うさぎになる前のバリスタと小説家になる前の青山さん【完結】   作:専務

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今話から新シリーズ、いつも通りの2000文字ペースです。








「私、コーヒー以外も好きですよ。」

 

「さて、どうしたものかの。」

 

夜の喫茶店にはマスターが帳簿を片手に頭を抱えていた。傍らの女性もため息をつく。

 

「うちとしてもこれ以上の値下げはできないの…ごめん、マスター。」

 

「いいんじゃ、それが商売ってものだ。」

 

喫茶店は心地の良い空間だ。しかし、店である以上そこには経営がつきもの。そこが滞ってしまえば、空間は意味をなさない。

 

「なにか案があったりしないの?このままじゃ、ここはもう…。」

 

女性は口を噤む。それ以上は憚れたようだが、マスターもそれは承知していた。彼は仕方ないと言うように眉を下げながら答えた。

 

「あまり頼りたい相手ではないが…昔の縁だ、きっとどうにかしてくれる。互いに利益のあることだ。」

 

渋々取り出した紙には、なにやらレシピのようなものが書いてあった。

 

「それ…あそことやるの?」

 

「集客が見込めるかはわからんが、これくらいのことは楽しませるという意味でもいいだろう。」

 

そうしてマスターは電話をかけた。

 

 

 

 

「よぉ元気してるか…甘兎よ。」

 

 

 

 

彼の一手は、腐れ縁の頼りであった。

 

 

 

 

 

 

 

「いやー楽しかったですねー文化祭。」

 

秋も深まってきた時期、青山さんは紅葉しつつある街路樹を眺めながら幡出さんと公園にいた。先日の学園祭を振り返っているようだ。

石畳みの町並みに溶け込んだここの公園は、うさぎの憩いの場としても知られ、うさぎを見るために来る人も多い。

 

「部誌も売れたしねー、生徒会としてもこの成功は嬉しいわ。」

 

幡出さんも機嫌がいい。今年の学園祭は例年より多くの人が来場した。生徒会も対応に追われたものの、多くの人から満足の声を聞けたようで、今年は大成功と言える。

 

「部誌、見せに行くんじゃないの?ここであまりのんびりしてても仕方ないでしょ。」

 

「そうですね、行きましょうか。」

 

そうして彼女達は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

辿り着いたのはやはりラビットハウス。ここ最近はマスターに新作を見せる機会も無く、青山さんも久しぶりに読んでもらえると浮足立っている。

しかし、今日のラビットハウスはなにやらおかしい。おかしいというより、変わっている。

 

「甘兎庵コラボ…?」

 

「甘兎庵って、この間のシストの時に行ったとこよね?」

 

文化祭直前の時期にラビットハウスのロースター、白井さんの計らいで行った宝探しにて彼女達はその場所に立ち寄っていた。

 

「なにやら気になりますね…入ってみましょう。」

 

「もとより入る気だったでしょうに。」

 

ラビットハウスに入るといつもの空気と少し違った。見慣れない客も多い。カウンターでは白井さんとマスターが話している。

 

「こんにちは、白井さんにマスター。」

 

「おぉ、お嬢さん。いらっしゃい。」

 

「青山ちゃん、来てたのね。」

 

2人共普通に返事をする。青山さんは気になっていることを話した。

 

「あの、甘兎庵とコラボとは…見慣れないお客さんも多いですし…」

 

「青山ちゃんも食べてみたら?コーヒーあんみつ。」

 

メニューを開くとそこには1ページを使って大々的に売り出しているコーヒーあんみつの表記があった。どうやらコラボというのはこの事らしい。

 

「それじゃあ頂けますか?マスター。」

 

「うぅむ…」

 

「?、なんかあったんです?」

 

あとから入ってきた幡出さんがマスターの異変に気がつく。気が乗らないようだ。

 

「コーヒーあんみつのぉ…素直な感想を言ってくれよ?」

 

「私が率直な感想以外を言ったことはないですよ?」

 

「翠はただ正直者なだけじゃない。」

 

そういった他愛もない話を続けてしばらくすると、奥からコーヒーの香りと共に和菓子が出てきた。あんみつとコーヒーのコラボに青山さんと幡出さんは驚いているようだ。

 

「なるほど…和と洋が見事に合わさった一品ですね…」

 

「新ジャンルの開拓と言っても過言じゃないわねこれ。」

 

「早速食べましょう凛ちゃん。」

 

青山さんは相変わらず行動が早い。言ったと思ったらもう口に運んでいた。

 

「早いわね…落ち着いて食べなさいよ。」

 

母親のような心配をする幡出さんをよそに青山さんは次々のコーヒーあんみつを口に運んでいく。

 

「…んん〜!美味しいですね…なんと言ってもこの」

 

 

 

 

「あんこが。」

 

 

 

 

マスターの顔が固まる。白井さんも苦笑いだ。青山さんは構わずコーヒーあんみつを食べているが隣の幡出さんも流石に頭を抱えた。それでもなんとかフォローをする。

 

「…でも、やっぱりこれらに合わせるためのコーヒーを選んだんですよね?だとしたらやっぱりコーヒーの存在は大きいよなぁ…」

 

「それ、マスターの自信あるブレンドを使ったのよね。」

 

「ごめんなさいマスター。」

 

フォローのしようがなかった。もちろんコーヒーの風味も素敵だが甘兎庵のあんこは絶品であった。マスターの顔から生気が消えていく。年齢も年齢なのでホントかウソか判断しかねる。

 

「まぁ仕方ないわよマスター、甘兎を素直に褒めてあげなよ拗ねてないでさ。」

 

「…ものか。」

 

「へ?」

 

白井さんの励ましもなにやら聞こえていない様子。マスターの後ろには先日の幡出さんの如く炎が燃え上がっているように見える。

 

「負けるものか…コラボ?違うなぁ、互いのしのぎを削る(いくさ)じゃ…!」

 

「…まぁ、やる気が商売に繋がるならいいけどねー。2人とも甘兎でも食べてきなよ。向こうのおばちゃんも喜ぶわ。」

 

「はい〜そうします〜。」

 

青山さんは幸せそうな顔をしている。幡出さんは今日も彼女に悩まされる。そんな日常の変わらぬ1ページ。

 

 

 

続くものだと、思っていたのに。








お読みいただきありがとうございます。最終章と言ったところです。

・2000文字以上書く予定だったのですが何分先週が忙しかったので2000文字に収めました。収めたってか収まっちゃっただけなんだよなぁ

・今まで週に70〜80程度のUAが2周連続で100を超えまして、嬉しい限りです。一節一節が短いのでまとめて読むのにはオススメだと思います。全て書き終えたらだいたい小説一冊程度の量になると思うので、これが完結してから一気読みしてみるのもいいかもしれません。

・メグ誕を忘れており書き損じました。死にたいです。



ラストまで走り続けます。最後までどうかお付き合いをよろしくお願いします。

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