Charlotte~君の為に……~   作:ほにゃー

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サラ・シェーン

「それにしても遅いな」

 

乙坂がそう言った

 

PVも観終わり、協力者が現れるのを待っているが一向に現れる気配もしないし、外から濡れた足音も聞こえない。

 

確かに遅い。

 

「ああ、今日アイツ来ないっすよ」

 

「え!?」

 

まさか本当にPVを観るためだけに呼んだのか?

 

「じゃあなんで呼んだんだ?」

 

「へっへ~実はですね~」

 

じゃん!!と奈緒が机の上にZHIENDのライブチケットを置く。

 

「ZHIENDのライブチケットですね」

 

「しかも明日じゃないか。これ」

 

「ZHIEND?」

 

「柚咲さんは知りませんでしたか。友利さんが大好きな、ロックバンドですね」

 

「ロックじゃねー!ポストロックだ!」

 

机を叩いて奈緒が怒鳴る。

 

「ぽ、ポストロック?」

 

「ウィキで調べろ!」

 

高城が言われた通りにスマホでポストロックに付いて調べる。

 

ポストロック:リズム・和音・音色・コード進行などの点で従来のロックには見られない特徴がある

 

「ますます分かりませんが………」

 

要するに従来のロックトは違うロックのスタイルってことか?

 

よくわからんが…………

 

「んなこたぁどうでもいいんだよ!!ここにZHIENDのライブチケットが2枚ある。さて、これをどうしようかと言うのが問題だ」

 

「意味が分からないんですけど…」

 

「要は、もう一人連れて行ってもらえるという事ですよ」

 

「なるほど!……でも、私そのなんとかロック知らないですし~」

 

「はあ…海外での評価、知名度はすげえ高いのに…あなたの歌が100点満点だとしたら、ZHIENDは100万点です」

 

「満点以上の点数があるとは…」

 

「はうあうああ~」

 

柚咲が涙目になってる。

 

まぁ、あんなこと真正面から言われたら傷付くわな。

 

「で、誰か名乗りでるものはいないのか?」

 

「私も特に興味はありません。………そうだ一之瀬さんが行ってあげてください」

 

「俺?」

 

「そうだな。一之瀬が行ったらどうだ」

 

高城と乙坂が俺に勧めて来る。

 

見ると奈緒は期待したような目をし、柚咲は少し不安そうな目をしていた。

 

え?なんでそんな目するの?

 

てかな、俺もZHIENDは良く知らないし、それにロックにも興味が無い。

 

だから、ポストロックにだって興味があるはずない。

 

そう言えば、乙坂は奈緒の音楽プレイヤー持ってたな。

 

てことは、ZHIENDの音楽も入ってるはず。

 

「乙坂、お前奈緒から貰った音楽プレイヤーにZHIENDの歌は無かったのか?」

 

「え?いや、あったって言うか、それしかなかったが」

 

「ならお前が行けばいいだろ」

 

そう言うと乙坂は「は?」みたいな表情をする。

 

「俺はZHIENDの歌を知らないんだ。知らない奴と言っても楽しくないだろ。なら知ってる奴と言った方が楽しいに決まってる」

 

「待て待て!なんでそうなる!?てかなんだよ、その消去法のような決め方は!!…そうだ美砂は?」

 

「BPM260の超高速ツーバスが聴けるなら行く」

 

「BPM260の超高速ツーバスは聴けないので、ご遠慮ください」

 

その瞬間柚咲と美砂が入れ替わり、柚咲は奈緒に睨まれてることで怯えていた。

 

「とにかく、乙坂で決まりだな」

 

俺が笑ってると、高城と乙坂は奈緒の肩に手を置く。

 

「友利さん………次がありますよ」

 

「友利、落ち込むな」

 

「………別に落ち込んでませんが」

 

え?どうして?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り道、俺は乙坂と帰っていた。

 

「なぁ、一之瀬。どうして僕と帰ってるんだ?」

 

「うん?たまには別に良いだろ。それより、晩飯一緒に食おうぜ」

 

「………ああ(こいつも、こいつなりに気を遣ってくれてるんだな)」

 

適当な話をしていると、前から白杖を持った赤い髪の女性が歩いて来た。

 

前に居た生徒たちはすみませんと言い、道を開ける。

 

俺達の方にも来たので俺達も横にずれ道を譲る。

 

その時、何が英語をぼそっと呟いた。

 

すると乙坂は何かに気付いたのかその人に声を掛けた。

 

「How………なんだっけ?」

 

「英語無理なら話掛けるなよ」

 

そう言うと、その女性は行き成り俺達の前に移動してきた。

 

「お前たちは、モダン焼きを食わせてくれるのか?」

 

「え?日本語大丈夫なんですか?」

 

「モダン焼きだよ!モ・ダ・ン・焼・き!」

 

「モダン焼き?」

 

「お前らもか…誰も知らねえ…日本なのに…なぜだ…Jesus!!」

 

女性はまるで悲劇とでも言いたげに座り込んで叫ぶ。

 

「それはそばの入ってるお好み焼きのことか?」

 

「そう、それだ!何処に行けば食える!?」

 

「広島焼きで良ければお好み焼き屋に行けばあると思うが」

 

「それはそば入りなのか!?」

 

「あ、ああ」

 

「是非連れて行ってくれ!」

 

女性の迫力に押され俺と乙坂は女性を街のお好み焼屋に連れて行った。

 

「いらっしゃぁい」

 

「広島焼き二つ」

 

二つ?

 

三つじゃないのか?

 

「後、生中!」

 

「はぁいよぉ」

 

この店員、変わった声だな…………

 

「僕はウーロン茶。一之瀬は?」

 

「俺も同じので」

 

「はぁいよぉ」

 

「あ、やっぱり広島焼き三つで」

 

どうやらまだ歩未ちゃんの事を引きずってるみたいだな。

 

仕方がないよな。

 

俺も両親を失った時はそうだった。

 

こらばっかは時間を掛けていくしかないよな。

 

そう思ってるとき、乙坂をそ女性は鋭い目で見ていた。

 

「くぁあああああああっ――――!効くぅ――!」

 

出されたビールを女性は一気飲みし、言う。

 

そこに店員がやってくる。

 

「自分らで焼くかぁーい?」

 

「あ、この人、目が不自由なんで焼いてください」

 

「はぁいよぉ!!!……ってふぁ?目が見えないって!?あんた…まさか…!!」

 

「あ、ちーす!ZHIENDのボーカル。サラ・シェーンでぇーす」

 

ZHIENDって奈緒が好きなバンドの!?

 

まさか、乙坂の奴それを知って……………

 

「さ、サラさんがこんな小汚いお好み焼き屋に来られるなんでぇ!!?あ、明日ライブ行きます!そそそ、それで!色紙にサインを!!?」

 

「あ、いいよぉ」

 

簡単にサインを引き受け、サラさんは色紙にサインを書く。

 

さらさらと書くな。

 

目が見えないのは生まれつきじゃないのか?

 

「はいどうぞ」

 

「ありがとうございまぁす!では、こちらお召し上がり下さいいいいいやあああああ!」

 

テンション高ぁ!!

 

出された広島焼きをサラさんは頬張り厳しい表情になる。

 

「何か問題か?」

 

「………生地薄っ!」

 

「そりゃ、モダン焼きじゃなくて広島焼きだからな」

 

「そりゃそうか!これはこれでうまい!流石japan!」

 

これはこれでよかったらしくサラさんはうまそうに食べていた。

 

「ありがとうございやしたぁ!ライブ楽しみにしてやぁす!」

 

店の会計はサラさんが出してくれた。

 

まさか奢ってくれるとは。

 

「悪いな、ごちそうになって」

 

「ありがとうございます」

 

「ところでさ………アンタたち、何か良くないことでもあったのか?」

 

「「え?」」

 

「息遣いや声色で分かるんだよ。ずっと悲壮感丸出しなんだよな。誰か身近な人を失った………とか」

 

「………流石だな」

 

「よかったらさ、話してくれるかい」

 

話していいものなのかと思ったが、話を聞いてもらうことにした。

 

「つい先日、妹を事故で亡くして」

 

「なんてこった!ここまで親切にしてもらったんだ!妹さんに煙を上げさせてくれ!」

 

「煙?」

 

「……線香のことか?」

 

「そう!それだ!」

 

「いや、そこまでは」

 

「頼む!上げさせてくれ!そうさせてほしい!頼む!」

 

手を合わせ頭を下げるサラさんに俺達は驚く。

 

「分かった!分かったから頭を上げてくれ!」

 

「取り敢えず、乙坂の家に行こう」

 

サラさんを連れ、乙坂の家まで案内する。

 

線香を上げて手を合わせるサラさんを見ながら、俺はあることを思いつき、乙坂に提案してみた。

 

「乙坂、少し提案があるんだが」

 

俺の提案を聞き、乙坂はうなずいた。

 

どうやら乙坂も考えていたみたいだ。

 

失敗するかもしれない提案。

 

だがやってみる価値はあるかもしれない。

 

「なぁ、頼みがある」

 

「ん?」

 

「………会ってほしい人が居るんだ」

 


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