「よぉ、久しぶりだな、高城、柚咲」
俺がそう言うと二人は驚いたような顔をした。
「なんだよ。久々の再開だぜ。もっと喜んでくれよ」
「まさか………一之瀬さんですか?」
「さすが高城。察しがいいな」
「え?え!?ど、どういうことですか!?」
状況がわからないらしく柚咲はうろたえる。
「一之瀬さんが、柚咲さんの口寄せの能力で乙坂さんの体に乗り移ってるんですよ!」
「ええ!?」
ま、驚くのも無理ないか。
しかし、他人の体を借りるって妙な感じだな。
美砂もこんな感じだったんだろうか。
「それにしても、二人とも本当に久しぶりだな」
「……全くですよ。しかし、またこうして貴方と話せるとは……夢のような気分です」
「だな」
そう言って俺は柚咲に近づく。
「柚咲。お前に言いたいことがあったんだ」
「は、はい!」
「信じれないと思うけどさ、俺と有宇は未来から来たんだ。でさ、その未来でお前、俺に告白してきたんだぞ」
「ふぇええええええ!?」
そう伝えると柚咲は顔を真っ赤にしてうろたえ出す。
「………ごめんな。俺、お前の気持ちには応えられない。俺はもう死んでるし、それに、好きな人がいたんだ。だから、ごめんな」
そう言うと、柚咲は少しうつむいた後、笑顔で俺を見てくる。
「なんとなく、分かってました。こうなるんじゃないかなって。だから、謝らないでください。私は、響さんと一緒に思い出を作れただけで嬉しかったです」
「ありがとうな。俺なんかよりいい男、捜せよ」
「無理ですよ。響さんより素敵な人なんていませんから」
俺は最後に柚咲の頭をなで、高城に顔を向ける。
「高城………奈緒を頼むぞ。俺の変わりに、アイツを支えてやってくれ」
「………はい。どこまで一之瀬さんの様に勤められるか分かりませんが。やらせていただきます」
「じゃあな、二人とも。お前たちと出会えて、最高だったぜ!」
最後にそういい残し、俺は体の主導権を有宇に返した。
「あれ?僕は一体…………?」
「たった今、一之瀬さんの霊が乙坂さんの体に乗り移ってたんですよ。口寄せの力で」
「本当か!?…………僕も、あいつと話したかったな」
有宇は高城と柚咲に別れを告げ、自宅へと帰った。
そして、鞄に日用品や着替えなど様々な物を入れ、部屋を後にした。
扉を出ると、奈緒が外にいた。
「待っていました。これを持って行って下さい」
奈緒が差し出したものを有宇は受け取る。
それは単語帳だった。
英文と英文の読み方、日本語訳まで丁寧に書かれている。
「今の私にはこれぐらいしかできないので。それさえあれば、最低限の会話は大丈夫だと思います」
「一晩でてくれたのか」
「あなたの偏差値はたかが知れてますから」
「ただのカンニング魔だからな。僕は」
有宇は苦笑をして、単語帳を胸ポケットにしまう。
「そうだ。代わりにコイツを預かっててくれ」
そう言って有宇が差し出したのは、奈緒から貰った音楽プレイヤーだった。
「………分かりました。帰ってくるまで預かっておきます」
奈緒は笑顔でそれを受け取った。
「そうだ。会って欲しい奴がいるんだ。聞こえてるんだろ?だったら、出て来いよ」
有宇に言われ、俺は有宇の体に乗り移る。
「久々だな……奈緒」
「……ええ。本当にお久っす」
「大体の事情は知ってる。俺も乙坂と一緒に行く。少しでも助けになればって思ってな」
「なりますよ。だって、貴方は彼の親友で、家族なんですから」
「ああ。そうだな」
そこで沈黙が流れた。
そして、俺は奈緒に伝えたいことを伝えた。
「奈緒、俺はお前のことが好きだった」
「はい。私も響のことが好きです」
「……両思いだったんだな」
「そうっすね。貴方が黒羽さんといちゃついてる度にこっちは終始イライラでしたよ」
「だからって歩未ちゃんにまで嫉妬するか?」
「恋した乙女は欲深いんです」
「そうかい………じゃあな」
最後にそう言い、体を有宇に返す。
「………いい話はできたか?」
「はい、お陰様で」
しばらく会話が止まる。
有宇の腕は震えていた。
だが、有宇はその震えを押さえ、奈緒を見る。
「………じゃあ。行ってくる」
「はい!行ってらっしゃいませ!!」
有宇は歩き出し、そして星空を見上げた。
これから過酷な旅が始まる。
それでも、俺と有宇は歩み続ける。