うさぎになる前のバリスタと小説家になる前の青山さん【完結】   作:専務

7 / 15
今度こそほんまモンのオリジナルキャラ出します。








「私だって、この空間が好きなの。」

きっかけというのは些細なものだ。たまたま読んだ小説に珈琲が出てきて、たまたま珈琲に興味を持ち、喫茶店巡りが趣味だった時期にたまたまここに行き着いた。

特別舌が肥えてるわけじゃない。喫茶店巡りと銘打っても真実は有名チェーン店の所謂シアトル系コーヒーショップを回ったり、近所の店で豆を買って自分で挽いてみたり。差別化できる対象を多く持ちあわせてもないしそれが理解できる感覚も無い。

それでもここの珈琲はすぐにわかった。違う、と。

香りだの油分だの、豆だの煎り方だの、違いは探せばいくらでも出てくるのだろうが、もっとわかりやすい違いがあった。

 

 

 

「ねぇ、マスター。」

 

「何でしょう、お客さん。」

 

 

 

言わずにはいられなかった。今しがた自分が体感した想いを、作った本人に聞いて欲しかったから。

 

 

 

「私、この場所が好き。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でまだ書いてないのよ!」

 

字面だけ追えばただの怒号だが、彼女…幡出さんは、カウンターに座って必死に抑えた声で叫んでいた。

 

「だって…演説の内容とかもあったし…ほ、ほら、テストもあったじゃない?」

 

「それはっ!…先月の話じゃないの!」

 

声を荒らげて後に我に返り、再び小声の叫びを放つ。時期は10月…彼女達の学校にはとあるイベントが待っていた。

 

「文化祭まで残り1週間なのよ?部誌の書き下ろしを書くって言って聞かなかったのはあなたじゃないの!」

 

「返す言葉もありません…」

 

文化部の最大の見せ所、文化祭が彼女たちの高校には迫っていた。各部も出し物や発表のためそろそろ調整に入る中、彼女たちの部活は部誌という形で日々発行している小説や短編を各自で1つにまとめて売るというものだった。

 

「文芸部は文化祭の売り上げでしか目立てないのよ?生徒会としても予算を割くのはギリギリなところなのよ。ここで頑張らなくてどーすんのよ。」

 

「凛ちゃんが手伝ってくれると思ってて…私のやる気を出すために…」

 

「会計だったアタシを無理矢理文芸部に引き入れたあなたの言葉とは思えないわね。」 

 

「予算の確保で大切なのは会計係を握ることですし。」

 

「そんなこと聞いてるんじゃないのよ!」

 

幾度目かの彼女達の掛け合いはカウンター越しの彼にも見慣れたように感じられた。初めて幡出さんがここに来てから1ヶ月が経つが、彼女たちはずっとこんな感じだった。

 

「相変わらず仲いいな…」

 

「あ、タカヒロさん…すみません迷惑かけて。」

 

「いいんだよ、たまには賑やかな方がこっちも楽しいし。」

 

「マスターはあちらで何をなさってるんですか?」

 

そう言われて少し先のテーブルを見る。マスターはコーヒーを飲むとそのカップを見つめ、常連客になにやら話をしているようだ。

 

「あぁ、2人とも初めて見るよね。あれはコーヒーを飲んで」

 

「私ちょっと行ってきますね。」

 

「ちょっと翠!」

 

青山さんは幡出さんの静止を気にせずテーブルに向かう。気になることがあると止まらないのは青山さんに会ってから2人とも頻繁に目にしている光景だ。

 

「マスター、何をなさってるんですか?」

 

「おおお嬢さんか。コーヒー占いだよ。」

 

「マスターの占いは当たるのよ?」

 

常連さんが言うには、マスターがコーヒーを飲んで、カップの底についたコーヒーしぶの形や色からその人の未来を占うというものであった。

 

「ちなみに、結果は何だったんです?」

 

「あぁ、えぇっと…想いが漏れだすが、一歩先に進める、ってところかの。」

 

「やだ、想いが漏れだすって…なんか秘密でもばれちゃうのかしら。」

 

そう言って常連さんはマスターと笑っている。青山さんはふと気づいたことを言ってみた。

 

「あのー、貴女、私が来る時必ずいますよね?」

 

「気づいてたの?嬉しいわねー。常連冥利に尽きるわ。」

 

「ここの客が少ないから嫌でも覚えるだろ、白井。」 

 

カウンターから声が聞こえる。白井と呼ばれた彼女は微笑みながら彼を一瞥すると、改めて青山さんに向かい合う。

 

「はじめまして…じゃないけど。ここのロースターをしています、白井(しらい) 翔子(しょうこ)です。よろしくね、青山さん。」

 

 

 

 

 

 

 

ロースターとは喫茶店などと話し合った上で豆をブレンド、焙煎を行い喫茶店に提供するのが仕事だ。バリスタよりもコーヒーに関する知識が深いと言っても過言ではない。青山さんはもちろんこの職業のことは知っていたが、疑問があった。

 

「マスターは自分で焙煎してるんじゃなかったでしたっけ。」

 

「あぁ、豆のブレンドに関しては彼女と話し合ってる。豆を仕入れるのはロースターからなんじゃ。」

 

「昔からここには馴染があったからねー。」

 

「ではここのコーヒーを作ってるのは白井さんでもあるんですねぇ。いつもありがとうございます。」

 

「礼には及ばないわよ。焙煎して挽いて淹れてるのはマスターだし、私は喫茶店に豆を提供してるだけだもの。」

 

「ちなみに昔からって、どれくらい前からなんですか?」 

 

「もう何年になるかの…タカヒロが軍学校から帰ってきた頃よな。」

 

「初めての頃なんて覚えてないわよ、ここに何百回と立ち入ってるんだもの。」

 

青山さんはそれからも彼女を質問攻めしていった。ロースターとして働き始めた理由、ここと出会ったこと、ロースターを目指すまでを。彼女は全て答えてくれた。

 

「ふぅー、ところで青山さん、カウンターのあの子は大丈夫なの?」

 

「あ、幡出さんなら…」

 

振り返るとそこには鬼の形相を浮かべ、原稿用紙を握りしめている幡出さんの姿があった。心なしか髪は逆立ち、背景は真っ赤な炎が燃え盛ってるように感じる。

 

「翠!いい加減戻るわよ!部誌書いてもらわないと困るの!」

 

そう言うと幡出さんは素早く彼女の腕を取り引きずるようにラビットハウスを後にしていった。カウンターには律儀に頼んだコーヒーとしれっと青山さんがやってもらったコーヒー占い代をぴったし置いていっていた。

 

「ここも楽しくなりそうじゃない。マスター。」

 

「…確かにな。」

 

2人は静かにそうつぶやくと、マスターはカウンター、白井さんは自分のテーブルに腰掛け残りのコーヒーを楽しむ。嵐の後は、いつもの時間の流れに戻る。








もう7話になります。おおよその折り返し地点ですかね。

・今回からちゃんとオリジナルキャラを出しました。ホワイトショコラから引用しています。ロースターという職業とは似つかわしくない甘い飲み物ですが、理由は次話の後書きにて書こうと思います。

・ごちうさ2期がいよいよスタートしました。といっても、BSもTOKYO MXも映らず、頼みの綱のエムキャスは非対応ということでニコニコ動画に上がるのを待つことになります。いいもん。原作読んでるからいいもん!
 2期スタート記念のssも書こうか悩みましたが、この回の更新が翌日ということもあり見送りました。仕方無いね。


これからのご注文はうさぎですか?の世界にますますの発展があることを願っています。2期を見て、少しでも青山さんファンが増えて、少しでもこの話に興味を持ってくれる人が増えてくれると幸いです。

お読みいただきありがとうございました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。