前略親父殿。人生とは波乱万丈であります
◆
「ここいいかしら?」
昼休みにカフェスペースで友人のランサーくんと昼食を取っていると声をかけられた。声をかけたきたのはA-RISEの3人だった。
文字通り学校のアイドルである3人に相席を頼まれてランサーくんは硬直してしまっている。
「どうぞー」
なので、代わりに俺が答えておく。ランサーくんは固まってるけど、まあいいだろう。数分もすれば再起動するはず。
ありがとうと言いながら俺の横にあんじゅ先輩が。ランサーくんの横に英玲奈先輩が座る。
「そういえば志郎。今度ラブライブが開催されるんだけどもう知ってる?」
ツバサ先輩が目を輝かせながらそう言ってきた。
「ラブライブ? 何ですかそれ?」
「今年開催されることの決まった――謂わばスクールアイドルの甲子園と言ったところかしら」
あんじゅ先輩が非常にわかりやすい説明をしてくれる。
「スクールアイドルが増えている今、頂点を決める大会がついに開催されるってわけ」
おお、ツバサ先輩が燃えている。いや、あんじゅ先輩も英玲奈先輩もか。
「なるほど、今のスクールアイドル人気を考えると盛り上がりそうですねえ」
人気のあるスクールアイドルであればそれだけで学校の看板になるほどだ。目の前にいるA-RISEの三人なんかその最たるものだろう。それが全国規模の大会となれば国内どころか世界的にも注目度が上がるかもしれない。某ギネスに乗ってるアイドルグループも外国人人気が高いというし。
しかし、なぜだろう。盛り上がると考えているのに何故か背筋に悪寒が走るのは……わからない。
「私たちも出場するから気合入れてかないとね」
「そうだな。志郎くんも練習の協力頼むぞ――たしか今日は来れないといったか」
「――はい、今日は用事がありまして」
そう、μ’sの方も見に行かないといけないのだ。最近では向こうの生徒たちにも顔を覚えられたのか入っても自然に挨拶してくれる生徒が増えた。最初の方は不審者のごとくコソコソしてたものだけど。
「ん~、それじゃあ志郎は明日からね」
「分かってますよツバサ先輩」
そういって食事を再開する。その後の会話は練習メニューだったり、クラスでの出来事など至って普通の会話だった。
ちなみにランサーくんが再起動したのは昼休みの終了5分前だった。
◆
放課後になり音ノ木坂学院に向かう途中であのとき――ラブライブの話題が出た時の悪寒について考える。
――なぜだ?
答えのでないまま歩き、いつの間にか音ノ木坂学院に着き、部室に向かう。
が、部屋には誰もいなかった。いつもなら俺が来るまで待っていてくれるんだけど――。μ’sの行きそうな場所といえば。
屋上、生徒会、理事長室
といったところかな。それに加えて電源を落としていないパソコンの画面を見るとラブライブのホームページが開かれている。
――ラブライブにエントリーするのは学校の許可が必要。
と、なれば
「理事長室でファイナルアンサー!」
間違いないと思い理事長室に向かった。
◆
で、理事長室に向かうとμ’sのメンバーが全員に絵里と希さんもいた。ドアが開いていたので中を覗いてみると3人ほど崩れ落ちている人がいる。
「え? どいう状況」
「あら、志郎くん来てたの」
理事長が声をかけてくれると全員がこっちを見た。
「あ、どうも。どうしたんですか?」
「それがね――」
理事長の説明によればラブライブにエントリーする条件として期末テストで赤点を取らないことと宣告したこうなったらしい。
そういえば穂乃果って算数が苦手だったような……。
「まあ、ちゃんと勉強すればなんとかなるでしょ。個人的にはμ’sが完成したことのほうが嬉しいんだけど」
そう言うと希がびっくりしたような表情をし。他の人たちは何を言ってるのかわからないといった表情をする。その反応を見ると――。
「アレ? てっきり絵里と希さんも入って9人になったのかとばかり――」
「違うわよ!」
「なんでそれで完成になるの?」
絵里の否定の言葉と穂乃果の疑問の言葉が同時に出た。
「調べたけどμ’sでどっかの神話の9人の女神のことだから。で、この部屋に9人集まってるからそうなったのかと思ったけど――違うの?」
「違うわ」
絵里が毅然としてそう言う。う~む、絵里はまだμ’sのみんなの事を認めてないのか――いや、それともこれまでみんなを否定してきて今更と思ってるのかもしれない。
「そっか、残念だ。あ、そうだ。それじゃあテスト終わったあとにダンスの練習見てあげてくれない? 皆上手くなってるから俺じゃもう何もアドバイスできないんだ」
絵里は若干嫌そうな顔をしている。が、ここで俺も引く気はない。
冷静に考えてみれば絵里とμ’sは生徒会長とスクールアイドルという関係でしか交流がないはず。なので、その辺りを取り除いて交流すればお互いの人間性を理解し合えるかもしれないのだ。
絵里もμ’sが遊び半分でやってる訳ではなく、μ’sも絵里がただ嫌がらせで認めなかったわけじゃないとわかってくれる…………はず。
「……全員がテストで赤点取らなかったらね」
そう言って絵里は希さんと部屋から出ていった。うむ、言質はとったこれで大丈夫。
で、後は現μ’sのメンバーに絵里のダンスの実力を教えておけば納得してくれるはず。
『…………』
唖然としていた。
「みんなどうしたの? 固まちゃって」
「数分間で色々ありすぎて混乱してるのよ」
ああ、絵里の態度にか。今まで認めて貰えなかったから驚いてるんだな。もしくは練習と称して潰されると思ってるのかもしれないが、そこだけは否定しとかないと。
「大丈夫だよ。絵里は真姫ちゃんほどじゃないけどツンデレ気質なせいで誤解してるかもしれないけど、根は優しい子だから。きつい練習をすることはあっても意味のない練習させるってことはない。俺が保証する」
『いやそこじゃないよ!』
全員声が響いた。その後
「志郎くん生徒会長と知り合いだったの!?」
やら
「なんであいつにダンスに教えてもらきゃいけないのよ!?」
やら
「意味わかんない」
「ど、どうなっちゃんうでしょうか!?」
などの意見が出てきて。理事長が「もうすぐお客さんが来るから続きは部室でね」と言われ部室へ向かい、続きをされそうになったので赤点の話をだして無理やり収束させた。
とりあえず、後で絵里の許可をもらって絵里のバレエの動画でも見せよう。根本的に素直な娘たちなので納得してくれるはずだ。
「ちなみに7×4は」
「に、26――」
あ、詰んだわ。
◆
ボツネタ
「音羽――お前ははっきり言ってそこそこ有名人だ」
ある日の放課後、ランサーくんが唐突にそんなことを言いだした。
「何言ってるの?」
「まあ、聞けって。数年前とは言えTVにドラム叩きに時々出てたろ? だが、その割に周りの反応が薄いと思わないか?」
「別に……数年前の事なんだしそんなものでしょ。日々新しい芸人やらアーティストが生まれてるんだから、飽きられたら消えていくもんだよ。俺もバラエティとかに出てたわけじゃないし、ドラム叩いただけで面白いコメントしたわけでもなかったし」
バラエティのオファーとかも来たけど断ってたんだよね。面白いこと言える性格でもないし――で、段々テレビ出演の話も来なくなって今に至るわけだけど。
「俺も最初はそう思った――だが、違ったんだよ。奴が――奴がいるからだ」
ランサーくんは非常に深刻そうな表情でそう言っているが――はっきり言って何が言いたいのかさっぱりわからない。
「遠まわしな言い方だな。仮にも兄貴の名を名乗るならはっきり言おうよ」
「いや別に俺が名乗ってるわけじゃ……まあ、いい。1年3組、芸能科に行ってみろ――そこに奴がいる」
奴って誰だよ。
「とりあえず名前は?」
「知らないんだ。だが、通称大佐と呼ばれてるらしい――」
大佐って何故?
◆
芸能科、1年3組――。
文字通り芸能関係の勉強を専門的に学ぶことのできる学科である。詳しくはないが発声練習や、会話の間の取り方、表情のつくり方などの授業があるんだとか。A-RISEの3人も芸能科所属である。
ちなみに俺は普通科の1年1組。
「いくぞ音羽――」
そう言ってランサーくんがドアを開いた。
教室の中には数人の生徒が残って話をしていた。唐突に入ってきた俺たちをジロジロ見ている。コソコソと話しているので聞き耳を立てる。
「アレがA-RISEに認められたっていう――」
「みたいね、初めて見たけど」
「顔は悪くないわね――」
といった会話が聞こえてくる。
「で、ランサーくん。奴って誰さ」
「――いないな」
少し残念そうな顔でランサーくんがそう言う。そんなに変わった人なのだろうか。でもまあ、変わった人というのも芸能科で一種の武器になるのではないだろうか。
「会えなかったのは残念だけど、ま、次の機会にしようか」
「そうだな」
踵を返し教室を出ようとすると、その扉が唐突に開いた。
「…………」
い、いたー!
コイツだ間違いない。
筋骨隆々とした体に、ミリタリーベストを素肌の上から着込んでいる。どう見ても元上官に第惨事大戦が起こると言われたあの人物だった。
「…………」
180cm台後半はありそうな長身から繰り出される無言の圧力。
「えっと、初めまして音羽志郎です」
「…………」
会話が続かない――
没理由
・方向性が行方不明になる
・このネタで話を作るとアイドルどころか女性キャラが一人も出てこないから
ちなみに志郎の感じた悪寒のヒントは4話にあります