遊戯王GX 凡骨のデュエルアカデミア 作:凡骨の意地
タッグバトルから一日たった翌日、城之内は休みをとって本田、遊戯、杏子と遊びに出掛けた。高校時代にしていた遊びが急にしたくなって、城之内が提案したのだ。だから集まって、懐かしの場所へと向かった。
最初に向かったのは、ボウリング場。本田がガターばかり決めていて皆で大笑いした。遊戯と杏子はとってもうまかった。城之内は……まあ普通だった。高校時代にはボウリング場によく通っていて、遅くまでごろごろとボールを転がしていた。
ボウリングを終えて、次はカラオケにいった。あの頃の歌とか最近の歌とかもたくさん歌った。ただ、遊戯の奴はそこまでうまくなかった。杏子は女性だけあってやっぱり綺麗な声だったな。遊戯が羨ましいかもしれない。
レストランで食事を済ませたあとはカードショップにも行った。杏子や本田もデッキを借りて城之内や遊戯と戦ったけれどやはり勝てなかった。ただ、唯一いいことがあった。遊戯に勝ったことだ。まあ、遊戯のデッキには神はいなかったけど。
遊戯がいると云うことで人が群がってきてしまい、居づらくなって出ていったあとは遊戯の家に遊びにいった。お酒やらツマミやら色々買って今夜は語り明かすぞというノリで遊戯の部屋に押し掛ける。遊戯の部屋は漫画やらゲームやらが多いから遊ぶにはもってこいの場所だ。カードをして、昔やっていたゲームもして、夕飯をじいさんと一緒に食べて、そのあとも遊びに遊んだ。
そして夜の11時。そろそろ遊び疲れて風呂に入って寝ようということになった。遊戯も杏子も明日、飛行機でアメリカに飛び立っていってしまう。だから早く寝かせないといけない。
「うし、風呂に入るか遊戯」
「うん。本田くんは酔い潰れちゃったししばらく待った方がいいね」
本田は酒を飲みすぎて酔っている。風呂に入るのは酔いが覚めてからの方がいい。
家にある風呂に向かい、服を脱いで入る。体を洗い、垢を落としたあと俺達は共に浴槽に入る。大の大人二人が入るには狭い場所だがそんなに窮屈じゃない。
「ふぅ……疲れたぁ」
「そうだね……でも、楽しかったよ」
二人して息を吐きながら笑いあう。
「本田の野郎がガターばっか決めてよ……ガキの頃は上手かったのにな」
「そうだね……4人のなかで一番ボウリングが上手かったもんね。でも残念だよ……あのボウリング場、潰れちゃうんだってさ」
「ああ、張り紙にあったなあ……やっぱ時代はデュエルモンスターズなのかもな。ボウリングなんて誰もやんないんだろうな」
「デュエルモンスターズといえば、今日いったレストランでも高校生とかが騒いでやってたよね」
「ああ。俺らもデュエリストだから何も言えないけど食事中にデュエルをするっていうのはあんまり良いことじゃねえな。俺たちもそんなことはしなかったよな」
「デュエルアカデミアではどうなの?」
「学生はよく分からないけど、教員食堂ではデュエルはしてないぜ。皆授業内容の話や世間話くらいさ。俺もデュエルに関しては話してないよ。授業でいやというほど話すしな」
「へぇ……なんか楽しそうだね、城之内くん」
「まあな、やりがいはあるぜ。楽しみな生徒もわんさかいるしよ」
他愛のない話を二人で語り合ううちにだんだんと体が熱くなる。そろそろ出ようと促して体を拭き、寝巻きに着替える。だけど不思議と寝る気になれない。やはり、友達と泊まることに興奮しているからかもしれない。久々に遊戯と一緒にいられるのはとても嬉しいことだ。
それでも遊戯は朝が早い。飛行機も朝一だからだ。遊戯と共にもう少し話したかったけれどそういうわけにはいかない。
「遊戯、もう寝るんだろ?」
城之内は一応聞く。だけど遊戯はうーんと悩むような表情で答えた。
「そうしたいんだけどなんか眠れそうにないんだ。頭が冴えちゃってさ」
「そうなのか? じゃあ眠れるまで売り場の辺りで話そうぜ。そこなら迷惑にならねえだろ」
内心嬉しく思いながらも城之内は遊戯と共に売り場にいく。椅子を用意して二人で向かい合って座る。
「遊戯、明日はもういっちまうんだろ?」
「うん。明日行ってデュエルトーナメントの申し込みをしてくるんだ」
「誰が出るんだ?」
「僕の知っている限りだと、海馬くん、舞さん、羽蛾君、くらいかな? まあ僕付き合い狭いからね。城之内くんも出ればいいのに」
「そういうわけにはいかねえよ。こっちで、やること一杯あるからよ」
笑いながら断る城之内に、遊戯はある主の違和感を抱いていた。いや、充実感ともいうべきかもしれない。遊戯はそれをそのまま口にした。
「やっぱり、城之内くんは変わったよ。昔だったら、僕だけ大会に出ることを凄く悔しがっていたもん」
城之内はとても負けず嫌いなところがあった。負けたら必死にしがみついて、勝ちを目指すその根性はどんなデュエリストにも劣ることはない。
だけど今は、そんなそぶりを見せない。何故なら、他にしがみつくべきものがあるから。この日本で、未来のデュエリストを育てて、大切な理念を伝えるという固い決意があるから。
城之内は照れるように頭をかく。
「ははは、まあ確かにそんな時期もあったなあ……。ただ、今はもっと面白いものがあるからよ」
「確かに、そう言いたそうな顔してる」
「ははは、そうかもな。俺は何でも顔にでちまう」
遊戯もそれに併せて笑いながら、城之内に新たに質問をする。
「ねえ、この間城之内くんが電話してきたときさ、デュエルアカデミアに城之内くんと同じくらいの強さを持っている生徒がいるっていってたよね? その生徒の話を詳しく聞かせてよ」
「ああ、そういえばそんなこと言ったなあ……」
タッグバトルの時に相談に乗ったときに城之内はちらっと遊戯にそんなことをいったのを覚えている。その人物は……遊戯に関係する奴だ。
「俺、授業でさそいつとデュエルしたんだ。もう少しで負けそうになったんだけどよ。名前は遊城十代っていうんだ」
「遊城、十代くん?」
「そう。HEROデッキーーーまあつまりは融合デッキーーーを使うんだけどな、とっても強いぜ。俺もあと少しで負けそうになったくらいだ。お前ともきっといい勝負になれると思うぜ」
「でもちょっと信じ難いよ……元プロの、しかもトップクラスの城之内くんを苦しめるほどの腕をもつ生徒がどうしてデュエルアカデミアにいるんだろうね。僕の友達とかそういうのを抜きにしても城之内くんは凄く強いデュエリストだよ」
「俺はそんな強くねえよ。お前には全く及ばないさ」
城之内はそういうが、遊戯は城之内の強さを十二分に理解している。持ち前の根性と運の強さに加え、それを引き出す場面の的確さも素晴らしいものになっている。耐えなくてはいけないときは根性で粘り、攻めるときは運と緻密な戦略をフルに活用して攻める。そんな器用でかつ、まっすぐな決闘者はほとんどいない。
そんな彼を追い詰めた遊城十代の功績を、遊戯は戦慄なしでは聞くことはできなかった。
「そういやよ、あいつとデュエルしてて気になったことがあったんだ。お前、遊城十代ってやつにハネクリボーのカードをあげたろ?」
「え、どういうこと?」
城之内は、遊城十代の使ったハネクリボーのカードの話をした。遊戯にこのカードをもらったと言っていたことを話すと、遊戯はああと納得したようにうなずいた。
「そういうことか……確かに渡したよ。ハネクリボーがそっちに行きたがってからね。精霊の声がしたんだ」
「へぇ……俺には聞こえないがな、カードの声は」
「でもハネクリボーの選択は正しかったかもしれないね。強くて楽しいデュエリストに巡り会えたんだから。きっとその子は大物になるよ」
「だろうな。だからよ……楽しいんだ。デュエルだけじゃなくとも、人が成長するのを見るのが、楽しいんだよ」
「そっか……。城之内くん、僕アメリカいっちゃうけど、頑張ってね。応援しているよ」
「おいおい、応援するのはこっちの方だぜ遊戯。大会頑張れよ」
「うん、ありがとね。ふわぁ……眠くなってきたな、もう僕寝るよ」
遊戯は眠たそうにあくびをする。城之内も見ているうちに眠くなった。時計を見るともう夜中の12時だ。そろそろ寝床についておかなくては。
それぞれの布団に入り、目をつむる。本田はぐうぐうとイビキを掻きながら寝ている。酔いつぶれて風呂にも入らずに寝るとは、よっぽど疲れたのだろう。苦笑しながらも城之内は目を瞑る。
今日は楽しかった。昔に戻れた気がした。ぎゃあぎゃあさわいで、遊んで、酒を飲んで友と語らう。こんなことは、大人になったらもうできないと思っていたけど、案外出来るものだった。やっぱり友情さえあれば、何でも出来るんだ。
俺は胸が暖かくなったのを感じた。同時に眠気が襲いかかってきて、すぐに意識を手放した。
***
朝を迎えると、早速城之内たちは空港へと向かう。酔い潰れた本田もどうにか起き上がり、みんなで最後の朝飯をパーキングで食べる。会話は少なかったけれど、気まずくはなかった。今生の別れでもないのだから、別れの言葉をいちいち模索する必要がない。
空港につき、受け付けに向かって便のチケットを貰う。アメリカのサンフランシスコ空港行きの搭乗ゲートに談笑を交わしながら向かう。
「あ、着いたぞ」
城之内がゲートに指を差す。既にたくさんの人がゲートに来ている。そこに並べば、もう日本ではない場所に旅立つことになる。つまりここが、友との境界線と云うわけだ。大袈裟な表現かもしれないが。
遊戯と杏子はゲートに並ぶ前に立ち止まり、城之内と本田へと振り返る。二人とも笑顔を浮かべていた。それもそうだろう、自らの夢の舞台が近くにあるのだから。
城之内は素直に喜んだ。親友たちがこうして大きな世界へと羽ばたくのを、僻みや妬みで見ることはなかった。心から胸を張れる。自慢できる、最高の奴等だ。
だけど一方で、寂しいと思う気持ちもある。城之内の強さ、というより勇気の源泉は、近くにいる友人たちだ。本田が近くにいてくれるけれど、やっぱり4人揃って始めて強くいられるのだと、固く信じている。
だから本音を言ってしまえば行って欲しくない。でも、それは単なるエゴだ。許されないことだ。それこそ友情を無視した、最低な思考だ。
城之内は柔らかく、笑みを浮かべた。遊戯たちの、希望への笑みに応えるように。
「じゃあ、そろそろいくね」
「城之内、本田。元気でね」
杏子と遊戯は城之内と本田の手を握る。二人は新たな道へと足を踏み出すべく、手を離してしまった。まあもう、飛行機は出発してしまうから仕方ないのだけれど……やはり寂しいものはある。
二人の姿はゲートの向こうへといってしまった。次はいつ会えるのだろうか。城之内は不安になるけれど、それは尋ねない。二人の邪魔はできないし、メールとかでもいつでも言える。城之内と本田は二人が見えなくなるまで手を振り続けた。
「行っちまったな……」
二人がゲートへと消えて、他の乗客も飛行機に乗ると、急に静かになる。二人残された身としては、やはり寂しいものはある。城之内もそれに同意するように頷いた。
「城之内、飛行機見に行かねえか?」
本田は名残惜しそうな目で、城之内を誘う。でも……城之内の頭には、別のことが思い浮かんでいた。
「悪い、俺ションベンが出そうなんだ。だから、先いってくれ。まだ飛行機は発着しねえだろうし」
「ああ、そうか。でも早くしろよ」
城之内はそれを告げて走っていった。城之内には、やることがあったのだ。それも、小便が出そうになっても我慢するほどに。確かにまだ遊戯たちの飛行機の発着まで時間はあるだろうが、急がなければ間に合わないだろう。
「……トイレ、そっちじゃねえだろ?」
何も知らない本田はポツリ呟いて、走り行く親友を半ば呆れてみていた。
***
舞は一人で空港に来ていた。もちろん、アメリカで行われるデュエルモンスターズの大会に出場するためである。サングラスをつけて、黙々と登場ゲートに向かい、航空券を取り出す。
舞はふと後ろを振り返る。しかしそこには、親子連れやサラリーマンなどがわんさかいるだけで、舞がいつも見ている景色とまるで変わらなかった。
私は何を期待したんだろう。
自問して、やがてすぐに答えが思い浮かぶと苦笑せざるを得なかった。愚直なあの男を、求めていたのだろう。でも、きっと来ないだろう。
舞は止めていた足を動かし、再びゲートに向かおうとした。
しかし、舞の細い腕をゴツゴツした男の手が捕まえた。
「えっ?」
舞は驚き、咄嗟に振り返る。ガードマンか? でも何も疚しいことはしていないはずだ。そう慌てさせるくらいに、手の掴み方は強かった。
だが、後ろにいたのは紺色の制服を羽織った男ではなかった。背の高い、茶髪の青年だった。
「何独り寂しく行こうとしてんだよ。見送りくらい、呼んでくれてもいいじゃねえかバカ野郎」
とても低くて、男らしい声で舞に言う。こんなキザで、ド直球で、心に響く奴なんて、一人しかいない。
「城之内……あんたどうしてここが……?」
そう、舞は誰にも教えていない。搭乗時間も、搭乗ゲートの場所も、具体的な行き先も。まあ、行き先に関しては話したけれど。
だがそれでもこうして出会うなんて思っていなかった。
城之内は、はっと短く笑い飛ばすと後ろの髪を掻きながら答えた。
「俺は遊戯と杏子の見送りに来たけどよ、もしかしたら舞も飛行機同じなのかなって思ってな。でも、飛行機は違ったみたいで遊戯たちと同じ行き先のゲートを探したんだ。そうしたら案の定お前がいたんだよ。ったく、時間がほとんど変わらねえから急いじまったぜ」
城之内はニカッと歯を見せて笑った。その笑顔で舞は、全てを察した。
城之内は、きっと初めから独りで旅立つ舞を見送りにいくつもりだったんだ。独りで寂しいだろうなと気を遣ってこうして来てくれたんだ。
余計なお世話だ。そう、嘗ての私なら思ったであろう。
でも、今はそんなことはなかった。寧ろ、嬉しかった。城之内のことが好きだからか。
……いや、それは違う。城之内があたしの、孔雀舞の側に寄り添ってくれたんだ。愚直な、でもすごく心に染み渡る闘志と、優しさで。だから変われた。好きになったんだ。
「そっか……やっぱ、あんたバカだね」
クスッと笑いながら、舞は城之内を見る。ポロっと出た言葉で、城之内はんなっと情けない悲鳴をあげる。
「あ、あのな!! 俺は必死に探したんだぞ!! そりゃあ俺は頭は悪いからそういうことしかできないけどーーー」
「でも、そんなあんたのことが好きだよ」
城之内の言葉を遮るように、一連のフレーズを告げる。城之内のその鈍感な頭に、その言葉が飛んできたとき……目を大きく開き、文句の言葉を飲み込む。
恥ずかしい。本当に恥ずかしい。恋なんてどうでもよかったのに、今はすごく、恥ずかしい。でも、もうあとには引けない。
「あんたのこと、ずっと大好きだった。あんたのそのバカでまっすぐなところが好き。その優しさも好き。出来ることなら……あんたと一緒に行きたかった」
舞は目を伏せて、言葉を待つ。城之内は相変わらず面食らったような顔をして、何も言わない。突然、こんなこと言われたらビックリしないはずがない。
気まずい空気が流れる。狭い部屋で少しでも触れたら、爆発してしまうような爆弾を互いの間に置かれているような緊張感が二人を支配する。
やっぱり失敗、かな。城之内は、あたしのことなんて好きじゃ、なかった。
城之内はいつもそうだった。城之内は友情に篤い男で、恋愛なんてほとんど知らない奴だった。そしてそれは舞も同じだった。舞は、孤独で恋なんて微塵も触れなかったから全くわからない。
もういいじゃないか。城之内にこの気持ちが伝えられたから。自分の口で、言えたからもう悔いはない。
舞はくるっと背を向けようとした。これ以上ここにいると胸が、痛くなる。だからもう飛行機に乗って、また一人ぼっちに戻る。それだけだ。
だけど……またしても舞は掴まれた。今度は、優しかった。掴んだ人間の顔は……とても綺麗だった。いい加減なアイツの顔じゃなかった。
「行っちまうのはいいけどよ、涙くらいは拭けよ」
掴んだ手を離し、ハンカチを握らせる。けど、涙なんてなかったはずーーー。
「え……」
気づいたら、頬には暖かい何かが伝っていた。そっとさわってみる。確かにそれは、暖かい涙だった。でも、何故だ……?
城之内は舞が握りしめているハンカチを動かすように腕をそっとつかんで、頬へと運んでいく。優しく涙は拭き取られ、至近距離で笑顔を向けられた。バカ野郎とそっと唇で呟きながら。
「俺はさ、鈍感だからお前の気持ちなんて全然わからなかった。だからさ、今すっげぇ面食らっちまったけど……それでも伝えたいことがあるんだ。俺は、お前とは一緒にはいけない」
城之内は目を伏せながら言う。
それは分かっていた。城之内にはやることがあったから。
舞は、実はずっと前からこんなことを思っていた。もし、城之内に会ったら一緒にアメリカに連れていって一緒に暮らそうと。舞は、城之内が、プロの道を外されて心も体も野垂れ死にかけたと、タッグを組んでいる間に本人から聞かされた。だから、自分が養ってあげようと、守ってやろうと思った。
でももう、城之内にはその必要はなくなった。教え子を立派に育てて、大切なものを伝えていく、新しい生き方を知ってしまったからにはもう邪魔なんてできない。
再び気分が落ちそうになり、同じように目を伏せようとした。だけどーーー城之内は舞の頬を両手で押さえて無理矢理視線を合わせた。城之内の目は、とってもまっすぐだった。どうでもいい男が浮かべるような、色欲に満ちた汚いものじゃなかった。まっすぐで綺麗で、蕩けてしまいそうな瞳だった。頬を押さえる両手は力強かったけれど、それですら気持ちよかった。というか、緊張感がものすごく、ヤバイ。
そんな中、城之内は口を開いた。
「でも、俺舞のこと応援してるよ。だってお前はデュエリストだし、付き合い長いし……それにその……お、俺もーーー」
城之内は顔を真っ赤にして口をゴニョゴニョと動かす。恥ずかしいのだろう。あんなに男前なことをしてたのに。ちょっと、可愛いかもしれない。
だけど意を決したのか息を思い切り吸い、真剣な表情で言い切った。
「その、お前のことが好きだから。愛してるから……ずっと応援するよ」
城之内は言い終えると、ゆっくりと歩みより、そっと舞を抱き締めた。城之内の体温が、舞の体を包み込む。
やった。想いが、通じた。長年の気持ちがやっと届いた。ずっと結ばれたいと思っていた男とようやく、ひとつになれたんだ。込み上げてくる、達成感と充実感が全てを支配し、胸が高ぶってきた。
舞と城之内は互いに見つめ合い、ゆっくりと顔を近づける。ああ、これからキスをするんだ。まるで他人事のように考えながら、唇と唇を触れあわせる。
いざ唇を合わせると、城之内のそれはガチガチに固まっていた。でも、それでも良かった。あいつはスッゴク満足したような顔をしていたから。
二人は長いこと唇を離さなかった。お互いを食べあっているように濃厚なキスを続けるうちに、それが癖となっていく。城之内の固かった唇はいつしかふやけていき、舞のそれも唾液で滑り始めていく。
ああ、これをずっとしていたい。城之内とずっとこうしていたい。そんな密なる願いを、抱き始めた。
だけど……現実は非情とも言うかな、そういうわけにはいかなかった。
「えー、まもなくロサンゼルス行きの飛行機が発着いたします。まだご搭乗されていないお客様は急ぎゲートまでお越しください」
ムードを壊すような、無機質な音声アナウンスに、城之内の唇は離された。そして切羽詰まった顔をして、慌て始める。
「や、やべぇ!! お前もういかなくちゃな!!」
「え、ええそうね……」
だけど舞は内心でクスリと笑っていた。城之内には全く関係ないはずなのに、自分のことのように考えてくれているのだ。
あたしは、間違ってなかった。この男にして、よかった。あたしはもう、一人じゃない。
舞は安心して城之内から離れた。そして荷物を持って、ゲートへと向かう。関係者に頭を下げてチケットを見せ、奥へと向かっていく。
その時だった。城之内もかけより、舞の手をつかむ。
「城之内……」
「なぁ……日本に戻ってきたら、俺に会いに来てくれよ? いつでも、いつでも待っているからな!」
今にも泣きそうな顔で舞に訴える。舞は、それがいちいちおかしくて、愛おしかった。
だから、笑って答えた。
「分かったよ。あんたに会いに、戻ってくるよ。じゃあね」
手をあげて舞は、飛行機に乗っていった。城之内は姿が見えなくなるまで手を振ってくれたと思う。舞も、見えなくなるまで手を振り続けた。
飛行機の中に入り、指定された席に乗る。荷物を整理し、窓越しに外を眺める。絶景が広がるなか……舞は見逃さなかった。城之内が、展望場からその飛行機を見てくれていることを。
つくづく幸福者だ。舞は、クスッと笑いながら一人の恋人のことを、思ったのだった。
***
「行っちまったか……皆」
城之内は、ポッケに手を突っ込みながら飛行機を見上げていた。遊戯たちのではなく、舞の飛行機を。遊戯たちのも見たかったけれど、時間がなかった。舞の見送りができなくなるから。
別に舞に頼まれた訳じゃない。舞はいつも一人だ。だから、別に城之内なんか要らなかった。
でも結果的には行って良かった。彼女は、城之内を必要としていることを知ったから。あいつに、独りは似合わない。
飛行機が遥か上に在る雲海へと消えていくと、城之内はふぅと一息ついた。胸に残る淋しさを噛み殺しながら、くるっとフェンスに背を向ける。
出口のドアに歩いていくと、とんとんと肩を叩かれる。そこには、若干呆れていた本田がいた。見送りに便所で遅れるとはバカなやつだと、言っていた。
城之内は弁解し、本田と共に帰った。共に感じた、強烈な淋しさを抱えながら。
だけど、一方で城之内は燃えてもいた。
遊戯も杏子も、そして舞も、新たなステージへと踏み出した。そいつらを応援もしたい。でも……追い付きたい。手の届く場所に、いたい。そこにいきたい。そうも思い始めた。
友達が高みへと目指すのはいいことだ。でも……置いていかれるのだけは嫌だ。淋しさに溺れて壊れるのは、嫌だ。
だからーーー俺はこの場所でやり遂げる。新たに見いだした目標を成し遂げて見せる。
「なーに嬉しそうな顔してんだよ、城之内」
「いや、何でもねえよ。さ、帰るか」
いつのまにか笑っていたのかもしれない。苦笑しつつ、城之内は頭を掻きながら本田と共に、岐路に着くのだった。
次回は、デュエルします。そしてどんどん三幻魔の戦いにいきたいですねw