八神家より帰宅したらドヤァって顔してアリシアが無い胸はってた。どうやら無限書庫の許可証が取れたみたいだ。
なのでカートリッジを投げつけたら数秒停止したあとに詰め寄ってきて胸元掴まれた。プレシアみたいに頭突きするなよ?
「ナ何、なんなななナ、ナナシ!」
「落ち着けよ、ほら整備用オイルでもイッキ飲みして滑舌よくしようぜ?」
「潤滑油だけにね! ってうるさいよ! これ、カートリッジじゃん! どうしたの!?」
「詳しくは言わない約束で貰った」
初めはカッコいいからって理由だけだったけど帰ってきてから思い出した。
「ぬぬぬ……デバイスを実際に見てみたい。すごく見てみたいけど」
「嘘は吐くけど約束は破らないようにしてるんでごめん」
「はぁ、仕方ないか。カートリッジ貰えただけラッキーと考えるよ!」
「イエス、ポジティブシンキング!」
「いぇーい!」
手を掲げてハイタッチ。
晩飯を食べて一息ついてからカートリッジの構造解析を始める。プレシアにフェイトたちは今日は本局泊りである。
「あ、そうだ。ナナシ飴ちょうだい、これから頭使うし糖分が欲しい」
「在庫切れ中」
「なんで!? この前かなり買い込んでたじゃん!」
「カートリッジの代償みたいな感じで無くなった」
実際は順序が逆だけどね。なら、仕方ないかーと言いつつ機材を引っ張り出してくるアリシア。
ちなみにここはプレシアがミッドに買った家でデバイスだけじゃなくて機械弄りのための作業部屋である。
実はプレシアさんってチョーお金持ちらしい、あの事故までの間にも発明で特許取ったりして稼いでたと言ってた。おいくら持ってるか聞いたけどショックのせいか記憶に残ってない。
「さーて、手始めにこれのコピー作りますか」
「なんだ、そのままこれを実験に使って壊してやっちまったー! ってなると思ってたのに」
「そんなことやらないから……んー、素材は別段特別なもの使ってないね」
「魔力を込めておけるとこは?」
「そこがわからないから実物を持ってきてくれて助かったのです」
許可をせっかく貰ったので無限書庫の資料から探してもよかったらしいが、そうすると時間がかかりそうとのこと。だからカートリッジのコピーを作ってから無限書庫に行くことにする。
億を越えるであろう資料があるくせにジャンル分けすらされずにいるようで、しかも書庫内で遭難する可能性もあるらしい。どんだけだよ、無限書庫。
「中の構造確認するからスキャナー取ってー」
「ほい」
「うん、これバーコードスキャナーだよね。違うから」
なんであるんだろうな? 今度は必要とされてる方の冷蔵庫サイズの車輪付きスキャナーを運ぶ。仕組みはよくわからないけど3Dプリンター的なものじゃないかと勝手に解釈してる、たぶん違う。
「はいよ、本物のスキャナー」
「ありがと、あれも本物っちゃ本物だけどね」
「で、構造はどう?」
「そんなに複雑じゃないね。そもそも量産しないといけないものだし簡単なものだろうとは予想してたけど」
「へぇ、レントゲンみたいなの考えてたけど3Dなのね」
空中投影型のディスプレイにカートリッジの構造が出ている。
「じゃ、軽く10個ほどつくってみますか!」
「アリシアさん? もう22時過ぎなんですがそれはいつまでやるんですかね?」
「終 わ る ま で」
「ですよねー!」
そうベルカ式のデバイスをつくることが最終目的なわけではなくただの通過点なのだ。こんなとこでちんたらしてられない!
ってことなんだろうけど急ぐ必要もないよな。そう気づいたのは次の日の朝であった。
や、気づいたら短い悲鳴が聞こえたんだよ。首だけ動かしてドアの方を見ればフェイトがいた。
「ふへへっ、フェイトおかえりぃ……ふへへへ」
「うははー、おかえりぃ! うひっ……」
「か、母さーん!」
涙目になったフェイトが作業部屋から出ていった。程なくしてプレシアがやって来て、
「寝なさい」
毛布を被せられて、布団の抗いがたい魔力に引かれ俺たちは眠りに落ちた。
▽▽▽▽
目覚めると昼前だった……あれ、明け方あたりから記憶がないぞ?
隣ではアリシアも今起きたのか周囲の確認をしている。
「あれ、寝落ちした?」
「明け方あたりから記憶がないからそんな気もする……うわー、オイルとか
「オッケー、俺は水飲んでくる……喉がカラカラだ」
「あ゛ー……私も先に水飲むー」
ふたりしてフラフラしつつリビングに行くとプレシアたちが帰宅していた。フェイトがなんか身を引いた気がする。
「母さんにフェイト帰ってたんだね、おかえりー」
「お帰り、お疲れさま。ちょいと水をば頂きます」
「……ふたりとも今朝のこと忘れきってるわね」
今朝のこと? 確かになんも覚えてないけど……
「ふたりともゾンビみたいで怖かったんだよ? 私が作業部屋に入ったら首だけグルンッ! ってこっち向いて不気味に笑ってたから……」
アリシアがその言葉を聞いて苦笑いをする。
「なにそれ全然記憶にない」
「アハハー完璧にハイになってたねー、ごめんごめん。私はちょっとシャワー浴びてくるね」
「ええ、入ってらっしゃい」
あー、水がうまい。まだ目がシパシパするけど朝から今まで寝てたならそれなりに寝たんだなぁ。
……はて、カートリッジはどれだけ作れたっけ?
「で、あなたたちは何をしてたのかしら?」
「ちょいとカートリッジを製作してた」
「カート、リッジ?」
「うん、ミッド式とはまた違うデバイスに組み込まれてる使い捨て魔力増幅機みたいなものかな」
アリシアと過ごしてると自然とデバイスに詳しくなっていく。魔法の技術は……お察しのお悔やみ申し上げますな状態だけど気にしない。
魔力ランクはE。
そして魔導師ランクも実はEだった。だが、ふたりともDランクギリギリ手前だったし、そもそも俺たちは訓練や実戦経験がまごうことなきゼロだったので鍛えれば多少は伸びるらしい。しかし、俺もアリシアもそれから訓練をしたのは両の手で数えれるほどである、疲れるんですもん。
「裁判はどう?」
「ん、順調だよ。クロノや母さんが頑張ってくれてるし」
「結果がわかりきってることを時間をかけてやるのは馬鹿馬鹿しくて面倒だわ」
「わーい、プレシアさんの自信がスゲー」
「まぁ、あと3~4ヶ月もあれば終わるわよ。それに裁判の間は何も出来ないってわけでもないから暇はしないわ」
そのあとはふたりはどうするんだろうか? フェイトあたりはミッドの学校とか?
「いえ、フェイトは地球のあのなのはって子が通っている学校に通う予定よ」
「へー、そうなんだ」
「うん、あと嘱託魔導師になろうかなって」
食卓魔導師? そんなんあるのか……
「食事の食卓ではなく嘱託よ、正規の局員でなく準社員みたいなもの」
「あ、そっちのショクタクね」
「お風呂上がったよー」
「じゃあナナシ入りなさい、汚いわ」
「はいよ」
風呂からアリシアが上がったので入る、オイルが結構ぬるぬるベタベタして気持ち悪い。
風呂から上がるとフェイトの入学の話をしていた。
「12月に転入する予定だから試験が来月にあるの」
「現在国語で躓いてるんだってー」
「フェイトにとっては外国の言語だから当たり前っちゃ当たり前じゃないか?」
かくいう俺もミッド語は読めるようにはなったがまだ書けない。
「えっと読み書きは出来るようにはなったんだけど」
「え、フェイトったら優秀……」
「私の娘よ?」
「納得、で何に詰まってるの?」
「国語でお馴染み『この人物がこの場面でどう考えているのか~文字で書きなさい、抜き出しなさい』系の問題だよ」
あー、文系は感覚で解けてるやつか。理系はなんか解き方を習うらしい、文系でも習うけど。
「抜き出しなさいは簡単、特に小学校レベルなら前後2~3行のなかに答えがあるはずだからそこに絞ってみればいい」
「……あ、ホントだ」
「書きなさいってなってると一段階どころか数段階レベルが上がる、正直受け取り手しだいで答えなんて変わるからめんどくさいんだけど一番スタンダードそうな答えを考える」
「あれ、ナナシがまともなこと言ってて違和感が凄い」
「アリシアシャラップ」
国語、それも小学校レベルくらいなら教えれるわ。忘れがちだけど、いや年齢すら忘れたけど転生した身だから。
「それでスタンダードなのを考えるにはどうしたらいいの?」
「フェイトってたぶん感覚より考えて解くタイプっぽいし、初め数問は答えを見て求められてる答えのパターン覚えるといいかも」
あとはだが、しかし、けれども~とかの逆接は目印つけとくと話が変わるとこがわかりやすいとかそんな感じかね。
「何となくわかった?」
「うん、ありがとうねナナシ」
「お安いご用」
いやー、今までで一番役にたった気がする。小学校レベルの国語を教えたのが一番の実績とか涙が止まらん。
「あ、そうだ。姉さんやナナシは学校に行かないの?」
「私はいいかなー、フェイトたちと学校に行くのも楽しそうなんだけど他にやりたいこともあるし。ナナシは? 故郷が地球なら学校に行ってる年齢でしょ?」
「身元保証人になってもらって一緒に暮らさせてもらってすらいる俺が決めていいことじゃない気もするんだけど」
「好きにしなさい」
プレシアさんったら太っ腹ー、いや太ってるって意味じゃないから無言でデバイス向けないで、度量が大きいって意味です。ホントだって、フェイトー国語辞典貸して!
「って言っても諸事情によって小学校とかの勉強は必要ないかな。個人的にはデバイスとか魔法関連の勉強をしたい」
「私と一緒に“ぼくのわたしのかんがえたさいきょうデバイス”作ろう!」
「うわー、すげぇ失敗作臭がする……」
機能詰め込みすぎたあげく処理が追いつかず不具合の多発するデバイスが出来そう。アリシアも同じ想像をしたのか顔をしかめている。
「でもミッドには義務教育とかないの?」
「ないわね、そもそも地球と似ているようで文化はかなり異なるわよ? あなたの年齢でも働いてる人間もかなりいるわ、学校に行くのは義務ではなく権利としてあるだけ」
「ふーん、文化の差ね。なんとも自立が早そうな世界」
「親離れが早いのだけがネックよね……」
知ってたがやっぱ親バカだ。
ま、地球なら児童うんたら法とか労働なんたら法がどうのウルサイとこだろうけど、ミッドじゃ微塵も関係ないしね。それにフェイトとかクロノだけ見た感じだと、こっちの方が精神的な成長が早そうだ。
「だから私たちも目新しいデバイス作って特許を取ればガッポガッポ稼ぐことも夢じゃない!」
「よっしゃ、俺も手伝う」
「扱いやすいなぁ」
「聞こえてるけど気にしない」
自覚はある。けどお金って大事なんだ、お金ないと雑草食うはめになるから。
「でも俺いなくてもどうにかなるんじゃね?」
「うーん微妙なところ。それでナナシってその微妙なところを埋めるモノ拾ってきたり考えたりするから面白いんだよね」
「拾ってくるって犬か」
アリシア蘇生させるときには拾われた側だし、カートリッジはちゃんと貰ってきたんだよ。いや、落ちてたの拾って貰ったんだけど。
「そんなわけでよろしく、さっそく作業部屋へレッツゴー」
「カートリッジ何個作ったか覚えてるか?」
「……覚えてない」
顔を合わせて空笑いする俺たち。お互いにお互いがハイになるとロクでもないことするのが予想できるので笑うしかない。
意を決して作業部屋へ入る。
「……あれ、案外普通だね。カートリッジのコピーが20個も作れてるし寧ろよくやってない?」
「アリシア目ぇ逸らすな、オイ。机の上に腕の太さほどのカートリッジが一個あるぞ」
アレ、大砲型のデバイスでもないと使えそうにないぞ。
「あ、思い出してきた。20個越えたあたりで私がこんな小口径で威力は足りるのかとか言い始めた」
「……そのあと大口径、いやロマン砲こそ正義だよなって俺が言った」
「私もそれに同意した覚えがあるぅぅぅ……! 馬鹿じゃん! こんなんロマン砲じゃなくてただのゴミじゃん!」
しかも小口径で威力が足りないとか関係ないもんな。魔力込めとく入れ物の形がたまたま薬莢と同じ形なだけだし。
「そうだよ、だから威力が足りないなら1発じゃなくて2~3発リロードすればいいだけ……うわー、これどうすんのさ」
「バラして加工し直すしかない」
「記念に残すって手もあるよ」
「記念というより黒歴史なんですが、これは」
「しかも場所を取る、邪魔だね! ナナシ取り敢えず仕舞っといて!」
どこにだよ……あ、四次元空間か。ゲートを開いて黒歴史を押し込んでおく。
「便利だよね、それ」
「物の片付け場所や持ち運びにおいてはズバ抜けて使えるな。ジュエルシードの魔力もプレシアさんの助力ありでだけど廃棄できたし」
「ジュエルシードかぁ……」
ちょっと引っ掛かるというか、少し俯いて陰った笑いをするアリシア。どうしたのか?
「どうした?」
「いやさー、私って死んだ状態から生き返ったわけじゃん」
「公としての事実はともかく実際はそうだな」
あ、何となくわかった。アリシアが息を飲んで顔を上げるが瞳の奥が揺れてる。所在無さげに不安げにユラユラと震えている。
「ナナシは、さ……嫌悪感とか、ない? 死んでた人間がこうして生き返って普通に喋って動いて笑ってることに」
「ないな」
「でも死んでたんだよ? 死んでから生き返っただなんて、さっきフェイトが言ってたゾンビと変わらないかもしれないし」
……なまじ賢いだけあって色々考えてたようだ。生き返ってすぐに色々悪戯ともいえる行動をしてたのは動揺を紛らすためだったのかもしれない……いや、半分以上素の行動な気もするけど。
というか、これ普通に返事しても納得してくれんよな? イエス、ノーで終わらないのにクローズな質問ってのは卑怯だと思う。
「うーん、仕方ない。今、何を言っても信用せんだろ。だから取って置きの恥ずかしい秘密を話してしんぜよう。
事故で死んだ人間がいました。で、次目覚めたら別世界だわ、若返ってるわ、名前を覚えてないわ、それどころか死んだ事実だけ覚えてて前世の記憶はスッカラカン」
「ナナシ……?」
「ついでに目覚めた世界には居場所も名前も親も金もなし! ないない尽くしここに極まれりだったわけなんよ。察しておられる通り、それが俺でごぜーますよ」
アリシアが口を開こうとするが話は終わらないぜ! まだまだ俺のターン!
「更にその1日目! 死にました!」
「えっ?」
「けど何故かまた目覚めた。起きたら時間が戻って生き返ってた、死んだのに何でだろね? ついでに詳細は省くけどもう一回死んで生き返ってる。だからなんだって話かも知れんが、要するに俺にとっては生き返るとか不思議じゃない、ので嫌悪感とかない。オーケー?」
「え、えー……それを信じろと?」
「プレシアに聞けば前半はともかく後半は保証してくれるはず」
「母さんにはこんなこと言えないよ」
それもそうか、プレシアはプレシアで必死にアリシアを生き返らせたわけで……たぶん、こんな悩み抱えてるって知ればかなり責任を感じる。だからこそアリシアもここまで溜め込んでたんだろうし。
「まぁミソッカス魔力に加えて生き返った死に戻りなふたりでいいじゃん」
「なんだかなぁ、私だいぶ悩んでたんだけどなー」
「相談相手が悪かったな、すでに俺は3回死んでいる」
「いや、むしろナナシでよかったよ。まだ考えるところはあるけどかなり吹っ切れたと思う」
「そりゃ上々」
「ナナシはないの? その悩みとか」
「ない、転生した直後なんて悩む内容がこれからの生活よ? そしてそれは今解決してる、オールオッケー」
それに記憶にほぼ残ってない前世なんて意味はない。『やり直し』に関してはわからないことだらけだが気にしても始まらない。次はどうなるかなんてわからないし、早々死ぬ気もない。そして
面倒ごとには見て見ぬふりをするのが俺だ。
「じゃあ、明日は無限書庫に行きますか!」
「そういや許可取れたんだったな、ちょっとワクワクしてる」
「私もだよ、遭難するレベルの資料とか燃えるね!」
「むしろ燃やす!」
「やめて、捕まるから」
ちょっとらしくないテンションで話もしたけど結局最後はいつも通りに戻った俺たちだった。
「――そう、あのとき思ってた……だがアイツの本心を見抜くことは出来ていなかったと気づくのは手遅れになったあの事件の日であった」
「おい、やめろ。変なフラグを自分で建てんな」
ここまで読んでくださった方に感謝を。
後半は急になんちゃってシリアスさんがこんにちわした気がしますがサヨナラ。たぶんもうシリアスは来ない、本編関係ないとこでシリアスストック切らしました。
死んでて生き返った葛藤はあるかなと書きましたが、この話が伏線になる予定はほぼないので流していただいて大丈夫です。
余談ですが基本一話一話書いててストックというものが一切ありません。リアルが忙しくなると投稿に感覚開きます、申し訳ありません。一週間以上空きそうなら活動報告にて何かしら書くかと……きっと。