うさぎになる前のバリスタと小説家になる前の青山さん【完結】   作:専務

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リアルが落ち着いたので6話です。毎週投稿守ります。たぶん










「私、あなたの隣にちゃんと立ててる?」

私がこの学校に入ったのは本が読みたかったから…ってだけじゃない。

勿論その先、進学率の高さや充実したシステム、設備も私をその学校へと誘った要因と言える。

高校受験の難易度はかなり高かった。有名お嬢様私立高校というのもあって、ブランドのような雰囲気も醸し出していたからかもしれない。

でも勉強は嫌いじゃない。本を読むことと差異はないから。知識が入っていく感覚はどんな本を読んでても同じだ。

でも最近、以前より勉強が好きになった気がする。

 

「あら翠、また来たのね。」

 

この声が聞けるから、私は本を読んでてよかったって思えるの。

 

 

 

 

 

「それで、なんであの子は端っこに据わっとるんだね。」

 

昼過ぎの、のどかな空気が漂う店内には新しい顔があった。始めてにしてはどこか、顔が赤すぎる気がする。

喫茶店ラビットハウスは昼も過ぎると大して人もいない。数人が珈琲を飲んで自分のしたい事をしてるだけだ。

そんな自分の時間を過ごす人達に混じって、端っこでちびちび珈琲をすすりながら俯いてる姿はなんとも浮いている。

 

「まさか扉の向こうの話が聞こえてるなんて、思いませんでしたから。」

 

青山さんはいつもの調子だ。恥ずかしがる素振りもなく困った顔だけを作っている。

 

「生徒会長候補にして学園1位の秀才、か…。あんな賑やかな子だとは思わなかったな。」

 

「な、なんで知ってるんですか!?」

 

「そりゃあ、青山さんがよく話してくれるからね。」

 

青山さんが話すことは新作小説の話か最近読んだ本の話、そして学校の話である。本の話はマスターにするのだが、学校の話はマスターより年の近いタカヒロが聞いている。マスターは青山さんの本については熟知しているが、逆にタカヒロは青山さんの学校での出来事をよく知っている。

 

「もうヤダ…完全にキャラ崩壊よこれ…」

 

「あら、私はいつもの凛さんが好きですよ?」

 

「私はアンタと違ってそう本心をさらけ出すタイプじゃ!…あぁ…」

 

どんどんキャラが崩壊していく。もう止まらないとわかったからか、彼女は開き直り始めた。

 

「なんというか…この子と一緒にいるとペースが完全に持って行かれるものですから…ついツッコんで止めないとって衝動に駆られるんですよね。」

 

「気持ちはわかる。逆に君がいなかったら彼女は止まることを知らなかったと思うよ」

 

「むぅー、私だって自制くらいできますよー。」

 

「翠、自分のボケ加減はわかってたのね…」

 

青山さんは天然だ。自覚なしにボケるから基本はわかっていないことのほうが本当は多い。だからこそ、彼女にとってのブレーキと言える幡出さんの存在はかなり大きかった。

 

「すまんの、ちょっと奥で作業が残っててな…お、いらっしゃい。君がさっき怒涛のツッコミをかましてた子かね。」

 

「もう頼むからそのくだりをぶり返さないで…」

 

何も知らないマスターが終わりかけてた流れを戻しつつ、会話は彼女の学校生活の話に変わっていく。

 

「生徒会の選挙はいつなんだ?」

 

「んー、1週間後だったかしら。」

 

「そうね、彼女が私の推薦者になってくれてるんです。」

 

「はえーお嬢さんが。そら安心じゃの。言葉の引き出しの多い人は褒めるのも上手いもんだ。」

 

「ちゃんと私を褒めてくれるかが問題ですけどね…」

 

「私ほど凛さんのいいところを知ってる人はいませんからね。」

 

「すっごい自信だな…」

 

それほど長い付き合いという訳ではない。1年生の頃はまだ面識がなく、青山さんが2年生になってから知り合った。青山さんが1年生の頃は図書委員の活動もあったし、文芸部としての執筆活動もあったので当時は友達という友達も少なかった。それ故に、高校生として初めてと言える友人の存在だから、幡出さんを高校内で最もよく知る人物と自負したいのかもしれない。幡出さん自身も、中学時代から勉強尽くしだったために、人と接することがなかった。幡出さんとしても、青山さんの存在は大きい。

 

「しかし、この子が生徒会長なら、安心するのぉ。」

 

「私もそう思います。」

 

「え、ちょっとアタシ抜きで勝手な評価しないでよ。なんでそう思うの?」

 

幡出さんに自信がないわけではない。しかしそれは自分が今でも生徒会として働いていたり、自分自身まとめ事が嫌いでなかったという主観的な感想だった。想えば、他人からの評価は聞いたこともない。最も、それを知ることができるのが選挙というものであるが。それより前に人の評価を聞いておくのもいいかもしれない。

 

「君と話したことは殆ど無い。今が初めてじゃしの。だが、この少ない時間でも君の人の良さ、優しくてそれでいてユーモアで、思いやりがあって頭も切れる。そんな子なんじゃないかってわかるさ。」

 

「凛さんはこんな私とずっと友達でいてくれて、長い時を共に過ごしてます。もちろん、一生の中の些細なひとときかもしれないけど。それでも、あなたの良い所悪い所、全てひっくるめても貴方は人を指揮する立場、代表の立場にふさわしいと思うんです。」

 

意外だった。幡出さん自身もここまで褒められるとは思っていなかった。ましてや片方は今日話したばかりの老人である。

幡出さんは、この言葉に安心したのか、微笑みを浮かべてコーヒーを飲む。

 

「ならよかったわ。俄然気合が入るってものよ。」

 

「凛さんがやる気になってくれたら嬉しいですね。」

 

「元からやる気しかないわよ。」

 

微笑ましい会話と共に、この喫茶店は時を送る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー今日は楽しかったわ。ありがとう、翠。」

 

「礼には及びませんよ、凛さん。」

 

少し暗くなってきた道を2人は歩いていた。あの後も少し何気ない話をしていた。学校のこと、出会いのこと、思えば幡出さんと青山さんが出会ってから、2人の時間はより濃密になったように感じられた。

 

「でも凛さんも努力を怠りませんよね、今回のテストといい生徒会選挙といい。」

 

「アタシはいつでも全力よ。今回のテストなんて今までやってきたことと同じだもの。」

 

「今までやってきた、というのが努力の証じゃないですか、だって…」

 

 

 

 

 

 

 

「新しい女子高生が来て、親父も嬉しかったんじゃないか?」

 

「何言ってんだ、ワシは大人の女性の魅力しか知らんぞ。」

 

「とか言ってよ、ずっとニコニコしてたじゃんか。」

 

「…まぁ、若い子と話せるのも貴重な時よな。」

 

2人が帰ってから、ラビットハウスは今日を振り返っていた。新しい客というのはいつでも嬉しいものだ。心なしか、今日のカウンターにいる2人はテンションが高いようにも見える。

 

「あの幡出さん、すっごいよね。努力の仕方が違うよ。学園1位だよ?」

 

「確かになぁ、特に勉学においては特に頑張っとるようじゃし。」

 

「凄いんだよ幡出さんは。なんてったって、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「3年生の試験を2年生で受けてるんだから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






いかがだったでしょうか。ちょっとでも爽快感を味わえていただけたら幸いです。

・ごちうさ4巻を手にして思いつき、脳内で路線を変更しました。青山さんは高2設定と言ったな?アレは嘘だ。ごちうさの原作を欠かさず読んでいる人なら「あーあの人かな?」となるかもしれません。来たるごちうさ2期にももしかしたら出るのかな?つまるところオリキャラで無くなりましたとさ。
・いつもはタイトルを文章内に入れることが多いのですが、今回はテーマのような形にしました。隣に立ててる?というのは学年がひとつ下の幡出さんの心境ですね。

今回もお読み下さりありがとうございます。

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