待ってくれ、たしかにリスクは聞いてたけどこの荷物はなんだ。寝袋、非常食、水、着替え、通信機etc……信じられるか、これ図書館にいく装備なんだぜ?
登山に行くかのようなザック背負って無限書庫目指してミッド市街地を歩く童児がふたり、俺とアリシアだ。
「だから言ってたじゃん、遭難するかもって」
「本気の発言だったのか……」
「うん大マジ、それで無限書庫内で遭難したら見つけてもらえるまで野営です」
「室内なのに野営とはこれ如何に」
冒険っぽくって野営とか好奇心くすぐられるが図書館で野営という言葉面だけみるとシュールすぎる。てか、矛盾してる。
遭難して発見されず、という人はいないらしいが奥に行きすぎると本格的に発見困難になるようで厳禁とのこと。
「私たちみたいな子供で、しかも魔力がないとなると移動手段も限られるし極めて危険だって。母さんが行かないように口酸っぱく言ってた」
「今朝もさっきも言われてたよな。心配されてるのか信用されてないのか」
「たぶん両方かなぁ、母さん譲りで集中すると没頭して周りが見えなくなるから特に母さんは心配もするし信用ならないとこがあるかも」
うん、実は俺もくどいくらいにアリシアを注意して見とくよう言われてるから。
推察通り同じ内容話して気を揉んでたぞ。また本局に行かないといけないので着いていけないことを悔しがりつつ渋々俺に言ってきた。
うん、悔しがるのも渋々話すのもいいけど、俺の予想ではプレシアも無限書庫に行くと資料に没頭すると思うから来ても変わらなかったと思うよ?
「あ、ついでに飴買ってから行っていいか?」
「いいよー」
そこらの菓子屋に入り、一口サイズの飴が袋詰めされたものを無造作にカゴに入れていくがひとつ目についたものがあった。渦巻いた円形の飴に棒が刺さった、いわゆるペロペロキャンディ。
「食べにくさは群を抜いてるくせして何とも言えぬ魅力があるんだよな」
「片手塞がるから作業しつつ食べるには向かないのに、確かに子供心くすぐられる謎の魅惑が……買わない?」
「買おう。苺、グレープ、レモンにソーダ……をどっさり」
「そういや飴って手作りでも作れるらしいんだよね」
「無限書庫でついでに探してみようか」
「んー、それは余裕があればで。レシピくらい普通にネットで探せるし」
そりゃそうか。べっこう飴とかならかなり簡単だしな。ひとまず購入した飴を四次元空間に入れて、ふと気づいた。
「この背負ってるザックも入れね?」
「あっ……なんか出掛けるときに荷物持つのって普通の感覚すぎて忘れてた」
「同じく」
しかし、思い出したからには入れない手はない。ふたりしてザックを投げ込む。
「ふぃー、すごく身軽になったよ」
「じゃあ、気を取り直して行くか」
けど、何だな。魔法文化のあるミッドって言うから空を見上げれば人が飛んでたりするものかと思ってたんたんだがそんなことなかった。普通に車が走ってたり、ちょっとばかし近未来な感じはあるけど地球と大差ない。
許可なくミッドの空を飛ぶことは違法らしい、世知辛いな。
「アリシアは飛べる?」
「ナナシと同じでフヨフヨ飛ぶくらいなら、ただ空戦は無理」
うん、実は飛べるようになってる。最高速度は自転車ほどで空戦なんてしたら的にしかならないけど、この身一つで気分がよかったので満足。
「そもそも皆が魔法を使えるわけじゃないからね。私たちみたいな人もいっぱいいるし、魔力がない人だっているんだよ」
「ミソッカスがいっぱいだと……!?」
「私たちは自称だから良いけどコンプレックスになってる人にいったら怒られるよ?」
「ミッドの皆様ごめんなさい」
そうか、魔力がないことを悩んでる人もいるわな。ここふたりが開き直りすぎなのか。
「うん、魔力というかリンカーコアがあるだけ羨ましいって人もいるわけだし」
「あー、たしかになかったら羨ましく思いそうだ……それはそうと、たまに魔法の練習してるとフェイトが模擬戦に誘ってこられるんですが」
「私もだよ……新しい魔法とか考えてると模擬戦で試してみないか聞かれる」
魔導師ランク測定のときに微妙に粘ったのも裏目に出たらしい。小物は小物らしく素直にやられとけばよかった……!
「しかも悪意が微塵もない」
「それどころか愛らしい私の妹は遠慮がちにはにかみながら聞いてきます。これを姉に断れと!?」
劇画タッチっぽい顔になって俺に聞いてくる。どうやってんのソレ?
いや、たしかに断りにくい、本当に断りにくい。やんわり断ろうとすると隠そうとはしてるが隠しきれてない残念がるオーラがヒシヒシと伝わってくる。普段は鉄壁の良心が嫌な音たてて削られるのがわかる。
「姉には断れない……断れない!」
「うん、俺も断れない。断らないじゃなくて断れない、俺の場合プレシアさんからのプレッシャーも凄いから」
「今度からまた私たちふたりで相手してもらうか」
「そうしよう……ハンデにすらならんけど」
毎度5分程度で終わってるからフェイトにもなんか申し訳ないし、なによりひとりよりふたりの方が被害が分割されていい。
「さらにナナシに凶報」
「待て、これ以上何がある」
「いや、フェイトってなのはとビデオメールでやり取りしてるじゃん?」
「あー、確かにしてたな」
何回かアリシアと誘われて一緒に撮ったことがある。ビデオカメラに向かって話すのは違和感があったのでよく覚えている。
「それがどうかしたのか?」
「えー、うちの可愛らしくてしかたがない妹がね……どうも私たちと模擬戦したことを、話したらしくて、ですね」
やめろやめてくれ、オチが見えたっての。どうせアレだろ、今度私とも模擬戦しようねーって話だろ。私も全力全開でやるからって。
「……フェイト含めた2対2でやろうって」
「予想より悪かったぁぁぁぁ!?」
「なのはは私たちの魔力ランク知らないからね……私はフェイトの姉、ナナシはジュエルシードの魔力をどうにかしたって知識しかないから」
「やっべ、それだけ知ってるとそのふたり優秀そうじゃん。誰だよソイツら」
「残念ながら私たちだよ」
実際は倉庫機能しかないレアスキルおっぴろげて立ってただけの俺と、母親から電気変換の資質は一切遺伝子に乗らず魔力はあるかないかのレベルでしか引き継いでないアリシアである。
ちょっと残念ながらなのはとは、もう会えないかもしれない。いやホント残念ダナー。
「ところがギッチョン。フェイトが地球の学校に引っ越すので冬にはテスタロッサ家も地球へお引っ越し。ドナドナされます」
「そんな馬鹿な、デバイス開発できないじゃん」
「そこは家にミッドの家も繋がる転送ポッドを設置するらしいから解決だって。母さんもこっちの仕事を主にするらしいけど、フェイトを一人暮らしにするわけにはいかないって。開発ミッド、生活アッチ」
「わーい、プレシアさんったらおっ金持ちー」
俺が一人暮らしでいいからミッドに残りてぇ、小学生の女子の影に怯え暮らす人間、ナナシです。
「これは模擬戦までにデバイスの開発を急がないとね!」
「いくらデバイスの性能がよくても持ち主の性能がお察しな場合どうするよ」
「融合型デバイスならワンチャンあるよ!」
「よーし、ガッポガッポ稼ぐ前に生き残るために開発を頑張ろう」
「別に死なないけどね」
「あれは気持ち的に死ぬだろ」
あのピンクの砲撃に撃ち抜かれたフェイトのトラウマになってないのが不思議で仕方ない。なのははスターライトブレイカーって言ってたが、まさに名は体を表すだ。
「いや、lightは軽くじゃなくて光。星を軽く壊すって意味じゃなくて星の光だよ?」
「わかってる、相手をお星さまの光にしてやるぜって意味だろ? こう、キランッって」
「本人には絶対その意図はないけど威力的に否定できない」
もっと恐ろしいのは俺たちと同じでなのはもまだまだ成長期、よってアレの威力もまだまだ伸びるらしい。いったいどこ目指してるんだ……?
「閃いた、カートリッジシステムをなのはのレイジングハートに取り付けて威力を倍プッシュ」
「もうマジカルじゃねぇ、ラジカルだろ」
「ロジカル! ラジカル!」
「頑張ります!」
「「アハハハハー」」
アハハー、空笑い響かせながら無限書庫に向かう児童がふたり。俺たちである。
▽▽▽▽
無限書庫に到着、第一印象は本の森って感じだ。司書らしき人たちは宙に浮いて資料集めをしている。
さて、この中からベルカ関係の資料を集めにゃならんわけだが。
「司書の人にもしつこく奥に行かないよう注意されたな」
「ビックリするくらい私たちの信用がない」
なんだろう、問題児みたいな雰囲気でも醸し出してるのだろうか? 心外なので外面を保つ努力をしようと思う……我ながらすぐ剥がれそうな面だ。
「気を取り直してさっそく資料を探そう、ナナシは辛うじてミッドの言葉読めるんだよね?」
「辛うじて、日本で言う平仮名レベル」
「じゃあベルカ、ユニゾン、融合って書いてる資料片っ端から集めて」
「任せろ」
さっそく資料を探し始めるが、無限書庫全体になにか魔法がかかっているのか自分の魔力を使わずに浮ける。無重力みたいで楽しい。
「さてさて、ベルカの資料ね……」
辛うじてといっても読めるからタイトルくらいはしっかりと理解できるものが多い。だから聖王と覇王の歴史書とかタイトル的に気になるけど今はスルーしておく。
暗躍正義スリーブレイン、ミッド歴史、管理世界図、ストライクアーツ流派、簡単お料理、ミッド式魔法解説百科、繰り返される人生、管理局の内政、先生とのイケナイ放課後part3……part3!?
……儲かる金の使い方、聖王教会設立まで、スカっち直伝クローン技術、法律全書、笑えない管理局内情、よくわかる夜天の……違うなぁ。そもそもタイトルに書いてるともかぎらないんだが……お、これは。
「ベルカ式……えーと、アームドデバイスとミッド式デバイスの違い」
うん、これは合ってるな。というかたまに官能小説とか春画が混じってるし、明らかに腐ってるものまであるあたり無限書庫パナイ。
それから数冊めぼしいものを見つけてから気づいたことがある。
「ザックをアリシアに渡してない」
これはマズイ、辺りを見ると……うん、だいぶ奥まで行ってますねアリシアさん。見える範囲にいるうちに急いで追うことにする。
「アリシアー」
「……ん? ナナシどうしたの」
「どうしたじゃなくてここ結構無限書庫の奥に進んでるんですが」
「あっ……えへへ、集中してて回り見てなかったよ。母さんの予想大当たり!」
親指たてんな、グッドじゃないから。下向けてバッドにすんぞ。
「あとザックも渡してなかった……資料見つかったか?」
「何冊かめぼしいのがね、ナナシは?」
「こっちも何冊か」
「じゃ、一旦戻ろうか。私の予想ではこのまま本を探してると遭難する」
「激しく同意だわ」
入り口付近にあるテーブル戻り、資料を広げる。アリシアは手早く内容を読んでいきさらに必要な資料を絞る。俺は四苦八苦しながら“よくわかるスカさんのロボット理論”を読む。おまけにはロケットパンチならぬドリルパンチとか書いてた。
「ミッドの文字も多少は読めるなら手伝おうよ!?」
「すまん、つい面白くて。内容もぶっとんでる、人と機械を合わせて魔力いらずで戦えるハイブリットなサイボーグ作れるとか書いてる」
「間違いなく違法な件について……しかし、たしかに面白いね。それも借りよう、だから今はデバイスの方を読んで」
「了解」
その後俺が2冊読んでる間にアリシアは残りのものを読み切り、何冊か借りるものが決まった。追加でスカさんの。
カウンターに持っていき司書さんに本を差し出す。が、ひとつここで問題が起きた。問題というほど問題でもないんけど。
「すみません、これ借ります」
「はい、少し待ってくださいね。へぇ、ベルカについて勉強してるのね……あら? これは無限書庫のものじゃないわね」
「あれっ、どれですか?」
「この“よくわかるスカさんのロボット理論”ってやつなんだけど……まぁ、書庫のものじゃないから持って帰っていいわ」
「やった!」
「スカさんがドナドナされるようです」
おいおい、スカさんの扱いがぞんざいだな。似たタイトルの何冊かあった気するけど……気のせいか。
▽▽▽▽
暇であった、退屈であった。だが、そうか彼女は成功させていたのか――娘の蘇生に!
「フッフッフ……ふはははは!」
つい暇すぎて私の戦闘機人やその他の知識を簡略して書いた本を無限書庫に忍ばせていたが……娘、特に長女にかなり怒られた。
それはそれとして置いておいた本がどのような者の手に渡るか眺めていたところ予想外のものを釣り上げた。
「アリシア・テスタロッサ……と誰だ?」
かつてクローン人間を作り上げる計画、プロジェクトFを私はプレシア女史と考えたことがある。私の目的はより効率のよい兵器の開発の一環として、彼女は娘を生き返らせるため。
結果として彼女は失敗したが……どうやら他の方法で成功させていたようだ。
見たかったなぁ、どうやって生き返らせたのか、どうやって世界の理をねじ曲げたのか。これをあの脳みそ共が知れば喉から手が出るほど欲しがる技術だろう、喉は既にないが。
あぁ、知りたい! 知りたいなぁ! 知りたいとも! このジェイル・スカリエッティが欲望を抑えられるか? 答えは否!
「
記録からは拾えまい。プレシア女史のことだ、そんな証拠は一切残してないだろう。ならば直接聞きに行くだけだけのこと。
なにか脳みそ達から聖遺物を奪うように言われてたが知らん。今私の興味はそこにはない、プレシア女史は
私も大概マッドだがプレシア女史と私の狂気を図式すると狂気的な親バカ>>>狂気であった。
「トーレ、チンクー! 出掛けるぞ!」
「は……? あの、襲撃の方は……」
急ぎたまえ! ウーノが帰ってきて仕事を投げ出したとバレればまた叱られてしまうからな!
「いや、ドクター後ろを見るといい」
「なんだねチンク…………やぁ、おかえりウーノ」
「ええ、ただいま戻りましたドクター。で、どこに行かれようと?」
「さー、聖遺物集めに勤しもうか娘たちよ!」
考えてみれば話を聞くことくらいいつでも出来るからな、うん決して後ろの娘が怖くて振り向けないとかではないのだよ?
ここまで読んでくださった方に感謝を。
ロジカルラジカル始まります、まぁそのうち本当にレイジングハートにカートリッジシステムが付くわけですが……
変態登場、退場。変態も割りとキャラ崩れる予定にて注意されたし……既に崩れてますが。
暗躍正義スリーブレインってなんでしょうね?