ラブライブ! とある高校のドラマー少年   作:桐島楓

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プロローグ以来の真面目話でございます。

正直迷走してる感が強いと思いますが気楽に見てください


第8話

 前略親父殿。ついにこの日がやってきました。μ’sのファーストライブ。そしてわがUTX高校のA-RISEによる新入生歓迎ライブ。まさかのライブブッキングです。私はなんとしてもこの二つのライブに出ないといけない状況に追い込まれてしまっているわけです。まあ、仮にバレてもビーム撃たれたり月を落とされるということはないはずですので……ないですよね? というか別にバレても問題ないと思うのになぜ私はこんなに必死に隠してるのでしょう? 最近自分を見失っているような気がします。

 

 

 さて、授業は終わった。

 時刻は3時ジャスト。このあとそれぞれ気になっている部活動などを見て回り、最後に目玉であるA-RISEのライブが5時30分から開催されるが本日の流れである。

 が、俺は穂乃果達との約束を果たすために部活動見学をしている暇がない。迅速に行動しなくてはならないだ。

 

「お~い音羽。軽音部見に行こうぜ」

「すまぬ」

 

 友人から誘われたが速やかに断り教室の外へ出る。このまま一気に外へ出るため走り出す。もし、ツバサ先輩あたりに「最終リハ見てよ」などと言われたら目も当てられない。

 道中教師から「廊下を走るな!」と言われてしまったが、今はそれにかまってる時間はない。まずは一秒でも早くこのUTX高校から脱出しなくてはならないのだ!

 

「はっ!?」

 

 だが、唐突にいや予感を感じた。こう、頭にピキーンって光る感じに。とりあえず近くの教室に急いで身を隠す。どうでもいいけどUTXのは教室は教室って感じがしないな。会議室みたいな感じがする。いや、これはこれはで好きなんだけどね。

 それはさておき、嫌の予感の気配を探るために廊下に意識を傾ける。扉に遮られているため視覚で情報を得ることはできないが、音を聞き取ることはできる。伊達や酔狂で音楽家の息子はやってない! 耳はいいのだ! 耳はな!!

 そして耳をすませると声が聞こえてきた。

 

『まったく、ツバサ。志郎くんだって一年生なのよ?』

『分かってるってあんじゅ。だから、志郎の都合が悪ければ無理強いはしないよ』

『最終リハーサルにまで付き合わせるのもどうかと思うが?』

『だってさ、リハ見せたあとに本番見せて「リハの時以上のアイドル力……だと」みたいなこと言わせたいじゃん』

 

 なんて会話が聞こえてきた。

 良かった、隠れて良かった。都合が悪ければ付き合わせないと言ってるが、逆に理由を聞かれたら答えるわけにはいかないからな。

 新入生歓迎会は学校行事の一つだ。部活を見る見ないは別にして、終わるまで校内にいないといけない。ところが、俺はこれから抜け出して他校に行こうとしてるのだ。説明などできるはずがない。三人には悪いがいないはずの俺のもとに行ってもらうしかない。

 

「そろそろいいか」

 

 そっと廊下を伺いながら外に出る。幸い目の届く範囲に人はいなかった。

 

「よし」

 

 そして、その後は特に障害もなくUTXから抜け出すことに成功した。

 

 

 

 

……

 

 

…………

 

 

………………

 

 

 ら、良かったんだけどね。

 

「ふむ、君が音羽志郎くんだね?」

 

 せっかく一階までたどり着いたと持ったら体格のいい先輩方に囲まれてしまった。

 

「いや、なんで?」

 

 ここまで順調に来たと思ったら見知らぬ先輩たちに行く手を阻まれてしまったのだ。嘆きたくもなるだろう。

 するとこちらの気など露知らず、先頭に立っていた男子生徒がフッと笑ったかと思うと語りだしてくれた。

 

「先日のランサーくんとの闘い。アレは実に見事だった」

「え、見てたの? つか、なんでランサーくん呼び浸透してんの!? あの人にはちゃんと名前があるんだぞ!」

 

 そう、先日心の友となった彼には立派な名前があるのだ! 彼の名は…………アレ? あのランサーくんの名前なんだっけ? えっと、確か……ほらアレだよ、アレ……。

 

「……それで、本題は何ですか?」

 

 とりあえず目の前の要件を片付けよう。μ’sのライブまで時間がないからね。

 ――け、決してランサーくんの名前を思い出せなくて誤魔化そうとしたわけじゃないんだからねっ! 勘違いしないでよねっ!

 

「うむ、あの闘い。激しい動きをしながらも君は息切れを起こしていなかった。つ・ま・りだ! 君には圧倒的なスタミナが眠っているのだよ! 故にそのスタミナを我が陸上部で生かしてもらおう」

「もらおうって確定事項ですか!?」

 

 ていうかこの学校陸上部とかあったんだ。どこかの公園かグランドでも借りて活動してるのかな? いや、問題はそこじゃない。

 

「待ってもらおうか陸上部。彼は室内であれだけの動きをした。ならば、我々バスケ部のところに来るのがいいはずだ」

「まちなさいな。彼はドラマーなのよ? なら軽音部に来るのが筋というものでしょう?」

「手芸部も忘れてもらっては困るな。彼の繊細なスティック捌きは手芸部でこそ――」

「いや天文部にこそ――」

 

 ぎゃーぎゃーと騒ぎ始める。おそらく各部活の先輩たちだろう。ちなみに全員男性です。

 うん、色々と評価してくれてるのはありがたいけどさ、今凄く忙しいんだよね。というわけでコソコソと逃げ出させてもらいます。戦略的撤退は敗走ではないのだ!

 ついには互いに罵り合いまで始めた先輩たちの隙間をそっと抜け出した。喧嘩しに来たのだろうか? いや、こちらとしては好都合だけどさ。

 そして急がないといけない。騒ぎを聞きつけてツバサ先輩たちがやってきてしまうかもしれないから。

 

 

 時間は3時25分。

 μ’sのライブまで35分。

 全力で行けば余裕で間に合うはず。――というか間に合わせないとやばい。何故なら「来なかったら私たちのオヤツにするからね?」と笑顔で脅さ……失礼、釘を刺されているのだ。

 A-RISEといいμ’sといいなぜ笑顔で脅迫して――じゃなくて釘を刺してくるのか!?

 そんな不条理を呪いながら俺は走り続けるのだ。

 

 

 ――人間その気になれば驚きの結果が出せるものだ。想定より早く音ノ木坂学院に着き、さらにこの数日この学院に来ていたせいか中にもあっさり入れた。少し前までは中に入ると不審者を見る目で見られたものだが。

 と、そんな感じスムーズに行動まで行ける――と思っていたんだが。

 

「あ~~~~!!」

「かよちん、急にどうしたにゃー」

 

 いきなりこっちを指差して奇声を挙げられたかと思ったらドドドドドッ!! と凄まじい勢いで突進してくるメガネ少女がいた。リボンを見るに真姫ちゃんと同じ学年だろう。

 

「え!? な、なに?」

「こ、こここここれは、UTX入学者限定のA-RISEのストラップ!!」

 

 そう言ってメガネの少女が指差した先にあるのは――鞄の外ポケットから少し出ているあのストラップだった。

 ――そういや出すの忘れてたな。ていうかこの子結構距離あったのにこれに気づいたの!? すごくね!? なんでメガネかけてるのさ? いや似合ってるけど。垢抜けた感じがとても可愛いと思うけど!

 

「なぜ貴方がこれを!?」

「俺UTXの生徒だから。ああ、ここに来たのはちょっと用事があってね。ちゃんと許可書は持ってるから」

 

 ほらこれ、と首から下げてる物を見せる。あとから付いてきた活発そうな少女が(こちらも可愛い)「なるほどにゃー」と納得している。ただ、メガネ少女はそれ以上にストラップが気になるらしい。

 

「あの、唐突で申し訳ないのですが――そのストラップ見せて頂けませんか?」

「――いいけど」

 

 とりあえず鞄から抜き取りメガネっ娘に渡す。それをキラキラした瞳で本当に羨ましいオーラ全開でストラップを見る。

 

「ごめんなさいにゃー。かよちんアイドルのことになると性格が変わっちゃうから」

「あ、そうなの?」

 

 きっとかなりのファンなのだろう。そうでなければカバンからはみ出てる程度のストラップに気づくとは思えないし。

 ストラップをじっくり見たあとメガネっ娘――かよちんというからには『かよ』という名前なのかもしれない――が我に返りあたふたし始めた。

 

「す、すすすすみません! 私初対面の方に失礼を……」

 

 徐々に声が小さくなっていく。いや、俺は一切気にしてないけどね。というか結構内気な性格だったんだな。

 そして少し名残惜しそうな表情でストラップを俺に返してくる。

 

「…………あげるよ」

 

 少し迷ったが彼女に上げることにした。

 

「え!? な、なんでですか、こんなに綺麗にして持ち歩いてるのに!?」

 

 ――ごめんなさい今まで忘れてただけです。A-RISEの三人とは毎日のように会ってるし、というかあの三人のキャラが妙に濃くてストラップのことなんてすぐに忘れちゃったんだよね。むしろDVDを忘れずその日の内にチェックしたことを褒めて欲しい。

 

「――俺がそうしたいんだ。なにか問題ある?」

 

 こんな鞄に入れて忘れてるような男より、本当に好きな人に持ってもらってるほうがいいと思うし。というわけで某デビルハンターのように格好良く言ってみた。

 

「で、でも――」

 

 かよちんも迷ってるようだ。欲しいけど、貰うなんて悪いと心から思っているのだろう。選択肢が二つあって受け取るか受け取らないかで凄まじく葛藤しているのだろう。

 ――そんな彼女に対して思うのは一つ――めっちゃええ子や! ということだけだ。

 

「気にしなくていいよ。大切にしてくれるならそれでいい」

 

 そう言うとかよちんは意を決したように恐る恐る手を伸ばし俺からストラップを受け取る。

 

「あ、あの本当にいいんですか?」

「もちろん。後で返せなんて言わないから大丈夫」

「……その、ありがとうございます。私――大切にします!」

「かよちん、よかったにゃー」

 

 そう言われかよちんがうんうんと頷く。うん、心底嬉しそうだ。こんな娘だったらストラップも報われるだろう。少なくとも鞄に放置されてるよりは。

 

「あ、そうだ。あ、あのお名前をお聞きしてもよろしいですか?」

 

 ――あ、そういや、ついさっき知り合ったばかりで自己紹介もしてなかった。

 

「音羽志郎、UTX高校の一年生だよ」

「私は小泉花陽です」

「りんは星空凛だにゃー」

 

 これが彼女たちとのファーストコンタクトだった。

 

 

「う~む、花束でも買ってくるべきだったか?」

 

 いや、まあそれはキザすぎて良くないか。そんなことを考えながら楽屋へと向かう。ちなみにあの後花陽ちゃんはりんちゃんに引っ張られていった。その時に「私行きたい所が――誰か助けてー」と叫んでいた。うん、好奇心旺盛な凛ちゃんに内気な花陽ちゃんか……うん、いいコンビなんじゃないかな。あとは冷静なツッコミ担当がいれば完璧なトリオになれると思うんだけど。

 そんなことを考えながらも道を進む。何度か来たせいか道に迷うということはなかった。

 そして楽屋の前に付くとノックをして返事を待ってから楽屋に入った。

 

「三人とも調子はどう?」

「バッチリだよ!」

 

 思いのほか緊張はしていないようだ。海未は若干スカートを恥ずかしがってるようだがアイドルなんてだいたいそんな感じだよ。だからジャージに手を伸ばさないで。あ、ことりに止められた。

 

「一応この手のものに関しては少しばかり先輩だから、一つだけ言っとくね。ステージに立った時どんな状況になるかわからないけど、冷静になってやるべきことを思い出して」

 

 くっ、もう少し気の利いたこと言えればいいんだけど――ごめんね口下手で。

 

「もちろんだよ! 志郎くんにも手伝ってもらったし頑張るよ!」

 

 穂乃果は元気にそう言った。

 

「それじゃあ、客席に行ってるから。頑張って三人とも」

 

 そう言って俺は楽屋から出た。

 

「あっ」

 

 外に出ると少し驚いた。少しだけ離れたところに人がいたからだ。

 

「まったく、学校を抜け出してきたのね?」

「あはは……」

 

 そう、絵里がジト目で睨んでいたのだ。それはもう出来の悪い弟を咎めるような目で。

 

「それで、どうなの?」

「気合は十分。後は客が応えてくれるかどうか――」

「そう」

 

 そう呟き俺が向かう先とは逆方向にスタスタと歩き始めてしまう。

 

「見ていかないの?」

「――客席で見る気はないわ」

「……ああ」

 

 厳しいこと言った手前恥ずかしいんだな。

 

 

 現実とは時に非常である。

 結論から言うとμ’sのファーストライブは失敗だった。なにせ当初俺を除いて客が一人もいなかったのだ。はっきり言うがこれはかなりキツイ。

 正直言えば数人は来ると予想していただけに、まさか一人も来ないとは俺も予想外だった。

 

「そりゃ、そうだ……!」

 

 普段から誰よりも明るい穂乃果が泣くまいと必死に歯を食いしばり言葉を吐き出す姿に胸が痛んだ。

 

「――世の中、そんなに甘くない!」

 

 始まる前にどんな状況でも、なんて言ったが……もう一度同じ言葉を彼女たちにかけることはできなかった。

 だが、唯一救いだったのは――

 

「はぁはぁ……。あれ?……ライブは?」

 

 ただ一人……来てくれた人がいたことだろう。

 

「花陽ちゃん……」

 

 しかもそれがついさっき出会った少女であったことも驚きだ。

 そっか、アイドルが好きな彼女なら興味を持ってくれても不思議じゃない。

 

 ――さて、μ’sのライブを見たいと来てくれた人が一人でもいる。――だったら三人がやるべきことは――もう分かってるはず。 

 

「やろう!」

 

 穂乃果が明るい声でそう言った。その口調さっきまでの悲痛さはもうなかった。

 

「歌おう、全力で! だってそのために今日まで頑張って来たんだから!!」

 

 その声にことりと海未も表情が変わる。

 

「穂乃果ちゃん、海未ちゃん!」

「ええ!」

「歌おう!」

 

 

 さっきは失敗だと思ったが――このライブは成功だったのかもしれない。

 だって穂乃果たちは見てる人を魅了しているのだから。花陽ちゃんを筆頭に花陽ちゃんを探しにきた凛ちゃん、何故か座席の後ろに隠れてのぞき見するように見ているツインテの人、ドアの外から顔を覗かせている真姫ちゃんと希さん。

 ――ていうか最後は三人はいるなら普通に見ようよ!

 と言いたかったが何か事情があるのだろう。ぐっと飲み込んだ。

 そして――彼女たちの最初のライブは終わった。

 初めての、そして全力で挑んだライブということもあってか穂乃果たちは肩で息をしている。

 そんな姿を見せたらダメだろう。と思いながらもその達成感からくる晴れやかな顔を見るとそんな考えも消えていった。

 そう思っていると講堂に一人の女生徒が入ってきた。

 

「生徒会長……」

 

 穂乃果が表情を強ばらせた。

 そんな三人を無視して絵里は冷ややかに告げた。

 

「それで、これからどうするつもり?」

 

 だが、穂乃果は目をそらさずに言った。

 

「続けます!」

「なぜ? これ以上続けても意味があるとは思えないのだけど?」

 

 それに対する穂乃果の答えは至ってシンプルだった。

 

「やりたいからです! 私、もっともっと歌いたい。そして踊りたいって思ってます。きっと海未ちゃんも、ことりちゃんも」

 

 見つめ合い、そしてうなずき合う三人。

 

「こんな気持ち、初めてなんです!やってよかったって、本気で思えたんです! ……今はこの気持ちを信じたい。このまま誰にも見向きもされないかもしれない。応援なんて全然もらえないかもしれない。でも!」

 

 拳を握りしめ、心の底から湧き上がる熱い想いを言葉にのせた。

 

「一生懸命頑張って、届けたい! 私たちが今ここにいる、ここで感じてる想いを! いつか、いつか私たち、必ず!! 必ずここを満員にして見せます!!」

 

 

「どう? あの三人――熱くて真っ直ぐでしょ?」

「なんで貴方が得意げなのよ?」

「いひゃいよ~」

 

 講堂をあとにした絵里を追ってそう言ったら両頬をうにょーんとつねられた。

 

「今回のライブ、自分の意思で来てちゃんて観ていたのは実質一人だけよ。それなのになんで――」

 

 まあ、そうだね。凛ちゃんは花陽ちゃんを探しに来て、ツインテの人は何故か隠れていたし、真姫ちゃんと希さんはドアの外。絵里は別室。自分からμ’sに興味を持って、自らやって来て最後まで観てくれたのは花陽ちゃん一人なのだ。

 けど――。

 

「いいんだよ実質一人だけでも。一人だけでも来てくれたということが重要なんだ。俺があの日、絵里が来てくれて嬉しかったように。一人来てくれたと、一人しか来なかったは似てるかもしれないけど別物なんだよ」

 

 ようは考え方や捉え方の違いなのかもしれないけど、少なくとも俺はそう思う。

 

「そう……」

「納得いかない?」

「――少しね。あの娘たちだけが理事長やあなたに認められて――」

「意外と鈍いね絵里」

「志郎にだけは言われたくないわね」

 

 ひどい言われようである。

 

「前に絵里のお祖母ちゃんが言ったこと、覚えてる?」

「え?」

「エリーチカがバレエを楽しんでくれることが一番嬉しいって言葉だよ。絵里がこの学院を本気で救おうとしてることはわかるよ。でも、そのために自分を追い込みすぎて、学校生活を楽しめなくてなってしまって――お祖母ちゃんが喜ぶと思う?」

「そ、それは……でもっ!?」

「まあ、好きなことやって学校救えるなんて虫のいい話あるわけないって思うのも分かるけどねえ」

 

 さっきの穂乃果じゃないけど世の中そんなに甘くない。特に絵里は一度バレエで挫折してしまったから余計にそう考えてしまうのかもしれない。

 というかそもそも廃校を回避しようってのは大人の仕事なんだから、学生生活そっちのけで廃校回避に専念しようとすれば理事長だって止めるしかないだろう。

 

「でも、可能性がないわけじゃない」

「わからないじゃない! もし、もしそれで廃校になったりしたら――」

「取りあえず落ち着きなよ。少なくとも現状活動させてもらえないんでしょ? だったらさ、無理なんて決めつけないで、やりたい事をやって、その上で学校を救おうってのも一つの手じゃないかな?」

 

 少なくともそうすれば理事長もある程度理解を示してくれると思うんだけどなあ。

 

「ま、今すぐ答えを出すってのも難しいから少し考えてみたら? この前の件も含めてさ」

 

 俺もそろそろ行かないとな。

 

「あとさ、俺も絵里のおばあちゃんと同じでさ、絵里が心から楽しんでくれる方が嬉しいよ」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぬぅああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!

 

 何俺説教じみたことしてんだよ!? 何時から俺はそんなに偉くなったァア!? オラッ! 答えろよ俺ェ!!

 

 

 ガンガン!! と電信柱に頭をぶつけてようやく少し落ち着いた。いや、なんで絵里に偉そうなこと言ってんだよ!? 絵里だって考えて、頑張ってるのに否定するようなこと言ってさあ!!

 

「……はぁ、今度はちゃんと絵里の考えもしっかり聞かないとなあ」

 

 今回は殆ど俺が勝手に意見を言っただけだったし。ああ、憂鬱だ。

 なんてこと考えながらUTXに向かっていると道路脇に一台の車が止まった。

 

「貴方って時々奇行に走るわね」

「あ、ことりのお母さん――っていうかいきなり奇行とか言わないでくださいよ」

「電信柱に頭をぶつけることが普通とでも?」

 

 うむ、反論の余地もないな。

 

「乗って。送っていくわ」

「え?」

 

 乗せてもらいました。

 

「一応お礼を言っておいたほうがいいのかしら」

「お礼って――なんのです?」

 

 むしろ、送ってもらってる俺がお礼を言う立場のはずですが。

 

「絢瀬さんのことよ」

「絵里の? ――――ってもしかしてさっきのを?」

「ええ」

 

 は、恥ずかしすぎる。

 

「貴方だったから絢瀬さんは話を素直に聞き入れてくれたと思うの。学生生活を犠牲にしないでってずっと言っていたのだけど。中々……ね」

 

 まあ、この年頃の人間にとって食い違う大人の意見ほど聞き入れ難いのだろう。俺は大人の怖さ(生活費抜き)を味わされているため従順だけど。

 

「……正直そんなに深く考えた言葉じゃないんですけどね――」

「それでもいいのよ」

 

 あ、UTXが見えてきた。時間は5時25分――ギリギリだが間に合いそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 A-RISEのライブ終了後。

 

『Welcome!!』

 

 数時間前に別れたはずの各部活の先輩たちがいた。

 いや、なんでさ?

 

「言ったはずだ、君の力は陸上部の糧になってもらうと」

「言葉が悪くなってるんですけど!?」

「あら、何言ってるのよ。彼は軽音部で面倒見るといったはずよ。もちろんアッチの方も」

 

 アッチってなんだよ!? 

 

「あなたたち何言ってるの? 彼は私たちA-RISEのモノよ」

 

 そしていつの間にかやって来たツバサ先輩たち。取りあえずモノ扱いはやめましょうね?

 

「っく、マズイなA-RISEまで出てくるとは!?」

「なにか手はないの!?」

「ふふ、一応言っておくけど、彼は私たちの練習にも参加している。この意味、わかるわね。私たちとなら、スタミナもドラムの腕も全て活かせるわ」

 

 念のため言っておくが、コレは部活動のヘッドハンティングのようなものです。

 

「――ええい、音羽くん!?」

「あ、はい」

 

 唐突に陸上部の先輩に声をかけられ素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

「君はどこに所属しているのだ!?」

「え、いやまだどこにも――」

「そうか――なら話は早い。これだけの部活を声をかけれては君も困るだろう? 故に簡単な解決策を思いついた!」

 

 そして、何故か無駄にクルクル回転しそれを取り出した。

 

「くじだァアアアア!!」

「部活ってくじ引きで決めるものでしたっけ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 くじの結果俺は帰宅部になりました。A-RISEの練習には今まで通り付き合うけどね。

 




艦これイベント間に合わず照月ちゃん向かい入れることができなかったァああ!!

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