うさぎになる前のバリスタと小説家になる前の青山さん【完結】   作:専務

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いつもより長くなっちゃったけど許してにゃん。











「私の、宝物」

宝箱を探してる途中、常に頭にあったのは彼のこと。

高校3年生の思い出作りなんて理由で始めたシストだけど、謎解きなんてまともに出来なかった。

彼のことが好きだったかどうかより、彼と彼女が並んで歩く姿に複雑な気持ちだった。

2人とも仲良くて、私も2人が好きで、いつも3人で色んなこと話して、色んなとこ行って、掛け替えのない宝物はポケットにあるこんなものより大切だ。

大切だから、壊したくないし、ずっと抱えて生きていたい。

だから私のもうひとつの想いはここに込めて、宝箱に置いていく。

いつか、この想いが誰かの宝物と変わって、誰かの宝物になったらいいなって。

拙い文章かもしれないけど、ここには今の私が詰まってる。

 

 

 

「おーい白井、あったぞ次のポイント。」

 

「しょーこちゃんの頭脳だけが頼りなんだから。」

 

 

 

2人が呼んでいる。私も行かなきゃ。

これも私の宝物の1つだから。大切な絆だから。

…なんだか、私の手元にはもう宝物が溢れてるみたい。そうでしょ?マスター。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり靴屋でしたね。」

 

「はぁ、わかってたらまず答えを言いなさいよ…引き摺られる身になりなさい…」

 

「何事も猪突猛進が信条ですから。」

 

「嘘つきなさい…猪突猛進なら…さっさと原稿書くでしょ…」

 

靴屋に辿り着いた2人の姿は対照的で、生き生きとしてる青山さんと疲労困憊の幡出さんの2人の図は奇妙なものだった。

靴屋の脇の細道にひっそりと置かれていた木箱を開けると、今度はうさぎのエンブレムと、紙には3つのエンブレムの欠片がバラバラに書かれていた。

 

「これもまた暗号のような要素なんでしょうか…考えてみましょう。」

 

「あー私ここ知ってる、確か帽子売ってると」

 

「ここは喫茶店で一休みしろという暗号ですね。」

 

「翠は何を言っているの?」

 

「ウフフ、この辺にもうひとつ行きつけのお茶屋さんがあるんです。行きましょう凛ちゃん。」

 

「あっ、またこの展開なのね…。」

 

青山さんの無茶すぎる理屈でまたも幡出さんは引きずられるようにして移動する。もはや抵抗は無かった。

そうして向かった先は古風な店構えのところであった。

 

「なるほど、確かにお茶屋さんね。」

 

「ここの茶菓子は美味しいんですよ、抹茶も美味しいですし。」

 

「翠はセンスだけはいいのねー。どうやって見つけてるのかしら。」

 

「適当にフラッと歩いてたら行き着いただけですよ。こんにちはー。」

 

甘兎庵と書かれた看板の下の引き戸を開けると、奥からラビットハウスのマスターと同じくらいの年だろうか、女性が出てきた。

 

「あら青山ちゃんいらっしゃい。そちらは?」

 

「友人の凛ちゃんです。今2人でシストをやってまして、一休みに来ました〜。」

 

「どうも、幡出凛と申します。」

 

幡出さんはその性格からか、律儀に自己紹介をしてお辞儀までする。2人は窓際のテーブル席に座る。

 

「ここは羊羹と抹茶を頼むのが通なんですよ。」

 

「それを決めるのは翠じゃなくてここのおば様でしょうに…」

 

「ここにも長く通ってますから、美味しいものの組み合わせはわかってるんですよ…あ、ほら来ましたよ。」

 

頼んでもないのに店主は青山さんと幡出さんに羊羹と抹茶を出した。オススメなのかわかりきっていたのかは定かではない。

 

「それで、次はあの帽子店でしょうね。そろそろ最終のポイントだと思うけど。」

 

この街のシストはあまり多くのポイントを作らない。せいぜい3つ4つといったところだ。ゴールのポイントも含めるとそろそろ終わりだろうと幡出さんは思っていたのだ。

 

「まぁ妥当なところでしょうね。ところで、急いで出てきたものですから自分の宝物を用意してませんでしたね…」

 

「あっ、忘れてたわ…」

 

シストのゴールには宝箱があり、自分の宝物と中に入ってる宝物を交換する制度だ。やるからにはもちろん宝箱までたどり着きたいし、交換もしたい。

 

「…そうだ、今日のことを小説にしましょう。」

 

「小説?」

 

「短編のようなものを今から2人で書くんです。それを入れていきましょうよ。もしかしたら誰かが読み継いでくれるかもしれませんし。」

 

「そんな時間あるわけ…」

 

「私はメモ帳とペンを常に持ち歩いてる小説家の鏡ですもの。予備のペンだって持ってるしメモ帳は切り離せるようになってますよ。書きましょう凛ちゃん。」

 

「えぇー…」

 

「これも文芸部の活動の一環ですよ。」

 

青山さんはメモ帳から紙を数枚切り取ると、ペンと一緒に幡出さんに手渡した。幡出さんも観念したのか、しぶしぶ罫線にペンを走らせる。青山さんは既に黙々と書き込んでいた。

 

(今日のこと、か…)

 

幡出さんも文芸部員である以上はいくつか文を書いた。でもそれは架空の話で、今日1日の出来事を小説のように書き取るのはなかなか難しかった。

 

(こうして翠と一緒にいることをちゃんと思い返すことはなかったわね。)

 

入学した頃、図書室で勉強をしてる自分の前に突如現れた上級生。仲良くなるうちにいつしか対等な関係になってきた。今では学校の誰より仲の良い親友と言っても差し支えはないし、自分の生徒会長になるための推薦者としてしっかり演説してくれた。彼女には支えられたことも多いように感じる。

 

(たまには…翠に感謝の手紙でも書きましょうかね。)

 

そう思い、幡出さんも書き進める。

 

(彼女に見えない感謝があってもいいじゃない。)

 

そう想い、彼女はペンを走らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

青山さん達は甘兎庵を出ると、すぐに件の帽子屋に向かった。そこにも木箱があり、中には古びた紙と、ポイントが記されていた。宝箱のマークが付いている。

 

「これは…」

 

「やっぱり次がゴールみたいね、地図的にはラビットハウスにも近いとこじゃない。あのレンガの家跡じゃない?」

 

ラビットハウスには近くに昔建っていたであろう家の壁が少し残った、城跡ならぬ家跡のようなものがある。ツタが生えていたり草が生い茂っていたり、うさぎが日向ぼっこしていたりと、子供の遊び場のようなものになっている。

 

「なるほど…そうですね、行きましょう。」

 

「?、どうしたの翠。」

 

「きっと行けばわかると思います。」

 

何かに気づいたような青山さんはゆっくりと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ、か…」

 

「恐らくは。ほら、あそこにありましたね。」

 

辿り着いた2人の前には赤地に金の模様がついた宝箱があった。ここには様々な人の宝物が入っている。

 

「早速開けてみますか…」

 

「ちょっと待って凛ちゃん。確かめたい事があるの。」

 

そう言うと青山さんは宝箱を開けて物色し始めた。

 

「ちょっと翠、何やってんの?」

 

幡出さんの言葉も聞かずに中身を見終えると、今度は宝箱を確認し始めた。

 

「…っと、恐らくこれでしょうか。…うん、取られているかとも思いましたが、見つかりましたね。」

 

そう言うと青山さんは何やら手元の紙を読んで、考えこむような仕草をした後に幡出さんの方を向いた。

 

「この宝探し、本当に探すものはもっと別のものかもしれないですね。」

 

 

 

 

 

 

 

午後のひとときを流れるこの喫茶店ラビットハウスで、白井さんとマスターは2人の帰りを待っていた。彼女たちが嵐のように去って行ってからしばらく経つ。

 

「そろそろ戻ってくるんじゃないかの?」

 

「ええ、特に難しいことはさせなかったつもりだけど…」

 

すると、店の扉がカラカラと鳴る。入ってきたのは1人の少女だった。

 

「凛ちゃんじゃない。翠ちゃんは?」

 

「行くところがあるって言ってどっか行きましたね。」

 

「彼女も(せわ)しないからのぉ。」

 

帰ってきたのは幡出さん1人だった。彼女は道中のシストの感想を2人に話した。

 

「…それで、帽子屋に行った後にそこのレンガの家跡に行ったんですけど、」

 

「ちょっと待って凛ちゃん、レンガの家跡?なんのこと?」

 

「なんのことも何もさっきやってきたシストですよ。」

 

「へ?いや、()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「無い?」

 

「ええ、アレ作ったの私だもの。そんな過程にしたつもりはないわ。エンブレムは?」

 

「あー、途中までありましたね。そういえば最後の1つが見つかってない…」

 

「エンブレムを3つ組み立てたらここの店の看板になるはずなのよ。ゴールはここなのよ。」

 

「だからわざわざうちの看板のレプリカをねだったのかね。」

 

「だからレンガの家跡なんて行かないの。どうしてそうなったの?」

 

「私に聞かれても…あ、でも翠が何か見つけてたみたいだったような…」

 

「ちょっと、なんかヤバイことになってそうね、私行ってくるわ!」

 

「待ちなされ白井さんよ。彼女は大丈夫じゃ。」

 

「なんで言い切れるのよ、問題が変わってたってことは私が彼女達にやらせようとしてたことを知ってるに違いないじゃない。狙ってやってる確率が高いのよ?」 

 

「大丈夫じゃ。信じて待たんか。検討はついておる。」

 

「一体誰なのよ!」

 

「マスターさん、私にも教えてください。翠が何をしているのか。」

 

「…恐らく別の喫茶店じゃろ。彼女に会いに行ってるはずじゃ。」

 

「…彼女ってまさか…」

 

「あぁ、彼女は―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたですか?」

 

大通りにある店の地下にある隠れた喫茶店に青山さんはいた。目の前のカウンターには珈琲を飲みながらくつろぐ女性がいる。

 

「…私のことは、わかったのかな?」

 

「…」

 

青山さんは沈黙した。しかしすぐに彼女の答えを述べた。

 

「…はじめの地図は確かに古いものでした。恐らくあの喫茶店にあったもので間違いないのでしょう。でもその後の設問の用紙は新しいものでした。問題も、とても昔の問題とは思えません。」

 

「なるほど、続けて?」

 

「…帽子屋の後、本来なら設問かエンブレムの最後のパーツ…ラビットハウスの、ウサギの隣のカップがあるはずでした。ですがそこにあったのはポイントを記した古い紙。この時点でもまだ考える材料、分岐点は残ってましたが、最後の手紙で絞れました。」

 

青山さんが取り出した手紙、封筒には白井翔子と書かれている。中身は一言、こう書かれているだけだった。

 

 

 

 

『私のことがわかったら、下にあるポイントの喫茶店に来て。彼女の本当の宝物をあげる。』

 

 

 

 

青山さんはここまでの考察を話した。自分の中の違和感を、1つずつ溶かすように。珈琲の中に砂糖を入れるように、ゆっくり、着実に、少しずつ。

 

「私が彼女に初めて挨拶された時のあの空気…違和感。彼女の言葉、彼の態度。朝のマスターの口ぶりとすり変えられたであろう問題。古い紙と新しい紙。私が今日シストをすることを知ることができそうな人物で行動に移せる人は限られます。あなたは―」

 

 

 

 

「タカヒロさんの奥様…ですよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 










9話かな?倍近い量になってしまいました。新キャラだと思った?残念、既存キャラでした!

・過去編と言うことで原作時間ではあまり触れられることのなかった人達を出しています。それが彼女たちの親になるんですが。原作を読んでいるとモカと青山さんの年は近いのかな?とも思いますが青山さんは俗に言う美魔女的な立ち位置ってことにしといてください。

・白井さん回がだいぶ長くなっていますね、これも連載という形の強みということでご了承願います。次の回で必ず終わらせるから…いやほんとに。予定は未定って言いますしね。え?白井さん回と言うよりシスト回じゃないかって?そうだよその通りだよ。

本日もお読み頂きありがとうございます。次回は白井さんとタカヒロさん夫婦の過去に迫ります。

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