城下町のダンデライオンー偽物の10人目ー   作:雨宮海人

13 / 26
会長回です。
今回で式くんに設定が追加されますが、温かい目で見守ってください。
それでは今回もよろしくお願いします!


第12話

『生徒会長にかわり櫻田副会長より、生徒会からのお知らせです』

 

今は全校朝礼中で、生徒会長の代わりに奏が壇上に立っていた。

 

そのことに不信感をもっているやつらが、生徒会長について色々話し始めているが、本当の事を知っている俺からすれば耳を傾けるまでもない話である。

 

生徒会長は今日も体調が優れないらしい、これは俺もボランティアで手伝いに行こうかな。

 

そう考えていると、奏が話し始める。

 

『皆さんに報告があります。来週末、学校全体で町内活動を行おうと思います。皆さん協力して町内を綺麗にしましょう』

 

町内清掃か、生徒会が運営するということは俺にも仕事が回ってきそうだ。

 

どうせ呼ばれそうだし、さっさと奏にこのことについて聞いてみよう。

 

あれ?でもこの行事って茜大丈夫なのか?

 

でも、茜は真面目だからこういうことに対して強くは反論してこないか。

 

だが、あいつらは違いそうだ。一応用心しておくか。そう考え俺は少々警戒をするのであった。

 

 

 

時はその日の昼休み。やつらの動きを察知した俺はそいつらが会議に使っている生物準備室前に来ていた。

 

入口にはなぜか三年と二年の先輩2名が突っ立っている。

 

まぁ、こいつらが町内清掃と言われて黙っているわけではないか。そう思い俺はその三年生に近づく、

 

「ん……あなたは!?」

 

「騒がないで下さい面倒になるんで。俺はちょっとこの中の話を盗み聞きしたいだけです。いいですよね?」

 

「はい!問題ありません」

 

俺は三年生と位置を交換して、扉に背をつけるようにして中の話に耳を傾ける。

 

「それよりも今回の問題についてですが、彼女はとても困っているようでした」

 

「くそっ!誰がこんなことを」

 

「おそらく奏副会長の仕業でしょう。他に考えられません」

 

「人数を募って異議を申し立てましょう」

 

そんなことしたらどうなるかわかってるのかなこいつらは……

 

「いえ、騒ぎを大きくしても逆効果でしょう」

 

「では、どうのように?」

 

「僕が直接動きます!」

 

会長はよく理解しているな。それぐらいなら問題ないだろう。

 

「先輩、場所をかわってもらいありがとうございました。今のところは問題なしですよ」

 

「お勤めご苦労様です」

 

そう言って先輩方が俺に頭を下げてくる。どうもこの扱いにはなれないな……

 

だが目的は達成したので俺はその場から去るのであった。

 

 

 

そして、俺は奏のいる2年生校舎に来ていた。

 

俺の予想が正しければ、会長は奏に接触するはずである。

 

「奏さーん。一年生が呼んでるよ」

 

「ん?式君じゃないの?もしかして告白?」

 

「違いますよ!からかわないで下さい」

 

「少し、お時間をいただけないでしょうか」

 

「いいですよ」

 

会長は奏と一緒に人気のないところに移動する。

 

もちろん俺も遠くからついていく。

 

「で、なんでしょうか?」

 

「お分かりでしょう。町内清掃の件についてです」

 

「大方、校内清掃に切り替えてほしいというところでしょうか?」

 

「はい」

 

「ダメです。茜には4000万の貸しがあるので」

 

「えっ!?」

 

奏のやつ茜から言われてもそれを盾にできると思って町内清掃にしたのか。

 

会長も驚いている、いやそれはそうだろうな。4000万だもん。

 

「しかし、おかしいですね。あなたはそっちの方がいいのでは?」

 

「何を言って僕は――」

 

「茜の恥ずかしがる姿が見放題ですよ」

 

奏のその一言に会長は沈黙してしまい、妄想の世界に飛んでしまう。

 

ダメだなあいつ。というか口で奏を負かそうと考える時点で浅はかか。

 

そのまま二人の話は終わってしまい、会長は三年生校舎の方に言ってしまう。

 

「で、盗み聞き?」

 

できるだけ自然にしていたはずなのだが、奏には気付かれてしまったようである。

 

「これも俺の仕事みたいなもんだからな。機嫌を悪くしないでくれ」

 

「まぁ、いいけど。そう言えば頼みたいことがあったの教室に来てくれる?」

 

「できるだけ手短に頼むよ」

 

会長が三年生校舎に行ったということは、葵姉さん辺りに会いに行ったのだろう。一応見過ごすわけにはいかない。

 

俺は奏と一緒に教室に戻ろうとすると。

 

「待て、奏。式もだ」

 

なぜか、廊下で修に呼び止められていた。

 

「なんですか?お兄様?」

 

「会長と何を話していた?」

 

まぁ、そのことだよね。修が気にならないわけがない。

 

「茜を嫁に下さいって――」

 

「ふざけるな!俺はあいつのことは嫌いじゃないが、それとこれとは別――」

 

「そんなわけないだろ。奏の冗談だよ。会長は今日の朝礼のことで――」

 

「そっか、ならいい」

 

「「おい!」」

 

自分の事が解決してしまうと、修はどっかにいってしまう。というかこんなところで道草食いすぎるのもな。

 

「奏、渡すものがあるならさっさとしてくれ」

 

「そうだったわね。はいこれ町内清掃での生徒会用の予定表。できるだけ手伝ってほしいの」

 

「了解。じゃあ、俺も行くから」

 

そう言って俺は2年生校舎を後にした。

 

 

 

三年生校舎に着くとちょうど葵姉さんと会長が話しているところだった。

 

「正直茜様の恥ずかしがる姿はみたいですよ。でもそれは会長としてもどうかと……」

 

会長のやつ、自分だけじゃ決心がつかなくて葵姉さんに相談しに来たのか。

 

「えっと、好きな人の色んな表情を見たいっていうのはわかるよ。それに茜は嫌がってるみたいだけど、やる気があるみたいだしそれなら応援してあげたいな。茜のためにもなるし」

 

「そうですね。いやそうだな!そうするべきだ。ありがとうございました!」

 

決心のついた顔をした会長は足早にその場を去っていってしまう。

 

というかあいつ欲望の方が勝っちゃってるんだけど大丈夫か?

 

会長がいなくなったところで俺は葵姉さんの前に出る。

 

「葵姉さんお疲れ様」

 

「式くん。聞いてたんだ。いつも大変だね」

 

「いや、あいつらもそんなに活発に動いてないからそこまでじゃないよ」

 

「葵ー、またお客さんだよーって。式君もいたんだ」

 

「こんにちは菜奈緒先輩って茜じゃないかなにしてるの?」

 

葵姉さんのクラスメイトに視線を向けるとそこにはなぜか茜がいた。しかもめっちゃ泣きそうな顔で……

 

「茜、どうしたの?こんなところまで珍しい」

 

「お、お姉ちゃん確か生徒会長とお友達だったよね。式も生徒会長のこと知ってるんだよね?」

 

「う、うん。そうだよ。私のクラスメイトだし」

 

「そりゃ、俺は半分生徒会みたいなもんだしな。なんだ生徒会長に会いに来たのか?」

 

「いや違うんだけど。ということは三年生なの?」

 

茜はなにをあたりまえなことを言っているのだろうか?三年生しか生徒会長にはなれないだろう普通。二年生も可能と言えば可能だが。

 

「そうだけど、それだけ?」

 

「それじゃあ、ついでに助けて!」

 

「えっ?」

 

「なんだつれないな」

 

「一緒に遊ぼうよ!式君もくる?」

 

「……遠慮しておきます」

 

茜はそのまま先輩方に連れていかれてしまった。哀れ、というか本当に何しに来たんだあいつ……

 

「じゃあ、俺は戻るよ」

 

「うん、気をつけてね」

 

俺は葵姉さんと別れそのまま教室へ戻り、残りの昼休みをゆったりと過ごすのであった。

 

 

 

 

そして、その日の放課後。

 

会長に再び動きがあり、俺は生物準備室に再び聞き耳を立てていた。

 

「我々も町内清掃に賛同します!」

 

「会長どういうことですか!?」

 

「今一度考えてみたのです。我々は何のためにあるかと、彼女のために彼女の意志を尊重して動くことこそが、茜ファンクラブの存在!そして、会長としての僕の役割だと!」

 

「会長!ですが私たちはプリンセスの特異な環境の中、できるだけ平和に過ごしてもらうのが目的なのでは!」

 

「それでは彼女の意志を無視してしまう!彼女は壁を乗り越えようとしているのだ!」

 

「ですが、もう少しハードルを下げるべきなのでは!いくらなんでも町内清掃は」

 

「それでは彼女の恥じらう姿が見られないではないか……」

 

「「は?」」

 

少々見過ごしたくないところもあるが、大方問題はなさそうである。これなら俺が出る幕はないか。

 

そう考えた俺は見張りをしている先輩に一礼して、何事もなかったように帰宅するのであった。

 

 

 

 

『それではみなさん町内をピッカピカにしましょう!』

 

「「「おおーーー!!」」」

 

町内清掃当日、俺は生徒会の手伝いをしていた。

 

「ふう……」

 

「大丈夫ですか、卯月会長?」

 

深い息を吐きながら椅子に座る生徒会長こと卯月会長に俺は持ってきた水を渡す。

 

「ありがとうございます。今日は調子いいみたいです。式君、毎回生徒会じゃないのに手伝っていただきありがとうございます。奏さんもいつも仕事を任せっきりで」

 

「いえ、お安いご用ですわ」

 

「俺も、姉さんたちに頼まれてですが、自分の意志でやってるので気にする必要はないですよ」

 

卯月会長は調子を崩しやすく、主に人前に立つ仕事は奏が担当していた。それで、生徒会長でいいのかと思うが卯月会長を見ていると心が和み、こういう会長も悪くないなと俺は思っている。

 

「さて、俺は生徒会じゃないから普通にクラスに戻るよ」

 

「悪いわね。事前準備だけじゃなくてここまで拘束しちゃって」

 

「いいよ別に、じゃあ行くわ。それじゃあ失礼しますね卯月会長」

 

「はい、清掃頑張りましょう!」

 

俺ははいと返事をして、クラスの方へ戻ろうとしたところで、茜のクラスが目に入る。茜ファンクラブ会長こと福品がものすごいテンションでクラスを盛り上げていた。

 

そのせいか茜がいつも以上にちっちゃくなって見えるわけだが……

 

そこで俺の視線に入ったのは福品の手元にあるビデオカメラである。どうやら、茜を取るつもりのようだ。

 

「さすがにそれはファンクラブの行為から逸脱してるな。それ以前に今は町内清掃だってのに」

 

程なくして、茜のクラスも散開してゴミ拾いを始める。そこで俺は福品に声をかける。

 

「おい、会長」

 

「その名で呼ぶなと何度も――なっ、(フォー)!?」

 

「言葉を返してやるよ。その名で呼ぶな。それで茜ファンクラブ会長、お前の手に持っているそれはなんだ?」

 

「なっ、何のことでしょうか?」

 

ここまで来てしらばっくれるつもりらしい、いい度胸だ。

 

「お前は俺のことをどういう認識してるんだ?」

 

「……Ⅳは自分以外の全て櫻田家のファンクラブ№4に位置しており、ファンクラブがその存在から逸脱した行為を行った場合は粛清するという執行者のことです」

 

「よくできました。今回の一件もしっかりと見てた。でも、お前らの行動は問題にするほどではなかったのでなにもしなかった。だが、町内清掃中だというのに茜の恥ずかしがる姿をカメラに収めようとするのはいただけないことぐらい賢明なお前ならわかるよな?」

 

「は、はい……」

 

「じゃあ、そのカメラをよこせ。後で返してやるから」

 

「そ、それはできない!このカメラで――」

 

さすがに諦めが悪いな。最終忠告をするか。

 

「よ・こ・せ」

 

できるだけ怖い笑顔を浮かべながら俺は手を出す。

 

「……はい」

 

福品は俺にカメラを渡してくる。最初からそうしとけばよいというのに。

 

「別に茜の姿を見るのは文句ないし、設置してある監視カメラに映ってテレビに出ることは俺の管轄外だからな。こんなことせず普通にしとけ」

 

「わ、わかりました」

 

こんなかんじで俺はファンクラブの色んな意味での抑止力となっている。俺自身ファンクラブに入っている以上その存在を否定する気はさらさらないが。やることが過ぎる奴らもいる、そうやつらから家族を守るのが俺の役目である。

 

実際、葵姉さんのファンクラブの一部を粛清してからⅣなんて呼ばれるようになるのはさすがに予想外だったわけだが……

 

「ま、いっか。それよりも仕事しないとな」

 

このようにして、櫻田家の学校生活での平和は守られているのである。

 

 

 

 

町内清掃が終わり、その日の夕方、みんな家に帰ってきていた。

 

ついでに、カメラはちゃんと返しました。なお、茜の恥ずかしがる姿を目に焼き付けた福品はカメラにとれなかったのは残念そうだったが、満ち足りた表情だった。

 

色々やばいと思ったが茜の恥ずかしがる姿は実際に可愛いので、俺は目を瞑ることにした。

 

「あぁ~。疲れた~」

 

そしてその茜は、かなり町内清掃が堪えたようでソファに寝転がる。

 

「若いってのにだらしない」

 

「誰のせいよ。視線に晒されて疲れたの……うっ!」

 

文句を言う茜の上に、ボルシチが乗っかり寝ようとする。

 

「ボルシチが茜の上以外で寝るところは見たことないな」

 

「確かに俺の膝の上ではよく寝るが、乗っかるのは茜ぐらいだ」

 

「毎回餌あげてるの私だもんねー」

 

俺は結構猫好きで、ちょっと生意気なボルシチだが俺とは意外と仲がいい。

 

「大方そのなだらかさがいいのだろう」

 

修の言うとおり、ボルシチの寝ているところは胸を枕にするようにしていた。

 

奏だとでかすぎて枕にできそうにないしな。

 

「なだらかさなら私も負けないよ!ボルシチおいで!」

 

光がソファに寝転がりボルシチを呼ぶが、ボルシチは一瞥してすぐに目を瞑ってしまう。

 

「来ない~」

 

「茜の方がなだらかだと判断したか」

 

「えっ!いずれ抜かれると思っていたけどまさかもう……」

 

茜はボルシチを置いて、光の胸を揉みだす。

 

「やめてください……」

 

さすがの光も恥ずかしそうに拒否していていた。

 

姉妹なのにほんとに差がひどいな、口に出したら昔の二の前なので言わないが。

 

「みんなー、ご飯できたわよ」

 

「今日の晩御飯何ー?」

 

「今日のメニューはボルシチよ」

 

その言葉を聞いた瞬間ボルシチは立ち上がり、逃げるように居間から出ていってしまう。

 

「ボルシチ!誤解だよ!ボルシチィ!?」

 

なるほど、自分の名前だもんな。食われるかもと思って当然か。

 

「というかボルシチって料理の名前だよね?誰がつけたの?」

 

茜の質問はもっともである。名前を知った時からなぜって思ってたからな……

 

「いつの間にか馴染んでたけどすごいセンスだよね~」

 

「岬の言う通りだな。センスがすごいよ」

 

悪い意味でだけど。もっといい名前なかったのかな。俺がつけたかったな……

 

「ふ、それはね」

 

「どうでもいいけど、猫につける名前じゃないな」

 

「もう慣れたからいいけど、センスは疑うね」

 

「そりゃ、そうだ。奏、今何か言った?」

 

「……何でもないわ」

 

誰が名前をつけたのかわからないまま、食卓にはボルシチが並べられ、夕食となった。

 

「うん、うまいな」

 

「あっ、帰ってきた。匂いにつられたのかな?」

 

みんなが食べてる中、ボルシチは自分が食べられないことを知ってノコノコ戻ってくるのであった。

 




今回で4話終了です。
現在めっちゃシリアスな話を書いていますが、これダンデライオンだよな……ほのぼのどこいったと少し進む道が行方不明になってるけどなんとか書いてます笑
今日で八月も終わりです。九月もこの調子でいけたらいいなと思います。

お気に入り、感想、評価などよろしくお願いします!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。