使ったコンボを決めてくるはずだ。カードを握る力が自然と強くなっていく。

 

「さらに、手札から《融合》発動!! 俺は手札の《ブラック・マジシャン》と《バスター・ブレイダー》を素材にして――現れろ、《超魔道剣士―ブラック・パラディン》!!」

 

「なっ……!?」

 超魔導剣士―ブラック・パラディン 星8 ATK2900 魔法使い族 闇属性

 

 竜をも葬り去る剣士と、全てにおいて卓越したスキルを持つ魔術師が融合し、強力な戦士が誕生した。確か、遊戯と海馬のデュエルにも使われたモンスターだ。攻撃力も高く、厄介な魔法無効効果もある。遊戯も本気でやるときは容赦なくこのモンスターを召喚してくる。

 魔導剣士は鋭く冷たい目で城之内を見据え、神経を研ぎ澄ましている。弟子のガールもその威圧感に気圧されているようだ。

 魔法なしでこのモンスターを倒すなんてかなり難しい。どう対処するか、城之内は策を練り始めた。

 だが、神楽坂はこれでは終わらせなかった。

 

「まだまだ!! リバースカードオープン! 俺は罠カード《リビングデッドの呼び声》を発動! 墓地のブラック・マジシャンを攻撃表示で特殊召喚!!」

 

「なっ……!?」

 

ブラック・マジシャン ATK2500

ブラック・マジシャン・ガール ATK2300→2000

 

 まただと!?

 せっかく倒したブラック・マジシャンが再び復活するとは……。

 墓地から再び舞い戻った魔術師は自分を倒したパンサーウォリアーを強く睨んだ。

 これでモンスターは三体になってしまった。だが俺のフィールドにはまだ羊トークンもいるからダイレクトアタックは喰らうことはない。

 だが、その予測は間違いだった。

 

「さらに俺は墓地の《魔導戦士ブレイカー》と《ホーリー・エルフ》を除外して――」

 

 神楽坂はにやりと笑いながら墓地のカード二枚を除外する。その召喚方法は、まさか!!

 

「《カオス・ソルジャー 開闢の使者》を手札から特殊召喚する!!」

 

カオス・ソルジャー 開闢の使者 星8 ATK3000 戦士族 光属性

 

 光と闇のカードを一枚ずつ除外して、召喚できる混沌の使者が姿を現した。遊戯が以前使っていた儀式モンスターのカオス・ソルジャーよりもはるかに使いやすいこのモンスターに、たくさんの決闘者が苦しめられた。このモンスターの持つ効果は恐ろしいものばかりだ。まず、バトルフェイズを行わない代わりに、好きなカードを一枚除外できる効果、そして二回攻撃を可能としている効果だ。

 このカードは強力なフィニッシャーになりうるから、持っている人間は必ずデッキにいれる。もっとも値段も恐ろしく高いのだが。

 今神楽坂のモンスターは四体になり、もしこれで攻撃されたら、ダイレクトアタックを喰らってしまう。

 だが、それが終わりではなかった。

 

「俺はカードを一枚伏せる。これで手札が一枚になったので、俺は《疾風の暗黒騎士ガイア》を召喚できる!!」

 

疾風の暗黒騎士ガイア 星7 ATK2300 戦士族 地属性

 

 遊戯のモンスターの《暗黒騎士ガイア》を強化した疾風ガイアが現れた。これで全員で総攻撃されたら間違いなくやられる。

 

「これで最後だ! 俺は先ほど伏せたカードを発動! 永続魔法《螺旋槍殺》を発動! 自分フィールドに《暗黒騎士ガイア》、《疾風の暗黒騎士ガイア》、《竜騎士ガイア》がいる場合、そのモンスターが守備モンスターを攻撃した時、守備力より攻撃力が高ければその差分のダメージを与える。!!」

 

 貫通効果をがつけたガイア……これはますますやばい。

 羊トークンの守備力は0、つまりダイレクトアタックと同じになってしまう。

 ここで何とかしなければ、負けてしまう―――。

 

「バトルだ!! 疾風の暗黒騎士ガイアで羊トークンを攻撃!!」

 

 バトルフェイズに入り、総攻撃を命じた。先陣を切ったのは、ガイアだ。

 ガイアは自慢の大槍で哀れな子羊を貫く。子羊を貫いた衝撃がそのまま城之内に伝わる。

 

「ぐわあっっ!!」

 

城之内LP:3200→900

 

「そしてブラック・マジシャン・ガールで羊トークンを攻撃!」

 

 次は弟子の番だ。可憐な少女は杖に魔力をため、子羊に叩き込む。一番攻撃力の低いモンスターが壁モンスターを破壊するのは常套手段だ。

 だが、城之内はこれを待っていた。

 

「罠カード発動! 《マジックアーム・シールド》!! 自分フィールドにモンスターがいて、相手に二体以上いる場合に発動できる! 俺は《カオス・ソルジャー 開闢の使者》のコントロールを奪い、《ブラック・マジシャン・ガール》と戦闘させる!」

 

 城之内が唯一伏せた罠カードを発動し、どうにか破壊を防ぐ。カードから飛び出したアームは、開闢の使者をとらえて、弟子の魔法の前に立たせた。その程度の攻撃を通すはずもなく、彼が握る剣で跳ね返した。

 

「きゃあっっ!?」

 

 跳ね返された魔法をもろに喰らった彼女は破壊され、墓地へと消えていった。これにより、二回攻撃が出来る開闢の使者を攻撃させず、さらにブラック・マジシャン・ガールがフィールドから消滅した。

 

神楽坂LP:3700→2700

 

「こざかしい……! だが、まだまだ攻撃は残っている! ブラック・マジシャンは羊トークンを、ブラック・パラディンはパンサーウォリアーを攻撃しろ!!」

 

 だがこれで終わらなかった。まだバトルが行えるモンスターがいる。

 残された二体のモンスターはそれぞれの目標に攻撃をたたき込んだ。子羊は魔法で、豹戦士は斬撃で冥土に送られてしまった。

 

城之内LP:900→800

 

「っ、やばいな……」

 

 ライフがほとんど残っておらず、追い詰められたと感じた。

 

「バトルを終了し、カオス・ソルジャーのコントロールは元に戻る。俺は、これでターンエンドだ。さあ先生、あなたのターンですよ」

 

 城之内のフィールドには二体の羊トークンが残ってはいる。しかし、これだけで次のターンの攻撃を防げるわけがない。次までに何とかしなければ……負けてしまう。

 城之内は手札を見る。先程の天よりの宝札により手札が六枚になってはいる。しかし、城之内の持つカードは《ランドスターの剣士》、《真紅眼の黒竜》、《ゴブリン突撃部隊》、《天使のサイコロ》、《墓荒らし》、《拘束解除》とこの状況を打開するのが難しいものばかりだ。結局は次のターンでやられてしまう。

 だがーーーこんな状況でも親友、武藤遊戯なら諦めない。アイツなら、デッキを信じて戦い続けるはずだ。城之内の目の前に立っているのが誰であれ、諦めるのは許されない。ましてや、人のデッキを使って思い上がっているような生徒にだけは、負けられない。

 

「俺は、諦めないぜ……ドロー!!」

 

 城之内は、希望を信じてカードを引いた。

 

 




次で決着が着きます。なるたけ早くしますのでよろしくお願いします!

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