ある日の朝、乙坂が元気なく教室へと入って来た。
「おはようございます」
「……ああ、おはよう」
「元気がないな。体調でも悪いのか?」
「僕は基本こんな感じだ。特に朝はな」
鞄を机に置き、だるそうに座る。
「では、今日のお昼は奮発して数量限定の牛タンカレーにして、テンションを上げましょう」
「数量限定って、間に合うのか?」
「私の能力を使えばいともたやすく!」
「そうだったな」
そして、昼になると同時に高城は扉を開け、能力を使い学食へと向かった。
いつも通り、色々壊しながら。
「乙坂、悩んでも始まらないぞ」
「分かってるよ」
乙坂と二人で学食に向かうと、昔見た光景がそこにはあった。
高城が血まみれの姿で笑い、テーブルには用意された牛タンカレー。
「お待ちしておりました」
「取り敢えず、お前は病院に行った方がいい気がするんだが……」
「これぐらい、もう慣れっこです」
高城は笑顔でそう言い、テーブルに置かれてる紙ナプキンで血を拭きとる。
そんな高城に呆れながら、乙坂は席に着いてカレーを一口食べる。
すると、乙坂は俺が知る限り一番素晴らしい笑顔で喜び、涙を流していた。
「迸るスパイス!これぞカレー!うまい!」
「ご期待に添えて良かったです」
「やっぱりカレーって辛い物だよな」
まぁ、歩未ちゃんの料理は甘いからな。
普通の味に飢えてるんだろう。
「中辛ですが……このぐらいがお好みですか?」
高城は若干引き気味に聞く。
「牛タンもトロトロで最高だよ」
「カレーがお好きなんですね」
「ああ、今思い出したよ」
涙を流してカレーを完食する乙坂を横目に俺もカレーを食べる。
うん、やっぱりうまい。
あらかた食べ終わると同時に、奈緒から着信が入り、電話に出る。
「どうした?」
『協力者が現れます。すぐに生徒会室へ来てください』
「わかった」
通話を切り、二人を見る。
「協力者だ。生徒会室に行くぞ」
生徒会室へと向かい、暫く待つと、いつも通り協力者がずぶ濡れで現れる。
「なぁ、どうしてアイツはいつも濡れてるんだ?」
乙坂が隣りにいる高城にこっそりと聞く。
「能力の関係で、服を着たまま濡れてないと能力が使えないんです」
いつも思うが、本当に不完全な能力だよな。
協力者はいつも通り、地図の前に立ち、水滴を落とす。
「能力は………口寄せ」
「口寄せ?」
「降霊術だな。自分に死者の霊を憑依させる。イタコって言った方が分かりやすいだろう」
「インチキとかじゃなく、それを本当に使えるとすれば凄いじゃないか」
「もう一つ……発火」
更にもう一つの能力を告げ、協力者は去って行った。
「二つの能力を有してるなんて!?」
「すぐに確保した方がいいですね。ですが………」
奈緒は地図の前へと移動し、協力者が示した場所を見る。
「これ、ただの道です。移動中ですね」
「平日の真昼間に?学校サボってるとか?」
「それがっすね、ここ人気のない細い路地のはずなんですけどね」
特殊能力者が平日の昼間に人気のない通りを移動してる………
乙坂の言う通り、ただのサボリならいいが、もし、追われてるとしたら………
「それがどうしたんだよ?」
意味が分かってない乙坂を無視し、俺は奈緒に話しかける。
「奈緒、早急に確保に向かった方がいいと思うぞ」
「無論です。では、行きましょう」
協力者が示した路地へと向かうと、そこは確かに細い路地で昼間だと言うのに、なぜKあ妙に薄暗かった。
「ここであってるのか?」
「はい」
四人で路地を進んでいると、脇に置かれてる箱に奈緒が注目する。
「どうした?」
「どうやら、その特殊能力者は急いでたみたいですね」
箱をよく見ると、僅かにずれていて、ずれた部分にはほこりが付いていなかった。
そして、道の先を見ると真新しい足跡が二人分あった。
「奈緒、こっちには足跡がある」
「一つはせまい間隔で、もう一つは大きい」
「恐らくだが、女の子が男に追われている可能性が高いな」
「事件性があるな」
「ただ追われてるだけならまだいい。もし、その追ってる男が研究者ならその子は危険だ」
「先を急ぎましょう」
路地を急いで通り抜けると、スナックの店先で煙草を吸ってる女性がおり、話を聞いてみた。
「ああ、さっきのあれね。アイドルが追われてるって撮影でしょ」
「アイドル?」
「ほら、今人気のある…………そう、西森柚咲ちゃん」
「西森柚咲?」
「聞いたことあるな」
「……ええ!?ゆさりん!」
高城が異常なテンションで食い付いて来た。
その場を離れて、高城に問いかける。
「知ってるのか?」
「通称ハロハロ!How-Low-Halloと言うバンドのボーカルも務める今人気上昇中の歌って踊れるアイドルです!」
「お前。アイドルオタクだったのか!引くな!」
高城の異常なテンションに引きながら、友利が叫ぶ。
「小学六年生の時分に、ローティーン向けファッション誌の第十四回読者モデルオーディションでグランプリを受賞し、専属モデルとしてデビュー。その次の年にはムーブメント朝のレギュラー出演が決まり、二年後、受験を理由に降板。そして高校生になって再び芸能界に」
「落ち着け。話を戻そう」
暴走する高城を乙坂が止め、そして、乙坂がいい顔で話し出す。
「その子が特殊能力者で何か問題を起こし追われてる。違うか?」
「言われなくても分かってますよ」
「くっ…………えっと、シーレックスプロダクション所属か。電話すれば早いんじゃないか?」
「相手はアイドルだぞ。事務所がそう簡単に情報を話すわけないだろ」
自分の意見を尽く論破され、乙坂が落ち込む。
「ですが、どうします?」
高城の言う通りだ。
圧倒的に情報が少なすぎる。
その時、奈緒が声を上げた。
「不審者発見!追います!」
奈緒の後に続き、走り出すと路地の曲がり角で男が、奈緒の顔を殴り飛ばす。
「奈緒!……くっ、乙坂!アイツに乗り移れ!高城!能力で体当たりしろ!」
「え?」
「分かりました!」
乙坂が乗り移る前に高城が能力で走り出す。
乙坂は咄嗟に能力を使い、男に乗り移って高城の方を向く。
高城は男の腹に体当たりし、そのまま壁に叩きつけた。
壁にヒビが入り、男は口から血を吐いて倒れる。
「実際にいたいのは僕だから!この作戦は使って欲しくないんだが!」
「なら、次からはお前が良い作戦を考えろ」
乙坂にそう言い、奈緒を助け起こす。
「大丈夫か?」
「ええ。くそっ、ビデオカメラ壊れたらどうすんだよ!」
ビデオカメラより自分の体を心配しろよ。
そう思いつつ、俺は重体の男の傍へと移動する。
「さて、ほら起きろ」
男の頬を叩き、無理矢理起こす。
「洗いざらい全部吐いてもらうぞ。全部話したら救急車呼んでやる。お前は、何者だ?」
「お、お前たちこそ、一体………」
「質問してるのは俺だ。俺の質問だけに答えろ。でないと」
強化した拳を壁に叩き込むと、その部分が凹み壁が形を変える。
「こうなるぞ」
「………仕事を頼まれたんだ」
「何の?」
その質問に対し、男はそっぽを向き答えずにいた。
「答えろ。命あっての物種だろ」
「………西森柚咲を探してる」
「誰に頼まれた?」
「太陽テレビ」
「の誰だ?」
「知らない。本当だ」
「…………分かった。もう救急車は呼んであるから、安心しろ」
その場を離れ、男が救急車で運ばれるのを確認してると、後ろから声を掛けられた。
「お前ら、何者なんだ?」
振り向くと、底には赤いジャケットを羽織った男が居た。
「西森柚咲さんを探してる者です」
「通称ゆさりんです!」
高城は無視して男は話を続ける。
「何のために?」
「追われてるようなので保護しようかと」
「柚咲の知り合いなのか?」
「大ファンです」
次の瞬間、奈緒が高城の腹を蹴り飛ばし、高城は飛ばされる。
「一々話の腰を折るな!」
「………見ていたが、どうやってあの男を倒した」
「俺達は特殊な能力を持ってる。それも、西森柚咲と似た力だ」
「な!?………なんでそれを?」
「私たちであれば、その子を助けられるかと」
「……………なら、証明してくれ。アイツと同じ力を持ってるってことを」
「同じではありませんけど……ほい」
そう言って、奈緒は(恐らく)男の視界から消えた。
「な……消えた!?」
「信じてもらえましたか?」
「……ああ。付いて来いよ。けど、きっと混乱するぞ」
「どういうことですか?」
「ややこしいことになってんだよ。お前らの目で確かめてくれ」
男の言った言葉に俺たちは疑問符を浮かべ、その男の後に続いた。