遊戯王GX 凡骨のデュエルアカデミア   作:凡骨の意地

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タッグデュエルのルールは現在のルールとします。舞さんは原作で使用していないハーピィも使います。割りとガチなっているかも。ただハーピィと相性のいい、別のモンスターカードを使うことはないです。


第十一話:圧倒的な壁

「さあ、デュエルを始めようぜ。十代、翔」

 

 城之内は、目の前にたつ二人に声をかけた。

 

「どうして先生が相手なんだよ。それに強そうな人をつれてさ」

 

 十代が質問する。翔は完全にびびっている。まあ、プロのデュエリスト二人相手では、そうなるもの当然だ。

 

「そりゃあ俺も罰則違反やらかしたしよ、いいデュエル見せなきゃいけないってオーナーに言われたんだ。だから、お前たちと戦うことになった。ただ俺たちは勝ち負けは関係ないがな」

 

「マジかよ……まあいいや、また先生とやれるんだ、興奮するぜ!!」

 

「はは、そうかそうか。じゃあ楽しいデュエルにしようぜ。な、舞」

 

 城之内は舞の肩をポンと叩く。孔雀舞はかなり有名なプロのデュエリスト、そんな相手に気軽に話せるのはすごいと翔たちは思う。

 

「そうね城之内。あんたの育てている卵の力、見せてもらうわね」

 

「そうだな……おい、クロノスさん。もう始めてくれ」

 

「りょーかいしたノーネ。ではでは両者位置について」

 

 いよいよ始まると、観客は歓声をあげる。教員席に座る鮫島校長は目を輝かせて試合開始を見守る。その後方に座る、奇妙な髪をしたオシリスレッドの寮長、大徳寺先生は猫を抱いてフィールドを見つめている。

 両者が位置につき、デュエルディスクを構えると、クロノスが中央にたってルール説明を行った。

 

「タッグパートナーへの助言はダメなノーネ。自分とパートナーのフィールド、墓地は共有、バトルフェイズが行えるのはワンターン目の最後の後攻プレイヤーからなノーネ。よろしいノーネ? 各チームのライフポイントは8000なノーネ。では……」

 

 ルール説明は終わった。城之内と舞はニヤリと笑い、十代と翔は厳しい表情を浮かべて、共に叫んだ。

 

「デュエル!!」

 

 火蓋が切って落とされ、カードを互いに5枚引く。先行は、生徒チームの翔からだ。

 

「僕のターン、ドロー! 僕は、ジャイロイドを守備表示で召喚!! ターンエンド」

 

ジャイロイド 星3 DEF1000 機械族 風属性

 

 プロペラを持つ小型航空機が現れる。舞にはあまり馴染みのないモンスターだ。モンスターを召喚してターンエンドということは、手札が悪いのか、それともそのモンスターに特殊能力があるのか。

 

「俺のターン、ドロー! 俺はカードを二枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 次は城之内のターンだが、モンスターを召喚せず、カードを伏せたのみだった。守りを固めるつもりなのか。

 

「俺のターン、ドロー! へへっ、俺は《E・HERO クレイマン》を守備表示で召喚! カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

E・HERO クレイマン 星4 DEF2000 戦士族 地属性

 

「守備力2000の壁か……ちょっと高いね」

 

 

 舞がじっとクレイマンを睨む。どうやら舞の手札には、この状況を変えるカードがないようだ。次からバトルフェイズが許されているターンだ。ここからデュエルは動き出す。

 だが、タッグデュエルと言うのは一人で戦っている訳じゃない。当然、相方のカードも舞のものである。

 

「あたしのターン、ドロー! っふ……」

 

 舞はドローカードを見つめる。それは《ハーピィ・レディ》だった。このデッキのエースカードをいきなり引くとは、幸運だ。だが、まだ使わない。舞台が整うまでだ。

 まずは……舞台を整えるために用意してくれた道具を使わないと。舞はちらっとリバースカードを見つめた。

 

(あんたのカード、借りるわよ)

 

 用意してくれた相手に目線で伝え、宣言する。

 

「リバースカードオープン! 《天使の施し》! 三枚カードをドローして、二枚手札を捨てる」

 

「なっ……通常魔法だと!?」

 

 十代は目を見開いて驚く。魔法、罠ゾーンに伏せるのは基本、速攻魔法か罠カードだ。だが、こうして通常魔法を伏せるのはあまりない光景だ。何故なら使うなら手札から使った方が安全に決まっているから。もし一度伏せてしまったら、サイクロンなどの魔法除去カードを使われて無駄になってしまう可能性がある。そのリスクを考慮してまで城之内は舞にカードを手渡したのだ。

 

 

「流石だな……城之内先生と孔雀舞のタッグは」

 

 観客席にてそうコメントを残すのは、ラーイエローの三沢大地だった。十代と知り合い、彼の実力は理解しているが、相手はやはり悪い。城之内先生にあと少しで勝てそうになったとはいえ、現役プロの孔雀舞もいれば勝てるはずがない。

 城之内先生のプレイングもさすがだ。天使の施しは手札こそは増えないが、手札交換、墓地肥やしのどちらもこなしてしまうほどの強カードだ。それを自分が使えばいいものを、それを相方に渡した。これによって、ただでさえ強力な天使の施しをノーハンドで使用できるので一枚手札が増えるという更なる効果を産み出すのだ。そこまで計算して、孔雀舞にそのカードを渡したのだ。言い換えれば、手札消費が激しいプレイをするかもしれないということを初めから知っていてそのカードを遠慮なく渡せるほどの信頼関係があるということ。十代や翔には大きすぎる壁だ。

 

「この戦い、ますます厳しくなっていくわね」

 

 オベリスクブルーの天上院明日香がコメントを加える。三沢はああと同意する。

 明日香は後悔していた。自分もあの場にいたので十代とタッグを組んであげればよかったと。翔では悪いけどパートナーは務まらない。十代の方は問題ないが、翔はあのプロの放つプレッシャーに耐えられない。明日香もどうだかはわからないが、少なくとも翔よりは実力があるとは思っている。

 だが、一方で十代がいればどうにかなるかもしれないと思う部分もある。十代には、そんな風に思わせてくれる、特殊な魅力があるのだ。

 

 

「早速いくよ。あたしは手札から《ハーピィ・クィーン》を捨てて発動する。あたしはデッキからフィールド魔法《ハーピィの狩場》を手札に加える!! そしてハーピィ・チャネラーを召喚!!」

 

ハーピィ・チャネラー 星4 ATK1400 鳥獣族 風属性

 

 妖艶な笑みを浮かべながら黒き翼を生やす、杖持ちのハーピィが現れる。

 

「さらにハーピィ・チャネラーの効果を発動! 手札を一枚捨てて、デッキからハーピィと名のつくモンスターを守備表示で特殊召喚する! あたしが捨てるのは《ハーピィ・ガール》。そして特殊召喚するのは《ハーピィ・ダンサー》!!」

 

ハーピィ・ダンサー 星4 DEF1000 鳥獣族 風属性

 

 ハーピィ・チャネラーが杖を構え、呪文を放つと新たにハーピィの躍り手が出現する。

 

「さらにハーピィ・ダンサーの効果を発動! 自分フィールド上の風属性モンスターを手札に戻し、もう一度手札のモンスターを召喚できる! あたしが戻すのは《ハーピィ・ダンサー》。そして《ハーピィ・レディ・SB》を召喚する!!」

 

「召喚をもう一度!?」

 

 翔は驚くがそれは無理もない。召喚は1ターンに一回しか出来ないという制約があり、二回召喚するためには《二重召喚》などのカードを使わなければいけないが、モンスターにそんな効果を持つものがあったとは知らなかったからだ。

 電気を纏う鞭と強固そうな鎧を装備したハーピィが、翔たちを睨む。その力はひ弱なハーピィのイメージを全て覆すほどだ。

 

ハーピィ・レディ・SB 星4 ATK1800 鳥獣族

 

「だが、これじゃあクレイマンは破れないぞ」

 

「甘いわね遊城十代。あたしはフィールド魔法《ハーピィの狩場》を発動!!」

 

 手慣れた動きでカードを発動すると、フィールドが一変した。硬質の床は地面と化し、緑溢れる森に囲まれていった。まるで行きなり大自然に放り込まれたような、そんな感覚だ。

 

「この効果は、フィールド上の鳥獣族モンスターの攻撃力、守備力200ポイントアップさせる。さらに、手札から魔法カード《万華鏡ー華麗なる分身ー》を発動!! 場に《ハーピィ・レディ》が存在する場合に発動できる!! 手札、またはデッキから《ハーピィ・レディ》、若しくは《ハーピィ・レディ三姉妹》を特殊召喚する。因みにハーピィ・レディ・SB、ハーピィ・チャネラーは墓地やフィールドではハーピィ・レディとして扱うわ。あたしが特殊召喚するのは、《ハーピィ・レディ1》!!」

 

ハーピィ・レディ1 星4 ATK1300→1500 鳥獣族 風属性

 

 ハーピィ・チャネラーたちは力を込め始める。すると二つに分裂し始め……新たなハーピィが誕生した。そのハーピィは、自分の近くのハーピィに力を分け与える。

 

「さらに、自分フィールドにハーピィ・レディ、若しくはハーピィ・レディ三姉妹が召喚、特殊召喚に成功した場合にフィールド魔法《ハーピィの狩場》の効果が発動する。フィールドにある魔法・罠を一枚選択して破壊する!」

 

 ハーピィ・レディ1は飛びかかり、背中の羽を飛ばして伏せカード《ヒーロー・シグナル》を破壊した。これは、自分のヒーローが破壊されたときに、デッキまたは手札からヒーローを特殊召喚できるというリクルーター。厄介なカードゆえ、破壊しておいてよかった。

 

「舞の奴本気だしてるなあ……」

 

 城之内のコメントこそ簡素だが、1ターン目からここまで展開するとは恐ろしい。すでにモンスターの数は3体、しかも攻撃力も高めになっている。

 

「ハーピィ・レディ1の効果を教えてあげるよ。フィールドの風属性の攻撃力を300ポイントあげるわ。ジャイロイドも上昇するけど守備表示だから関係ないわね」

 

「つまり、場のハーピィたちの攻撃力はあわせて500ポイントアップする……」

 

「そういうこと。この子たちは一体一体は弱くとも、支えてやることで真の力を発揮するのよ」

 

ハーピィ・レディ・SB 1800→2300

ハーピィ・チャネラー 1400→1900

ハーピィ・レディ1 1300→1800

 

クレイマンの守備力を越えることができた。あとは攻めるだけだ。

 

「バトル! ハーピィ・レディ・SBでクレイマンに攻撃!! サイバー・ライトニング・ウィップ!!」

 

 唸る電気鞭がクレイマンの巨体にヒットし、悲鳴をあげて散っていく。電気を通さないはずなのにやられるとは余程の力なのだろう。

 

「次にハーピィ・レディ1でジャイロイドを攻撃!!」

 

 ハーピィ・レディ1ジャイロイドに飛びかかる。しかし、圧倒的な力をどうにかプロペラの回転で防ぐ。しかしすぐにへし折れてしまい、次は防げない。

 

「ジャイロイドの特殊能力発動! 一度だけ戦闘では破壊されない」

 

「それもおしまいだよ。ハーピィ・チャネラーで攻撃!! ジャイロイドを粉砕して!!」

 

 チャネラーが持つ杖から光線が放たれる。ジャイロイドのプロペラももう役に立たず、無惨に破壊されてしまった。

 

「あたしはカードを一枚伏せてターンエンド」

 

 十代たちのフィールドを全滅させて、ターンエンドを宣言した。

 

 

 

 すごい……すごすぎる。

 翔は感じていた。あれがプロのデュエリストの力であると。攻撃こそどうにか食い止めたが、フィールドが一瞬にして破壊されてしまった。しかも手札もほとんど減っておらず、消費合計枚数は伏せカードを除いて3枚だ。手札にまだ、3枚もののカードが残されていることはかなり大きい。

 こんな相手に、勝てるのだろうか。不安が彼を蝕む。舞だけじゃない。舞の行動を支援する城之内のプレイングも忘れてはならない。二つの大きな壁に、翔たちは立ち向かおうとしていることを改めて実感する。

 でも、アニキが戦うなら僕も戦う。その思いを胸に、カードを引いた。

 

「僕のターン、ドロー! よしーーー僕は手札から《融合》を発動! 《レスキューロイド》と《キューキューロイド》を手札融合して、《レスキューキューロイド》を融合召喚!!」

 

 消防車と救急車をもじったようなモンスター二体が融合の渦に巻き込まれ、赤と白のトラックのような、消防車と救急車を合体させた車が現れた。

 

レスキューキューロイド 星6 ATK2300 機械族 炎属性

 

「さらに僕は、《エクスプレスロイド》を守備表示で召喚!」

 

エクスプレスロイド 星4 DEF1600 機械族 地属性

 

 蒸気機関車をもじった機械が現れる。守備力は低いが、ここで召喚するというのにはきっとなにかメリットがあるのだろう。

 

「エクスプレスロイドの効果を発動! 召喚、反転召喚、特殊召喚に成功したとき、墓地にあるロイドと名のつくモンスターを二体手札に戻すことができる!! 僕が戻すのはキューキューロイドとジャイロイド!!」

 

「なるほど……面白い効果だな」

 

 面白いといいながらも、城之内にはその効果の恐ろしさを理解している。そのカードの使いようによっては融合素材を再び手札に加えられるので、もう一度融合召喚とかができるという強みがある。アドバンテージを稼げるいいカードだ。

 

「バトルだ! レスキューキューロイドでハーピィ・レディ1を攻撃!!」

 

 レスキューキューロイドはホースのようなもので炎を噴射する。最早救急車両としての役割を担っていない気がする。

 しかし、そんな攻撃は舞にも城之内にも読めていた。

 

「罠カード発動、《攻撃の無力化》! 効果により、相手モンスター一体の攻撃を無効にして、バトルフェイズを終了させる!!」

 

「そ、そんな……仕方ない。僕はこれでターンエンドだ」

 

 翔はげんなりした表情でターンエンドを宣言した。十代はドンマイといってくれるが、布陣を崩せるチャンスを逃したのは痛手である。同時に、兄貴分の足を引っ張ってしまうことにも、なった。そしてそれが、崩壊の引き金になっていた。

 

 

 ちょっとやり過ぎたか。いや、相方にやらせるようにさせてしまったか。

 城之内は内心で後悔していた。翔はともかく十代ならば本気でやっても問題ないと思っていたが、そうでもなかったようだ。舞との相性がいいのか、十代と翔の相性が悪いのか。どちらかはわからないが、手を抜くべきかもしれない。

 いや、それではダメだ。それでは城之内が解雇されてしまうし……何よりそれは二人の友情を否定することになる。

 客観的に見れば、ただの学生がプロデュエリストのタッグに挑むなど無謀だし、勝てるわけがない。蟻が恐竜に喧嘩を売るようなものだ。

 でも、城之内はそれを可能にしてきた。常に格上の相手と戦ってきた。羽蛾、竜崎、梶木、舞、マリク、キース、海馬……そして遊戯。でも、そいつらを破ってこれたのは、もしくはまともに戦えたのは、デュエルの腕以外に大切なものがあったからだ。

 それは友情だ。対戦相手同士との、もしくは城之内を応援してくれる人間との絆がなければ負けていた。あっという間にやられていた。

 落ちこぼれだった自分でもそれができた。だったら……十代や翔でもできるはずだ。お前たちの友情で、このピンチを乗り越えてみろ。俺に、友情の力を見せてみろ。

 これはデュエルの腕を見せるものじゃない。二人の友情を見るためだ。もし彼らが負けてしまって退学になってしまっても、このデュエルで友情さえ教えられたら、育むことができたら、それは嬉しい限りだ。だから、本気でやる。柔な友情では勝てないくらいに。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードは、《クイズ》だ。城之内はちらっと翔の伏せカードを見てから、発動した。

 

「舞の魂のカード、借りるぜ」

 

「あたしのカードを使うんだから、きちんとしなさいよ?」

 

「分かっているぜ。俺は手札から魔法カード《クイズ》を発動! 俺たちの墓地の一番下にあるモンスターの名前を宣言して、当たったら除外、外れたらそいつが特殊召喚される。さあ、誰が答える?」

 

「俺が答えるぜ。前みたいに揺さぶりテクニックは通用しないぜ」

 

 十代が前に出て言うと、城之内もニヤリと笑う。

 

「そうか……じゃあいってみろ」

 

「最初に墓地に落ちたのは……あれ?」

 

 城之内は指を指してはっきりと宣言するーーーと思いきや、詰まってしまった。

 それも無理はない。そもそも墓地に落ちた場面にて、カードを確認する暇はほとんどないからだ。

 

(あれ、最初に落ちたのって……天使の施しの時に捨てた二枚だ。その中にモンスターカードが含まれているかどうかわからない……。もし含まれていなかったとしたら、孔雀舞さんが落としたハーピィ・クィーンだ。ハーピィ・クィーンはフィールドと墓地ではハーピィ・レディとして扱うから……これにかけるしかない!!)

 

「俺が宣言するのは……ハーピィ・レディだ!!」

 

 だが、城之内はその瞬間にニヤリと笑い……正解を告げた。

 

「外れだ。答えは……ハーピィ・ガールだ!!」

 

「が、ガールだと!?」

 

「そうだ、ハーピィ・レディだけだと思うなよ! 俺は舞の墓地から《ハーピィ・ガール》を守備表示で特殊召喚する!」

 

ハーピィ・ガール 星2 DEF500→700 鳥獣族 風属性

 

 ハーピィ・レディのまだ小さなころの女の子が現れる。能力自体は低いが……どんなカードにも可能性がある。そのカード単体だけでは役に立たないけれど、他のカードと組み合わせれば強くなる。役に立つ。

 ーーー例えば、自分と相手の罠を封じるカードにも。

 

「そして俺は、《人造人間サイコ・ショッカー》を、ハーピィ・ガールを生け贄にして召喚!!」

 

「そんな!!」

 

 翔は絶叫する。自らの張る罠が通用しなくなるからだ。サイコ・ショッカーが場にいる限り、自他ともに罠カードが使えない。すなわち聖なるバリアーミラーフォース等で迎撃したりすることができなくなるのだ。

 

「じゃあバトルだ! サイコ・ショッカーでレスキューキューロイドを攻撃!! サイキック・ウェーブ!!」

 

 サイコ・ショッカーの放つ紫色の光線が当たり、レスキューキューロイドはやられてしまった。

 

「うう、そんな……」

 

十代&翔:LP8000→7900

 

「まだまだだぜ、ハーピィ・レディ1でエクスプレスロイドを攻撃だ!

 

 ハーピィ・レディがエクスプレスロイドに飛びかかり、切りつけた。あとはもう、がら空きだ。

 

「さあ、ハーピィたちでダイレクトアタックだ!! 行けーーー!!」

 

 タッグデュエルでは、自らが操るモンスターだけではなく、パートナーのものも使える。つまり舞が展開したハーピィ・レディたちも、城之内の命令に従うことになる。

 ハーピィ・レディたちは城之内を信頼して次々と飛びかかる。パワーアップしたハーピィたちの力は大きく、十代や翔を苦しめた。

 

「ぐわああああっっーー!!」

 

十代&翔:LP7900→6000→3700

 

 ハーピィ・チャネラー、ハーピィ・レディ・SBの順に攻撃した。そのダメージの合計は4200。ワンターンでここまで奪い取られるとは予想しておらず、翔は唖然とする。続いて絶望が彼を覆い、力が抜けていく。手札を落とさないようにするのが精一杯だ。

 

「俺は一枚伏せてターンエンドだ」

 

 

 

「なんという攻撃だ……始まってほとんどたたないうちに、怒濤の攻撃だ……」

 

 観客席の三沢が驚愕を露にして発言する。明日香も同意の首肯を交わすのに精一杯だ。もしプレイングをを間違えていたら、負けていたかもしれない。

 

「気づいている、三沢君? この二人のコンビネーションの真髄を」

 

 明日香は三沢に問う。三沢はその真意を察し、頷きながら答えた。

 

「ああ。二人のコンビネーションの真価は、まさに互いの弱点の補強という点にある。城之内先生のデッキは展開力があまりなく、孔雀舞のデッキは個体個体の火力がない。だが、それぞれの長所を生かすことによって二人のデッキの弱点を補強しつつも、本来のパワーを発揮できる。こう答えればいいかな、天上院君」

 

「大正解よ。ハーピィそのものは弱いけど、それを補強するために妨害カードのサイコ・ショッカーを維持している。これにより罠による切り返しを防ぎ、この布陣を維持できる。無論、ブラック・ホール等を引けば話は別だけど、それはあまりにも確率が低すぎるわ」

 

「次は十代のターンか……雲行きが悪くなっていく。ここでどうにかしなければ、敗けが決まるぞ十代……!」

 

 

 

 

 追い詰められる寸前だ。十代は直感的に感じた。

 残りライフ3700、罠封じのサイコ・ショッカー、ハーピィ・レディが召喚される度に発動する魔法、罠除去効果、それに3体のハーピィたち。

 これをどうにかしなければ勝ち目はない。カードに手をかけて、勢いよく引く。

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 右手に握られたそのカードは……《天使の施し》だった。先程舞が使ったカードである。

 これで逆転のカードを引けるかも、知れない。

 

「俺は《天使の施し》を発動する! デッキから3枚ドローして、その後2枚捨てる」

 

 十代が引いたのは、《E・HERO バブルマン》。フィールド上にカードが存在しない場合に発動するドロー効果を使えば、希望は見えてくる。

 

「俺は、《E・HERO バブルマン》を召喚する!」

 

E・HERO バブルマン 星4 ATK800 戦士族 水属性

 

「来たか……お前の希望のカードが」

 

 困ったときにバブルマンが登場し、逆転のカードを引かれた城之内は警戒の表情を緩めない。舞は効果を知らないが、強力な効果であることだけは感じ取れた。

 

「ああ、来たぜ!! バブルマンの特殊効果を発動! 自分フィールド上に何もない場合、デッキから二枚ドローできる!!」

 

 十代の効果説明を聞いた瞬間、舞は目を見開いた。かなり強いドロー効果だ。同じような効果に強欲な壺が存在するがあれは制限カードゆえに一枚しか入れられない。しかしバブルマンは無制限であるので強欲な壺が4枚入っていると考えることができる。それだけでも恐ろしい効果だと実感する。

 その恐ろしさを知っているのなら、取る行動はただ一つだった。

 

「この瞬間、リバースカードオープン!! 速攻魔法《禁じられた聖杯》を発動!! モンスターを一体選択して、攻撃力を400アップして効果を無効にする!!」

 

「何っ!?」

 

「えっ……!!」

 

E・HERO バブルマン ATK800→1200

 

 翔はおろか、一同が驚愕する。十代の逆転のドローが封じられたということは、新たな可能性を見いだすことができなくなったということ。ついでに言うなれば、攻撃力の低いモンスターを野放しになってしまっているということ。攻撃力がアップしたとしてもそれは雀の涙ほどの数値、サイコ・ショッカーたちには全く敵わない。

 

 

「ヌフフフフ……これでドロップアウトボーイズはオシマイナノーネ。ここまで圧倒的なら、倒されちゃうノーネ。ドローもできなければ、それでフィーネナノーネ」

 

 教員席にて、クロノスがくくくと忍び笑いをしている。これは、生徒に勝ち目などない。誰もがそう思う状況だ。

 だが、それは間違っていたようで、背後から声が聞こえる。

 

「いや、まだわかりませんぞ。デュエルというのは最後までわからないものです」

 

 クロノスは面倒くさそうに顔をしかめると振り返って反論した。

 

「イエイエデモデモ、これ以上彼らを苦しめないためにも、もうデュエルをやめさせるべきではないのデスーカ?」

 

「彼らが、まだやる気だとしても、ですか?」

 

「ナンデスーノ?」

 

 クロノスが振り返り、十代の目を見る。その目に光はまだ宿っている。これほどの窮地でなぜそんな目ができるのだろうか。クロノスにはイライラさせるものでしかなかった。

 

 

 

(俺の手札には融合はない。モンスターカードばかりだ。唯一希望があるとすれば……このカードしかない)

 

 バブルマンの二枚ドローが封じられた今、頼りになるのはこのカードしかない。

 

(ドローはできなかったけれど……これで逆転はできる!!)

 

 十代は確信を得て、そのカードをデュエルディスクにセットする。

 

「俺は装備魔法、《バブル・ショット》を発動する。バブルマンのみに装備できる。装備モンスターの攻撃力は800アップする!!」

 

 ランチャーのような武器がバブルマンの肩に担がれる。

 城之内は驚愕する。バブルマンの装備魔法なんて見たことがない。しかも800ポイントアップするということは……攻撃力は予想以上の値になる。

 

E・HERO バブルマン ATK1200→2000

 

 2000という値が指す意味はつまり……ハーピィ・チャネラーを倒せるということ。ハーピィ・レディをデッキから特殊召喚するモンスターを倒してしまえば、ハーピィ・レディたちを倒すのが容易になる。

 

「げっ…攻撃力あげなきゃよかった……」

 

「城之内あんた何やってんのよ!?」

 

「し、仕方ねえだろ!? 二枚ドローされるよりましだろ!?」

 

 おまけに口喧嘩する始末だ。十代はまだまだ勝負はこれからだと感じ、気分が高揚する。

 

「バトルだ、バブルマンでハーピィ・チャネラーを攻撃! バブル・ショット!!」

 

 肩に担いだランチャーから、勢いよく水が発射される。ハーピィ・チャネラーはその勢いを殺すことができず、呑まれてしまった。

 

城之内&舞:LP8000→7800

 

「俺はカードを一枚伏せて、ターンエンドだ。バブルマンの攻撃力はもとに戻るぜ」

 

E・HERO バブルマン ATK2000→1600

 

 十代はこれでターンエンド宣言をした。

 

 

 

 

 舞は少し複雑だった。城之内が手を抜かないからだ。生徒たちに勝たせたいと言っておきながら、舞の用意したモンスターを容赦なく使いこなして、ライフを大きく削っていった。しかも、結果的には上手くいかなかったが頼みの綱のドロー効果すらも封じてしまうという鬼のようなプレイスタイルをする当たり、かなり本気だ。

 無論手抜きしたらオーナーの海馬瀬人に解雇されるという事情は分かっている。しかし城之内は勝たせるように手を抜くとかそんなように取れることは言っていた。

 一体何が彼を本気にさせるのだろうか。疑問に思いながらドローをした。

 

「あたしのターン、ドロー」

 

 先程失ったハーピィ・チャネラーは手札にいない。再度召喚が可能なハーピィダンサーはいるが、この場で召喚する意味はない。ここで動く意味はない。

 

「バトル! ハーピィ・レディ1で攻撃!!」

 

 ハーピィ・レディがバブルマンに飛びかかる。バブルマンに攻撃が当たるが、それはバブルマンの持つランチャーに阻まれる。それは破壊されてしまったが。

 

「バブル・ショット効果を発動! 戦闘によってモンスターが破壊される場合、装備カードを破壊して戦闘ダメージを0にして破壊を防ぐ!!」

 

「しぶといね。じゃあ、ハーピィ・レディ・SBで攻撃!!」

 

 だが、ランチャーを失ったバブルマンは丸裸同然。その体に、ハーピィ・レディ爪が襲いかかり、倒されてしまった。

 

十代&翔:LP3700→2200

 

「これでとどめよ、サイコ・ショッカーでダイレクトアタック!! サイキック・ウェーブ!!」

 

 がら空きになったフィールドに、サイコ・ショッカーの光線が突き刺さる。これが通れば……十代たちの敗けだ。

 全員の視線が十代へと集まる。十代はどうするのか? そんな声が伝わる。

 

 果たして、十代は動いた。

 

 

 

 

 

「この瞬間、墓地にある《ネクロ・ガードナー》の効果を発動!! このカードを除外して、モンスターの攻撃を一度だけ無効にする!!」

 

 

 

 

 サイコ・ショッカーの光線が十代に刺さるその直前、ネクロ・ガードナーが幻影となって現れ、その光線を打ち消した。

 

 

 

 どうにかゲームエンドを防いだ十代たちだったが、劣勢には変わりはない。けれど、十代の目では、相変わらず焔が燃え上がっていた。

 

 

 相方の目が、光を失いかけていることに気がつかずに……。

 

 




次回に続きます。なんかGXのタッグデュエルよりえぐいことになってるw

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