今回の作戦は、大物プロデューサーが黒羽に手出しできないようにするのが目的だ。
まず、柚咲に乗り移った美沙が、プロデューサーを呼び出す。
恐らく、相手は一人では来ないで、数人、少なくとも三、四人は人を連れて来ると推測できる。
そこで、まず赤ジャケット男とニット帽男は防火服を着た上で連れてこられた人間と入れ替わる。
そして、美沙の発火能力で二人を燃やす。
防火服を着てるし、火もすぐに消すので大けがはしない手筈だ。
残りも、乙坂や高城、奈緒、俺の能力でこっそりかつ大胆に倒す。
こうすることで、西森柚咲は謎の能力を、それも複数持ってると、プロデューサーに認識させ、今後逆らえなくさせる。
作戦としては、完璧だが、少々問題もある。
それは、信用できない人間の前で能力を使うという事だ。
もし、そのプロデューサーが、西森柚咲は謎の能力を持ってることを他人に話したらどうなる?
普通の人なら冗談だと思って、笑うだろうが、それがなんらかの形で研究者やその関係者の耳に入ったら大変なことになる。
ましてや、複数も能力を持ってるとなれば、危険度もかなり高い。
「なぁ、奈緒一つ提案があるんだが」
響SIDE END
第三者SIDE END
深夜、人気のない場所で太陽テレビの大物プロデューサーは西森柚咲が来るのを一人で待っていた。
プロデューサーを含めその場所に五人の男が居た。
「遅い……いつまで待たせる気だ」
プロデューサーは西森柚咲が来ないことに腹を立てはじめる。
すると、正面の闇から足音が聞こえ始めた。
「やっと来たか」
プロデューサーはにやりと笑うが、現れた奴を見て驚いた。
それは西森柚咲ではなく、全員黒ずくめの男が立ていた。
「太陽テレビのプロデューサーだな。お前が欲しいのはこのスマホだろ」
「なっ!?そ………それをどこで………!?」
「西森柚咲が間違えって持ち帰ったスマホ。ここにはお前の悪事がぎっしりあった。これは返してやる。その代り、西森柚咲には手を出すな」
「俺の事を知られたんだ。あのアイドル娘に、未来はない!」
「…………そうか。なら、力で教えてやろう」
そう言って、男が指を鳴らすと、一人の男の体から火の手が上がり燃え始める。
「うああああああああ!?」
「な!?」
「もう一人」
「うわああああああ!」
男がもう一度鳴らすともう一人燃え出し、その場に倒れる。
「な、なんだ!?何が起きてる……!?」
「言っただろ、言っても分からないなら、力で分からせるってな」
「お、お前何者だ……?」
「西森柚咲のファンだよ。陰ながら見守り、西森柚咲を助けるな」
そう言って、手を振り下ろすとナイフを持っていた男が急に、ナイフを自分の足に突き刺す。
「ぐああああああ!?」
今度は、手を横に振ると、ナイフを持っていた男の隣に居た男が吹き飛ばされる。
「ま、待て!」
「待たない」
男が拳を振ると、距離があるにもかかわらずプロデューサーは殴られ、男が足を振り下ろすと、頭上から何かが落されたような衝撃が来る。
「う、うううっ……!」
「スマホは返す」
男はスマホを放り投げるように、プロデューサーに渡す。
「もし、西森柚咲に手を出してみろ。今回は痛い目を見るだけで済んだが、次は死ぬぞ」
「う………うわああああああああ!!!」
プロデューサーは地面に転がる男たちを見捨て、その場を逃げ出した。
「作戦は成功っすね」
「みたいだな」
友利が現れ、黒ずくめの男は被っていたフードを外す。
その男の正体は響だった。
第三者SIDE END
響SIDE END
俺の提案は簡単だった。
まず、プロデューサーの前に現れるのは美沙ではなく、俺。
俺は西森柚咲とは直接的な関係はない人間を演じる。
この方法なら、影から謎の能力者が西森柚咲を見守っているとプロデューサーに思い込ませれるし、西森柚咲に手を出したら殺されると言う恐怖も与えた。
また関係ない人間を演じれば、西森柚咲が能力者と関係があるとは思われない。
もしかしたら、怪しまれるかも知れないが、黒羽自身が能力者を演じるよりはマシだ。
火を出したのは美沙で、燃えた二人は赤ジャケット男とニット帽男。
二人の男には防火服以外にも、耐火ジェルを皮膚に塗ったので火傷は無い。
ナイフを自分の足に差した男は、乙坂の能力で乗り移り差してもらっただけだし、吹っ飛んだ男は、高城の瞬間移動。
プロデューサーが殴られたのは奈緒が姿を消して、プロデューサーを殴り、踵落しをしたから。
とにかくこれで一件落着だ。
「ご協力ありがとうございます」
「いや、こっちこそ助かった。お陰で、柚咲に手を出したら危険な目に合うって思わせられたし、柚咲自身への危険も減らせた。もうあのプロデューサーは、柚咲に逆らえないだろう」
「いえ、まだそうと決まったわけではありません」
奈緒がそう言うと、美沙と男二人が表情を変える。
「能力者として怪しまれなくても、能力者の関係者として、科学者に怪しまれたら大変な目に遭うかもしれない。それに、万が一能力者とばれたら、実験体として解剖されるかもしれない」
「と言う訳で、我々の星ノ海学園へと転入して、我々と行動を共にして下さい」
「そんな、なんでだよ!?」
赤ジャケット男が怒鳴る。
「科学者に捕まれば、人体実験の日々になり、二度と日常へは戻れなくなります。我々の学校と併設するマンションが、黒羽さんにとって日本で一番安全な場所なんです」
「………それは、柚咲にとって良い話だ。是非そうしてくれ」
「待ってくれ!じゃあ………えっと」
「柚咲の力が無くなれば、もう二度と美沙には会えないってことか?」
赤ジャケット男の代わりにニット帽男が訪ねると、赤ジャケット男はまくしたてて話す。
「そうだ!それを聞きたかった!」
「まぁ、そうですけど、そもそも故人ですよ。これまで会えてた方が不自然なんじゃないですか?」
「……でも!」
「ショウ!」
奈緒に掴み掛ろうとした赤ジャケットもといショウをニット帽男が止める。
「コイツの言う通りだ。美沙はもう……いないんだ。ここで美沙とはお別れ。そう決めないか?」
「………じゃあ、最後に思いの丈を伝えさせてくれ」
ショウの為に、俺達はその場は離れ様子を見る。
「えっと………なんつうか………こんな時に言葉が出てこねぇ」
「……ショウ。お前、あたしに気があったのか?」
「うっ………そうだよ!俺は、美沙!お前が好きだった!恥ずかしい話だけと、恋してた!それを伝える前に逝っちまって…………それも原付のニケツで事故。俺だけは怪我で済んで………お前を殺したのは俺だ」
「そっか……そかそか。それは大変な思いをさせ続けちまったな。でも、そういうスリルを求めたのはあたしだ。自業自得だ」
ショウは涙を流し、美沙にすがりつく様に泣く。
「泣くなよ、柄にでもねぇ。……ショウ、あたしの事は忘れて明日からはお前の人生を歩め。いつまでも死人のことを引っ張るな。でないと、この先お前の人生狂って、幸せになれないぜ」
「………分かったよ、美沙。俺はお前のいない俺の道を歩む。お前への思いを断ち切る。そうして生きて行く」
「よし。………二人とも、幸せな人生送れよな」
「ああ」
「おうよ」
「………じゃあな!ずっとありがとな!」
「最高に、楽しかったぜ!」