Charlotte~君の為に……~   作:ほにゃー

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奇跡

「アンタのバンドが好きな兄妹がいるんだ」

 

乙坂と俺の提案とはサラさんを奈緒たちに会わせることだ。

 

いや、正確には奈緒のお兄さんに合わせる。

 

お兄さんはサラさんのバンド「ZHIEND」のファンだったそうだ。

 

なら、生でサラさんの歌を聞けば何かが変わるかもしれない。

 

それが俺達の考えだ。

 

「そいつは………ただのファンってだけじゃなさそうだね」

 

「まぁ、その通りだ。待ってくれ。ちょっと連絡を取ってくる」

 

そう言い、俺は携帯を手に外に出る。

 

スマホから奈緒に電話を掛けると数コールで奈緒が電話に出る。

 

「奈緒、俺だ」

 

『どうかしました?』

 

「実は、今色々あって、ZHIENDのボーカルのサラさんと居るんだ」

 

『…………そうですか』

 

「疑わないのか?」

 

『いえ、貴方が嘘を吐く理由は無いですし信じてます』

 

「………なぁ、奈緒。これは乙坂とも考えたんだが、サラさんをお前のお兄さんに会わせようと思う」

 

『なんでですか?』

 

「………もしかしたら、サラさんとの出会いで何かが変わるかもしれない」

 

『………可能性としてはゼロではありませんね。でも、やるだけ無駄になるかもしれませんよ』

 

「それでも!………俺と乙坂はこれに賭けて見たいんだ」

 

『………分かりました。では、貴方たちに任せます』

 

「ありがとう。病院に俺達が面会に行くって伝えてくれ」

 

『はーい。了解でーす』

 

通話を終え、俺は部屋に戻り乙坂とサラに許可が取れたことを伝える。

 

「連絡は取れた。今から行くところは少し遠いんだが、戻らないといけない時間は?」

 

「時間なんて惜しまないよ。何処にでも連れてってくれ」

 

「でも、明日ライブなんだろ。本当にいいのか?」

 

「バンメンやプロデューサーさんが、うまくやってくれるさ」

 

笑ってそう言うサラさんに俺と乙坂は自然と笑みを浮かべた。

 

サラさんを連れて、外に出て駅まで向かう。

 

その途中で乙坂が携帯を取り出すが、すぐに溜息を吐いた。

 

「また重苦しい溜息吐きやがって。妹さんの事でも思い出したか?」

 

「……本当なんでもお見通しだな」

 

乙坂は辛そうな表情をし、駅までサラさんを連れて行く。

 

電車に乗り、あの病院まで向かう途中、サラさんが急にあることを言い出した。

 

「腹ぁ減ったなぁ」

 

「え?さっき食ったばっかだろ」

 

「さっきのは昼飯。次は晩飯」

 

「何が食いたいんだ?」

 

「駅と言ったら……立ち食い蕎麦だろ!」

 

サラさんの要望に応え、俺達は途中の駅で降り、立ち食いそばを食べる。

 

サラさんはコロッケ蕎麦に感激し、とても喜んでいた。

 

晩飯も終え、俺達は目的の駅に着きバスに乗る。

 

夜と言うこともあってか乗客は少ない。

 

「なぁ、一つ聞いてもいいか?」

 

「ん?いいよ」

 

乙坂が遠慮気味に、サラさんに質問する。

 

「デリケートな部分で悪いがその目、完全に見えないのか?」

 

「ああ、何にも見えない」

 

「……サインが書けるってことは最初から生まれつき見えないってことじゃないよな」

 

「ああ、でもこれは懺悔なんだ」

 

「懺悔?」

 

「罪滅ぼしだ。アンタらは人生に付いて考えたことはあるか?」

 

藪から棒な質問だな。

 

「人生ってのは一度きりだろ。私は、バンドのフロントマンとしてステージに立つことを夢見てたんだ」

 

そこから、サラさんは自分の過去を話してくれた。

 

自分の人生は気付いたときは手遅れと言い、テレビで自分と歳の近い奴が成功してるのを見て神を恨む。

 

そんなサラさんに、乙坂は今は成功してるだろっと言った。

 

するとサラさんはズルをしたからだと答えた。

 

日本でも売れたことがあるらしく、一時期は時の人や社会現象なんてまで言われてたそうだ。

 

だが、その結果、莫大な金が動き、周りの目も悪い方に変わった。

 

そして、家族にまで迷惑を掛け、弟さんも金目的で誘拐されたそうだ。

 

「だから、そう言うのは止めにしたんだ。地味なバンドのフロントマンになって、最後は引き換えに視力を渡して、ジ・エンドさ」

 

「渡したって……誰に?」

 

「そりゃ、神様だろぉよ。まぁ、アンタらにはまだ分からないか。もしそんな時が訪れるた時には………うまくやれよ」

 

そう言うサラさんの目は何かを物語っていたが俺にはそれが読み取ることが出来なかった。

 

そうこうしてるうちにバスは目的地に着き、俺達は降りた。

 

「目的の場所は見えているんだが、もう少し歩いてもらう必要がある」

 

「あいよぉ」

 

サラさんを支えながら、階段を上る。

 

「すまないな、こんな遠い場所まで」

 

「ほぉ、自分で気付いているか。今のアンタはとても優しい。昔はそうじゃなかっただろ?」

 

「ははは!乙坂、完全に見透かされてるな」

 

「自覚は無かったがな」

 

「………きっと、良い出会いが会ったんだろうな」

 

乙坂は黙り込み、考えながら階段を上った。

 

病院に着き、面会の件を伝え病室の前まで来る。

 

「どういう状態になってるか分からない。心の準備だけはしてくれ」

 

「ああ、アンタの声でヘビィな感情は十分伝わってくる」

 

俺と乙坂は頷き、病室のドアを開ける。

 

そこでは、前と同じようにお兄さんは布団を引き裂き、絶叫し、作曲をしていた。

 

「鎮静剤が切れてる……」

 

「凄く……奇妙な感覚だ。なぁ、その人は今何してるんだ?」

 

「作曲………らしい」

 

「それは………思ったよりヘビィだな」

 

「かつてはアンタのバンドに憧れたギタリストで、メジャーデビュー寸前だったんだ」

 

「…………そっか」

 

そう言うとサラさんは、お兄さんに近づき、そして歌を歌い始めた。

 

初めてZHIENDの、サラさんの歌を聞いたが、とてもいい曲だ。

 

本当にロックの曲なのかと疑うぐらいに綺麗で、透き通った歌。

 

まるで神に捧げるかのような歌だ。

 

そして、サラさんが歌を歌い出してお兄さんに変化が表れ始めた。

 

布団を引き裂いて、羽毛を毟るのを徐々に止め、表情も静かなものへと変わり始めた。

 

最後には、微動だにせず、鎮静剤を打ったときと同じようになった。

 

「友利一希さん。俺達が分かりますか?」

 

俺はお兄さん、一希さんに近づき尋ねる。

 

「俺達、妹さんの、奈緒さんの友達です」

 

「……………奈………緒」

 

言葉を喋った!

 

「そうです!奈緒です!」

 

「…………奈………緒」

 

まだオウム返しの様にしか喋れないが、やったんだ!

 

「なにやら奇跡が起きたようだな」

 

「ああ、アンタの歌が起こしてくれたんだ」

 

乙坂は涙ぐみながら、サラさんに言う。

 

まだ道のりは長いが、これで一歩前進した。

 

帰りのバスの中、俺と乙坂の中には何かをやり切った充実感があった。

 

だが、まだこれからが本当の道のりの始まりだ。

 

達成感に浸るのは、一希さんが本当に治った時だ。

 

「一歩前進って言ったところか。」

 

「ああ、そんなところだ」

 

「今日は充実した一日を送れて良かったよ」

 

「そう言えば、明日乙坂とさっきの人の妹がサラさんのライブに行くんだ」

 

「ほぉ、なら明日はアンタと言うお客が居ることを意識して歌うよ。それと、その妹さんのこともな」

 

「ああ」

 

「アンタもいつか来てくれよ。私のライブにさ」

 

「ああ、今度機会があったら必ず行かせてもらう」

 

その後、サラさんを引き取りに来たマネージャーさんに、サラさんを引き渡し俺達は帰り道を歩いた。

 

「なぁ、一之瀬」

 

「ん?」

 

「僕を変えてくれた人だが、恐らく、お前と友利だと思う。あの時、友利が僕を助けてくれて、お前が本気で僕とぶつかり合ってくれた、だから、今の僕が居るんだと思う。ありがとな」

 

「それは、奈緒にも言ってやれ。恐らく、自分が責任を感じてただけですとか言うだろうけどな」

 

「違いない」

 

その時携帯に着信が入り、見ると奈緒からだった。

 

「奈緒、どうした?」

 

『病院から連絡がありました。今は病院の外です』

 

「入れ違いだったか」

 

『看護師さんから連絡があり、駆けつけました。私の事も気付いてくれました。あんな兄、久々で…………貴方たちの判断は正しかった。なのでお礼を言いたかったんです』

 

「俺たちは何もしてない。全部、サラさんのお陰だ」

 

『それでもです。ありがとうございます』

 

「……その言葉、乙坂にも言ってやれ、今変わる」

 

乙坂に携帯を渡し、乙坂は俺の携帯を耳に当てる。

 

「僕だ………………ああ…………もちろん」

 

そう言い、俺に携帯を返した。

 

「じゃあな、奈緒。また学校で」

 

『はい。…………今度は、ライブに行きましょう、私と』

 

「…………ああ、その時を楽しみにしてるよ」

 

携帯を切り、俺は星空を見上げた。

 

そこに輝く星はとても綺麗で透き通っていた。

 

いつか、そう遠くない日に奈緒と一希さんが笑って暮らせる日が来る。

 

そんな願いを込め、俺は目を閉じ星に祈った。

 


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