3度目の人生は静かに暮らしたい 作:ルーニー
だから知らねばならない。信じるものが存在するのかどうかを。例えそれがおぞましい知識であってもだ。
「はぁ」
現在、俺はバスに乗っている。どっかに行っているというわけではなく、ただ学校に向かっているだけだ。
そう。学校だ。やっとのことで小学校ではあるが学校に入学することができたのだ。足が不自由になって車いすになったはやてとともに。
長かった。小学校に行けるようになるのが地味に長かった。保育園では馴染むには精神年齢が低すぎてなじむことができず、不気味なものを見るような目で見られていたのも感じていた。おそらく小学校でもそうなるんだろうけど、保育園よりはマシだと信じたい。
それに、今回俺が通う小学校は私立の小学校だ。無駄に精神年齢が高そうな小学校だから、公立の小学校よりはマシになるだろう。
ちなみにはやても同じ小学校だ。俺がその小学校に行くといったら私も行く!と言い出し、本当に試験に合格して同じ私立の小学校に通うことになったのだ。まだモノフォビアが治っていないんだろう。そんな簡単に治る物でもないからしょうがないが、はやく治さないと将来独り立ちするときに問題になるだろう。
ただ、問題なのはそこだけじゃない。はやての足が治っていないのだ。それどころか動かせるけど歩くことが困難なほどに症状が進行しているほどだ。
『治癒』の呪文を唱えても意味がない症状とか、いったい何の病だ。怪我だけでなく病すらも治す『治癒』の呪文ですら治せないのはいくらなんでも奇妙すぎる。まるで外から影響を与え続けているかのように感じる。
嫌な予感しかしていない。まさか何かの儀式でも始まっているのか?と思ったが動けなくなるという症状以外にはやての身体に異常は見られない。どこかに印があるわけでもなく、肉体的にも変化があるわけでもない。深きものになってきているのかとも思ったが身体が動けなくなるということになるのはおかしい話だ。
はやてになにかしらの素養がある?もしくは儀式の生け贄にふさわしいなにかがある?だとすればなにも起きていない今のうちに○しておくか?
けど仮に素養があったとして原因を潰さないと結局は起きる。時間稼ぎと言う意味でも○すのもいいが、そうすることで原因を見つけることができなくなるのはキツイ。どうしても時間が足りないという時以外に○すという手段を取るのは早計すぎるか?
「どうしたん?なんか怖い顔しているで?」
車いすから身体をひねって俺の顔を覗き込むような体勢になっているはやてに、渋い顔になっていることにやっと自覚した俺は何でもないと言って首を横に振る。
現状を判断するには材料が少なすぎる。どこの教団がどんな邪神を召喚しようとして、どこでどんな儀式を行っているのか分からない今軽率に事を動かすようなことをするわけにはいかない。
門の教団やダゴン秘密教団ならまだいい。何を召喚したいのか、なにを復活させたいのか分かりきっているからまだ対処できる。ハスターを召喚しようと思ってもアルデバランが見えない今、生け贄のための誘拐や召喚に関する準備をしようとする以外でなにかをするとは思えない。
旧神の印をつければ変わってくるんだろうけど、入手先も作り方もわからない。
使役できる存在を召喚して辺りを警戒するか?いや、それはできない。使役するにも存在がでかすぎる。下手をしなくても神話生物の存在は敵対している存在がいると警戒されることになる。そうなれば尻尾をつかむことすら難しくなる。
未来を見るか?いや、そんなことをすれば猟犬に見つかる。あのときは猟犬を閉じ込めることのできる魔術を使ってなんとかなったが、猟犬を閉じ込めるために誤差がコンマ0001以下の純金属の真球が必要になる。
あのときは運よく作ることができる奴がいたから何とかなったけど、あのレベルの真球を作り出すのは現状ほぼ不可能だろう。
……いや、待てよ。こうやってただ症状を進行させていくだけで満足するか?いや、そんなはずがない。そういった趣味嗜好じゃない限りこんなことをするはずがない。だったらどこかで監視をしているはずだ。
どうする?怪しい奴がいたら片っ端から消していくか?生け贄がどんな状態にあるか知るために、どこかで監視しているはずだ。
いや、規模がわからない以上安易に消すのはマズい。強硬策を取られたら最悪この街が終わる可能性がある。記憶を見る術がない以上、下手な手を打つわけにはいかない。
「ままならんな……」
「ん?なにかいった?」
「なにも」
せめてなんの呪いか、あるいはなんの儀式かだけでも判断できれば対処のしようがあるのに、なにもわからないのがキツい。今は歩けない程度に症状が進行しているけど、いつか完全に動けなくなくなるだろう。下手をすれば内臓器官に不調が出るかもしれん。
原因だ。原因さえわかればそこから判断できる。仮に何かしらの儀式を目的としているなら、そしてどこかを根城としているなら最悪魔導書を奪って原因を○せばいい。
儀式をするなら、生贄は近くにいる状態じゃないと成功しない。まさか海外から呪いをかけているなんてことはまずないから、この街のどこかにいると考えていいだろう。どこかにいるはずなんだ。
けど、それがどこにあるのかが分からないのがキツい。小学生となった今、捜索に時間をかけることは不可能だ。早く見つけて儀式を完成させる前に全部○さないと……。
「しんや?どこに行こうとしとるん?」
「え?」
はやての言葉が聞こえ、思考の渦に入っていた意識が現実へと戻される。気が付けば降りるべきバス停についており、慌てて降りることを伝えてはやてをバスから降ろしてもらう。
「しんや、大丈夫なん?さっきから難しそうな顔しとるで?」
バスが発車し、エンジン音が小さくなったところで心配するようにはやては俺を見る。
「……大丈夫だ。考え事をしていただけだ」
「ホンマ?ホンマに大丈夫なん?」
「大丈夫だ。大丈夫だから」
しつこく大丈夫か、と聞いてくるはやて。降りるバス停に気が付かないほどなにかを考えていたんだから、どうかしたのかと聞きたくなるのはわかる。が、ここまで聞く程のことではないはずだ。なぜこんなにもしつこく聞くんだ?
まぁ、今はそんなことを考えなくてもいいか。今は学校に向かうべき時間だ。ここで考えていても仕方ない。
車イスを押して学校に向かおうとすると、急に視線を感じた。感じるほうを見ると、そこには猫がこちらをジッと見つめているのが見えた。猫は俺と目が合うと、やや慌てたようにその場から去っていっき、そのまま姿が見えなくなった。
……猫を使って監視している?まさか呼び出す神はバースト神?いや、だが猫を使ったところで何にも情報を得ることはできないはず。ゾンビの目でも使っているのか?なら猫を酷使していることになってバースト神の怒りを買うことになる。
まさかそれが目的か?いや、けどバースト神の怒りで何をする気だ?町を破壊か?だとしても個人のしたことで町が破壊されることはあるのか?
ゾンビを使っている、ということはナイハーゴ写本を使ったものか?あれはゾンビに関する魔導書だ。その気になれば動物をゾンビにして目を使うことも不可能じゃないだろう。
けどその先が見えねぇ。仮に目的がゾンビを増やすことだとしても、なぜゾンビを増やす?生け贄か?なんの?
ゾンビ、死体で思い起こすのは屍食鬼か。屍食鬼は死骸を食らう異形だ。屍食鬼を呼ぶための生け贄を集めているのか?だとしてもなんのために屍食鬼を集める?
いや、目的は屍食鬼じゃないかもしれない。屍食鬼が必要だと勘違いして呼び出そうとしている可能性がある。
屍食鬼で思い起こすのは、屍食教典儀だ。屍食教典儀に書かれている旧支配者は……ニョグタとシュブ=ニグラスだったか。
あんなものを呼びだして何をする気だ?いや、そういえばシュブ=ニグラスは豊穣を司ってもいたか。まさかそれのために招来させようとしているのか?
あくまで予想でしかないが、現状これが一番可能性としては高いか。しかしまたナイハーゴ写本ないし屍食教典儀の事件に巻き込まれるとはな……。
……前の時もそうだが、死体についての事件に巻き込まれるきらいでもあるのか俺は。邪神や旧支配者よりはマシだが、遭遇するのはもうごめんだ。廃校やいわくつきの土地ではその噂を利用してゾンビや亡霊を呼び出す儀式を行っていたり、儀式を行っていたからそう言う噂が立っているときもあった。死んだ人を復活させようとゾンビにしたり、死体そのものに執着していた変態野郎もいた。何十人もの人間が行方不明、死亡して保管、使役されていたこともあったか。
そう考えたら今から行く学校はまだ安心できる。新しいし、墓地やいわくつきの土地を使っているわけでもないし、周辺にもそういった噂のある場所はない。私立の学校だから警備の方もかなり優秀だ。そう考えれば学校の中はまだ安心できる環境ではある。
今はまだ調べる必要があるか。行方不明の人間が増えてきていたら、怪しいところをしらみつぶしに探していくか。
そのために、あれを召喚、使役できるものを作らないとな。
・神格、クリーチャー
『ハスター』
別名名状し難きもの。アルデバランの近くの星に棲んでいる。その姿は諸説あり、ハスターに乗り移られた死体は膨らんでうろこに覆われたような姿となり、手足は骨が無くなって流動体となったという記録がある。
アルデバランが水平線より上になければハスターを召喚することはできない。
『猟犬』
ティンダロスの猟犬。鋭角から出現する、全ての邪悪を収束させたかのような、常に餓えている存在。あらゆる時間に存在し、時間に干渉した存在を見つけては対象が死ぬまで永遠に追い続ける。
青い膿を体中から滴らせているが、その姿はほとんど知られていない。その存在を知ったものはほぼ全員猟犬によって殺されているからだ。
『バースト神』
猫の女神。バステトという名前の方が知られているだろう。
バーストは古代エジプトにて女神とされていた。人間の身体に猫の頭の姿をしているとされている。
彼女の怒りを買うようなことをしない限り、基本的に害を加えられることはない。しかし彼女の怒りを買うことをすれば通常では癒すことのできない傷を負わすこともある。
『ニョグタ』
別名、ありえべからざるもの。その姿は暗黒の塊ともいわれ、それから触肢あるいは偽足を伸ばして物を掴む。
ニョグタを招来させても呪文を教えてくれるかどうか怪しいもので、呼んでも益を成してくれるようなことは滅多にしないとされている。
『シュブ=ニグラス』
別名、森の黒山羊。黒い仔山羊を産む豊穣の女神とされており、姿は黒いヒズメや粘液を垂らしている口、ヒモのような触手をつけた黒い雲のようなものだとされている。
召喚者には黒い仔山羊を使役させることがある。ただし召喚されたとき、召喚者意外の存在がいた場合、そのものを生贄と思い襲い掛かる。
・呪文
『旧神の印』
別名エルダーサイン。旧支配者に対して効果を得ることができる。ただしその効果は強いものではなく、せいぜいが時間稼ぎ程度のものである。
『ゾンビの目』
ゾンビを直接操ることができ、そのゾンビの観点から出来事を読み取ることができる。
そのためにゾンビの目をくりぬいて特別な化学薬品に浸し、術者の目も同じようにくりぬいて安全な場所に保管しておく。そしてゾンビの目を術者の目にはめ込んで呪文を唱えることでゾンビを自分の体のように動かすことができる。
はい。主人公は一体何をするのか。楽しみですね(ゲス顔)
オリジナル要素としてはティンダロスの猟犬を閉じ込めた真球。これは特別な呪文をかけたもので閉じ込めた後は真球でなくなるまで閉じ込めることができるものとしています。
そして主人公の思考がだんだんと物語からそれていってる……。ゾンビ扱いされた猫さんドンマイ!←