うさぎになる前のバリスタと小説家になる前の青山さん【完結】   作:専務

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※あらすじの注意事項をお読み頂いてからの閲覧をお勧めします。








「私、あなたのコーヒーが好きなんです」

「私、貴方の作るコーヒーが好きなんです」

 

少女は、そう目の前の人に呟いた。

 

「…私はコーヒーを淹れているだけ。とても、作ってるなんて大層なことはしていませんよ。」

 

白い髭が目立つ老人は、そう少女に語りかけた。

 

「…確かに、貴方は淹れてるだけかもしれません。けど、」

 

 

「そこに想いが入るだけで、そのコーヒーは貴方の創作物になると思うの。」

 

 

老人は笑ってそれに答えた。

 

 

 

 

 

石畳みの映える、どこか西洋の面持ちをしたとある街。ここには、様々な人々が持つ能力を活かした、多種多様な店が建ち並ぶ。

ここ、喫茶店『ラビットハウス』もその1つ。そこには、隠れ家のような落ち着きと、それを引き立てる珈琲の香りで満たされていた。

 

「ふぅ…こんなもんかの」

 

オーナーの男性は長年珈琲(コーヒー)を扱ってきたその感覚で、豆を焙煎(ばいせん)していた。この店はそういった手作りにこだわることで、この落ち着きを見せているのかもしれない。

 

「親父、エスプレッソ2つ、入ったぞ」

 

「おぉタカヒロ、すぐ淹れる」

 

親子でこの店を支えて数年、決して繁盛とはいかないが、固定客も付き、安定した売り上げで日々を過ごしていた。

 

「なぁ、今日はあの娘来ないのか?」

 

「あー、まだ書き終えてないみたいでの」

 

「書くのもここでやってたじゃないか」

 

「…最近、あのババ…っと、甘兎庵(あまうさあん)で執筆してるようでな。完成品は真っ先に持ってくると言っておったし、気長に待つさ」

 

「本当親父は甘兎が嫌いだな」

 

「まぁ、なんやかんやの腐れ縁のようなものよ」

 

親子なのに尽きることのない会話は、客にとってはおなじみのBGMのようなものである。

今日も、喫茶店ラビットハウスはひっそりと営業している。

 

ラビットハウスにはその街柄故か、個性的な客も珍しくない。特に近所に学校があることから夕方は学生が多い。といっても、ひっそり営んでるこの店に学生がこぞって来るようなことは稀であるが。

 

「そろそろ学校も終わる頃だろうし、久々に顔を出すんじゃないか?」

 

「はて、彼女は行き詰まると暫く書けなくなる性格。もうしばらく待ってもいいんじゃないかね?」

 

「そんなもんか。…ここは大人が多いからな。学生の若さをたまには目に焼き付けとかないとどーにかなっちまうよ。」

 

「そこがタカヒロの大人になれない所以(ゆえん)。大人の良さを知らぬからの。」

 

「余計なお世話だよ親父…」

 

今日もまた中身のない会話ばかり止めどなく続く。そんな中、扉に付けたベルの音がカラカラと響いた。

 

「いらっしゃ…おぉ!噂をすれば来たか!」

 

「おや、今回は早かったんだなぁ。お嬢さん」

 

ドアの向こうに立つ、有名お嬢様学校の制服。すこしおっとりとした印象を受ける彼女は、数少ない学生の常連客で、

 

「出来たのかい…読ませておくれ。君の新作を。」

 

将来の小説家である。

 

「はい。お髭のマスター!」








お読み頂きありがとうございます。本格小説はこれが初めての投稿になります。至らない点もある上表現なんかもよくわからない始末。拙い文章ですがお付き合いのほどよろしくお願いします。今回は導入ということで短くさせていただきましたが2話から2000文字以上になります。

※追記:見づらかったので地の文と会話文の間に行間を設けさせて頂きました。多少は読みやすくなると思います。

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