城下町のダンデライオンー偽物の10人目ー   作:雨宮海人

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葵回スタートです。
今回だけではおさまらないので2話構成ですけどね。
それでは今回もよろしくお願いします!


第19話

『今月の一位は葵様です!さすがですね』

 

テレビを眺めていると、選挙についてのニュースが流れる。

 

葵姉さんは不動の1位で、俺もなぜか3位から動く気配がない。

 

茜の順位は選挙活動を始める前に下がっており、今は奏が2位となっている。

 

葵姉さんは俺以上に王様になる気はない。にもかかわらず葵姉さんは1位のまま。そのまま王様になってしまうのではないかという勢いである。

 

「式、ちょっと話があるんだけど」

 

テレビをそのまま眺めていると、奏が声をかけてくる。奏は今日も選挙活動で幼稚園に行っていたらしい。ご苦労なことである。

 

「何?暇だから聞くけど」

 

「葵姉さんも一緒に話したいから部屋までついてきてくれないかしら?」

 

葵姉さんにも話?奏が何について話すのか見当もつかないんだが。

 

「いいよ」

 

特に断る理由もなかったので俺は奏と一緒に葵姉さんの部屋に行く。

 

「私、入っていい?」

 

「奏?入ってもいいよ」

 

奏が部屋をノックすると、葵姉さんがすぐに返してくる。奏がドアを開けると葵姉さんは勉強中のようだった。

 

「あれ?式くんもいるんだ。珍しいね私の部屋に来るなんて」

 

「奏に誘われただけだよ。入らせてもらうね」

 

「うん、いいよ」

 

俺と奏は部屋に入って奏ではベットに、俺は床に座る。

 

「フローリング冷たくない?座布団とか出そうか?」

 

「いいよ。そこまでじゃないし、それよりもわざわざ呼び出して話ってなんだ奏」

 

「式も姉さんも王様になりたくないんでしょ?2人とも今のまま式は選挙に干渉せず姉さんは茜のサポートに徹すればいいんじゃない。そうすれば茜も救われて、二人とも王座を逃れられる」

 

なるほど、奏は現状で票を集めている葵姉さんをどうにかしたいんだろう。俺はそのついでってところか。

 

「自分が王様になりたくないから茜をサポートしているわけじゃないよ。それじゃあ私が茜を利用しているみたいじゃない」

 

「だったら選挙を辞退すればいいじゃない。式の時はダメって言ってたけど、ちょっと口きかないとか言って脅せば聞いてくれるんじゃないかしら?パパなんだかんだで私たちに甘いから」

 

「それは無理だと思うよ奏。父さんはあの時言ったことを曲げることはない。そんな脅しでもね。それに葵姉さんの性格上それは望まないことだってわかってるだろ?」

 

「うん、式くんの言うとおり簡単に辞退するわけにはいかないでしょ」

 

「それじゃあ、姉さんも式も責任感で王様になる気なの?」

 

その質問に葵姉さんは少々言葉を詰まらせているようなので、俺から答えるとしよう。

 

「選挙に積極的でないにしろ。国民に選ばれた以上、俺はその期待に応えたい、それは確かに責任感なのかもしれないが。それでも俺は王様になるよ。俺は別にそれが悪いことだとも思わない。実際上に立つ人は自己犠牲がつきものなわけだしな」

 

それに奏が頑張ってるのに何もしてない俺が選ばれることはないと確信してるので俺自身そこまで心配してなかったりする。

 

その点に関して言えば葵姉さんはちょっと問題がありそうだが。

 

「式はそんな感じよね。でも葵姉さんは?」

 

「奏、いつからそんなに意地悪に……昔はあんなに可愛かったのに」

 

「まぁ、お嬢様口調で本物のお姫様みたいな感じだったな」

 

「でも、家族思いの優しい子で――」

 

「うるさーい!」

 

俺と葵姉さんが昔の奏トークに入りかけたところで止められてしまう。

 

「もう、昔の話なんてしないでよ。そんなことより、式はまだしも姉さんは今一位じゃない。どうやって王座を逃れるつもりなの?」

 

「確かに、葵姉さんちゃんと考えないとほんとに王様になっちゃうよ?」

 

「うーん、特にないかな?」

 

「「えっ!?ないの!」」

 

完璧そうに見えて葵姉さん少しだけ抜けてるからな……しかし、考えてないとは。

 

「姉さん!本当に王様になるわよ!」

 

「ご、ごめんなさーい!」

 

奏が怒り気味に葵姉さんに注意する。奏からしたらストレスだろうな葵姉さんの存在……

 

王様になりたくないのに自分の前に立ちはだかってくるんだもん……

 

「葵姉さんもう高校卒業が迫ってるけど、将来のこととか大丈夫?」

 

「か、考えてるよ……今朝くらいから」

 

「葵姉さん、俺心配になってきたよ……」

 

今朝って、俺ですら将来のこと色々考えているというのに。

 

「将来のことは置いといて、もうひとつ聞きたいことがあるんだけど」

 

「ん?何かな」

 

「姉さんの本当の能力って何?」

 

その瞬間場の空気が一瞬凍った。まさか、奏がそんな質問してくるとは思わなかったからである。

 

「本当ってどういうこと?」

 

「完全学習、一度学習したことは忘れない。国中の法律は把握してるし、あった人は忘れない。でもそれって頭がいいだけじゃない」

 

「奏、やっぱり意地悪ね。昔はあんなに……」

 

「かな姉、葵姉さんのことは特に敬っていたからな」

 

「だからやめてって言ってるでしょ!特に式、その呼び方しない!」

 

「すいません。でも、いきなりそんな事を言い出すなんてどうしたんだ?」

 

「私は姉さんが真の能力を使って今の状況を打破するんじゃないかって予想しただけよ」

 

奏、鋭すぎるよその予想は、葵姉さんも少し顔を俯いてしまっている。

 

「そんな便利な能力ないだろ。うちの家族の能力どれ使っても選挙を一気に覆すような切り札にはなりえない。まぁ、選挙候補を選挙に出れなくするぐらいなら可能かもしれないが、誰もやらんしな」

 

「式くん。そんなこと言っちゃいけません」

 

「ごめんなさーい」

 

「はぁ、選挙トップ3が揃ってるってるのに緊張感がなさ過ぎて調子狂うわね」

 

「心配しなくても奏順位上がるって」

 

「確かに、現に俺は抜かされたわけだしな」

 

「何もせず順位を保ててる2人にそんなこと言われると空しくなるわね。でもいいわそうなればいいと思ってるし」

 

そう言って奏では部屋から出て行ってしまった。全く呼び出しておいて勝手なことで。

 

でも、このまま葵姉さんを放置するのはよくないか。

 

「ふぅ、でも奏の言うとおり葵姉さんはこのままサポートに徹した方がいいかもしれないね」

 

「でもそれは茜に――」

 

「俺が言えた義理じゃないけど、葵姉さんは茜に甘過ぎると思うんだ。王になろうがなるまいが茜はいずれ社会に出る。その時に今のままじゃ絶対にだめだ。だから俺は茜の人見知りに対してはそんなにフォローしてないつもりだし。それにもし治ったら茜の将来の可能性は広がるだろ?」

 

俺の説得に葵姉さんは轟沈してしまう。ちょっと言い過ぎたか?

 

「確かにそうかもね。それに茜は自分のためにも他人のためにも動くことができる。王様にもむいてないわけじゃないし、どんなことでも茜自身が決めることなのかもね」

 

「まぁ、奏はうまく票が分散してくれたらラッキーとか見栄張ってるんだろうけどね」

 

「ふふっ、そうね。奏では根の部分は昔から変わらないわ」

 

そう、奏では昔から家族思いの優しい姉だ。それがかわることはないだろう。

 

「でも、式くんもそれは同じだよね。めんどくさがりは治ってないし」

 

葵姉さんの手厳しい言葉に俺は苦笑いをしてしまう。

 

「これでも結構隠してるつもりなんだけどね」

 

やっぱり家族にはわかってしまうものなのだろうか。学校の連中には真面目で通ってるんだけどな。

 

「わかるよ、お姉ちゃんだからね。だからね、一つ聞きたいんだけど。式くんは私の能力についてどう思ってるの?」

 

「えっ?」

 

あまりに予想外の質問に俺は少し解答に詰まってしまう。

 

簡潔に答えるなら俺は葵姉さんの本当の能力を知っている。

 

しかし、知った理由は自分の出生について調べた時に偶然知ったことであり、俺がこの事を知ってるのは父さん以外知らないことである。

 

葵姉さんの本当の能力は 絶対尊守(アブソリュートオーダー)。葵姉さんに命令されたものは皆服従してしまうという兄弟の中でも扱いが危険な能力である。

 

むしろ、私利私欲が他の兄弟たちよりない葵姉さんだからこそ今までばれずに生活できているのであろう。

 

「俺も葵姉さんは能力を隠しているんじゃないかと思ってるよ。もし、完全学習が本物なら矛盾してることも見つけてたしね。でも、本当のことに興味はないよ。人は秘密を持ってるものだからね」

 

嘘を言ったら葵姉さんのことなので見抜かれると思いある程度正直に答える。

 

そして、さっきいった矛盾とは紛れもなく俺のことである。生まれてすぐ発動するわけではないにしろ。完全学習をもつ葵姉さんなら俺が生まれた時の記憶があってもおかしくない。もしあれば、茜と俺が双子だということに違和感を覚えてもおかしくないはずである。

 

「式くんにも秘密あるの?」

 

「あるよ。誰にも言えない秘密が」

 

もし、葵姉さんが能力を使って俺の口を割らせにきたら抵抗するけど、うまくいく自信はない。だが、それ以前に葵姉さんはそんな事をしないことを俺は知ってるで笑顔で言った。

 

「そうね。一つぐらい秘密があった方が人間らしいよね」

 

葵姉さんもそれに笑顔で返してくれる。さすが、国民の心をつかんでるだけあり、その笑顔は引きつけられるものがあった。

 

きっと、葵姉さんも本当の能力のせいで色々苦悩してきてるのだろう。実際葵姉さんの能力はそれぐらいの危険度がある。真実はわからないけど王様になりたくない原因の一つは能力にあるのかもしれない。

 

「じゃあ、俺も部屋に戻るよ」

 

「うん、わかった」

 

そんな苦労する姉さんを支えるのも俺の目標の一つであることを胸にとどめながら俺は自分の部屋に戻るのであった。

 




式の性格は根本的にはめんどくさがりですが、よっぽど親しい人でない限りその事実をしりません。見せることがないですからね。
次回シリアス回です。期待しないでお待ちください。

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