バカと魔王と召喚獣【凍結中】   作:混沌の魔法使い

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どうも混沌の魔法使いです。今回からは7巻の話になっていきます、まだまだ予想を裏切る仕掛けは多数用意していますので
どうかこれからも「馬鹿と魔王と召喚獣」をよろしくお願いいたします


第83問

 

 

第83問

 

「西村先生。知的好奇心を育むには、具体的な目的が必要だとは思わないだろうか?」

 

その日珍しく、雄二は西村先生の事を鉄人と呼ばなかった。どこまでも真剣に言葉を紡いでいた

 

(すっげえあほな事をしてると思わないか? 兄貴)

 

呆れたと言いたげな表情で私に念話で尋ねてくるヴィータに

 

(良いんじゃないか? 見てる分には面白いぞ?)

 

通常の男子高校生がここまであれというは知らなかった。含み笑いをしながら言うと

 

(これだけ口が回るなら他の事に意識を回せば良いと思うんですけどね?)

 

溜息を吐く素振りを見せるティアナ、その意見には私も同意だ

 

「過去の事例を見る限り「戦争への勝利」という闘争本能に根ざした、具体的な目的が存在する場合が多いと言える」

 

表情からは見えないが西村先生も呆れ果てているのが、気配から判る。私だってもし六課や訓練学校でこんな事でここまで真剣になる訓練生がいれば、呆れ果てて何も言えないだろう。むしろなのはやヴィータなら問答無用でOHANASI直行便だ

 

「別にだからといって戦争が必要であると言っている訳じゃない。戦争と言うものは多くの死者を出し、それは同種族を殺すという、生物にとっては本能に逆らう最大のタブーを犯し続ける愚行そのものだ……」

 

雄二の言葉の合間にはやてやセッテが念話で

 

(はよ、決断が決まらんかなぁ? 私としてはそれが見たいなー)

 

(馬鹿どもがどうなるのか見ものです)

 

相変わらず真っ黒な義妹と部下に内心溜息を吐いていると、雄二の演説が佳境を迎える

 

「だが、それが愚行であっても、そこから学び取れる事だって少なからず存在する。それは知的好奇心は具体的な目的を持つ事で、よりよい結果へと繋がるという事実だ。ここまで言えば先生にはもう判って貰える筈だが?」

 

雄二の言葉を聞き終えた西村先生はゆっくりと頷きながら

 

「坂本、お前の言わんとすることは確かに伝わってきた。知的好奇心は目的の有無でその在り方が変わってくる。それはその通りだ……しかしこの没収したエロ本の返却は認めん」

 

「「「「ちくしょおおおおおおッ!!!!」」」」」

 

Fクラスの馬鹿達が血の涙を流さん勢いで嘆く、さっきまでの演説は、新学期早々に実地された持ち物検査によって没収されたエロ本の返却の懇願だった。ちなみにはやてやセッテは素早く魔法を構築しその中に没収される可能性のある物を隠していた……恐ろしいまでの反応速度といえるだろう。ただ1つ気がかりなのが

 

(隠したのが、私の写真とかだったというのが凄く気になるのだが?)

 

なぜ私の写真ばかりをあんなに持っていたのか? 凄く気になりはするが、聞いてしまえば何かが終わる気がして怖くて聞けない

 

(普通の高校生とはこういうものだろうか? 全く理解できないが)

 

青春と呼べる時代は全て戦いに費やしてきた、こういうのは全く理解出来ない

 

(あ、あほ過ぎて腹痛い)

 

(ま、全くです)

 

はやてとセッテがその余りのアホさが逆に壷に入ったのか爆笑している

 

(龍也さんがこの人達と一緒にいるのは絶対間違いだと思います)

 

(私もだ……やっぱAクラスの方が良かったんじゃねえか?)

 

ヴィータとティアナは頭を抱え苦笑いしている、そんな2人の様子を見ているとふと気づいた

 

(あれ?)

 

こういう時に真っ先に反応しそうな明久が座ったまま、苦笑いを浮かべいている。その視線の先を見て

 

(な、何をやってるんだ?)

 

秀吉や美波が男子の中に紛れ、没収品の返却を頼んでいる。あれを見たら誰だって苦笑いの1つや2つ浮かべるという物だろう

 

「ええい! こうなりゃ実力行使だ! 俺達の大事な参考書を命を懸けて取り返すんだ!!」

 

須川の先導に雄二含めた馬鹿達が

 

「「「おおおおおーッ!!!!」」」

 

雄たけびを上げながら西村先生を取り囲んだ、止めておけばいい物を、勝率なんてまるで無いのに……

 

「明久君は混ざらないんですか(ニコッ!!)」

 

「あははは……僕は今そう言う関連の本は何一つ持ってないからさ? 僕の目に向けたコンパスの針をしまってくれないかな?」

 

明久は魔王モードの瑞希に捕まっていた。たぶん瑞希の魔王かはやての責任だ、私には何も出来ないがせめて心の中では謝ろうと思う。

 

「ほほう? キサマら良い度胸だな?」

 

にやりと笑った西村先生を前に雄二が

 

「全員、かかれええー!!!!」

 

「「「うおおおおおおッ!!!!」」」

 

そう号令を出し、Fクラスメンバー、私達+明久+瑞希を除くメンバーは西村先生に襲い掛かった

 

「明久君、お勉強なら私が教えてあげますよ?」

 

「あははは……それは凄く嬉しいんだけど、その手の手錠は何?」

 

「怖くないですからね? 手を出してくれませんか?」

 

単色の目の瑞希が明久に手を伸ばしたところで

 

「何してるの? 瑞希? 抜け駆け厳禁の約束よね?」

 

「明久に何をしている、姫路」

 

魔王モードの美波と秀吉が瑞希の腕を掴む。明らかに戦闘態勢にシフトした瑞希達に

 

「あ、あのさ? ちょっと落ち着こ……ま、待って!? 僕を巻き込んで喧嘩……あああああああッ!!!!」

 

明久を巻き込んで始まった、魔王大戦に巻き込まれた明久の絶叫と

 

「ふん!!!」

 

「ぎゃあああああ!!!」

 

西村先生の一本背負で思いっきり卓袱台に、腰を打ちつけた雄二の絶叫がシンクロした……

 

 

 

 

「あの野郎、絶対人間じゃねぇ……」

 

打ちつけた腰をさすりながら呟く。視界の隅では

 

「ピクピク」

 

魔王大戦に巻き込まれた明久が痙攣しているのが見える、どうりでさっきの没収戦線の時に姿が見えないと思った

 

「あ、アキ!? ご、ごめん!? 思いっきりリバー打っちゃった!」

 

「わ、私も手が滑って辞書の角が、明久君! 明久君! しっかりしてください!」

 

「明久! しっかり! 意識を取り戻して!!」

 

3人でガクンガクン揺さぶるから、明久の顔色がどんどん悪くなってる……あのままだとマジで死ぬかも知れんぞ? 

 

「……あの動き。人間兵器のレベル」

 

スタンガンを持って特攻したムッツリー二は逆のスタンガンを奪われ、その電撃で床に沈んでいた。あれだけ身軽なムッツリーニからいとも簡単にスタンガンを奪うとは、鉄人は攻撃力だけでは無く素早さも相当高いらしい

 

「あ。ああ? 美波? 生きてる、僕生きてるんだね?」

 

鉄人にやられるよりボコボコにされていた明久が息を吹き返す、やはり3人も魔王がいるだけあって耐久力も復活スピードも並じゃない

 

「しっかし、学校側も考えてるなあ?  これだけスムーズな不意打ち始めて見たで」

 

「ええ、あれだけ素早く没収品を見つけるとは、あれはすでに捜査官の域ですよ」

 

のんびりと言うはやてとセッテ、そう言えばこの2人といか龍也一行は何一つ没収品は無かったな。言動こそあれだが、龍也達はやっぱり優等生……

 

「兄貴、髪梳いて♪」

 

「ん? ああ。おいで」

 

……本当に優等生だよな? 普通に妹の髪を梳いてる龍也とそれを猫のように気持ち良さそうに受け入れているヴィータを見ると。本当に優等生と呼んで良いのか疑問を感じてしまう

 

「所で、美波は何を没収されたの? 色々と取り上げられてたみたいだけど?」

 

「ウチは小物とかかな、DVDとか、雑誌とか、抱き枕とか、アキの写真とか」

 

なぜさも当然のように明久の写真を所有しているのだろうか? 突っ込みたい気もするが下手をすると命を狩られる、ここは静かにしていよう、別に明久が対象であって俺には何の被害も無いしな……

 

「そうですね……私も色々と没収されちゃいました、CDとか、小説とか、抱き枕とか、明久君の写真とか」

 

なぜ姫路も当然のように明久の写真を所有しているのだろう? やはりムッツリ商会で買ったのだろうか?

 

「龍也は何か没収された?」

 

「私はほら、このコートの中に隠したし」

 

「没収されなかったんですか? そのコート」

 

姫路にそう聞かれた龍也はからからと笑いながら

 

「ちゃんとジェイルに許可取ってるから、これは没収対象じゃないよ」

 

なんと龍也はちゃんと教師に許可を取っていたようだ、さすがに許可を取ってる以上無理に没収する事は出来ないだろう

 

「秀吉はどうだ? なんか没収されたのか?」

 

「演劇用の小物とか雑誌とか抱き枕とか、明久の写真とか、色々取り上げられたよ」

 

はぁっと溜息を吐く秀吉、というか秀吉も明久の写真を買ってたのか、性別を偽るのを止めてから。色々と吹っ切れたののかも知れない

 

「……持ち物検査について警戒をすっかり忘れていた」

 

本気でこいつが警戒していたのならば、持ち物検査ならば事前に察知できていたはず、今回は完全に油断していたんだろうな。

 

(収穫報告祭もあったしな)

 

集めたエロ本やナイスアングルの写真の交換会もあった。どうもそっちの準備に集中しすぎたのが原因だろう

 

「所で明久は何か没収されたのか?」

 

魔王に捕まっていた明久にそう尋ねると、明久は

 

「僕は本にCDにゲーム、それと写真とかかな?」

 

(聖典は?)

 

俺が小声でそう尋ねると明久は、何かを悟った表情で

 

(今の僕の状況でそんなのを持っていたらどうなるかも判らないのかい? 全部処分したよ、命の為にね)

 

命を守るために処分したのか……それは確かに英断かもしれない、秀吉に島田と姫路。その全てが命を刈り取るだけの攻撃力を有しているのだから……

 

「そう言う雄二はどうや? あの演説を聴く限り相当大事なものを没収されたんやろ?」

 

にやにやと笑うはやてに俺は

 

「博士の金で買った新型のMP3プレイヤーだ、一昨日出た新譜も入れておいたのにそれも全部パアだ。くそ」

 

舌打ちしながら言うとはやてはふーんと楽しそうに笑っている。魔王にとって他人の苦しみは楽しみの元か、魔王というあだ名は伊達ではないようだ

 

「んで? 康太はずいぶんとへこんでるけど、何をとられたんだ?」

 

「ん。髪結べたぞ。ヴィータ」

 

龍也に髪を結ばれていたヴィータがそう尋ねるとムッツリーニは

 

「……データの入ったメモリーとカメラ。再販も出来……ぐえッ!?」

 

最後まで言い切ることなく、ムッツリーの身体が宙に浮く

 

「再販に時間が掛かると? 私にはそう聞こえたんですけど……多分私の聞き違いですよね?」

 

「ええ。そうよね、土屋? すぐに再販できるわよね?」

 

魔王2名はムッツリーニの襟首を掴んで吊り上げていた。その凄まじい眼光と殺気に周囲の気温が下がったように感じる

 

「……あががが、ばばっバックアップはある!! で、でもサルベージに時間が掛かるうううう!?」

 

半ば絶叫しながら言うムッツリーニの言葉を聴いた、島田と姫路は

 

「そんな……今日は凄く良い夢が見れると思ったのに」

 

「私もです。楽しみにしてたのに……」

 

深い深い、魂さえも抜け落ちるような溜息を吐いて嘆いている。おそらく没収されたのは明久の抱き枕と見て間違いないだろう、

そしてクラスのあちこちからも嘆きの声が聞こえてくる。

 

「さて。どうする雄二?……やる?」

 

明久がにやりと笑いながら尋ねてくる。俺もちょうどそう言おうと思っていたところだ

 

「言われるまでも無い、 教師どもに奪われたお宝を取り戻す!! こんな横暴は許しておけねぇからな!」

 

普通の学校では没収しても返してくれるというのに、文月学園では永遠に没収したままだ。これを横暴と呼ばず何と呼ぶ!!!

 

「兄ちゃん、これが普通の男子高校生や」

 

「……私には理解できない領域だ」

 

龍也が頭を抱えているのが見えるが、そんなのはどうでもいい。俺は奪われた宝を取り返すために立ち上がった。すると……

 

「……雄二と明久だけを戦わせはしない」

 

ムッツリーニが立ち上がりにやりと笑う。いやそれだけじゃない

 

「待ちな! お前ら!」

 

「俺達を忘れてもらっちゃ困るぜ!」

 

叩きのめされたはずのFクラス男子が立ち上がり笑いかけてくる。これでまた消えかけた希望が繋がり始めた

 

「なにこの三文芝居」

 

「見てて呆れろ。それがこのクラスを楽しむ秘訣だ」

 

馬鹿だのなんだろ言われようが俺達は戦う、希望を取り返すために!!! 俺達の士気が高まる中ふいに制止の声が響く

 

「あ、あの落ち着いてください!!!」

 

その声の主は魔王モードを解除した姫路だった……

 

 

 

 

 

「瑞希?」

 

僕達に待ったをかけたのは瑞希だった。さっきのどんよりとした瞳の色は無く、いつもと同じ澄んだ瞳で僕達を見ている

 

「明久君、坂本君、そして皆さん……そういうのはあんまり良くないと思うんです」

 

「そういうのって……職員室に忍び込むって事?」

 

僕がそう尋ねると瑞希は頷きながら

 

「確かに没収されたものは凄く惜しいです、返して貰えるなら返して欲しいです、返して貰えないなら奪い返すというのも勿論視野に入れてはいますけども……」

 

 

魔王モードと通常モードがころころ切り替わってる。よほど葛藤してるんだなと一目で判る。僕がそんなことを考えていると今度は美波は

 

「瑞希の言う通りよね。元々ウチらが校則違反をしちゃったのが原因なんだし……というか、そうでも思わないと駄目ね、なんか切れそう」

 

魔王のオーラが見え隠れしてる美波。口ではそう入ってるけど納得してないのが丸わかりだ

 

「だからそうやって忍び込むのは良くないと思うんです、私も本当ならば襲撃して奪うくらいはしたいです。でも忍び込むのはずるいと思うんです」

 

本音が出ているものの、一応止めるように言ってくる瑞希の言葉を聞いて

 

「どうしようか? 雄二、そう言われると忍び込むのはなんだかちょっと……」

 

忍び込むというアイデアは良いと思ったのだが、何か違うような気もしてきた

 

「どうするもなにも、姫路と島田の2人にそこまで言われたら、さすがに考え直すしかないだろう?」

 

頬を掻きながら言う雄二の言葉を聞いた瑞希は

 

「明久君。坂本君、皆さん判ってくれたんですね? 忍び込むのは駄目だって」

 

にこりと笑う瑞希、大丈夫だよ。その笑みの下に隠れている気持ちにはちゃんと気づいてるから

 

「雄二、こそこそ忍び込まず、しっかり武装して襲撃しよう」

 

「そうですよ! ッじゃなくて! 私の話聞いてました!?」

 

聞いてたよ、忍び込むんじゃなくて襲撃しろって僕達に教えてくれてたよね?

 

「よっしゃあああ! 昼休みにやるぞ!!」

 

「「「おおおおッ!!!!」」」

 

こうして僕達は昼休みに職員室への強襲を決行する事を決意した

 

「私、すぐ捕獲されると思う」

 

「じゃあ、あれ10分以内に捕獲されるに、兄貴のプリン」

 

「乗りましょう! では私は10分以上粘るに龍也様の写真10枚!」

 

魔王達が何かの賭けの話をしてるのが聞こえる。だが僕達は必ず自らの宝物を取り返す! だからそんな賭けには意味は無い!!

 

そして昼休み、僕達は釘バットで武装し職員室を強襲した……つもりだった

 

「どうしてお前らはそこまで馬鹿なんだ?」

 

呆れたような鉄人と攻撃態勢を取っている召喚獣の数々。そう僕達は待ち伏せをされたのだった……

 

 

 

「「「ぎゃあああああッ……」」」

 

職員室のほうから聞こえてくる絶叫を聞きながら時計を見る。8分30秒

 

「ヴィータの勝ちだな」

 

「ッしゃあ!!」

 

セッテとヴィータの賭けはヴィータの勝ち、少々セッテの見積もりが甘かったな

 

「くう……もっと粘りなさい。あの馬鹿ども」

 

唇を噛み締め嘆いているセッテを見ていると、瑞希が

 

「明久君。大丈夫でしょうか?」

 

焚きつけてしまっただけに気がかりなのかそう尋ねてくる

 

「大丈夫だろう? 文月学園の教師は優秀だ。暴徒の鎮圧くらい楽にやる、多分今頃は生徒指導室だろ?」

 

恐らく今日一日はもう見る事は無いだろうと思いながら

 

「しかし私は特に没収されたものは無いが、お前達の没収品は惜しいよな?」

 

うんうんと頷く瑞希達を見ながら、どうしたものかと考える……

 

(確かに少々厳しすぎるよな)

 

ずっと没収しっぱなしというのは明らかに厳しい……どうしたものかと考えていると

 

「ジェイルに頼むか?」

 

「ジェイルって教頭先生だっけ?」

 

首を傾げる秀吉にうんと頷きながら

 

「一応学園長もジェイルの話なら聞いてくれるそうだし、頼めば何とかなるかも」

 

あの学園長は技術者肌だ、自分と同格の知識を持つ人間の話はちゃんと聞くタイプだ。それならジェイルに説得を頼むのが妥当だとは思うが

 

「どうしたの? 頼めばいいじゃない? 教頭先生って龍也達の身元引受人なんでしょ?」

 

私達は親がいないので身元引受人がジェイルになっているという設定なのだが

 

(実際は逆だがな)

 

ジェイルは研究に全部給料をつぎ込み、金が無くなると私の家に転がり込んでくる。どちらかというと私達が保護者に近い

 

「お祭りごとが好きなやつだからそれが不安なんだ」

 

私がそう言うと瑞希がぽんっと手を打って

 

「生徒教師の交流野球大会と体育祭ですね?」

 

「ああ、何かの賞品とかに持ってきそうな気がする」

 

ただで返すのは面白くないとか言い出しかねない、何かの協議、十中八九交流大会の賞品に持ってきそうな気がする

 

「……まぁ、明日にでも発表するだろ? あの馬鹿なら」

 

「いつも思うけど、龍也は教頭にだけ口調がきついよね?」

 

苦笑いしながら尋ねてくる秀吉にはやてが

 

「いっつもへんな発明品のテスターやらされてるからや」

 

「そ、そうなんだ?」

 

顔が引き攣っている面々を見ていると西村先生が入ってきて

 

「午後の授業はAクラスと合同で受けてくれ、俺は職員室の掃除と吉井達の監視をしなければならんから」

 

そう苦笑して出て行く西村先生を見ていると、明らかに美波と秀吉の顔が引き攣っている。

 

「まぁ頑張れ、なのはとかに聞いたらどうだ?」

 

「「……うん」」

 

明らかに気落ちした様子の美波達とたまには綺麗な教室で勉強出来ると喜んでいるはやて達と共に私はAクラスにと移動した

 

 

 

「あー疲れた」

 

夕日の光に照らされた道をとぼとぼと歩く。生徒指導室に軟禁され追加の問題集を2冊もプレゼントされた、美波とかに教わった夏休みの課題はちゃんとやっていたからいい物の、もしそうじゃなかったらと思うと恐ろしい

 

「まあ、このやりようの無い怒りは交流大会で発散するからいいけどね」

 

雄二達と計画した交流大会での仕返しの事を考えながら歩いていると

 

「吉井明久君ですよね?」

 

「へ?」

 

凛とした声に呼び止められ振り返ると、そこには

 

(わ……綺麗な人)

 

切れ長の目に、僕よりも少しだけ背が高くて、綺麗な黒髪を女の人がそこにいた……雰囲気としては霧島さんに似てると思うのだが、女帝とでも言うのだろうか? そこだけ空気がとまっている様なそんな印象を受ける

 

「聞こえていますか?」

 

どうも気づかない内にその人の雰囲気に呑まれていた僕がボーっとしているのに気づいた、女の人がそう尋ねてくる

 

「え? あ、はい! えーと僕に何か用ですか?」

 

少なくとも知り合いではないはず、それでも僕の事を知っていると言うことは

 

「もしかして姉さんの知り合いですか?」

 

「……知り合いというのは変かもしれませんが、私は彼女は知っていますよ?」

 

変な言い回しだ? 姉さんの友達かな? と思ったけど違うみたいな

 

「ふふふ」

 

「?」

 

突然笑い出した女の人に首を傾げると、その人はとても穏やかな笑みを浮かべて

 

「今は顔を見せに来ただけです、ではまた今度御会いしましょう」

 

「は、はあ?」

 

口元を左手で隠し少しだけ首を傾けて笑うと、ゆっくりと振り返り歩いていく女の人の背中を見ていると

 

(あ、あれ? あの笑い方どこかで見たような?)

 

どこかそうずーと前に見た事があるような気がする。でもそれがどこか思い出せない……

 

「ん、んー? どこだったっけ?」

 

必死に思い出そうとするがどうしても思い出せないでいると

 

ピリリリリ

 

「あ。もしもし?」

 

『アキ君? どこにいるんですか? 姉さんはとてもお腹が空きました。早く帰ってきてくれませんか?』

 

「ん、判ったすぐ帰るよ」

 

早く帰らないと身が危ないと判断した僕はそう返事を返し、鞄を抱えて走り出した……

 

 

「お嬢様? どうかなさいましたか?」

 

走り去るアキ君を見ていると、近くで待っていた車の運転手が声を掛けてくる

 

「あ、いえ、なんでもないです。今はまだ機ではないと判っていますから」

 

顔を見せたがアキ君は私の事が判らなかった、もう10年の前に会ったきりだから判らないのは仕方ないが、少し納得できない

 

「名前を名乗ればよかったのでは?」

 

「それでは面白くありませんから、アキ君が気づいてくれるのを待ちます」

 

そんな話をしながら車に乗り込み、携帯を確認する

 

「……このまま、如月グループの本社にお願いします」

 

「かしこまりました」

 

お父様から如月グループに行く様にとメールが来ている。恐らくは文月学園への支援の話と見て間違いない、私は溜息を吐きながら車の背もたれに背中を預けた、そんな私の視界に移るのは、何年も前の古ぼけた写真……

 

公園の遊具を背中に私とアキ君が写っている、とても懐かしい写真……

 

「まだまだ文月学園には終わって貰っては困りますからね」

 

私はそう呟き、鞄から取り出した如月グループとの交渉資料に目を通し始めた……

 

そしてふと思い出した

 

「そういえば今回の持ち物検査は些か厳しい気もします、こちらから学園長にメールを出しておきますか」

 

私はノートPCを立ち上げ、文月学園にメールを送った……

 

 

第84問に続く

 

 




なぞの新キャラ? 登場です。これからちらほらと絡んできますが、正体はまだまだ秘密ですのでご容赦ください

次回は野球のルール編になると思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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