遊戯王GX 凡骨のデュエルアカデミア   作:凡骨の意地

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更新遅れました。申し訳ない。


第十二話:城之内の教えたいこと

 デュエルアカデミア1の実力を誇り、帝王の名を貰っている男、カイザー亮は、タッグデュエルを遠くから見ていた。客観的に見れば不利な試合、自分だったらどう戦っているのだろうか。

 今、自分の弟が遊城十代とタッグを組んで戦っている。弟のプレイングは今のところ間違いはない。手札の枚数もなかなかで、勝てる余地はないとは言い切れない。

 だが弟には、そんな冷静な思考を保てるだけの余裕はない。この場に立つだけで精一杯だ。無理もない話だが、それではいけない。この戦いは、翔の運命を決める戦いなのだから。

 

(見せてもらうぞ翔。お前の強さを……)

 

 

 

 

 翔は震え上がっていた。

 残りライフは2200、モンスターは0。これでは勝てない。しかも罠も張っても意味がないというこの状況で、どうしろというのだ。攻撃力が2400もあるモンスターに、敵うカードは今の翔の手札には、ない。先程手札に戻したモンスターたちも、融合なしではなにもできない。

 この状況を招いたのは自分だ、ハーピィ・レディ1や、ハーピィ・チャネラーを倒しておけば、こんなことにはならなかった。次に何かをしなければ、デュエルに敗北し、退学になる。全ては、翔にかかっているのだ。

 ……そんなのできっこない。できるわけがない。相手はプロ、僕の足掻きなんて通用しない! 僕のモンスターじゃ、勝てやしない!!

 気持ちが沈んでいく。沼に落ちて嵌まってしまったかのように、どんどん沈んでいく。力も抜けていく。視界が暗くなる。

 

(もうだめなんだ……僕じゃあ、兄貴のパートナーなんて、務まらないんだ……。でも、もういいよね……僕頑張ったんだから……)

 

 翔は、あるひとつの方法を見出だす。デッキに手を置くことである。相手に戦意の消失を見せて、敗北を認める方法だ。デュエルにおいて一番嫌われてる負け方だが、翔に言わせれば、もっとも楽になれる方法だ。このまま無理に試合を続けるよりかは、ずっと有意義だ。

 サレンダーしよう。

 気持ちが楽になる。それは正直偽りの快感だけれどもそんなのはどうでもいい。本当の苦痛が消え去るのならば……偽りだろうがなんだろうが関係ないーーー。

 

 

 

「翔、まだまだこれからだぜ。お前のターンだ」

 

 

 え? 兄貴?

 

 翔は手を止めて十代を見る。十代は……目に光があった。諦めていなかった。しかも、笑っている。

 どうして笑っていられるの? 相手はプロだよ? しかもライフももう少ない。勝てるわけ、ないよ……。

 翔にはわからなかった。何で、十代はいつも笑っていられるんだろうと。いつだってそうだ。どんなに不利なデュエルだって、常に笑っている。興奮している。そして……勝利する。兄のカイザー亮には負けたけど、そんな風に戦って、兄を認めさせていた。十代の強さの秘密は、そこにあるのかもしれない。そこに惚れて、兄貴と従っているのかもしれない。

 だけど、だからこそ翔は辛かった。こんな弱い自分が、十代にふさわしい弟分で良いのかと悩んだ。もっと強い人はいる。もっといい人もいる。一緒に戦える人はたくさんいる。自分に、十代のとなりは相応しくないんだ。

 

「……ねえ兄貴。どうして、僕とタッグを組んでくれたの?」

 

 でも、何故か理由を聞きたくなった。アニキのとなりにいたいという、ただの希望を食い繋ぐためでしかないのに。

 

「何だよいきなり……そんなの決まってんじゃん」

 

 十代は、にかっと笑って答えた。どんな闇をも振り払うほどの光がある笑顔で。

 

 

 

「お前がデュエルを楽しそうにしているからだよ」

 

 

 

「え……?」

 

 楽しそう? 僕が?

 

「お前、俺とデュエルするとき、いつも楽しそうにしてるだろ? 俺も楽しいんだよ、お前とデュエルするの」

 

 思い返してみる。翔はよく、十代と寮の小さな部屋でデュエルをしていた。ソリッドビジョンは使わないけれど、お互いの腕をあげるためにたくさんデュエルをし続けた。

 十代は強かった。でも、翔も負けなかった。二人の間に、笑顔が尽きることはなかった。

 でも、それと今回のタッグデュエルは……関係ないよ。

 そう言おうとした。でも、口に出せない。いや、出したくなかった。

 ……関係なくなんかない。兄貴は、デュエルを楽しんでいる。僕と違ってメソメソと泣いて勝利を諦めることなんて……しない人だ。だから強いんだ。だから僕を、選んでくれたんだ。僕とやれば、楽しいデュエルになるからって……!

 

「だからさ、楽しくやろうぜ。それでもって……勝とうぜ!!」

 

 十代は親指をたてて、翔に言った。その笑顔は、翔の心の闇を焦がすように熱く、明るかった。

 卑屈になってどうする? 僕は……兄貴についていくと誓ったんだ。兄貴と……デュエルしたいんだ!!

 

 足に力を込めて背筋を伸ばす。カードを握りしめて想いを込める。そして……空いた右手で、カードを引いた。

 

 

「僕のターン……ドローッッ!!」

 

 

 翔の引いたカード……それは《強欲な壺》だった。自分の兄貴がピンチの時によく引く、逆転のドローカード。諦めなければ、可能性は生まれるんだ。そう、十代が教えてくれたみたいだ。

 まだいける。まだ、戦える!! カイザーに、城之内先生や孔雀舞に、そして十代に、それを証明して見せる!!

 

「僕は手札から魔法カード《強欲な壺》を発動!! 効果により、デッキからカード二枚ドローする!!」

 

 翔は二枚の剣を手にした。その剣はこの布陣を断ち切るほどの威力を秘めている。まず、1つ目の剣だ。

 

「僕はまず手札から《死者蘇生》を発動!! 効果により、墓地からモンスターを蘇生させる。僕が蘇らせるのは……《E・HERO エッジマン》!!」

 

E・HERO エッジマン 星6 ATK2600 戦士族 光属性

 

 全身が金色に光るボディを持つ強靭なヒーローが現れる。

 

「えっ……!? そんなカードあったか!?」

 

 城之内と舞は驚く。逆転のカードを引いたというだけではなく、そんなモンスターを破壊したこともない。

 

「いや待って、城之内! 遊城十代が天使の施しで二枚墓地に落としていた……さっきのネクロ・ガードナーが墓地にいたのも、そのタイミングだよ!!」

 

「つまり……その時にエッジマンも落ちていたというわけか……」

 

 城之内は唇を噛む。十代はこれを狙って死者蘇生で特殊召喚をしたわけか。こちらに罠はない、迎撃は不可能だ。

 

「まだまだ終わりじゃない! 手札から《融合》を発動!! 僕は《ユーフォロイド》とエッジマンで融合する!! 現れろ、ユーフォロイド・ファイター!!」

 

 融合によって現れた渦に、エッジマンとユーフォロイドが吸い込まれる。そして現れたのは……UFOが逆さになったような乗り物に乗っているエッジマンだった。

 

「じ、地味な融合だな……」

 

 翔がやったのはただ乗っただけ融合。しかし、自分のことを棚にあげていることに気づいていない。

 

ユーフォロイド・ファイター 星10 ATK? 機械族 光属性

 

「地味かもしれないけれど効果はすごい! ユーフォロイド・ファイターの効果を発動! このカードの攻撃力・守備力は、融合素材にしたモンスターの攻撃力の合計した数値となる!! よって……1200と2600合計で3800!!」

 

「さ、3800ですって!?」

 

ユーフォロイド・ファイター ATK?→3800 DEF?→3000

 

 3800と言えばブルーアイズも簡単に越えるほどの攻撃力。ということはつまり……妨害カードのサイコ・ショッカーも破れるということだ。

 希望が見えた。翔は勢いよく叫んだ。

 

「バトル! ユーフォロイド・ファイターで人造人間サイコ・ショッカーに攻撃!! フォーチュン・エッジマン!!」

 

 エッジマンをのせたユーフォロイドは、サイコ・ショッカーへと体当たりをかました。サイコ・ショッカーはその衝撃に耐えられず、爆散する。

 

城之内&舞:LP7800→6400

 

「僕はさらに一枚伏せてターンエンド」

 

ジャイロイド 星4 DEF1000 機械族 風属性

 

 ターンエンドを宣言した。

 

 

 

 友情の力は、すごい。

 城之内は感じた、二人の間に宿った何かを。先程まで翔はへたれていた。勝負を諦めかけていた。でも……十代がそれを引き留めた。翔を復帰させるほどの信頼と勇気で勝負に挑みに来ているのだ。だから翔は引き込まれた。戦う決意をした。

 そしてあの死者蘇生。翔は、十代が天使の施しでエッジマンを墓地に落としたのを見逃していなかったのだ。城之内や舞ですら見逃したというのに。

 あの二人の友情の力は本物だ。ならば……もっと見てみたい。もっと、確固たるものにしたい。あの二人なら、デュエル以上に大切なものを、分かってもらえるかもしれない。

 そのためには、勝つ気でいかなければいけない。でなければ……二人の力を見ることは出来ない。

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 城之内が引いたのは……《時の魔術師》だった。遊戯にもらった、友情のカード。これで、勝負だ……!

 

「俺は、《時の魔術師》を召喚!! 頼むぜ、相棒!!」

 

時の魔術師 星1 ATK500 魔法使い族 光属性

 

「あんたらしいね、それで覆そうだなんて」

 

 舞が半ば呆れたように呟く。だが、これは城之内と遊戯の友情の証の1つでもある。このデュエルには、相応しいカードだ。

 

「時の魔術師は、1ターンに一度、コイントスをすることができる。その際表か裏かを宣言して、同じ面なら相手フィールドのモンスターを全破壊、違う面なら自分フィールドのモンスターを全破壊して、破壊されたモンスターの攻撃力の半分のダメージを受ける! 俺が宣言するのは、表だ!! いくぞっ!」

 

 親指から、デュエルディスクに内蔵されていてコインが弾かれる。友情によって召喚されたユーフォロイド・ファイターが破壊されるか、守られるか。果たしてどちらの友情が、勝るのか。

 くるくると舞い上がり、運命の裁定が下されようとする。やがて落下を始め、コインは城之内の手の甲目掛けて軌跡を描いていく。一同の視線がコインに集まり手に吸い込まれる。もう片方の手で覆い被せ、開いてみると……。

 

「ーーー表だ」

 

 城之内はニヤリと笑う。まだ、友情ならばこちらの方が上だった。だが、胸に秘めた、友への想いが力となることを知れば、彼らはもっと強くなる。

 城之内は高らかに効果処理を宣言する。

 

「同じ面であるので、相手フィールドのモンスターを全て破壊する!! タイム・マジック!!」

 

 時の魔術師は念を込めて、時空の渦を作る。ユーフォロイド・ファイターはそれに吸い込まれてしまい、遥か彼方の時間へと飛ばされていってしまった。

 

「ユーフォロイド・ファイターが!!」

 

 十代が叫ぶ。二人の友情の結晶が散ってしまったからであろう。これで、フィールドはがら空きだ。

 ……ここで終わるのかどうかは、わからないが。

 

「バトルだ! ハーピィ・レディ・SBでダイレクトアタック!!」

 

 城之内はバトルを宣言する。ハーピィ・レディ・SBは翔へと飛びかかっていく。これが決まれば、確実に翔たちの敗けだ。さあ、どうするんだ……!?

 ハーピィ・レディ・SBの爪が翔に突き刺さりそうになったときーーーリバースカードがオープンする。

 

 

「罠カード発動!! 《聖なるバリアーミラーフォース》!! 攻撃表示のモンスターを全て、破壊する!!」

 

 

 ハーピィ・レディ・SBの長い爪が翔に届く直前……バリアが彼女を弾いた。やがて灼熱のそれが広がっていき、ハーピィ・レディ・SBはおろかハーピィ・レディ1や時の魔術師を巻き込んでいった。

 

 やっぱりな。

 城之内はそう思った。もし、モンスターが全破壊されたら普通は勝負を諦める眼をする。だが、彼らの目に光があった。だから、そういった攻撃反応系の罠カードがあるかもしれないなとは思っていた。最も、それを避ける手段は持っていなかったのだが。

 でもそれでも攻撃したのは、手抜きでもなんでもない。彼らともっと戦いたかったからだ。仮に罠があったとしても、それに引っ掛かっても良いとすら、思ったりもしたのだ。全ては、二人の友情を試すためだ。

 だがこれで相方のハーピィを消してしまった。それは謝るべきだ。不機嫌そうな相方に向き直って謝った。

 

「悪いな、舞。でも、こいつは教師として……必要なことだと思ったんだ」

 

「見え見えの罠に引っ掛かるなということかしら?」

 

 嫌味ったらしく舞が言う。城之内は、真剣な表情で答えた。

 

「そうじゃねえ。もっと、大切なもんだよ。……デュエル以上にな。ーーー俺は1枚カードを伏せてターンエンドだ」

 

 

 

「仕切り直したか……時の魔術師とミラーフォース。この二枚で一気に場が空いたというべきだ」

 

 観客席の三沢は冷静な顔で解説する。隣の明日香もそれに頷き、付け加える。

 

「そうね……ここで十代がどうするかによって、全てが変わるわね。十代が融合を引けば、大きなダメージが与えられる」

 

「ああ。だが、嫌な予感もするんだ」

 

 三沢は顔をしかめる。明日香は振り向いてどういうことか尋ねる。

 

「城之内先生は、明らかに伏せに何かがあると思って攻撃をした。それによって、ハーピィたちが墓地に落ちている。それだけじゃない。天使の施しを渡したり、やたらと手札を消費していたりと、墓地に落とそうとするプレイングが目立つ」

 

「言われてみればそうね。……もしかして、カオスカードを……?」

 

「その可能性は無きにしもあらずだが、もしかしたら……それ以上に強力な何かを狙っているかもしれない」

 

 三沢は十代を見つめる。彼がここで勝負を決めれば、懸念は消え去るのだ。

 

 

 

「俺のターン、ドロー! 俺は、魔法カード《強欲な壺》を発動!! デッキからカードを二枚ドローする」

 

 ようやく十代のターンだ。しかも、がら空き、今が攻めるときかもしれない。最初から城之内のフィールドに一応伏せはあるけれど、それが仮にミラーフォースならば使うタイミングはいくらでもあったはずだ。新たに伏せたカードが何かわからないが、突っ込むしかない。翔が繋いでくれたこのターン、無駄にはしない。

 

「俺は、《融合》を発動!! 手札のバースト・レディとフェザーマンを融合! 現れろ、フレイム・ウィングマン!!」

 

E・HERO フレイム・ウィングマン 星6 ATK2100 戦士族 風属性

 

 炎と風が融合して現れたのは、十代のエースモンスターと言われている、フレイム・ウィングマンである。戦闘で破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与えるという強力な効果を持っているので、警戒すべきモンスターだ。

 

「更に俺は、《融合回収》を発動!! 墓地の融合と、バーストレディを手札に加える。ーーーそしてさらに、《戦士の生還》を発動!! 墓地にある戦士族モンスターを手札に加える。俺が加えるのは、クレイマンだ。そしてっ!! クレイマンとバーストレディで融合だ!! 現れろ、ランパートガンナー!!」

 

 再び現れた融合の渦に、クレイマンとバーストレディが飲み込まれる。その渦から現れたのは、固い壁に強力な兵器を備えた戦士だった。

 

E・HERO ランパートガンナー 星6 DEF2500 戦士族 地属性

 

「バトルだ!! フレイム・ウィングマンでダイレクトアタック!! フレイム・シュート!!」

 

 十代が叫ぶ。フレイム・ウィングマンは右手にある武器で炎を吐き、城之内たちを焼き払う。

 

「ぐっ……やべぇなこりゃ」

 

城之内&舞:LP6400→4300

 

「さらに、ランパートガンナーの特殊効果を発動!! このカードは、攻撃力を半分にして、直接攻撃ができる!!」

 

 ランパートガンナーは兵器のようなものでミサイルを放ち、城之内たちに攻撃する。

 

城之内&舞:LP4300→3300

 

「かなり追い詰められたね、城之内」

 

「みたいだな……」

 

 一気にここまで削られた。しかも、攻撃力2100と守備力2500の壁はきつい。仕切り直しからここまで削るとは、大したものだ。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 

 

 今相手に伏せはなく、城之内のフィールドに一枚存在するだけ。これを使えば、状況は有利になる。

 しかし、気になることがある。城之内は、一体このデュエルで何を伝えたいのだろうかと。疑問を抱いたのは、プロにとっては見え見えの罠に引っ掛かったときである。罠が伏せてあり、しかも光を失わないならば、何かしらの罠やら何やらは張っているはずだと、疑うべきである。

 しかし城之内は気づいていて、こんなことをしたのである。手を抜いたのか、それとも何かの意図があったのか。

 彼は先程まで本気で生徒を叩き潰そうとしていたのだ。容赦なくライフを削り、絶望する寸前にまで追い詰めたのだ。

 城之内は罠にかかったときに、いっていた。教師として必要なことなんだと。あれは間違いなく、見え見えの罠に引っ掛かるなよということではないはずだ。それ以上の意味が、あるのだろう。

 だとしたらそれはなんだ? タッグデュエルという特殊なデュエルの意義? それとも……。

 

ーーーそう言うことか。

 

 タッグデュエルにて、大切なことを、教えようとしていたのだ。それは、結束の力。武藤遊戯がプロリーグのタッグ戦で、城之内と組んだことがあった。相手は新参で僅か2ターンで勝負がついてしまったことがあった。舞なりに分析すると、互いのコンビネーションの次元の差だった。二人のコンビネーションは理論的には正しいし、完璧だった。だがそれ以上に、二人の間に見えない何かがあって……死角がなかった。勝てるはずもなかったのだ。

 城之内のやつは、それを伝えたかったのかも、見たかったのかもしれない。友情、そして結束を。だから本気で叩き潰そうともしたし、罠にも引っ掛かったりもした。

 

(教師らしいね、城之内)

 

 苦笑いを浮かべながら、ドローをした。

 

「あたしのターン、ドロー!!」

 

 舞は、カードを引く。そのカードは、まさに舞の切り札であった。だが、今はまだその時ではない。まずは、相方のカードを使うべきだ。

 

「リバースカードオープン! 《墓荒らし》発動! 相手の墓地から魔法カードを奪い取る! あたしが奪い取るのは、死者蘇生!」

 

 ちらりと城之内を見て、伝える。城之内の意思は、理解した。だが、本気ではデュエルする。

 墓荒らしの小僧が、舞の手元に死者蘇生を運び込む。ライフはまだ3000以上あるので、発動条件は満たしているはずだ。

 

「さらにあたしは死者蘇生を発動! 墓地の《E・HERO エッジマン》を蘇生する。この際、2000ライフを払うわ」

 

城之内&舞:LP3300→1300

 

「現れろ、エッジマン!!」

 

 舞が叫ぶと、金色に光る戦士フィールドに現れた。

 

E・HERO エッジマン ATK2600 戦士族 光属性

 

 舞は手札を見る。今は、攻められる手札じゃない。だがーーー伏せカードを破壊することは、できる。

 

「更にあたしは《ハーピィ・ダンサー》を召喚する。ここでフィールド魔法《ハーピィの狩場》の効果が発動するよ。フィールドの魔法・罠を一枚破壊する。あたしが破壊するのは、遊城十代の伏せ!! そして、ハーピィ・ダンサーの効果を発動、フィールドの鳥獣族を手札に戻して、もう一度召喚する。あたしはハーピィ・ダンサー自身を手札に戻す」

 

 ハーピィ・ダンサーはフワッと舞い上がり、背中の羽で十代の伏せ《融合解除》を破壊した。融合モンスターの融合を解き、素材モンスターを墓地から蘇生させるというものだ。追撃にも防御にも使える優秀なカードだが、破壊されてしまっては意味がない。

 破壊を終えたハーピィ・ダンサーは素早く後ろへと飛び、舞の手札に戻っていく。ノーコストで破壊ができるとは、とても優秀と言わざるを得ない。

 

「バトル!! エッジマンでランパートガンナーを攻撃!!」

 

 舞はどちらを攻撃するか迷った末、ランパートガンナーを選ぶ。必ず1000ポイントのダメージが入るというのは残り1300しかない今の状況では痛いものだからだ。

 エッジマンの拳はランパートガンナーの盾を破壊し、突き刺さった。

 

「ランパートガンナーが……」

 

 翔の悲痛な声が聞こえるが、構いなしに考えた。先程引いたカードをここで伏せておけばいい。そうすればーーー勝ちは決まる。舞のデッキの最大の切り札である、柔なものではない。

 

「更にあたしは一枚のカードを伏せて、ターンエンド」

 

 今、城之内と作り上げた結束の力が、炎をあげる。

 

 

 いよいよ大詰めだ。お互いのライフも殆ど差がなくなった。舞さんが何をするかわからない。いや、勝負がどう転ぶかわからない。

 現在翔と十代のフィールドには、フレイム・ウィングマンが棒立ちしているだけだ。だが、攻撃力2100では、2600のエッジマンには勝てない。そして翔の手札には、序盤で墓地から手札に戻した《ジャイロイド》と《キューキューロイド》のみ。これでは、勝てない。ジャイロイドで耐えてもいいが、それはあまりに無意味。このギリギリの戦いにおいて、守りに徹するのは無謀だ。

 だけど攻めるにしたって何があるんだろうか……? あるとすればーーー兄に封印されたあのカードだ。でもあのカードを使ってもいいのだろうか?

 いや、まずはカードをドローしてからだ。それから決めなくては。

 

「僕のターン、ドロー!!」

 

 翔が握ったカードは、《天使の施し》だ。これならば……。

 

「僕は手札から《天使の施し》を発動!! デッキから3枚ドローして、《ジャイロイド》と《キューキューロイド》を墓地に捨てる! ーーーよし、僕はフレイム・ウィングマンを守備表示に、そして二枚のカードを伏せて、ターンエンドだ」

 

E・HERO フレイム・ウィングマン DEF1200

 

 あまりに短いターン。しかし、あの伏せには翔と十代の友情を示す、強い想いが秘められている。ターンが渡された城之内にはそれが感じられた。

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 海馬からこの話が届いたときは、十代たちを勝たせて、自分もうまくプレイしてどっちもペナルティを免れるということを考えていた。そして十代たちが序盤にやられていき、手を抜くべきか考えさせられたときもあった。

 だが、次第に二人の友情の力が城之内たちを追い詰めていった。城之内と舞が、負けそうになっている。それを認識したとき、城之内は思った。この二人には本気でやらないと、勝負にならないと、結束の力を見ることは出来ないと。その時にはもう……ペナルティのことなんて頭になかった。二人に、何かを残すことで精一杯だった。

 個々の実力もそうだが、何より二人合わさった力が凄まじいのだ。タッグデュエルにおいて、遊戯は結束の力こそが重要といっていた。個々の力こそ弱くとも、二人の力を合わせれば、絶大な力を産み出す。

 だから、プロだとか、アマだとかそんなのは関係ない。タッグにおいて、いかに結束するかが、重要なのだ。その点では、翔と十代は結束できていなかった。舞と城之内は結束できていた。だから、最初は圧倒できた。だが、二人は結束を始め、決死の力を発揮し始めた。だから、舞や城之内を追い詰めた。

 ただ、やられる気はない。城之内は舞のやろうとしていることを支援した。そして今、それが解き放たれようとしている。舞と城之内の、結束の力は、これからだ。

 二人で紡いだ、強力な結束を見せてやる……!!

 

 

「舞、今こそお前のデッキの真骨頂を使うぜ!! リバースカードオープン、《ヒステリック・パーティー》!!」

 

「ヒステリック・パーティー!?」

 

 十代が叫ぶ。どうやら始めてみるカードのようだ。

 

「このカードは、手札を一枚捨てて発動する。墓地にいる《ハーピィ》と名のつくモンスターを可能な限り特殊召喚する!!」

 

「ええっ!? そ、そんな……!!」

 

 そう、このカードを発動させるために準備をして来たのだ。ハーピィたちを墓地にたくさん落とし、いざというときに展開できるように。

 これが、舞との見えないけれど、見えるものの証だ。二人で紡いだ力は、半端なものじゃない!! お前たちは、これを越えられるか……!?

 

「現れろ、《ハーピィ・レディ・SB》、《ハーピィ・クィーン》、《ハーピィ・レディ1》、《ハーピィ・レディ》!!」

 

 フィールドに四本の光の柱が出現し、そこから4体のハーピィが姿を見せる。墓地に眠っていた鳥獣たちは、この饗宴を喜ばないはずがなく、翔たちに狂ったような笑みを見せる。限界を越えた彼女たちは、力の限界を知ることはない。

 

ハーピィ・レディ・SB ATK1800→2300

ハーピィ・クィーン ATK1900→2400

ハーピィ・レディ1 ATK1300→1800

ハーピィ・レディ ATK1300→1800

 

「ハーピィの狩場の効果を発動!! ハーピィ・レディ特殊召喚されたとき、魔法・罠を一枚破壊する。俺が破壊するのは……翔の右側の伏せだ!!」

 

 ハーピィたちが飛び上がり、一斉に羽を飛ばす。それは翔の右側の伏せに直撃し、《貪欲な壺》が破壊された。

 やはり、あれは友情の証だ。あれを渡すつもりで伏せたのだろうが、破壊されてしまってはおしまいだ。ここで一気に決めてやる!!

 

「バトルだ、エッジマン!! フレイム・ウィングマンに攻撃だ!!」

 

 エッジマンはフレイム・ウィングマンに近づき、拳を突き出す。その威力に耐えられず、フレイム・ウィングマンは倒れてしまった。

 

「ここでエッジマンの特殊能力を発動! エッジマンが守備表示モンスターに攻撃したとき、攻撃力が上回っていれば、その差の分だけ相手にダメージを与える!!」

 

「ぐっ……!!」

 

十代&翔:LP2200→800

 

 これで十代たちのフィールドはがら空きだ。これで、終わりだ。

 

「そしてハーピィたち、一気に舞え!! クィントル・スクラッチ・クラッシュ!!」

 

 4つの爪が、一斉に十代たちに飛びかかる。先陣を切ったのは、ハーピィ・レディ。続いて、他のハーピィたちも襲い掛かる。この攻撃が決まれば、確実に翔たちのライフは0になる。

 だが、翔の目には、光があった。果たして、彼は宣言した。

 

 

 

「この瞬間、《スケープ・ゴート》を発動!! 自分フィールド上に、4体の羊トークンを特殊召喚する!!」

 

 

 ……なるほど、どっちにしても、無駄だったか。貪欲な壺を破壊しなくても、次のターンに、十代に渡されることになっていた。

 やはり、タイミングが悪すぎた。もう少し待てば、止めをさせたのに……。だが不思議と悔しい気持ちはなかった。

 

「仕方ない。全ての羊トークンに攻撃だ!!」

 

 ハーピィたちは、それぞれ羊トークンを破壊する。羊トークンこそ全滅したものの、ゲームエンドには持ち込めなかった。あとは……二人の力を見るだけだ。

 

「俺は、一枚伏せてターンエンドだ。すまんな、舞」

 

 城之内は謝った。舞が用意した舞台を無駄にしてしまったことは、彼女はきっと嫌だっただろう。

 だが、舞はふっと、苦笑いを浮かべてこういった。

 

「これが、あんたなりの教え方なのね。だったら、あたしはなんも文句は言わないわ」

 

 ……どうやら、結束は十分だったようだ。

 

 

 

 翔の用意してくれたカードは、すべて消えた。でも、ターンだけは、命だけは残してくれた。そうだ、貪欲な壺を残そうとしたのは、十代を信じているからだ。だから、十代には、カードをドローして逆転する義務がある。

 

 ーーー頼む、神様……翔の繋いでくれたチャンスを、このドローカードを、無駄にしたくないんだ。だから、いいカードを俺にくださいっ、頼む……!!

 

 十代は、カードデッキに手をかける。一枚の剣をデッキという鞘から抜き払うために力を込める。

 

「俺のターン……」

 

 このドローは、運命を決める。どっちに傾くか。破滅か……それとも、勝利か。

 

 

「ドローッッ!!!!」

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 




次回でデュエルは終わります。そこから、一気に進めればなと思います。

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