今日も今日とてデバイス整備に赴く。行き先は戦技教導隊、なのはの所属する部隊なのだが基本的に演習での仮想敵役などを務めたり名前の通り生徒に技術を教え込む部隊だ。
細かいことで叱る暇があるならぶちのめす、その方が学ぶことも多い、が方針らしい。生徒たちがチビりそう。
そんな方針はさておき、なんか友人が働いてる姿を見るのは新鮮だと思う。複数人の生徒相手に仮想敵をこなす姿は国語を抱いて溺死しそうになってたなのはとは思えない働きっぷりだ。――あ、一人落とされた。
こう、あれね。うずうずするよね、真面目に人がなにかしてるとちょっかいをかけたくなるっていうか。
取り敢えず落ち着こうじゃないか、なのはだってしっかり働いてるんだしそれを邪魔するのはよくないよな。ソワソワする自分を落ち着けるために息を吐いてー、肺いっぱいに吸ってぇぇぇ――吐く!
「泣きっ面にぃぃぃぃぃぃぃぃ! けっ」
『「蜂だよぉぉぉぉぉ!」』
シマッタナー、吐くつもりが叫んじゃったぜ。しかし言い切る前になのはからの絶叫と念話で止められた。あと何故か俺が叫ぶと同時に、なのはのシューターが急加速、超変則的な動きをして残り一人の生徒が落とされた。南無三。
全員が落とされたことにより一段落ついたのか一度集合しミーティングか反省会らしきものをしている。
しかし、最後のアレ、斬りかかるかのような鋭さで左右背後同じタイミングで襲いかかったシューター。
「秘技燕返しを習得したか……」
「違うから、ってかなんでナナシくんがここにいるの? というか泣きっ面のことは忘れてよ!」
「あ、お疲れさま。なのはもしっかり働いてたんだな……」
「ナナシくんには一番言われたくないよ」
「酷い! あなたがそんなこと言うだなんて、故郷に帰ります! ……故郷ってどこだろ?」
「知らないよ!?」
地球でいいのか、それともミッドか、はたまた……ま、なんでもいいんだけど公的にどうなってるかだけ確認しとかないとな。
「はぁ、それでなんでナナシくんはここにいるの?」
「んー、俺も仕事だ。教導隊のヒトのデバイス整備頼まれたんだが……そういやレイジングハートはこの頃どう? ちゃんと整備してもらってるか?」
「あ、アハハー……この頃少し忙しくて」
「アリシア呼ぶわ」
「ま、待って! アリシアちゃんの場合本気で怒るから!」
うん、これに関してのみ戦力差を省みずに襲ってくると思う。デバイスのことだけは譲らないからスパナを片手に勇気を胸にマイスターとしての誇りをみなぎらせてやって来る、殺りに来る。
そいで俺がここにいる理由は頼まれた教導隊の人と会う時間までもう少しあったから暇潰しがてらなのはの職場見学してたのだ。砲撃ってイメージが強かったけどシューターとかちゃんと撃てたんだな……怒られそうなので言わないけど。
「ちょいとレイジングハート貸してくれ」
「え……なにするの?」
「なんだその信用のない目は、整備だよ」
「あ、ナナシくんもデバイスマイスター補佐の資格持ってたもんね……なんかナナシくんが働いてるってピンと来なくて」
「安心しろ、俺もだから」
受け取ったレイジングハートをざっと見るがこれといって問題はなさそうだ。なのはの使い方のよさと元々のデバイスとしての良さのお陰だろうけど定期的に整備には出そう。じゃないと妖怪デバイスマイスターがスパナ片手にやって来るからな。
「それで仕事の調子はどうよ?」
「んー、色々大変だけどやりがいはあるよ」
「殺りがい……!?」
「なんか字が違う気がするんだけど」
なぜか気づかれた。私だって成長するんだよって言われたけどそうだよなぁ、みんな成長していってるもんな。なんか実感が全然わかないんだけど働いてないやつはもういないし変わるとこは変わっていってる。
「大人になった、なんてまだまだ言えないんだけどね」
「なんで俺をジッと見ながら言うんだ。おい、このタイミングで目を逸らすな」
「だ、だって普通は大人になると色々縛りとかあって自由に動けなくなるものなのにナナシくんは変わらないなぁって」
「失礼な、デバイス整備に行ったはずなのにお茶に誘われたり愚痴を聞かされたり事故に巻き込まれたり色々あんだぞ」
特に愚痴が大変だ。なんか今まで黒幕ぶってた偉いさんがいきなりボケた爺みたいになってしっちゃかめっちゃかだとか知らないって。
協力関係だったはずの科学者も音信不通とかなんとか……関係ないけどなんか近頃スカさんが空飛ぶテーマパークとかどうだろうかとか言ってた。問題は空と地上の行き来って言ってたけど空飛ぶガジェットで解決するような気がする。
俺的にはその空飛ぶテーマパーク自体が違法そうでそっちが心配。ミッドは勝手に魔法で空飛んだら駄目なんだぞ?
「つまりあれだ、大なり小なり色々あんだ、たぶん。なのはだってあるだろ?」
「そうだね、大きな声じゃ言えないけど教導でももっとこうしたいってところを通せないときとかあるからやりきれないことはあるよ。それを通すために頑張ってるんだけどね」
なんか伸び伸びやってるように見えてもやっぱ色々あるのな。そう聞くとやっぱり俺気楽な部類だった、愚痴聞くくらいなんだってもんだ。けどなのはは、
「バスターで撃ち抜いて通すんだな」
「違うからね? 私そんなトリガーハッピーじゃないから」
「悪い、なんか今までなのはが意地を通すときにSLBやディバインバスターが着いてきてたからな……フェイトしかり闇の書しかり」
「うっ……た、たしかにそうだけど」
「まぁ、なのはも対話を覚えたんだな。みんな成長したよなぁ……」
「なんでそこでしみじみしてるのかな? 元から覚えてるって」
知ってた、たださっき目を逸らされた意趣返し。あと空気を変えようと思って。
まぁ皆なのはの本質が砲撃じゃなくて不屈の心に相手を理解しようとする優しいところとかって知ってるさ。フェイトくらいしか口にしないけど。
「もう……あ、そろそろ時間じゃない?」
「おう、じゃあお仕事頑張れよ」
「そっちもね!」
なのはと別れ、俺もお仕事に向かう。ちなみに教導隊には歳上の方がとても多く老兵って感じだった。話を聞くに戦時中戦ってたようでその技術を今の時代に適応させて叩き込んでるとかなんとか。
――ちなみに魔力で負けても模擬戦ではなのはにテクニックで勝つそうな。教導隊怖い。
▽▽▽▽
八神はやては現在聖王教会に来てた。というのもカリムに呼び出された。
理由は
預言の中身は古代ベルカ語で、しかも解釈によって意味が変わることもある難解な文章。さらに世界に起こる事件を不規則的に書き出すのみで解釈の違いによるミスを含めれば的中率や実用性は高いものではない――ってのはカリム本人の弁なんやけど。
けど大規模災害や大きな事件に関しての的中率は高くて管理局や教会からの信頼度は高い。ちなみに預言って言うてるけど色んなデータの統計から導かれる未来予想図みたいなものや。まぁ、その性格上信じひんっていう人もおるんやけど……レジアス中将とか。
カリムがこのレアスキルを持ってることは別に隠されてへんくて、ナナシくんやアリシアちゃんが知ったときの反応は「へー、天気予報みたいなものか」やった。的確やけど、なんや……なんでそう何とも言えん例えにしたんや。
「それで私が呼ばれたんはなんでなんかなカリム?」
「ごめんなさい、はやて。急に呼び出して……けれど今度の預言の解釈をあなたにも見てほしくて」
「そんな難解なんか?」
「ええ、いえ、難解というか。なんと言えばいいのかしら」
今一ハッキリとせんカリムから預言の内容を見せてもらう。
――旧い結晶は無限の欲望が手中に収んとし、死地より戻りし者、力無き二の者と交わった
――歴史は元の環より外れた、軸を戻す術は既になし
――死せる王は、聖地より彼の翼が蘇り異なるモノとし空を制す
――人の環より外れし者達は踊り笑い、中つ大地の法の頭は虚しく老い落ちた
――それを先駆けに数多の海を守る法の船は変わり果てる。
あー、なんやこれ。ところどころ不安しか湧かん文は……だいたいの解釈はこうなんやろうけどたしかにカリムの戸惑いもわかるで。最後の文は管理局のことやろうしそれが変わり果てるってのも大変なことやと思う。
けど他の文も難解すぎるわ。特に一行目と二行目、それに四行目は解釈通りなら
「えらい難しいな」
「ええ、けど管理局が危ないことはわかるわ。そして無限の欲望は」
「十中八九、次元犯罪者ジェイル・スカリエッティのことやろうな。実際そう呼ばれとるし」
「古き結晶はきっとロストロギア……」
死地より戻り二の者とか色々わからんことは多い。けどこれは間違いなく手を打っとかなあかん、だからこそカリムも私を呼んだんやろう。解釈の間違えの可能性を含めても放置できんからこそ呼ばれたんやと思う。
「はやて、あなたには部隊を持ってもらいたいの」
「ん、これに対応するためのやな」
「表向きは別の目的を用意することになってしまうのだけれど」
――これが後の古代遺物管理部機動六課、通称機動六課結成が決まった日の話である。
力無き二人って解釈したらナナシくんとアリシアちゃんが思い浮かぶんは関係ないやんな……? いや、でもあの二人やと万が一が……
▽▽▽▽
「「へ、ヘップシ!」」
「「ぁぁぁああ!? 汚なっ!?」」
「ナナシティッシュ当ててくしゃみしてよ!」
「アリシアもだろ!? 鼻水がアーチ描いてんぞ!」
▽▽▽▽
「ヘッブッシュー!」
「きゃぁぁぁ!? ドクターくしゃみをするなら手を当ててください!」
「あ、ああ。すまないクアットロ」
ううむ、風邪だろうか? 年がら年中白衣はやはり堪えるな……夏にパンツのみに白衣という先進的クールビズをしたら娘たちから不評だった覚えもあるので悩みどころだ。ちなみに勧めてきたのはナナシくんである。
「でもドクター、今作り出してるのは聖王のコピーですよねぇ?」
「ああ、そうだね。より詳しく言えば生まれてくるのは幼児期だが」
「問題はそこですよぉ」
なに? 幼児期で生み出すことにはなんの問題もないはずだぞ? たしかにクローンというのは些かよろしくないものだがそれを除けば幼児期で生み出すのは生まれてくる子にも負担はなくなり聖王パワーも一番乗せれると結論が出たではないか!
「いえ、そうじゃなくてですねぇ……うちで誰が幼児期の子供相手を出来ますかぁ?」
「……あ」
「一番しっかりと出来そうなチンクちゃんは今下の妹たちを連れて社会見学を兼ねて常識を学びに行ってますしぃ」
そうだった……! 我が家で一番まともなチンクは現在チンクより下の7人の妹を引き連れて面倒を見ているのだった……改めて考えると我が娘ながらチンクの面倒見の良さの底が見えない。だがさすがにそこに幼児期の子供の世話まで押しつけるのは間違いなくオーバーワークではないか!
「残るは私とウーノ、トーレにクアットロだね」
「あの、ドゥーエお姉さまが抜けてるんですけど?」
「今までの三脳の介護に疲れたので休暇をもらうと言っていたよ……入浴剤をいれた日から」
「もう十分に休んでないかしらぁ!?」
そう思うのだが『あー、疲れたわー。ドクターがいうから老人たちの面倒見てたのに全部無駄になったあの仕事疲れたわねー。いえ、どこのドクターが方針転換したせいだなんて言わないけど休みもないのかしらねー? あらドクターいたんですか?』って言われたらなにも言えないじゃないか。
皆知らないだろうが、我が家の力の順はウーノ>ドゥーエ>私≧残りの娘たち、なんだぞ?
と、取り敢えずはウーノに世話をしてもらうしかないだろうがウーノは後々の計画で私の補佐をしてもらわなければならない。やはりドゥーエを呼び戻すしかないか……
パチンッと指をならしトーレを呼ぶ。あれだ、地球でいう忍者のようにトーレが現れる。
「はいドクター!」
「すまないトーレ、ドゥーエを連れ戻してきてくれないかい? 出来るだけ早く」
「わかりました! ――ライドインパルス!!」
ドンッ! と踏み込む音を残しトースの姿が消える。一抹の不安が残るがこれでなんとかなるだろう。
「私やドクターが面倒を見れないのは悪影響的にわかるんですけどトーレお姉さまが見るのは駄目だったんですかぁ?」
「いや、ほら……脳筋じゃないか」
「あー……」
――3日後、引きずられまくったのかボロ雑巾のように変わり果てたドゥーエとやりきった感溢れる表情のトーレが帰ってきた。ま、まぁこれで準備は揃った。無言で目の座ったドゥーエに蹴られまくっているが準備は揃ったのだ。
では楽しい世界征服を始めようではないか!
ここまで読んでくださった方に感謝を。
空白編終わりじゃないですかね、きっと。
さて、ヴィヴィオがなのはのところへ行く目処をたてないと……確実に原作とはかなり違うタイミングになってしまいます。
(話の軸を)戻す術は既にないんです……