うさぎになる前のバリスタと小説家になる前の青山さん【完結】   作:専務

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思いの外長くなりそうなので今回は伸びそうです。ちょっとした謎解きも入れておいたので皆さんもやってみてください。あとがきにて解説します。












「私は、ただあなたの為に、自分のために」

私がどうしてロースターの道を目指したのか、といわれると、あんまり胸を張って言えることじゃないのよね。

初めは私も喫茶店の経営者になろうとしてた。美味しいコーヒーを作るために頑張ろうって、あの人に少しでも近づけるようにと思っていた。

でも途中から、あの人に近づくんじゃなくてあの人と一緒に仕事したいって思って。

だから私は今まで学んできたことを活かしつつ喫茶店と協力できる、ロースターの道を進んだの。

…まあ、こんなこと言えないからあの子にはもっとまともな理由を話したけどね。

やだ、マスターが一番わかってるじゃない。あの人のことは。

あの人は何も知らないままがいいの。私の本当の事なんて。

そんな悲しい顔しないで。私はもういいのよ。この大好きな空間で一緒に働けてる事実は、私の宝物よ。

あ、宝物で思い出したわ。ねえマスター、ここって地図はあったかしら。なければ私が書くわ。

 

 

 

 

 

あの子達、謎解きは好きかしらね?

 

 

 

 

 

 

「シスト…ですか?」

 

文化祭まで残り5日と差し迫った青山さんはラビットハウスにて執筆中だ。今も端のテーブル席で一心不乱に原稿用紙に鉛筆を走らせている。

幡出さんは今カウンターで珈琲を飲みながら彼女が小説を描き上げるまで付き合っているところだった。

 

「幼い頃は母に地図をもらって街中を探したものですが…なぜ急に?」

 

幡出さんには経験があるようだった。シストとはフランス発祥の宝探しゲームのようなものだ。この街では地図にポイントが書いてあってそのポイントに行ってヒントを得て宝箱に向かい、中身の宝物をひとつ取って自分の宝物を中に入れるというものだ。

 

「うちにも地図があってな…どうだね、2人で気晴らしに行ってきてみたらどうだ。そんな難しい物じゃないぞ。」

 

ここのマスターが幡出さんに渡したのは古そうな紙に書かれたこの街の一部が書き込んである地図だった。どうやらここラビットハウスの近辺のようだ。

 

「お気持ちは嬉しいんですけど、なにせ翠は文化祭の準備で忙し」

 

「なるほど、ここの近くの路地にひとつ目のポイントがありますね、行きましょう凛ちゃん。」

 

「ひゃう!?」

 

さっきまで隅でひたすら新作を書いてたはずなのに、話を聞いていたのか幡出さんの後ろから唐突に話題に入ってきた。青山さんのマイペースは心臓に悪いようで、幡出さんはしばらく呼吸を整えるのに必死だった。

 

「アンタねぇ…相変わらず突拍子もないタイミングで声かけるのはいいとして、新しいのは出来たの?時間ないってあれほど行ったじゃないの!」

 

「あらかたストーリーも定まりましたし、書き始めればすぐですから。それに、小説でも何でも効率を上げるには適度な息抜きですよ。行こうか凛ちゃん。」

 

「ちょ、翠何すんのおおおおおお!?」

 

青山さんは強引に幡出さんの腕を引いて店を後にした。2人共バッグは置きっぱなしなので、戻ってくるつもりなのだろう。

 

「…謎解きが好きかどうかはさておき、凄まじい食いつきだったな。」

 

「私もあそこまでがっつくとは思わなかったわよ…」

 

幡出さんの座っていた席から少し離れたカウンターにいたのは白井さんだった。今回の地図を書いたのも宝箱を置いたのも白井さんだ。

 

「なんで急にこんなことしたんだね。」

 

「なんだか、久しぶりに昔を思い出しちゃってねー。シストも、私にとっては思い出深いもんよ。」

 

「あの頃の地図はワシが書いたんだったか。」

 

「マスターのは謎解きというよりとんちだったじゃない。一○さんでもない限り思いつかないわよあんなの。」

 

「シストの地図は代々継がれるものだからな、ワシが作った地図が後世のワシの子孫にも見られるのかと思うと気合が入ってな。」

 

「まぁ失くしちゃったけどね、あれ。」

 

「酷すぎるわ…全く。白井ちゃんの地図が継がれて行ったらワシもう泣くぞ。」

 

「頑張って準備したしイマドキの女の子っぽい感じにしたからマスターが作ったのより良いと思うけど。」

 

「うるさいわ!」

 

 

 

 

 

 

 

「この辺の筈ですけど…あ、あった!」

 

一方の青山さんたちは早速ひとつ目のポイントについたようだ。中には1枚の紙とエンブレムの外枠のようなものがあった。

 

「この街は店ごとに象徴と言えるエンブレムを外に飾りますから、多分これらを揃えて完成させると宝箱があるお店にたどり着くのでしょうね。」

 

「この紙は…何だろこれ…」 

 

 

 

 

5♡6 J♢K♤3 Q♧2♡10 6♢K 8♤4♧A♡7♢Q♤A K♧3♡J♢4 K♤A♧J

 

ヒント

 ♤A×♧A=♡A=♢A

 K♡8 K♢6 K♤Q K♧6 A♡5♢7♤3♧A =うさぎ

 

 

 

 

「見るからに暗号ね、これ。」

 

書かれていたのはトランプのマークとその数字だった。丁寧にヒントも書かれているが、パッと見で判断できる代物では無さそうだ。

 

「単純に考えればKQJAはそれぞれ13、12、11、1。になるのかな。」

 

「あとはマークだけど…♡Aと♢Aがイコールだから♡と♢は同じ意味を持つんでしょうね。」

 

「♡、♢、♤、♧をローテーションしてるのは意味があるのかしら。」

 

「ローテーションさせるなら♤♢♧♡の順番でしょう。」

 

「じゃあ関係ないのかな…うーん。」

 

2人で考え込んでいると、青山さんが常備してる手帳に備え付けのペンで書き込み始めた。

 

「うさぎが5つのカテゴリーで表されるということはローマ字表記のUSAGIしかないですね…英語は6文字、ひらがなは3文字ですし。あとは前段の数式のようなものは…」

 

ぶつぶつとひとりで語りながら一心不乱にメモ帳にインクを走らせる姿に、幡出さんはただただ圧倒されていた。青山さんが小説を書くときは常に考え込んで書いての繰り返しだ。考えながら書き進めるという行動は見たことがなかったからだ。

 

「…ふぅ、わかりました。♤と♧、♡と♢で(つがい)だったんですねぇ。」

 

「もう解いたの翠?答えは何なのかしら。」

 

「さぁ、早く次の場所に向かいましょう!」

 

「え、ちょっと答えは?どーやって解いたのよおおおおおお!」

 

またも腕を引かれる幡出さんは今日1日ずっとこの調子で振り回されるんだろうと腹を括りつつ、この理不尽な仕打ちに叫ぶことしか出来なかった










本日もお読みいただきありがとうございます。白井さん回は3話に渡る感じです。前回あとがきにて白井さんの名前の由来を解説するつもりと話しましたが、アレは嘘だ。

・まずは小説内の問題の解説から行いましょう。簡単だと思いますが脳内だけで完結させるのは少し面倒くさいものだったと思います。

青山さんの言う通り♡と♢の主に赤色で表記されることの多い2つは+の意味を持ち、♤と♧の黒色が多い2つは−の意味を持ちます。 ♤A×♧A=♡A=♢A というのは −1×−1=+1 という意味でした。これらを踏まえればわかるように、文字列を計算して出てくる数字はAから数えていったアルファベットの数字でした。UはAから数えて21番目なので、K♡8、つまり13+8=21という式なんですね。2つにせず4つにしたのは2つだと簡単だと思ったからです。

・白井さんの名前の由来を書こうとして断念した件なのですが、謎解き場面が多すぎて伏線を貼れなかったのが大きいです。白井さんの真実は最終話手前くらいでわかると思います。

・嬉しい悲鳴と言いますか、国家公務員一般職の一次試験に通ったので現在官庁訪問や二次試験の面接のためにまたも時間のない日々を過ごしています。まだ支障が出るほどではないのですが、2400文字前後が現在のギリギリのラインです。申し訳無え…執筆活動というものに慣れてなくて申し訳ねぇ…!

・後書きがかなり長くなってしまいますが、現在2015/10/17 22:11なのですが、先程ニコニコ配信のご注文はうさぎですか??の1羽を拝見しまして、感動が止まらない故にどうしてもこの感動を伝えたく書き足しました。このssを読まれてる人は多少はごちうさの世界を知ってるかと思います。2期からでも構いません。ぜひ見て欲しいです。キャラクターの可愛さを存分に楽しんで欲しいですし、青山さんがなんと1羽からセリフがあるんです。これには泣きそうになりました。ごちうさに出るキャラクター全員にセリフがあって動きが有ります。1期よりも導入しやすいものだと感じました。是非。

ツイッターなどで最新話の宣伝や日常や自分の好きな作家さんとだらだら絡んでたりするのでフォローしてくれると泣いて喜びます。執筆者名とハンネが違うのは使い分けてるだけだから。うん。

次回も楽しみにしていただけたら幸いです。

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